東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少年は歩き出し、親友も共に行く。
彼らが出会う、異変とは。



第2章 黒霧の変
第15話 覚醒への序章


「ここだよ、真」

「ほぉ~、ここが香霖堂か」

僕が寺子屋の先生になって5日がたって、今日は寺子屋が休みだ。

そこで、真を香霖堂に案内した。

「こんにちわ~」

「お邪魔します」

「おや、静也君じゃないか。いらっしゃい」

店に入ると、霖之助さんは読んでいた本から顔を上げてあいさつをしてくれた。

「そっちの君は初めて見る顔だね」

「初めまして、霖之助さん。俺は篠宮 真、静也と一緒に幻想入りした外来人だ。よろしく」

「こちらこそよろしく、真君。それで、今日はどういった要件だい?」

「武器を探しているんです。この店に槍はありますか?」

僕たちが来たのは真の槍を買うためだ。

槍術を得意としていながら、真は幻想郷に槍を持ってきていない。

素手でも戦えないわけじゃないけど、万全を尽くしておいて損はないだろう。

ちなみに、お金は幽々子さんが出してくれたそうだ。

「あるよ、少し待っていてくれ」

霖之助さんが店の奥に入っていく。

本当に何でもあるんだなこの店。

「しかし、幻想郷って感じがしない店だな、ここは」

真が近くに置いてあった二つ折りの携帯を手に取りながらつぶやいた。

「確かにね。この店においてある商品の多くは外界の、

 僕たちにとってはなじみ深いものばかりだからね」

「それだけに電気が無いのが残念だよな。お、CDプレイヤーまであるじゃないか」

「しかし、本当に槍まであるなんてね。僕の銃もあったからもしかしたらとは思っていたけど」

「まさに万屋だよな。そういえば、お前仕事始めたんだってな」

「うん。寺子屋で教師をしているよ」

「寺子屋とはまた古風な。だが、教師なんてお前にピッタリじゃないか」

「みんないい子たちばかりだよ。ただ、すれ違う時に時々羽に当たっちゃうんだよね」

「は?羽?寺子屋ではコスプレでも教えてるのか?」

「そんなこと教えるわけないでしょ。寺子屋には人間だけじゃなくて、妖怪や妖精の子供たちもいるんだ」

「すげぇな幻想郷。本当に人と妖怪が共存してるのか。しかも妖精と来たか」

「こんな世界を作った紫さんはすごいよ」

「ちょっと胡散臭い奴だけど、いいやつだよな。能力はチート級だが」

「”境界を操る程度の能力”なんて破格だよね。僕も初めて聞いたときは驚いたよ。

 それだけじゃないと思うけど、幻想郷の賢者と言われるのもうなずける」

僕たちがそんな話をしていると、奥から霖之助さんが戻ってきた。

「お待たせ。これでどうだい?」

霖之助さんから槍を受け取ると、真はその場で数回素振りをした。

もちろん周りの商品にはかすりもしない。

真はそんなに下手じゃない。

「重さも長さもぴったり、いい槍だ。さすがだな霖之助さん」

「気に入って貰えたようでよかったよ」

「買おう。いくらだ?」

「50慣文だよ」

50慣文を手渡す真。

何故だか劣等感を感じた。

「静也、早速これを使って練習試合をしようぜ」

「良いよ、僕も久々に真と・・・・・っ!?」

言葉を最後まで言わず、背後を睨む。

真も笑顔を収めて背後、窓の方を向く。

「真も感じた?」

「あぁ。だがお前ほど敏感にじゃない、なんとなくだ。で、何を感じる?」

「僕もうまく言えないんだけど、何かに覆われているようんな感じ。

 これは、妖力か?とにかくそんな感じ」

霖之助さんに挨拶をして店を出ると、すぐに違和感に気づいた。

朝なのに、夜のように暗い。

そうなる理由なんて一つしかない。

空を見上げると、黒い霧が天を覆い尽くしていた。

「真、急いで博麗神社に戻るよ!」

「分かった。振り落とされないようにしっかりつかまってろよ!」

真に手をつかんでもらって空を飛ぶ。

来るときはのんびり歩いてきたけど、そんな悠長なことは言ってられない。

行きの半分ぐらいの時間で戻ると、境内にはすでに霊夢が出てきていた。

「霊夢!!これは一体?」

「そういえば静也は初めてだったわね。これは異変よ」

「異変?」

「幻想郷では時々、普通じゃ考えられない不思議なことが起こる。

 それを私たちは異変と呼んでるのよ。

 そして、異変を解決するのが、博麗の巫女の仕事よ」

「お~い、霊夢!」

その呼び声に空を見上げると、魔理沙がこっちに向かって飛んできていた。

「霊夢、異変だぜ!早速解決に行こう!」

「魔理沙も行くのか?」

「お、真もいたのか。あぁ、私も異変解決者の一人だからな」

「来るだろうとは思ってたわ。それなら早く行きましょ。

 早く終わらせてゆっくりしたいし」

「行くって、心当たりがあるの?」

「えぇ。色は違うけど、霧で空を覆う異変は過去にもあったわ。だからそいつの所に行くの」

異変か。確かに人知を超えた現象だ。

ただの人間、それも外来人である僕には関係のない話かもしれない。

だけど・・・・

「待って霊夢、僕も連れて行ってほしい」

「静也も?」

「霊夢と魔理沙が強いのはよく知ってる。二人は僕よりもずっと強い。

 だけど、なんだか嫌な予感がするんだ」

「予感って、そんな曖昧な」

「霊夢の勘も似たようなもんだぜ。私たちについてくれば、少なからず危険な目に合うぜ?」

「もちろん分かってる。それでも行きたいんだ」

「それなら私たちがどうこう言う資格はないぜ。

 いいぜ静也、一緒に行こう」

「でも静也は飛べないでしょ、どうやってついて来るつもり?」

「俺が運ぼう」

「真も来るの?」

「静也が行くってのに、俺が行かないわけがないだろ。

 それに、静也の嫌な予感ほど信用できるものはないからな」

「よし、そうと決まればさっそく・・・」

「まって魔理沙。誰か近づいてきてる」

魔理沙がやって来たのとは反対側の空に、黒い人影が見えている。

程なくして現れたのは、黒いスーツのような服に赤い長髪。

そして背中から羽を生やしている女の人だ。

その人は僕たちの近くまで飛んでくると同時に崩れ落ちた。

急いで駆け寄ってみると、あちこちに怪我をしていた。

「小悪魔、どうしてここに!?」

「魔理沙、知り合い?」

「紅魔館ってところにある図書館の司書だ。

 普段は外に出ないお前がどうしてここに。それにこの怪我」

「助けて・・・ください・・・」

小悪魔と呼ばれた女性は、荒い呼吸をしながら話し始めた。

「紅魔館に急に黒い霧が立ち込めて、それを吸ったお嬢様や咲夜さんもおかしくなって。

 異変に気付いたパチュリー様が私だけ外に逃がしてくれたんですけど、

 門を出るときに、美鈴さんに・・・」

「美鈴がお前を襲ったのか!?」

「お願いです、霊夢さん、魔理沙さん。パチュリー様を、紅魔館のみんなを助けてください」

「元々紅魔館にはいく予定だったし、異変に関係があるのなら、なおさらいかない理由はないわね」

「ありがとう・・・ございます」

霊夢の言葉に安心して緊張の糸が切れたのか、小悪魔はそのまま気を失った。

気絶した小悪魔を布団に寝かせ、僕たちは飛び立った。

 




初めての異変に巻き込まれた静也と真。
この先彼ら待ち受けるものとは。
紅魔館の運命は。
次回を乞うご期待。

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