REBORN DIARIO 作:とうこ
暗い空から落ちた雷が避雷針を巡回して、そばにある仕掛けに夢中になっていたランボに感電した。
誰もが息を飲んだ。あんな衝撃的な雷にあてられたらひとたまりもない。ランボの身を案じて、沢田綱吉達はランボが雷に打たれた場所から目が離せなかった。全身から血の気が引いた。
チェルベッロ機関が、ランボの生死の確認をしようとする。まさか、本当に……。
「いだああああああい゛ぃ〜〜!!」
すると視界の悪い雨の中、ランボの泣き喚く声が彼らのいる屋外全体に響いた。紫乃がいる校舎の屋上まで、それが聞こえてくる。
呆れながらホッと胸を撫で下ろす。
「幼少の頃、繰り返し雷撃を受けることで稀に起こる体質変異――
沢田綱吉達のもとにいる赤ん坊が、そう語る。紫乃にも思い当たるその内容を耳に入れた。
発達期に特定の衝撃を繰り返し与えることで、その衝撃に耐性が生まれることがある。しかし、全てにおいて成功するわけではない。並外れた資質と、体質との相性が重要である。
これが、暗殺に命を懸ける男の嫉妬に触れる。この世に生きることの生き甲斐を、あの男に一心に捧げる不器用な男。
自分よりも雷の守護者に相応しい子供がいたならば、その忠誠心はすぐさま嫉妬に怒り狂うだろう。
男は狂ったように攻撃の手を加える。その武器で、子供の身体を何度も地面に叩きつける。見ていられない光景だった。
しかし、勝負の邪魔をすれば、失格となってしまう。リングを二つも失うことになるのだ。誰も動くことができなかった。
泣き喚くランボは、どさくさに紛れて10年後バズーカを取り出す。躊躇うこともなくそれを自らに向け引き金を引くと、その姿は煙に巻かれる。沢田綱吉の制止もままならず、煙が晴れた場所には、10年後から強制召喚された大人ランボが現れた。
これが最後の晩餐かと悲観しながらそいつは餃子を口に運んだ。こんな調子だが、10年分の歳月を積めば幹部の男といい勝負をしてくれるかと期待もしたくなる。
大人ランボの勝気な発言に、涙ぐみながら彼を応援する沢田綱吉。だが、その期待も徐々に薄れていく。
最初こそ調子を上げていったが、相手の電撃に10年分の年月では耐えきれず、泣き崩れる。結局はあのランボのままだ。情けない。
逃げることも忘れて泣いている大人ランボに、沢田綱吉達が逃げろと催促する。しかし、標的を逃すまいと敵の槍が大人ランボの肩を射抜く。痛みにさらにぐずる。これじゃ悪循環だ。
そこでこの現状を変えたのは、子供のランボが置いていった10年後バズーカだった。大人ランボがどさくさの中でそれを手に取り、自身に引き金を引く。
周囲が唖然とする中、煙が晴れてそこに現れたのは、端切れの布を繋ぎ合わせた少し古臭い服装に身を包んだ20年後のランボだ。さらに10年分の年季が入って、どっしりとした威圧感を纏っている。
沢田綱吉達は、ランボの20年後の落ち着いた物腰を目の当たりにして、言葉も出ないようだ。
彼らがそんなことをしている間に、彼らに気づかれず目尻の涙を拭った青年は、静かな闘士を燃やして自身に殺気を向ける男を睨んだ。年季が入ったその殺気を向けられても、幹部の男は怯まず追撃の手を入る。
空中に7つの
「ランボォォッ!」
普通の人であるならひとたまりもない電撃を身体に浴びたのだ。生きているのが絶望的な状況で、沢田綱吉は必死にその名前を叫んだ。
だが、返事をする声はない。
「奴は焦げ死んだ」
満足気にその男は背中を向ける。この光景を、自身のボスにも是非見てもらいたかったと。もしあの男が見ていたら、彼らを嘲笑うのかと、紫乃は思わず目を伏せた。
「やれやれ。どこへ行く?」
電撃の荒波の中から飛び出した声に、傍観者達の目が見開いた。そこから無傷の男が再び姿を見せると、全身に受けた電撃を地面に受け流した。一気に電流が重厚な校舎の壁を駆け抜け、その強烈な電流に耐えきれず窓ガラスが割れた。
「電気は俺にとっちゃ仔猫ちゃんみたいなもんだ。わかるかい? 俺は完璧な電撃皮膚を完成させている」
20年後のランボが放ったその発言が、観覧席をざわつかせる。
20年の年月をかけて、電撃皮膚の技が完成したのだ。気の遠くなるような年月を感じた。それはまさにファミリーへの雷撃を引き受ける避雷針のようであった。
20年後のランボに感心している間に、どこからともなく門外顧問の姿が屋上にある。一昨日の襲撃以来の顔触れだ。
その男の顔を、紫乃はじとりと観察した。
雷のリングを賭けた戦いも局面だ。
沢田家光が預けた角が巡り巡って20年後のランボの手に渡ると、それを装着したランボの
リーチの弱点をものともしない磨き抜かれた大技を喰らい、慢心を貼り付けていたレヴィ・ア・タンの顔つきは大きく歪む。こんな局面まで、あの男の名前を叫んで懇願している。
「剣を引け……これ以上やるとお前の命が……」
そこまで男が言いかけて、突然その姿が煙に巻かれた。
あれから五分が経ち、20年後のランボが受けていた電撃を子供ランボが受けることとなってしまった。
倒れてその場から動かないランボを、沢田綱吉が懸命に起こそうと声を上げるが、届かない。一歩でも、彼らがエレットゥリコ・サーキットに足を踏み入れれば、失格となってしまう。
「電撃皮膚がどうした。消えろ!」
全身が焼け焦げた男の容赦無い足が、幼いランボを踏みつける。まだあんなに小さな子供だ。紫乃だって、見ていられない。
なのに、彼らの運命を変えられないと、感覚のない足が震えて、動くことができない。
雨雲の下の虚空に突き出した槍に電撃が絡みつき、彼の息の根を止めるトドメの一撃へと変貌する。
ボンゴレ達も息を呑む展開の中、紫乃はギリギリまで迷う。今、飛び出さなければ、取り返しがつかなくなるかもしれない。
「死ね」
一撃が振り下ろされる。
すると雨の視界を、柔らかなオレンジ色を帯びた炎が照らした。
その光の筋が紫乃の視界を掠めると、けたたましい轟音とともにエレットゥリコ・サーキットの全体が揺れ、高く建てられた避雷針が中心に向かって倒れた。その芯が、熱を帯びている。
「目の前で大事な仲間を失ったら……死んでも死にきれねえ」
目の前の事態を飲み込めない観衆に、一人の少年の姿が注目を浴びる。煙がやがて晴れると、その姿は鮮明に捉えられる。
額とその拳には、ボンゴレを象徴する炎とグローブを嵌めている。
今、大空が、覚醒しようとしている。