REBORN DIARIO 作:とうこ
【十月二十二日
今晩は、彼の対決だ。
彼と初めて会話を交わした並盛の河原に足を向けた。私には、彼の戦いを見届ける資格がないと思っていた。土砂降りの雨の日に、彼を殴った衝撃が、今もこの手に残る。】
その晩は、まるで人気のない穏やかな河原の夜景が水面に反射していた。
並盛中学校の敷地内では雨の守護者の対決が始まろうとしている頃に、紫乃がちょうどそこにやって来ると、突然として人の気配を察知する。
紫乃をここに呼び出した人物が、臆面もなく月光の下にその姿をさらして、彼女との接触を図る。
こんな夜に呼び出しを食らうはめになった紫乃は、苛立ちが起こる感情を隠さず口に吐き出した。
「私に何の用だ」
その兄譲りの目つきの悪い目に睨まれ、相手はそれに怯むどころか、学校の外でも通常運転を崩さず、機械的に彼女に話を切り出した。
「今晩の対決には、貴方様に特別席を用意しております」
チェルベッロ機関の女が、紫乃の目を覗き込むように見つめて告げた。実際には仮面の下に素顔が隠れているので、目が合うのか怪しいところだが、紫乃はその女の話を一通り耳に入れることにした。
「XANXUS様から暗殺部隊幹部としての実力を認められた貴女様には、ボンゴレリングの行方を賭けたこの一連の戦いを見届ける資格があります。これはXANXUS様のご意向でもあります」
女はそう説明し、つまるところ紫乃に今晩の戦いに出向くことを強要した。
どうして、何故、今になってチェルベッロが、このリング争奪戦に関与させたがるのか、紫乃にはその魂胆がわからない。
観覧ブースを設けるほどの厳戒態勢を敷いているのだ。兄のように、この戦いを妨害する可能性のある彼女を招き入れることは、彼女達にとってどんな利益があるんだ。
「私どもも、貴女様の身の上の都合は理解しております。ですので、このような特別な措置をお取りしました」
「……」
彼女達は、何を知っているというのだ。
まさか、あの日のこと、あの人のことを、彼女達は既に調べがついている。そう言いたいのか――。
その口を今すぐに塞いでやりたい衝動が、紫乃の内側に渦を巻く。こんな自分は、所詮あの男の妹なのか。
彼の顔を思い出すと、彼女達に突発的に湧いた怒りも殺意も、サッと水に流されるように引いた。彼のようになってはならないと、あの炎の記憶を思い浮かべる。
「今回の雨の対決の
女がフィールドの説明を始めると、紫乃の目の前に広がる河原の景色に、忽然と液晶画面のようなものが浮かび上がる。未来の技術だろうか。液晶画面には、並盛中の校舎が映し出される。
紫乃は、終始彼女達の説明に耳を傾けるだけだった。
ここに来たからには、ある程度覚悟して来た。彼らの英姿を、ここから見届けるくらいなら、自分にもできるから。
こんな自分は、やっぱり卑怯者だと紫乃はこぼした。
『伊波、見てるか?』
液晶に映るあの男の顔が、自分を探していた。満身創痍で、ボロボロになりながら、その人は立ち上がる。
こんな時も、人のことを気にしている場合じゃないだろう。
「馬鹿」
彼とここで初めて話した時の景色を、今も憶えている。悲しい記憶を塗りつぶして埋めてくれるように、それは輝かしいものだった。
すべてはここから始まって、間違えた。