東方黒龍記 ~守りたい者達~   作:黄昏の月人

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少女は何を願うのか。
少年は何を望むのか。
試される龍導流の資格とは。


第11話 龍を継ぐもの

静也さんを探していると、何故か台所にいました。

私は一つ深呼吸をしてから中に入る。

「静也さん、何をしているんですか?」

「ん?あぁ、妖夢。今の試合で疲れているだろうから、デザートを作ろうと思ってね」

「デザートですか?」

「甘いものを食べれば疲れが取れるからね。それよりも、僕に何か用?」

「お話が、あります」

「それは大事な話かな?」

「はい」

「分かった。それじゃあ場所を移そうか」

「手を離しても大丈夫なんですか?」

「あとは自然に冷えるのを待つだけだから大丈夫だよ」

台所の隣にある部屋に静也さんと一緒に入る。

私が畳の上に正座をすると、少し距離を開けて静也さんも同じように正座をした。

「それで、何の話かな?」

「お願いがあります。私を・・・私を、弟子にしてください!」

私は頭を地面につける。

心臓は今までで一番速く動いている気がします。

「顔を上げて」

顔を上げてみると、静也さんは瞑目をしていた。

それはほんの短い時間でしたが、私にはとても長く感じました。

静也さんが目を開き、その黒色の瞳で私と目を合わせる。

その瞳を見た途端、私は一瞬呼吸を忘れ体が強張った。

その瞳はさっきの試合の何倍も鋭く、殺気が肌をなでる。

下手なことを言えば首を落とす。

そう言わんばかりの凄みです。

「その言葉の意味を、重さを、君は理解しているのかい?力を得ることは、責任を負うことと同義だ。

 力あるものは、力無きものを守らなければならない。より強い力を得るほど、周りの人間を巻き込む危険も高くなる。

 それを分かっているのかい?」

「もちろん、分かっています」

「ならばなぜ力を求める?君が半人前だと言われてることは聞いた。幽々子さんに認めてもらいたいからかい?」

「確かに、その思いもあります。私は幽々子様に認めてもらいたい。でも・・・でも私は、それ以上に幽々子様と白玉楼を守りたい!」

「それは使命感故かい?」

「違います!私は幽々子様と白玉楼が大好きです。だからこそ、守るための力が、守れるだけの力が欲しいんです!だからどうか、お願いします!]

静也さんに目を合わせて強く見返す。

その瞳の強さに目を離したくなるけど、意地で押しとどめる。

認めてもらいたいから!

数秒の間睨み合ってると、静也さんの殺気が嘘のように消え、静かに笑った。

「合格だ」

「・・・え?」

「龍導流を学ぶための条件はたった一つ。誰の為に、そして何の為に力を求めるかということ。

 己の為に力を欲する者に、龍導流を学ぶ資格はない。妖夢は愛する者を守る為に、そして必ず守るという強い覚悟を持ってる。

 君の目からそれは伝わってきた。ならば、龍導流を学ぶ資格は十分にある」

「じゃあ!?」

「僕で良ければ、龍導流の極意を教えよう」

「ありがとうございます!」

「先に庭に出ていて。幽々子さんにデザートを届けた後、僕も行くから」

「はい、師匠!」

私は刀をつかみ、師匠に頭を下げて部屋を出た。

 

 

 

 

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『はい、師匠!』

俺が外から話を聞いていたら、妖夢はその言葉を置き去りにするように走っていった。

よほど嬉しかったみたいだな。

妖夢の思いと覚悟は龍導流と合ってるだろうし、静也もきっと受け入れるだろうと思ってわざと誘導するような言い方をしたのは間違ってなかったようだ。

静也と妖夢の戦いを見て、俺は惜しいと思った。

初めて会った時も思ったが、妖夢の剣術は粗削りだが鋭いものだった。

外界で暮らしていた俺や静也よりも、刀を扱う機会が多かったからだろうな。

でもそれだけだった。

弱者というには鋭すぎ、達人というには鈍すぎる腕前。

まさに゛半人前゛という言葉がぴったりだった。

妖夢の祖父を悪く言うつもりはないが、妖夢は師に恵まれなかったんだろう。

妖夢の祖父はもう十分だと思って妖夢の元を去ったのかもしれないが、まだまだ不十分だ。

磨けば光るダイヤの原石を持っていながら、それを磨くもの゛師゛がいなかった。

だからこその静也だ。

剣術において静也の右に出る者はいないだろう。

この幻想郷でもな。

お節介かとも思ったが、そこは居候のよしみってことで我慢してもらおう。

畳の擦れる音が聞こえたところで、俺は能力を解除した。

最初から立ち聞きをしていたのに、気配に敏感な静也が俺に気づかなかったのはこれのおかげだ。

本当に便利な能力だよなこれ。

「あれ、真?もしかして聞いてた?」

「まぁな」

「別に部屋の中でも良かったのに」

「部外者の俺が居ると話しづらいことがあるだろ、お互いにな」

「そう、真らしいね。それじゃあ僕は行くね。あまり妖夢も待たせるのも悪いし」

「あぁ。師匠がんばれよ」

「うん」

笑顔で静也を見送ったが、その背中が見えなくなった時点で笑顔を引いた。

静也が妖夢に言ったのは、龍導流に入門しようとすれば必ず聞かれることだ。

俺も同じことを聞かれたが、一つだけ違うところがあった。

それは周りの人間も巻き込むという部分。

意識してやったのかはわからないが、あそこは静也が自分で付け加えていた。

静也はまだ、あの時のことを完全に忘れることが出来ていないのかもしれない。

 

 

 

 

 

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「それじゃあ、早速始めるよ」

「よろしくお願いします、師匠」

場所はさっきと同じ庭先。

私と師匠は刀を収めたまま向き合っている。

「妖夢、僕がさっき言ったことを覚えているかい?」

「はい。私の剣術には無駄が多いと」

「その通り。妖夢、君は全てに対して強くなろうとしすぎている」

「どういう意味ですか?」

「人の身に付けられるものには限界がある。だからこそ、すべての能力を上げようとするとかえって無駄が多くなるんだ。

 自分だけの強さを見つけ、それを最大限に生かした戦い方をするのが重要だ。

 一流の剣士はみんな戦い方が違う。それは全員が自分の強みと弱みを知っているからだ。

 さて妖夢、僕の強さは速さだ。ならば君の強さはなんだと思う?」

そう問いかける師匠は私を試しているようです。

あの口ぶりからすると、師匠はもう私の強さに気が付いているようですね。

一度刀を合わせただけなのにもう気が付くとは、流石です。

私だけの強さ、今までそんなの考えたこともなかった。

力強さは違う。半人半霊としての特徴?いや、師匠が言いたいのはそんなことじゃない。

私の強さ、私だけの強さ。

考えるんだ。あの試合において、私が師匠と同等にできたものはなんだ?

・・・・っ!?もしかして、これでしょうか。

「速さ。私の強みは速さ。だけど師匠のような恒常的な速さではなく、瞬発的な速さ。それが私の強さ」

確証があったわけではありません。

これしか思いつかなかったというのが本音です。

「素晴らしい、正解だ。まずは刀一本でその動きを磨いていこう」

「はい!」

それから師匠は、日が暮れて霊夢さんが迎えに来るまでの間ずっと、私のそばで指導をしてくれました。

 

 

 

 




龍導流を学ぶことになった妖夢。
彼女はこれからどのように成長するのだろうか。
次回を乞うご期待。

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