今回はそれぞれ8話、13話、17話辺りのものです。
話は進みません。
バタンッとドアが勢いよく閉まった音が響いた。
「お姉ちゃん、大丈夫かな…。」
ヒナミが心配そうに、眉尻を下げて言った。
リョーコも同じ気持ちだった。彼の慌てようから、ただ事ではないのだろう。だが、ヒナミを更に不安にさせるようなことを言うつもりはない。
「ええ、きっと大丈夫よ。金木さんも言ってたわよね?」
リョーコはヒナミを安心させるように笑った。
「うん…。」
リョーコは振り返る。
ヒナミのために、もう夫にすがってはいけない。
私が甘えてはいけない。
食事も自分で用意する決意もした。
なのに、そうだったはずなのに。
ヒナミを危険に晒してしまっていた。
白鳩に見つかった時、なんでこんなことにと、運命を呪った。
でも、本当はわかっていた。私が甘えたから。弱かったから。それだけのことだった。
金木さんがいなければ、ヒナミもどうなっていたか分からない。
「…お母さん?泣いているの?」
「…っ。」
服の袖が汚れるのも構わず、顔を拭う。
「ごめんなさい、気にしないで。」
笑顔になるように努めたが、上手くいかない。ヒナミが泣きそうなほどに、顔を歪めた。
だめだ。そんな顔をさせたらだめだ。
とまれ、とまれ。
思いとは裏腹に、涙は次から次へと溢れてきた。
「……お母さんっ。」
優しく、頭に手を添えられる。気づけばリョーコは、頭を抱えられるような形で、ヒナミに抱きしめられていた。
「朝は…ね、ヒナミが泣いちゃったから、次はお母さんの番…だよ。」
「え……。」
「お母さんも、泣いて…いいよ…。」
少し震えた、照れが混じったヒナミの声。でも、それがどこか安心できて……。
リョーコは、感情をさらけ出して泣いた。
■
ヒナミの日記
11月11日
久しぶりの日記。でも、何を書いていいのかわからないくらい、書きたいことがいっぱいある。
お兄ちゃん。金木研さん。今はお出かけしていないから、ちょっとさびしい。
会ったばかりなのに、ヒナミとお母さんを助けてくれた人。今もいっぱい助けてくれている人。
優しくて、本当にヒナミのお兄ちゃんみたいな人。そうだったらよかったな。
ヒナミのずっとほしかったものをくれた人。
初めて食事が楽しかった。昨日からすごく楽しみだった。あんなにおいしいなんて思わなかった。
初めて食べたのは、トーカお姉ちゃんが作ってくれた玉子焼き。本当においしかった。
お父さんにも食べてほしかった。こんなにおいしんだよって。お父さんに会いたい。
お母さんも苦しんでいた。きっと、お母さんもずっと、お父さんに会いたくてさびしかった。
それでも、ヒナミを守ってくれていたお母さん。
今度はヒナミが⎯⎯
■
⎯⎯カチャと小さな音がするまで、生きた心地がしなかった。
気づいたら、彼にすがりついていた。身体が勝手に動いていた。
みっともない。やめろ。誰のせいでこうなった?
私のせいだ。また、甘えた。ヒナミにも、会ったばかりのはずの彼にも。
ああ、だめだ、本当にだめだ。私はだめだ。
強くなりたい。
ああ、でも。
依存してしまうのはいけない。これ以上迷惑をかけたくない。
そう思っていた。いや、今でも変わらない気持ちはある。
でも、目の前で静かに寝息を立てている彼から、離れたくない。そう思ってしまった。
次話だと思って見た方、すみません。