もう一気に投稿しました
「これで、いいかしら」
「……はい」
ニコが埋まった身体を、地面から引き抜く。そこで金木は気づいた。分かれていたニコの身体が、くっついていることに。
「あの、トーカちゃんの腕は、このまま?」
ニコは、トーカの腕を失っている部分を一瞥して、口を開いた。
「わからないわ。グールの再生力にも、個人差があるの」
「そうですか…」
「そうよ。じゃ、アタシは消えるわ。こんな格好じゃ女が廃るから」
ニコの服は、ボロボロで酷い有り様だった。
「さようなら」
「…ええ」
温かさを微塵にも感じない別れの言葉を受け、ニコは去っていった。どこに行くのかと金木は気になったが、思い直して、視線を外した。
「君は、どうするの?アオギリの樹に戻るのかな」
訊ねる金木の瞳は、暗い。アヤトは内心怯みながらも、表には出さずに、答える。
「…戻る」
「そうなんだ。…ちなみに、それは何のため?」
「……」
「…まあ、いいよ。今日はありがとう。君がいなかったら、トーカちゃんを助けられなかった」
金木は、アヤトからトーカを受け取ろうとする。アヤトもそれに応じたが、離れる間際、トーカの服をそっと摘まんだ。
「アヤト君?」
「っ…‼行けよっ」
「……うん、またね」
そう、言い残して、金木は去っていった。
木々の葉がザァーと波を描き、音を立てて揺れる。
金木がこの場から去って、どのくらいの時間が過ぎただろうか。アヤトは、俯いて立ったままだった。
「くそっ」
行き場のない、まぜこぜになった感情に、アヤトは悪態をつくしかなかった。
■
ドアの淡い電灯だけが照らしている、営業時間後のあんていく。その奥の一室で、金木と芳村が、重苦しい雰囲気を漂わせながら向かい合っていた。部屋の片隅にあるベッドには、未だ目を覚ます様子のない、トーカが寝かされていた。
「…それは、どうしてもかい」
「…はい。それに、ニコというグールからの情報を信用するならば、アオギリは今、グール収容施設の襲撃を目的としているみたいで…そっちの方は、CCGに情報を流そうと考えていますけど…」
芳村は、目を閉じ、眉間に皺を寄せて、ゆっくりと息を吐いた。
「それで、君が…」
「十一区のアオギリのアジトを潰します。アオギリに、力をつけさせるわけにはいかない。グール全てに、アオギリかどうかというだけで敵対するのは、短絡的な考えかもしれません。でも、ヤモリと同じ…いや、もっと残酷なグールだって、いないとは限らない」
金木はその言葉を躊躇わずに口にした。
「だからって、アオギリの全てのグールを殺すのかい?…一人でなんて、無茶だ。それに、トーカちゃんは、金木君に、そんなことは望まないだろう。……彼女は、君の身を心配するはずだ」
「力をもったグールだけ……のつもりです。でも、トーカちゃんがまた、こんな目にあったら……そんなことを考えると、全身が別の生き物になったかのように疼いて、気が狂いそうになるんです」
「君は……」
「芳村さんは、思わなかったんですか。…憂奈さんを失った時に」
「……」
「力があれば。あの時、力があればと思ったんだっ……そして、今、僕は力を手に入れたんです。僕は守りたい。トーカちゃんだけじゃない、リョーコさんもヒナミちゃんも……ヒデだって。でも、今回のことで、それだけじゃ駄目だったんだって、痛感したんです。…脅威は、待ってくれない。いつもどこかで、僕達を脅かしている。だから、その前に摘まないと駄目なんです」
「…そうか。私に、君の言葉を否定することはできない。でもね、金木君………いや、そうだな。私も付いて行こう」
「え?」
「十一区のアオギリのアジトには、私も行く。…私に、グールも人間も手に掛けることは、できない。だが、君の背中を守ることくらいは私にもできるはずだ。この我儘を聞いてもらえないかな」
芳村の真っ直ぐな眼差しに、金木は狼狽える。しかし、この申し出は有りがたかった。CCGのレートに、SSSと認定されている最強のグール。そんな人に背中を守ってもらえるなど、頼りになるどころではない。
だが、巻き込んでしまってもいいのか。金木は少し迷った末に答えを出した。
「……はい、すみません。お願いします」
金木の、迷いを含んだ返答に、芳村は眉間の皺を解く。そして、満足そうに、頷いた。
「今日は、どうする、ここに泊まるかい?」
「あ、いや…すみません。リョーコさん達が心配しているので、帰ります。その、トーカちゃんも連れていっていいですか?その、一緒にいないと怖くて…」
「…ああ、勿論だよ。トーカちゃんも、その方が安心できるだろうし」
芳村にお礼の言葉を述べ、トーカを横抱きにした金木は、ドアの取っ手に手を掛ける。そして、迷う素振りを見せたあと、呟いた。
「最近、考えていたんです。僕は、もはや人間でも、グールでもない、ある意味別の生き物じゃないかって」
「それは…」
「…だって、そうですよね。もう、僕だけじゃないんです。僕は、グールを…もしかしたら、人間までも変えてしまえるのかもしれない。僕と、同じように。……そうだったら、人間とグールって見た目通り、そう変わらない生き物なのかもしれませんね」
「…そうだね」
「すみません、今日はありがとうございました。明日また、連絡させていただきます。今日は、ちょっと休みます」
「ああ、気を付けて」
夢のタッグ誕生!!(勝手に思ってる)