REBORN DIARIO 作:とうこ
【七月六日
七月に入った。イタリアからアイツがやって来て、沢田綱吉の周りは騒がしくなった。山本武の自殺の件があった後は笹川京子と以前より親しくなった部分があり、私が把握していないところでも忠実に進んでいるようだ。
そして、この日は数日ぶりに進展するのをこの目で見ることになる。】
今朝、紫乃が通学路を登校すると、偶然前方に山本武と仲良く歩く沢田綱吉がいた。肩を小突かれている。
仲睦まじい光景を後ろから見守るが、別の場所で見ている自称沢田綱吉の右腕はこのことに今朝から激おこプンプン丸状態だろう。あの短気ならムカ着火ファイヤーしているかもしれない。
ふざけているわけではないが、紫乃の思う通りリボーンの横でギシギシと歯を軋ませる獄寺隼人がいた。あんななよなよしたのがファミリーに入るのかと憤慨していたが、リボーンはそれよりも彼らの後方を歩く彼女に注目していた。……はずだが途中から意識がなかった。
寝てる……と獄寺隼人の心のツッコミが入っていた。
登校して間もない休み時間にも、山本武の入ファミリー試験が執り行われた。校庭の一角で山本武と獄寺隼人が火花を散らしている……正確には獄寺隼人の一方的だが、山本武もあれで負けん気が強いからな。
紫乃はまた人気のない校舎の眺めのいい三階通路を選んで傍観していた。
残念ながら距離の関係で彼らの会話は聞けないが、予定通り試験という名目のドンパチが始まった。ここなら被害もなく高みの見物ができるので紫乃はしたり顔だ。
しかし、想像以上に激しい攻撃にまだ出番ではない風紀委員がすっ飛んでくるのではとハラハラもする一方だ。あくまで彼女は傍観に徹しているのでそれはないと信じたい。
「ガハハハハ! リボーン見ーーっけ!!」
沢田綱吉らへの攻撃が過激になるその最中に子供の声がした。学校の校庭には似つかわしくないその声の主は、紫乃が見守る校舎に併設された非常階段の手摺に立っていた。
手本のように見事なほど登場がから回りしているが、仔牛の登場に紫乃は満足していた。事は上手く回っていると確かめられたからだ。
校庭の沢田綱吉からはうざいのが出たと虐げられているが、本人は全く気づかずあの殺し屋に自分をアピールしている。
すぐにガン無視されたが。
ガ、マ、ン……と自分を慰めている仔牛に苦笑する紫乃は、窓際で肘をついてその後の経過を見守っていた。
寂しさのあまりミサイルランチャーまで取り出した仔牛に五歳でどんな風にヤンデレを拗らせたのかと心配にもなるが、校庭での銃乱射劇がさらに加速している。
ついにフィナーレだと言うように獄寺隼人がダイナマイトを取り出した。さらには非常階段から狼煙が上がり、そこにいた仔牛が牛柄のシャツの青年へと変貌していた。
……10年バズーカ。そして思いのほか10年野郎もノリノリである。やはりマフィアの血が通っているわけか。
仕上げの集中攻撃を喰らい、校庭が大破した。
ちょっとやり過ぎだ。風紀委員が飛んでこないか心配する。
間一髪で二人が生還するが、心臓に悪い。もしここでズレていたら何もかも終わりだった。
深い息を落として、校庭で和気藹々と語る彼らの様子を傍から見守る。ふと横に視線を逸らせば、非常階段に一人取り残された大人ランボが少し気の毒そうだ。あと数分で帰れるだろうから堪えろ。
……なんて事後に気を抜いていたら、パチッと大人ランボの片方開いた目と目が合ってしまった。
ドキッとしたが、その直後煙に巻かれ仔牛の姿に戻ったランボがわけがわからないようにしていたので、安堵の息を漏らした。その後は少し考え込みながら、非常階段とは反対の方向に退避していった。
【山本武と沢田綱吉が無事に生還した。
ひとつ気になるとすれば、10年後ランボのことだが……問題ないだろう。少し様子を見ながら監視を続行する。】
命からがら爆発から生還した沢田綱吉は、二人の意地の張り合いを止める気力もなく成り行きにまかせることにした。
ふと、校庭から晴れ空に聳える白い校舎の一角に、人影を見つける。
非常階段の方向を睨むその女子生徒の姿を……。
――――い、伊波さん……?
沢田綱吉が動揺している間に、伊波紫乃は校舎の奥へと消えていった。