前世はバンパイア?   作:おんぐ

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お気に入り、評価ありがとうございました。


投稿遅れました。すみません。びびり。




25  捜査官sideも

 

 今の僕は、きっと挙動不審に見えていることだろう。だが仕方ないと思う。なぜなら僕は今、これまで目にしたこともないくらいの大金を持っているのだから。

 

 

 

 

 今いるのは、通りから少し離れたこじんまりとした外観の喫茶店だ。席数もそれほどにないが、窮屈には感じない。落ち着く狭さだ。

 

 「どうかな、たまにここに来るんだ。パンケーキが美味しいよ」

 

 小声で、らしいけどねと芳村さんが付け足した。…もしかして、食べたことはあるのだろうか。

 

 「…いいところだと思います。店名も綺麗で、好きです」

 

 「ああ、そうだね」

 

 芳村さんは少し寂しそうな表情をした後、無理矢理打ち消すように優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ここに来るまで、何度も背後を確認してしまった。こんなに神経を尖らせていたことはなかったかもしれない。一緒にいた芳村さんの目には、その姿はさぞ滑稽に映ったことだろう。何も言わないでいてくれた彼には感謝と同時に申し訳なさを感じる。

 先程までいたのは、競馬場だ。真摯に臨んでいる人達に悪いとは思うが、テレパシーを使ってお金を手に入れるために考えついたのはこれだった。だが全てが終わった今、もう今回限りにしたいと思った。酷使で疲弊していたこともあるが、なんと言うか……罪悪感が凄く沸いてくる。だからと言って今さら何かが変わる訳ではないが、簡単には割りきれず、モヤモヤが残った。

 そうして手にしたものは、予定していた額を大幅に越えていた。どうせならばと思って一番配当が高いものにしたからだ。テレパシーには、高い集中力と僕の明確な意志があるほうが上手くいく。そのため一番というのは、それだけで意識を集中できた。

 当初の予定としては、僕が大学を出るまで、社会人として稼げるようになるまでの生活費の確保だ。必要なものもこれからでてくるだろう。今までは一人だったたが、今は三人。その分のお金が必要だった。

 家でも買おうか。今より広い、中古の部屋くらいならば買えるかもしれない。そう思うくらいには、お金ができた。もちろん、数年分の生活費も差し引いた上でのことだ。家に帰ったら、二人にも相談してみようかな。

 

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 真戸の負傷から一週間過ぎたこの日、亜門は見舞いのため、病院を訪れていた。非番だが上司の見舞いだからと、服装はいつものスーツと変わりはない。だが今日は、クインケケースの代わりに見舞い品の入った紙袋を手に下げていた。

 真戸と会うのは、一週間ぶりだった。あの日、暁に促されて向かった先で目にした真戸は、亜門の知る普段の彼とはかけ離れた、弱々しい姿だった。これは、亜門の視点からであって、娘の暁からすれば、落ち込んでいるくらいのものだったが。そんなこともを知るはずもない亜門は緊張し、身を強張らせた。自分は何事もなく、こうしてのうのうと生活しているというのに、真戸さんはと。検討違いなことを考えているのはわかっていたが、それは頭から消えてはくれなかった。

 

 「遅くなってしまい、申し訳ありません」

 

 病室にいた真戸、暁と挨拶を交わした後、亜門は深く頭を下げた。

 

 「謝るのは私の方だよ。私の分の仕事まで大変だっただろう」

 

 「いえ、そんな…」

 

 

 亜門は軽く混乱した。それもそうだ。真戸の雰囲気が亜門の知っているものと、また変わっていたからだ。亜門から見た今の真戸は、以前のどこか狂気じみていた空気はなく、憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。加えて、どこか精悍な雰囲気を漂わせていた。

 

 

 「少しですが、よかったらこちらを」

 

 「わざわざすまないね。亜門君」

 

 「お預かりします」

 

 暁は紙袋を受け取って、中に入っているものを確かめた。

 

 「とうさん。林檎ジュースだ」

 

 「喉が乾いたし、せっかくだ。皆で飲もうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「Ⅱ課にですか…」

 

 「先日、丸手が来てその話をね」

 

 真戸は先日見舞いに来た、捜査Ⅱ課所属の特等捜査官である丸手から、Ⅱ課への異動の誘いを受けていた。

 

 

 

 

 篠原に真戸の今後を聞かされた丸手は、まず耳を疑った。過去、結果的に自分の指揮により、真戸は最愛の妻を失っている。その時の真戸の様子を、そしてその後の真戸を見てきた彼にとって信じられない話だった。死ぬその時までグールを狩り続けると本気で思っていた。そのため、篠原が冗談を言ったか、もしくは真戸が拗らせすぎて、ついに頭をヤってしまったのかと心配までしたほどだ。

 その理由も理由だった。一番の理由が娘に懇願されたからと、ふざけているのかと思った。だが、本人の意思は固いらしく、その上篠原まで賛成している始末だった。

 この忙しく、人手不足の時に引退?そんなもんできるなら俺がしたい。

 最近は、あるグール集団が怪しい動きを見せており、今後更に人手不足になる予想をすることは容易かった。丸手の立場からしても、真戸の引退など認めるわけにはいかなかった。

 どうにかできないかと考えた。そして、丸手は思いついた。あいつ、あれでまだ上等だった…じゃあ、俺の下に就けるのはどうか、と。Ⅱ課ならばそれも可能だ。真戸も前ほどグールの相手をすることもないだろうし、俺の負担が減ってその分他に気を回せる。能力的にも問題はない。真戸ならばすぐにこちらの仕事にも慣れるだろう。…その気になればだが。

 指揮をする立場としては、戦力になる真戸の前線からの離脱は痛いと考えていた。丸手はクインケは好きではないが、使えることは理解している。それでも、嫌いなものは嫌いだった。だが、真戸のクインケマニアとも呼ばれる真戸が現場を退く意志があるということは……つまり、そういうことだと思いたい。もう、クインケに以前のような執着はないのだろう。篠原からは、人が変わったようになっていることを聞いている。……俺とも上手くやれるかもしれない。まあ、まずは、真戸に会ってからだ。

 

 

 

 

 「……と、おそらく丸手はこのように考えて話を持ちかけてきたのだと思う。篠原には、丸手に私のことを話すように頼んでいたからね。まだ保留にしておいたが、丸手は上機嫌で帰っていったよ」

 

 「で…では」

 

 「勿論、私はその話を受けるつもりだ。今後、現場を共にすることもあるだろう。その時は、よろしく頼むよ亜門君」

 

 「はい、よろしくお願いします!」

 

 亜門に不満はなかった。真戸ならば大丈夫だと思った。何より、また真戸と仕事ができるかもしれないことが嬉しかった。

 

 

 「とうさん。あの件はいいのか」

 

 「ああ、話そうか。あのグールについてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ…」

 

 病院から出た亜門は、小さく一息をついた。この一週間、自身も捜査を続けていたが、真戸にはまだ敵わないと実感していた。その着眼点から、入院中も考察をしていたことなどと、頭が下がる思いだった。

 

 「笛口の件とも関係性がある、か……」

 

 思案するような表情で亜門は呟やく。そんな亜門に後ろから声がかかった。

 

 

 

 「お待たせしました。パスタでいいですか」

 

 後ろから追いついた暁が亜門の隣に並んだ。

 

 「あ、ああ」

 

 

 亜門はこれから暁と昼食を共にすることになっていた。女性と二人きりで食事をすることなど、いつぶりだろうか…。今はもう会うことの出来ない一人の同僚だった女性が頭に浮ぶ。

 

 「ん?パスタは苦手でしたか」

 

 「あ、いやすまない。少し考え事をしていた。好物だ。苦手なものは……」

 

 「辛いもの。では、行きましょうか。近くにパスタの美味しいレストランがあります」

 

 

 「あ……。なぜ知っているんだ…」

 

 先を歩く暁を眺めながら、亜門は何だか釈然としないといった風に呟く。が、すぐに犯人が真戸であるとわかった。そして、以前に辛口カレーを食べさせられたことを思い出す。真戸からすればそれほど辛くないため、亜門でも大丈夫だと思ったから勧めた……だったか。

 退院したら、真戸さんも食事に誘ってみようか。そう考えながら、亜門は暁に追い付くべく足を急がせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




削ったところが多い……


暁さんはデレています。真戸さん(父)に。



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