コスプレして酒を飲んでいたら大変な事になりました。 作:マイケル
突然だが、最近いい事があった。
コスプレ同好会『クロノス』が出来たのだ。
まあ、メンバーは俺と中二なエスデス以外では強面なエスデスの犬になったチンピラやゴロツキ達で構成されている為、とてもコスプレ同好会には見えないのだが……。
エスデスに彼らを紹介された時は驚いたね。
まさかあの強面たちにも、そんな趣味があったとは……。
ちなみにメンバーは同好会の会長である俺の好きな『ブラックキャット』の世界観を貫くようだ。
エスデス曰く、彼等はナンバーズではなく構成員でいいらしい。
まあ、俺もむさくるしいおっさんをナンバーズにしたいとは思わないが本人のやる気次第ではいいと思っている。
しかし、役割のないただの構成員では少し可哀想なので情報収集役を与えてあげた。
遊びの中で世間の情報を知れる、これぞ一石二鳥だ。
それになんと!!情報収集の役がよほど気に入ったのか店に来なくなり
代表として一人の男…ロドニーがチンピラ達のまとめ役になって情報を提供してくれるようになったのだ。
彼から教えてもらう情報は中々に凄い。
役になりきっているとしか思えないレベルだ。
例えば、地方の人間を誘い込み拷問に掛ける変態貴族にスラムの子供達を殺して遊ぶ貴族から始まり、冤罪を作る警備隊長。
どこのゴシップ誌かは知らないが黒い話を収拾してくる……。
あと、同好会『クロノス』に入ったばかりのロドニーは『クロノス』について聞いてきた事があったので、世界を安定させるために邪魔な奴を排除する組織と設定について話したのだが、仕事中だったし片手間で話をしていたからよく覚えてない。
たしか…排除したらどうするのか?と質問されたので前世の日本のようにすればいいのではないかと思い、市民平等とか選挙制度的な事を語ったら、何やらやる気を出して店を出て行った気がする。
やる気を出していたみたいだし、よほど設定が気に入ったんだな。
最近だと、南に要塞を築き上げたとか、帝国の将軍クラスの人間が仲間になったとか次から次へと妄想を口にするし……。
いろいろと大丈夫かな?あのおっさんは……。
☆☆☆
帝国の遥か南のとある土地に出来た要塞
ロドニー視点
帝都と要塞の中間地点にある村の宿屋で資料の整理をしていると、とても興奮してくる。
勿論、俺に怪しい性癖があるわけではない。
今、俺が見ているのは組織の中でトップシークレットの資料。
構成員のリストである。
やべぇよ!超やべぇよ!!
俺の時代がやって来たんじゃね!?
帝都の税が重くなったり、治安が悪くなる度に小規模だった『クロノス』に帝国を離反した優秀な人間や帝都を潰したいと思っている連中が『クロノス』の思想の元に集まってきて大規模な組織になりつつある。
そんな大組織の幹部『ナンバーズ』エスデス様とリーダーで本名不明のジョニー様に資料と情報を届けるパイプ役となった俺!!
ー現在の俺の地位ー
リーダ>ナンバーズ>>>>俺>>情報収集および戦闘員
要塞から帝都まで往復するのは大変だが、美味しいポジションじゃね!!?
でも大きくなるにつれてヤバイ情報も入ってくる。
構成員リストとは別に運んでいる資料に目を通す。
クリード=ディスケンス
ブドー大将軍と双璧をなす、若くして帝国最強の将軍になった帝具使いの男。
しかも殺しに美学を求める変態野郎で奴とその部下に蹂躙された町は悲惨な光景しか
残っていないという……。
まあ、おかげで『クロノス』の存在を知ったナジェンダ将軍みたいな優秀な
将軍や兵達が離反してくれるんだけどな!!
今まで地道に地方の民の血税で私腹を肥やす豚共を排除し、重税に苦しむ村を救ったり
していたが……。←ロドニーはやってない
今度ファーム村で合流する事になっている帝具使いであるナジェンダ将軍が『クロノス』に
入ってくれれば、もっと大きなことが出来るぜ!!
まったく、チンピラだった俺や他の奴等もいつの間にか正義の味方だな。
一度…ジョニー様からクロノスについて聞いたことがある
クロノスは世界を安定させるためにゴミを排除する組織だと。
そして、帝国を倒したらどうするのかと質問したら、あの人は言った。
貴族社会を潰し、市民平等な国にし、民主主義の国にする。
などなど。
俺は思ったね、クロノスに居れば…この人に付いて行けば…俺達チンピラでも
世の中の役に立ち、革命だって起こせるのだと……。
やってやるぜ!!
「大変だ!!ロドニーさん!!」
「!?」
俺が部屋の窓を眺めてやる気を出していると俺の護衛として付いてきた一人の構成員が大きな声で俺を呼んだ。
一体何があったのか?
部屋に入って護衛と話をするために資料を鞄にしまった俺は、扉の方を振り返って報告にきた護衛の表情を見る。
護衛の表情は青くなっており、尋常じゃない事が起きたと予想できる。
「さっき緊急の伝令が来て、ナジェンダ将軍と合流するファーム山に……クリードが…クリード=ディスケンスが部下を率いて向かってるそうです!!
要塞のメンバーが合流に向かわせた者たちに早急にナジェンダ将軍の元へ合流するようにと連絡したらしいのですが……」
「マジか!?」
やばい!かなりやばいぞ!!
クリードの部下は少数だが全員が帝具使いだ!
下手するとナジェンダ将軍が殺される上に彼女が持つ帝具『パンプキン』も
クリードの奴に奪われてしまう可能性がある!!
早くお二人に知らせないと!!
俺は荷物をまとめて護衛達と共に帝都へと向かった。
☆☆☆
クリード視点
あの事件から僕は彼を探しに探した。
そうしてようやく彼に繋がる情報を手に入れた……。
革命軍『クロノス』とかいう有象無象のゴミの中に数字を刻まれた
男女が居ると……。
そして僕は運がいいことにナジェンダの裏切り、革命軍と合流する事を
知った。
つまりだ…彼女を殺すついでに革命軍の雑魚どもを尋問して
彼について聞くことが出来れば………。
「フハ、フハハハハハハハ!!」
ようやく!ようやく会うことが出来る!!
僕は部下を引き連れナジェンダの向かったファーム山へと進軍を開始した。
……………
………
…
「…帝国を裏切るだなんて残念だよナジェンダ」
「……っくそ!!」
『クロノス』と合流する前に彼女の軍と接触した僕達は蹂躙という名の戦闘を開始した。
しかし、つまらない。
彼女のパンプキンの攻撃による弾幕も、彼女を救おうと向かって来るゴミ達も…
簡単に斬れてしまって、本当につまらない。
「もういいや。さっさと君を殺して目的の人物を探す事にするよ」
僕が彼女の首を飛ばそうと虚鉄振るう。
しかし……
「へぇ、驚いた。そんな風に僕の虚鉄を避けるなんて……」
僕の虚鉄は精神エネルギーによって不可視の刀身を作り上げる帝具。
それを避けるために自身の右腕を犠牲にして避けるなんて……。
さすがナジェンダだ。
他のゴミとは違う。
「将軍!!!革命軍の奴等が来ました」
………。
砂塵の規模から考えると数が意外と多い……対してこちらはナジェンダと帝具持ちのせいで数を大分減らしてしまった。
…今回は諦めるか。
「退却だ」
少し待ち人と会うのは遅くなるかも知れないけど……。
ナジェンダが面白いものを見せてくれたお礼だ。
今回は見逃してあげるよ。
主人公視点
最近、帝都の治安が本気で悪くなってきた。
経済は下落し、物価の上昇と共に上がる税金。
さらには取り締まるべきものを取り締まらない警備隊。
俺達の生活が苦しくなってくる中、店にも影響が出てきた。
売り上げはロドニーがエスデスに大金を貢いでくれるので黒字で客が少なくなっても
大丈夫なのだが…問題は材料を買っていた店だ。
この不景気でどんどん潰れたり、まだそこまで税金を取られない場所に移動する
などで、買出しが辛くなってきた。
今では西の町まで材料の買い物に来ている。
俺も引っ越そうかな……。
そんな事を考えながら材料を購入していると広場で何やら人の集まりが見える。
何かあったのか?
人だかりが気になった俺は、買い物袋を片手に人ごみへと向かう。
すると……。
「異民族は出てけ!!」
「ピンクの髪が目障りなんだよ!!」
人ごみを掻き分けて進むと中央で男達が一人の少女に対して罵声とトマトを投擲している。
異民族…日本で言う中○人のような存在で『帝国の領土は我々の物』と主張し、
力のない村々にいやがらせや犯罪行為をする帝国の目の上にあるタンコブのような
ものだ。
確かに帝国の人間は異民族に対して印象は良くない。
しかし、ここまで酷いのは初めて見た。
おそらく、生活が苦しくなった今、少しでも鬱憤を晴らそうとしているのだろう。
気持ちは分からなくないが、何もしていない子供に対してするような事ではない。
よし!!
肉に香りをつける為に購入した酒を袋から取り出した俺は、気合を入れるために
一気に酒を飲んだ。
☆☆☆
マイン視点
西の国境近くで生まれた私。
つい最近家族を亡くし、帝国の町を当てもなくふらついていた。
しばらくふらついていると、異民族とのハーフである私に気が付いた男達が
罵声とトマトを投げつけてきた。
他の大人たちもこの状況を見て、誰一人私を助けようとはしない。
そんな状況に一種の諦めを感じていた時、一人の男が私を庇うようにして
目の前に現れた。
「おいおい、兄ちゃん。空気読めよ……今異民族のカスどもを追い出そうとしてんのに」
「そーだぞ!帝国の領土は帝国の物なんだぞ!!」
男達の抗議と主張を聞いた男は腰から一丁の銃を引き抜き、男達に向けて発砲。
ダァン!という大きな銃声があたりを支配する。
「息を引き取るか……ここを引き取るか選びな」
男がそう言うと、私にトマトを投げていた一人の男のズボンがズリ落ちて
汚いパンツが公衆の面前に晒された。
「「こ、ここを引き取らせてもらいますぅぅうううう!!」」
ベルトを打ち抜かれたことに気づいた男達はみるみると顔を青ざめ、
泣きながら去っていった。
「付いてきたければ付いて来い」
逃げて行った男達に眼もくれず私に一言呟いた男は拳銃を腰に差して、ゆっくりと
歩き出した。
私は……。
思い出すこれまでの惨めな生活。
彼の元に行けばその生活を脱出し、命を繋ぐ事はできるだろう。
しかし、危険な生活になる事を私は感じていた。
それでも私は自分の未来をつかみ取る為に、彼の後ろを付いて行った。
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