前世はバンパイア?   作:おんぐ

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今日は何話か投稿します



28 蛮勇

 

 

 

 

 

 

 「な、なあ、ちょっとあんた」

 

 

 「あ?」

 

 あんていくでのバイトを終え、金木の家へ向かう道で、トーカは後ろから声を掛けられた。

 今日は、オーダーストップ間際に客が来たため、バイトの終わる時間が、いつもより遅かったのだ。夕食を一緒に食べようと約束していた時間は、大幅に過ぎてしまっていた。そして、今日に限って、トーカは金木の家に携帯を置き忘れてしまっていた。焦りに焦り、早く早くと急いでいる時に、歩みを止められたのだ。多少苛立っても、仕方ない。おおよそ、女子高生が出す声でなくても、仕方ないったら仕方ないのだ。

 

 

 「ひいぃ」

 

  

 「あ?」

 

 トーカが、振り向いた先にいたのは、顔をひきつらせている大男だった。後ろには、男が二人と、女が一人。

 

 

 

 「あ、あや…いや、女か…」

 

 

 「なによ」

 

 

 用件があるなら、早く言え。こっちは、急いでいるのだ。暇ではない。トーカは目で、大男に訴えた。

 

 

 「あ、いや……あっあんた‼リゼさんを知らないか⁉」

 

 

 「は?」

 

 

 なぜ、いきなりリゼ?…リゼって、あのリゼなのか。

 トーカの、大男に対しての警戒度が上がる。

 

 

 「あんた…証しは?」

 

 

 「あっ…ああっ!ここじゃまずいから、ちょっと来てくれ」

 

 

 待たせている皆には悪いとは思う。しかし、リゼとなると、金木にとって何か必要な情報を手に入れることができるかもしれない。トーカは大男に続いて、人通りのない路地へと足を進めた。

 

 

 

 

 大男⎯万丈の眼の確認を終え、トーカが話を切り出した。

 

 

 「急いでいるから、要点だけ話して」

 

 

 「あ…ちょっと待ってくれ…………よし。えっとまず、リゼさんは今何処にいるのか。二つ目は、今すぐリゼさんに逃げてくれと伝えてほしい」

 

 

 トーカは、困惑した。なぜ自分に言ったのかと。ただ、大男の態度から、ただ事ではないのだろう。

 

 

 「リゼがどこにいるのかは知らない。ていうか、何で私に?」

 

 

 「いや、だってあんたから、リゼさんの匂いがしたからだよ」

 

 

 「うそっ」

 

 トーカは、腕を前まで上げ、匂いを確める。しかし、香水の匂いしかしなかった。

 

 

 「いやっ俺がリゼさんの匂いを間違えるはずがねぇっ……と、言いたい所だが、ちょっと違ったみたいだ。でも、似ているんだ」

 

 

 「……」

 

 

 金木の細胞を取り込んで、変異したのだ。そのおおもとはリゼのため、匂いについても何となくわかる。問題は、金木の提案で外出時は香水をつけるようにしていたのに、なぜ気づかれたのか。流石に、グールの力を使えば、匂いを抑えることはできない。だが、今はそんなことはしていない。嗅覚に優れたヒナミでもわからなくなったのに、なぜ。得たいの知れない気味悪さを感じ、トーカの肌が粟立った。

 

 

 「少し、違う?」

 

 

 「あ、ああ。近くで集中して嗅いだら、違った。…この蒸れた肌に少しだけかいた汗の匂いは、リゼさんのだと思ったんだ…げぶっっ!‼」

 

 

 「あ、バンジョーさーん」

 

 

 大男が言い切る前に、トーカは大男の腹に蹴りを叩き込んだ。当たり前だ。制裁には、甘いくらいだろう。   

 

 

 「それより、リゼに逃げろっていうのは?」

 

 

 「げほっ………ある組織が、アオギリっていうヤバいグール集団が、リゼさんを探している。…だから、リゼさんが危ないんだ」

 

 

 必死の形相で話す万丈。

 そんな中、突然の介入があった。それは万丈にとって、不幸なものでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 「君、それは裏切りだよ。…アヤト君の責任かな」

 

 

 「そうよ。この髭マッチョ」

 

 

 建物の影から姿を見せたのは、白スーツの白髪の男と、それに付き添うようにいる女言葉を使う男の二人組だった。

 

 

 「や、ヤモリ…なんで…」

 

 

 万丈は思わぬ不幸な遭遇に、唖然とする。

 

 

 「うろうろしている君をつけていたんだ。リゼを知ってるみたいだったし?まあ、目的はリゼじゃないんだけどね」

 

 

 トーカは、現れた二人組に警戒心を抱く。白スーツの男が、自分に意識を向けていることも気づいていた。

 逃げようと思えば、逃げ切れたかもしれない。トーカがそれをしなかったのは、会話の中に、弟の名前が上がったからだ。もしかしたら、他人かもしれない。でもやっぱり、弟だったら。可能性が有る限り、動くことができなかった。行方の知れない弟が今何をしているのか心配だったのだ。

 

 

 この時、トーカは直ぐに逃げるべきだった。なぜなら、現れた二人組の一人がアオギリの幹部であったのだから。

 

 

 「ねえ…そっちの男…今、アヤトって?」

 

 

 トーカはヤモリに尋ねる。しかし、その問いに反応したのは、もう一人のほうだった。

 

 

 「あら?もしかして、アヤトくんのお姉さま?ああ、もう美形ね。姉弟そろって…ジェラスだわ~」

 

 

 その反応に、トーカに苛立ちがつのる。

 

 

 「アヤトはどこ?」

 

 

 ヤモリともう一人、ニコは、目配せをし、どちらともなくニヤリと口の端しを歪ませた。この場に姿を現すまで、身を潜めてトーカと万丈の会話を聞いていたのだ。

 当初の目的は、嘉納とリゼの確保。しかし、それが困難になった今、次の目的は、リゼの赫包の移植された人間の確保だった。

 しかし、そう簡単に見つかるものではない。いくらニコの嗅覚が優れていても、目印がなくてはあまり意味がない。そのため、リゼの匂いを知っている万丈を利用したのだ。

 あまり、期待はしていなかった。二十区まで場所を絞れたといってもそこまで。あとは手当たり次第に探し回っているだけだったのだから。

 アオギリの作戦実行まであとわずか。そろそろ無理かと諦めかけていたところ、手がかりを見つけた。その時点でもう、取るべき手段は決まっていた。

 

 

 「アヤト君はね、僕達の仲間なんだ。弟に会いたいんでしょ?だったら来なよ、アオギリに」

 

 「いかない」

 

 

 即答だった。トーカには、考える余地もなかった。弟は心配だが、いくつもりはなかった。おかしな組織にいるのなら、辞めるよう説得する、そんな考えを持っていた。

 

 ヤモリは、その即答に少し固まったが、すぐに持ち直して言う。その言葉には、思いの通りにならなかったことからか、苛立ちが含まれていた。

 

 

 「…そっかあ。じゃあ、仕方ないね」

 

 「それで、アヤトは…ガッ…!‼」

 

 

 ヤモリの蹴りが、トーカのわき腹に突き刺さった。

 

 

 「うぅぇ」

 

 

 トーカは堪らずに地面に手をつく。そして、胃の内容物を吐き出した。

 

 

 「はぁ?弱すぎるよこの子……ああ、人間のものなんか食べていたからか。…本当に、アヤト君の姉?」

 

 ヤモリは呆れたようにトーカから目を外して、ニコに尋ねる。

 

 

 「ええ、それはそのはずだけど…」

 

 

 「でも、危機感も薄いというか、反応できてなかったというかナぶっっ…!‼」「おばぁ」

 

 

 突然、その場からヤモリが消え、巻き込まれたニコも消えた。その代わりに立っていたのは、

 

 

 「死ね、このクソ野郎」

 

 

 ヤモリに沈まされたはずのトーカだった。仕返しとばかりに、ヤモリを蹴り飛ばしたのだ。

 トーカも無傷というわけではないのだろう。追撃をかけることなく、わき腹を手で抑え、荒い息を吐いていた。

 

 

 「じゃ」

 

 

 トーカは、流石に力量の差を理解していた。怒りに任せてやり返したが、相手が油断していたこともあり、もうあんなに上手くはいかないだろう。そして、なにより今の蹴りは、今までで一番速かった。もう同じことできる気がしなかったのだ。トーカは、逃走する選択肢をとった。

 

 だが、それは、ゆるされなかった。

 

 トーカを襲ったのは、先端が鋭くとがった鱗がびっしりと生えている、二本のヤモリの赫子。怒りに意識を支配されているからか、その動きは単純なものだった。トーカは、わき腹を抑えながらも難なくかわす。

 ただ、もう一人いたことを失念していた。

 

 

 「あらぁだめよ」

 

 

 トーカの足首に何かが巻きつく。それは、ニコの胴体からのびている赫子だった。

 

 

 「クソっはなれろ…!」

 

 

 トーカは何とか抜け出そうともがくが、その甲斐虚しく、さらにトーカを締め上げた。

 

 

 「ありがとう、ニコ…一発くらいいいよね」

 

 「…ほどほどにね、壊れちゃうから」

 

 

 「お、おい…あんたら」

 

 

 万丈の制止の声など聞こえていないかのように、ヤモリの赫子は、トーカへとその牙を向ける。手足を固定され、迫り来る恐怖に耐えきれなくなったトーカは固く目を閉じた。

 

 衝撃

 

 「う…」

 

 「………あれ?」

 

 

 唖然とした声を出したのは、ヤモリだった。腹を貫通させるつもりでやった。しかし、肉を抉るにいたらず、赫子は弾かれ、トーカの服を引き裂きながら、滑るように脇を抜けていった。

 もう一度、試みる。しかし、結果は似たようなものだった。

 

 

 「…赫子が通らない」

 

 「え、ええ…そうみたいね」

 

 「…まあ、いいや。使えそうだし、連れていこう。今ので気絶したみたい」

 

 

 怒りが収まり、落ち着いた声でいながらも、ヤモリの口の端は大きく歪んでいた。

 

 

 「…あ、万丈君。アヤト君には、このこと内緒だよ」

 

 「あ、なぇ…あ、あんたらその子をどうするんだよ‼」

 

 「は?君は知らなくていいよ」

 

 

 ヤモリは思わぬ返しに、不機嫌な声で答える。

 万丈は、それだけで身体が震えた。だが、仕方ないだろう。あんな赫子を見たあとなのだから。それでも、気を奮い立たせ、万丈は叫んだ。なぜそんなことをするのか、確固とした理由はなかった。

 万丈は、アヤトのことは嫌いである。敬称をつけないと殴られるし、偉そうな態度が好きになれない。それに、目の前の少女とも、姉弟仲も良くないのかもしれない。自分が気にすることではない。そう思っていても、それでも、見過ごせなかったのだ。

 

 

 「い、行かせねぇ!‼」

 

 「…そっか。荷物持ちに使おうと思ったのに」

 

ドス

 

 「は、え…」

 

 

 ヤモリの背から飛び出した赫子が、万丈の腹部から抉るように貫通していた。引き抜かれると共に、万丈は崩れ落ちる。

 

 

 「バンジョーさん!‼」

 

 

 万丈についていた三人が万丈に駆け寄る。

 

 

 「君達も…邪魔するのかな?」

 

 

 「……いえ、どうぞ」

 

 

 そう言うと、三人は万丈を抱えて逃げるように去っていった。

 

 「もう、無理だと思うけどなあ」

 

 

 ヤモリはそれを眺めながら、呟いた。

 

 




フラグっぽい書き方を意識

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