REBORN DIARIO 作:とうこ
「いいか、てめーら!!」
深夜の校内の一端で、獄寺隼人の啖呵が高らかに響き渡る。
「何が何でも勝つぜ!!」
「戦うのはヒバリだぜ」
「お前がいきりたってどーするのだ?」
「ぐっ、んなこたわーってんだよ!」
同級生や上級生からことごとく論破され、口を吃りながら獄寺隼人は苦し紛れに続けた。
「十代目は俺らを信頼して留守にしてんだ。俺らの目の前で黒星を喫するわけにはいかねーだろーが!!」
これだけ彼らが熱くなるのも、この日は大事な
日の出の前から仲良く揃って跳ね馬のもとに行ったのも、雲雀が勝たなければいけないからだ。獄寺はまだ不服だったが、この結末にすべてが委ねられている状況だ。自分達が直接手を出せないことがもどかしかったが、ここを空けている人の分も今日の戦いを見届けなければという彼なりの使命感を背負っていた。そしていざという時は、自慢の爆発で木っ端微塵にしてやる算段だ。
しかし自称右腕の高い志も、残りの二人にはさっぱり理解してもらえず、せっかくの熱が空回りしてしまうのだった。こんな時でもいつもの日常の光景が繰り広げられる。
「今日の主役の登場だぜ」
本番の時間が迫る頃になると、昼間と変わらず学ランを羽織った雲雀恭弥が姿を見せた。会場となる並盛中学校の猛者。
彼がどんな思いで、この戦いに挑むつもりかは彼らの知るところではなかった。少人数で群れていたら目障りだとあしらわれてしまう始末。
この傍若無人の男に自分達が命を削って戦い抜いた結果のすべてが委ねられていると思うと、言い知れない不安が襲う。
「そうか……あれを……咬み殺せばいいんだ」
不意に視線を外した先に、でかい図体が憚った。ゴーラ・モスカ。煙を噴き出しながら近づく堅物に、彼の眼つきが俄かに変わった。
今の雲雀恭弥は、どれくらい強くなっているのか――。
場所を移し、有刺鉄線で張り巡らされたグラウンドに足をつける。異様な空気が立ち込めているのが肌で感じられる。
クラウドグラウンド。
有刺鉄線の境界の内側には、ガドリングや隠されたトラップがあらゆるところに仕掛けられている。これこそが雲の守護者の使命を体現していると、チェルベッロの女が宣言した。
彼らがいる場所から離れたグラウンドには、既にヴァリアーの顔触れが待ち構えていた。XANXUSという男の顔もそこにはあった。
雷戦以降姿をくらましていた男に、警戒を張る。あの娘の顔もしばらく見ていないというのに。
山本武はふとまたその人のことを思い出して、顔色を曇らせるのだった。
彼らが今後の雲戦の行方に不安を募らせる頃に、遠くでは沢田綱吉が修業を完成させるために血を流し、イタリアの本部では多くの犠牲を生み出している。
全貌を知ることはなくとも、事態の重大性は彼らにも伝わっているはずだ。
「ハッ。モスカはてめーらが吠え面かいて逃げねえように寄越したまでだ」
XANXUSが吐き捨てた言葉を合図に、モスカが暗闇の方へ引き下がる。その異様な行動を疑う彼らに、足音を忍ばせる。
やがて雲が晴れ、月明かりが影を照らす。この暗闇に紛れて潜んでいた人物の姿が露わになろうとする。沈黙していた時間が終わろうとする。
ここで腹を括るしかない。後悔しないようにやると、この日を迎えたのだから。
「並中風紀委員長の威厳とやらを見せてもらおう。雲雀恭弥」
壊れたマリオネットのように、幼き頃からこの身に宿されたシナリオに精々躍らされてやろうじゃないか。
彼の怒りが世界を滅ぼす前に、やり遂げてやる――。
【十月二十四日
ヴァリアーの隊服に身を包み、雲雀恭弥とこの日初めて対峙することとなった。
こんな状況だろうと、あの化物は薄ら笑いを浮かべて、こちらの調子を狂わせる。彼まで伊波紫乃に執着していたのか。馬鹿馬鹿しい。
だけど、彼らからどれほど嫌悪されようが別に構わなかったはずなのに、この足が震えてしまった。】