彼らの前に現れる、謎の人物とは。
地面に刺していた白竜を鞘に納めたところで、
ずっと漂っていた禍々しい妖気が消えた。
どうやら、外の黒い霧が晴れたみたいだね。
「ふぅ、ようやく終わったか」
「そうね、終わったわ」
独り言のつもりだったんだけど、いつの間にか近くに来ていた霊夢が返事を返した。
「霊夢、おつか・・・」
「せいっ!」
「ぐっ!」
お疲れ様、そう言おうとした僕の鳩尾に霊夢の右ストレートが突き刺さった。
あまりの痛みに、思わず両膝をつく。
「なん・・・で・・・?」
「なんで?自分の胸に聞いてみたら?」
「霊夢の言う通りだぜ」
痛みで後ろは見れないけど、声で誰かは分かる。
弾幕ごっこが終わったから、魔理沙がこっちに合流してきたんだろう。
たぶん、真も一緒だ。
「あんまり心配させないでよ」
呟くような霊夢の言葉に理解する。
そっか、心配かけたのか。
(主様、癒しましょうか?)
(必要ないよ木龍。これは僕が感じるべき痛みだ)
思わず苦笑いを浮かべながら立ち上がる。
「ごめんね魔理沙、霊夢。もっと気を付けるようにするよ」
「にしても、なんで傷が一瞬で回復したんだ?能力を使ったのか?」
どうやって切り出そうか考えていたところに、真のその疑問はありがたい。
僕は皆から少し離れてから振り返る。
「あれは僕の能力じゃないよ。
人の傷が一瞬で回復する、なんてことは世の中の理に反しているからね。
彼らのものだ。みんな、出ておいで!」
僕の周りに立ち上る八つの柱。
そこから現れるのは龍王達。
「龍、なのか?」
「おいおい、これは何の冗談だ?」
真と魔理沙のつぶやきも、まぁ理解出来るかな。
我ながらこの光景は圧巻だ。
「皆様初めまして。我々は八龍王。
黒龍帝、静也様の式神にございます」
「式神?藍みたいってこと?」
「その藍って人を知らないけど、たぶん違うと思う。
八龍王達は完全な・・・っっ!?風龍!!」
僕の空気の変化を感じ取ったのか、すぐさま霊体に戻る八龍王達。
僕に風龍の加護が付き、隣に霊夢が並ぶ。
その手にはお祓い棒と札。
霊夢も何かを感じたみたいだね。
後ろでも魔理沙は戸惑っているけど、真は僕の動きを見て槍を構えた。
(主よ、どうされたのですか?)
(何か、いる)
「そこにいるのは分かってる。出てきたらどうだい!」
白龍を構え、正面に向かって叫ぶ。
しばらく無音の時間が過ぎ、勘違いかと思い始めたころ、何もない空間から声が響いた。
「驚きましたね。博麗の巫女には気づかれるだろうとは思っていましたが、
まさか貴方にも気づかれるとは」
まるで最初からそこに居たと言わんばかりに、突如その男は現れた。
背は僕よりも少し高く、短くそろえた銀髪を持つ男だ。
その腰には、一本の剣。
「あなたがこの異変の主犯ですね?」
白龍を突き付けながら聞くも、男はわずかに微笑を浮かべるだけだ。
そして僕の右隣、誰もいないはずの空間に向かって話し始めた。
「見ているのでしょう?私も姿を現したのですから、
そちらも姿を見せるのがフェアというものではありませんか?」
その言葉に答えるかのように、いや、実際答えたのだろう。
僕の右隣に以前も見たスキマが現れ、そこから紫さんが出てきた。
紫さんは一瞬僕に目配せをした後、男に向き直った。
「さて、私がこの異変の主犯かという話でしたね。
答えから申し上げるのなら、その通りです」
その答えは予想できていた。
レミリア達は操られていただけ。
黒い霧の異変にしたのも、霊夢たちをここに呼び寄せるため。
その目的は、おそらく偵察だろう。
「幻想郷はすべてを受け入れる。とは言え、それを決める権利もこちらにあります。
私は貴方のようなものを招き入れた覚えはないのだけど?」
さすが紫さんだ。
僕と同じ考えに至ったのだろう。
僕とは違う切り口で情報を集めようとしている。
「そうでしょうね。何せ私は勝手にこの世界に来たのですから」
「えぇい、まどろっこしい!お前の目的はなんだ!!」
我慢の限界だと言わんばかりに声を上げた真。
けれどもあれは演技だ。
僕や紫さんがいきなり核心を突く質問をすれば、わずかに違和感が残る。
だが今まで口を開かなかった真が突如声を張り上げれば、それも残らない。
口に出さずとも役割を理解してくれる親友が、今は何よりも心強い。
「私の目的ですか?
そうですね、あまり引っ張るのも好きではありませんし、お答えいたしましょう」
目の前の男が今までの微笑から笑顔を浮かべる。
しかしそれは、見るものを恐怖させる笑みだ。
「私の目的はただ一つ。陛下の願いをかなえること。
そして陛下の願いとは、幻想郷、ひいてはすべての次元の統一です」
「すべての次元?」
「あなたはパラレルワールドと言うものをご存知ですか?
いわゆる並行世界というものですね。
それらの世界は時に絡まり、時に反発しあっています。
我々はそれら全てを一つにまとめ上げるのです」
男の口から語られる嘘のような目的。
けれども嘘をついてるようには見えない。
体に戦慄が走った。
この男は、本気でそんなことを考えているんだ。
「パラレルワールドとか並行世界とかよく分かんないけど、
異変を起こすって言うなら退治するだけよ!」
霊夢の力強い言葉に気付かされる。
そうだ、何も難しく考える必要はない。
ただ僕の守りたいものを守ればいいんだ。
(風龍、いつでも行けるように準備をしておいてくれ)
(かしこまりました)
「いかに私と言えども人間の英雄、妖怪の賢者、
さらには
今回はここで退散させていただきます」
「なぜその呼び方を知っている!?」
黒守龍というならばまだ理解できる。
けれど黒龍帝という呼び名は僕でさえもさっき知ったばかりだ。
真や霊夢たちさえも知らないことを、なぜこの男が知っている?
「さて、なぜでしょうね?」
「逃がさないわ」
紫さんが開いていた扇子を閉じると、男の背後にスキマが現れる。
男の能力は分からないが」、境界を操る能力を持つ紫さんなら・・・
「なるほど、これがかの有名なスキマの力ですか。
しかし、ぬるいですね」
男が腰に差していた剣を一閃。
それだけだ。
たったそれだけでスキマが消滅した。
「そんな、私のスキマが!?」
「それでは皆様、ごきげんよう」
「待て!お前はさっき我々と言った。他にも仲間がいるのか!?」
「これはいけない、私としたことが忘れるところでした。
我々は
いずれまたお会いしましょう」
その言葉を最後に、男は出てきたのと同じように姿を消した。
静也達の前に現れた謎の男。
静也達はあの男に勝てるのだろうか。
次回を乞うご期待。