今日は、霧嶋さんとマスクを作りに行く日だ。
待ち合わせ場所に着くと、もう霧嶋さんはいた。まだ十五分前で少し早いかと思ったが、彼女の方が早かったようだ。あ、向こうも気づいたみたいだ。
「こんにちは。ごめん、少し待ったかな?」
「いや、私も今来ました。それに、まだ時間なってないし…あっこんにちは」
なんだか、デートのセリフみたいだと思った。
霧嶋さんは背を向け、じゃあ、行きましょうっと言って足早に歩き始めた。
お店は路地を進んで、地下にあった。店内?は落ち着いた雰囲気だった。壁には様々なマスクが下がっていた。あ、これヴェネチアンマスクみたいだ。
不自然に布が被せてあるものを見つけた。これ、中に人いないか。霧嶋さんは気づいていないようで、店主を探していた。
スルーしてマスクを見ていると、
「ねぇ、君気づいているでしょ。驚かせようとしたのに…。それに無視はひどいよ」
僕が関わることは、まずないだろう見た目の男性がいた。特徴的な髪型をして、ピアスをいくつも着けている。
目は赫眼だった。
見た目はともかく、話しやすい人だった。悪い人ではないようだ。さすがに、目玉には引いたが。
「トーカさんはどうなの?どういう関係?」
すぐに答えられなかった。少し考えて、友達です。と返した。
そして、霧嶋さんの人間の社会で生きるための努力を知った。たが、危険を冒してまで、人の社会で暮らす理由はなんとなくわかった。前世で僕も同じ体験をしていたから。
……西尾さんのことが頭に浮かんだ。彼もそうだった。
マスクは一週間ほど掛かるそうだ。お礼を言ってお店を出た。
帰り道、あんていくの話になった。
店長の芳村さんは、来れるときに、いつでも来ていいと言っていたそうだ。
正直助かった。これから、休んでいた分の大学の課題やレポートをこなさなくてはならなかったからだ。
それに、新たに知識が増え、考えがまとまっていなかった。どこまで話せばよいか、など。
霧嶋さんと別れ、先ほどウタさんに言われたことを考える。僕たちの関係はなんなのかと。
友達ではないだろう。
今のところ、血を飲み、飲まれる関係。
ただ、僕は彼女に対してある程度、気を許してしまっている。ただの血の提供者として見ることはできなかった。
■
数日は本当に大変だった。課題やレポートが一つ二つ終わったくらいでは、全然進んでいる気がしなかった。
一度、霧嶋さんから電話があった。元に戻ってしまったため、またお願いします、と。
今回は数日もったな、と思った。前回は一日だけだったはずだ。
血を飲む前に、合鍵を渡された。いや、なぜ。
疑問に思っていると、また眠ってしまう可能性があるため、これで閉めて帰っていいらしい。
ああ、なるほどと思った。でも今日は彼女が目覚めるまで待つつもりだった。
「鍵はいいよ。まだ三回目で、何があるかわからないし。本を持ってきたから、起きるまで待ってるよ」
「あ……はい。すみません、お願いします」
なんて言いつつも、彼女は嬉しげに小さく笑った。
二回目と同じように意識して血を飲んだ。彼女が目覚めるまでの時間も同じだった。
帰ろうとしたら、声がかかった。
「あの……また、一緒にご飯食べていきませんか…?」
断る理由もなかったため、了承した。前回と同じくポトフだったが、今度は一緒に作って食べた。僕が作った時よりも、おいしかった。
そういえばと、西尾さんの件を話した。
霧嶋さんは、西尾さんのことを知っていた。なんでも最近、行方を眩ませているようだ。
死んではいないはずだ。あの後、一度確かめに行ったが、もうすでに、西尾さんはいなかった。
原因の僕が言うのもあれだが、無事だといいな。勿論、ヒデにしたことは許せないが。
ウタさんとの会話から、そう思うようになっていた。
「あの…これ、やっぱり」
帰り際、合鍵を渡された。返そうとしたところ、じゃあ、また。と言われてドアを閉められた。
まあ、次返せばいいかと思いつつ、自宅の鍵と一緒にキーホルダーにつけた。
トーカちゃんは金木くんに、どちらかというと父性を感じています。