東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

24 / 48
異変を解決し、一息をつく少年たち。
彼らの前に現れる、謎の人物とは。


第24話 漆黒の統治者

地面に刺していた白竜を鞘に納めたところで、

ずっと漂っていた禍々しい妖気が消えた。

どうやら、外の黒い霧が晴れたみたいだね。

「ふぅ、ようやく終わったか」

「そうね、終わったわ」

独り言のつもりだったんだけど、いつの間にか近くに来ていた霊夢が返事を返した。

「霊夢、おつか・・・」

「せいっ!」

「ぐっ!」

お疲れ様、そう言おうとした僕の鳩尾に霊夢の右ストレートが突き刺さった。

あまりの痛みに、思わず両膝をつく。

「なん・・・で・・・?」

「なんで?自分の胸に聞いてみたら?」

「霊夢の言う通りだぜ」

痛みで後ろは見れないけど、声で誰かは分かる。

弾幕ごっこが終わったから、魔理沙がこっちに合流してきたんだろう。

たぶん、真も一緒だ。

「あんまり心配させないでよ」

呟くような霊夢の言葉に理解する。

そっか、心配かけたのか。

(主様、癒しましょうか?)

(必要ないよ木龍。これは僕が感じるべき痛みだ)

思わず苦笑いを浮かべながら立ち上がる。

「ごめんね魔理沙、霊夢。もっと気を付けるようにするよ」

「にしても、なんで傷が一瞬で回復したんだ?能力を使ったのか?」

どうやって切り出そうか考えていたところに、真のその疑問はありがたい。

僕は皆から少し離れてから振り返る。

「あれは僕の能力じゃないよ。

人の傷が一瞬で回復する、なんてことは世の中の理に反しているからね。

彼らのものだ。みんな、出ておいで!」

僕の周りに立ち上る八つの柱。

そこから現れるのは龍王達。

「龍、なのか?」

「おいおい、これは何の冗談だ?」

真と魔理沙のつぶやきも、まぁ理解出来るかな。

我ながらこの光景は圧巻だ。

「皆様初めまして。我々は八龍王。

黒龍帝、静也様の式神にございます」

「式神?藍みたいってこと?」

「その藍って人を知らないけど、たぶん違うと思う。

八龍王達は完全な・・・っっ!?風龍!!」

僕の空気の変化を感じ取ったのか、すぐさま霊体に戻る八龍王達。

僕に風龍の加護が付き、隣に霊夢が並ぶ。

その手にはお祓い棒と札。

霊夢も何かを感じたみたいだね。

後ろでも魔理沙は戸惑っているけど、真は僕の動きを見て槍を構えた。

(主よ、どうされたのですか?)

(何か、いる)

「そこにいるのは分かってる。出てきたらどうだい!」

白龍を構え、正面に向かって叫ぶ。

しばらく無音の時間が過ぎ、勘違いかと思い始めたころ、何もない空間から声が響いた。

「驚きましたね。博麗の巫女には気づかれるだろうとは思っていましたが、

まさか貴方にも気づかれるとは」

まるで最初からそこに居たと言わんばかりに、突如その男は現れた。

背は僕よりも少し高く、短くそろえた銀髪を持つ男だ。

その腰には、一本の剣。

「あなたがこの異変の主犯ですね?」

白龍を突き付けながら聞くも、男はわずかに微笑を浮かべるだけだ。

そして僕の右隣、誰もいないはずの空間に向かって話し始めた。

「見ているのでしょう?私も姿を現したのですから、

そちらも姿を見せるのがフェアというものではありませんか?」

その言葉に答えるかのように、いや、実際答えたのだろう。

僕の右隣に以前も見たスキマが現れ、そこから紫さんが出てきた。

紫さんは一瞬僕に目配せをした後、男に向き直った。

「さて、私がこの異変の主犯かという話でしたね。

答えから申し上げるのなら、その通りです」

その答えは予想できていた。

レミリア達は操られていただけ。

黒い霧の異変にしたのも、霊夢たちをここに呼び寄せるため。

その目的は、おそらく偵察だろう。

「幻想郷はすべてを受け入れる。とは言え、それを決める権利もこちらにあります。

私は貴方のようなものを招き入れた覚えはないのだけど?」

さすが紫さんだ。

僕と同じ考えに至ったのだろう。

僕とは違う切り口で情報を集めようとしている。

「そうでしょうね。何せ私は勝手にこの世界に来たのですから」

「えぇい、まどろっこしい!お前の目的はなんだ!!」

我慢の限界だと言わんばかりに声を上げた真。

けれどもあれは演技だ。

僕や紫さんがいきなり核心を突く質問をすれば、わずかに違和感が残る。

だが今まで口を開かなかった真が突如声を張り上げれば、それも残らない。

口に出さずとも役割を理解してくれる親友が、今は何よりも心強い。

「私の目的ですか?

そうですね、あまり引っ張るのも好きではありませんし、お答えいたしましょう」

目の前の男が今までの微笑から笑顔を浮かべる。

しかしそれは、見るものを恐怖させる笑みだ。

「私の目的はただ一つ。陛下の願いをかなえること。

そして陛下の願いとは、幻想郷、ひいてはすべての次元の統一です」

「すべての次元?」

「あなたはパラレルワールドと言うものをご存知ですか?

いわゆる並行世界というものですね。

それらの世界は時に絡まり、時に反発しあっています。

我々はそれら全てを一つにまとめ上げるのです」

男の口から語られる嘘のような目的。

けれども嘘をついてるようには見えない。

体に戦慄が走った。

この男は、本気でそんなことを考えているんだ。

「パラレルワールドとか並行世界とかよく分かんないけど、

異変を起こすって言うなら退治するだけよ!」

霊夢の力強い言葉に気付かされる。

そうだ、何も難しく考える必要はない。

ただ僕の守りたいものを守ればいいんだ。

(風龍、いつでも行けるように準備をしておいてくれ)

(かしこまりました)

「いかに私と言えども人間の英雄、妖怪の賢者、

さらには黒龍帝(・・・)までいるこの状況で勝てるとは思えませんよ。

今回はここで退散させていただきます」

「なぜその呼び方を知っている!?」

黒守龍というならばまだ理解できる。

けれど黒龍帝という呼び名は僕でさえもさっき知ったばかりだ。

真や霊夢たちさえも知らないことを、なぜこの男が知っている?

「さて、なぜでしょうね?」

「逃がさないわ」

紫さんが開いていた扇子を閉じると、男の背後にスキマが現れる。

男の能力は分からないが」、境界を操る能力を持つ紫さんなら・・・

「なるほど、これがかの有名なスキマの力ですか。

しかし、ぬるいですね」

男が腰に差していた剣を一閃。

それだけだ。

たったそれだけでスキマが消滅した。

「そんな、私のスキマが!?」

「それでは皆様、ごきげんよう」

「待て!お前はさっき我々と言った。他にも仲間がいるのか!?」

「これはいけない、私としたことが忘れるところでした。

我々は漆黒の統治者(ダークネスルーラー)

いずれまたお会いしましょう」

その言葉を最後に、男は出てきたのと同じように姿を消した。

 




静也達の前に現れた謎の男。
静也達はあの男に勝てるのだろうか。
次回を乞うご期待。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。