実写映画今日からですね
観るの楽しみです
「遅いね、お姉ちゃん…」
「そうね、バイト長引いているのかも」
ぐぅと可愛らしい音が鳴った。
今日は、トーカちゃんが家に泊まる日だが、彼女はバイトが入っていたため、夕食の時間はいつもより遅めに設定していた。彼女は先に食べてていいと言ったけど、やっぱり一緒に食べたいし…。
予定の時間はもう結構過ぎてしまっている。片付けに時間がかかっているのだろうか。携帯電話は忘れていっているし、連絡もとれない。…少し、心配だ。かといってあんていくに電話するのもなあ…。お節介みたいで少し気が引ける。
「ちょっと、迎えに行ってくるね」
「あ、うん。いってらっしゃい」
「気を付けてね」
「はーい」
さっきのお腹の音はどっちのなんだろう。二人とも顔を赤らめていたから分からなかった。
玄関で二人に見送られながら家を出た。
「……寒い」
普段は使わない近道から、あんていくに向かっている途中。さっきチラッと見えた表の通りは、クリスマス一色だった。
今年のクリスマスイブは、自宅で過ごす予定だ。月山さんに、それとなく誘われたが断った。家に呼ぶことも出来たが、まだ自宅を教える気にはなれなかったし…。
今年は、僕だけではない。いや、いつもはヒデとクリスマスを迎えていたから、一人というわけではなかったけども。今年は、リョーコさん、ヒナミちゃん、トーカちゃんと、両手に花どころではない贅沢さだ。いや、そんなつもりはないけども。
リョーコさんとヒナミちゃんにはまだ話していないが、イルミネーションを見に行けたらとトーカちゃんと話している。流石に、母娘を一緒にするわけにはいかないので、二組に別れて行くつもりだ。多分、僕の組合せは、リョーコさんとの二人になる。まだ先のことなのに、想像すると、緊張してしまう。だって、あれだ。人生初のクリスマスデートといえるんじゃないだろうか、これ。うん、仕方ないよな、凄く楽しみだ。
ヒデには、裏切り者呼ばわりされたっけ。トーカちゃんと交際していると言ったときよりも酷かった。散々ぐちを聞かされたが、なんかもう、全て受け入れられた。勝者の余裕というものかもしれない。
……いやいや、浮かれすぎていたかもしれない。少し自制しようと思う。…ごめん、ヒデ。
「…あれ、トーカちゃん?」
早足で進んでいると、覚えのある匂い。……おかしい。匂い消しの香水を付けているのだから、こんなにハッキリとした匂いはしないなずなのに。…いや、ちょっと違うような。フード被っているし、今日の彼女の服装とも違う。
「…トーカちゃん?」
「…あ?」
やはり、違った。男の声だった。
「すみません、人違いでした」
「……」
なんだか凄く機嫌が悪そうだ。フードの人物はこちらを向くことなく足を進めた。
「あ」
ふと、思い出した。芳村さんから、トーカちゃんには弟がいると、前に聞いていたんだ。トーカちゃんからは、そういう話を聞いておらず、勝手に知るのは悪いと思ったので、芳村さんからも詳しくは聞かなかったが。
「あの、弟のアヤト君かな」
彼は、此方を人にらみして、直ぐに背を向けた。そして、僕を無視したまま、歩き出した。僕もそれに続く。
「おい、ついて来んな」
「ごめん、僕もこっちに用があるんだ」
「…ちっ」
舌打ちされても、どうしようもない。だが、何となく気まずくなったので、少し距離を空けた。…ヒナミちゃんと同じくらいの年かな?
血の匂いがする。
あんていくまであと半分という距離まで来たとき、アヤト君がピタリと足を止めた。
前を見ると、道の端に一人の男が横になっていた。その周りには三人の人物がいる。雰囲気からして、何やら戸惑っているみたいだ。アヤト君の知り合いか。
すると、倒れていた男が起き上がった。いや、飛び上がったというのが正しいな。そして、こちらに向き直ったかと思うと、もうスピードで向かってきた。
「リゼさぁぁあん!‼」
「えっ」
その言葉に、思わず後ろを振り向く。しかし、そこには誰もいなかった。気を落として前に向き直ると、筋肉質な大男が掴みかかろうとしていた。僕に。
「ちょ」
思わず、投げ飛ばした。相手の力を利用たので、ポーンと音が聞こえてくるかのように、大男は宙を舞い、コンクリートの壁に激突した。
「あげぇ」
あ…どうしよう。起き上がってこない。どうすればいいか、迷っていると、一緒にいた三人が駆け寄っていった。
「バンジョーさん‼無事で良かった‼」
いや、やった僕が言うのもあれだが、無事には見えないけど。衝撃で気絶したみたいだし。しかし、周りにいた三人は喜びあっている。いったい、なんなんだ。あ、正当防衛だったし、投げ飛ばしたことは、ゆるしてほしいな。
しれっと万丈強化