REBORN DIARIO 作:とうこ
学校の屋上で聞かされた笹川了平の話に、不安の色を隠せない沢田綱吉の胸の内など構うはずもなく一日を照らした日はやがて暮れ、空もすっかり暗くなる。約束の時間がやって来る。
夜の並盛中学校の敷居に赴いた並盛の面々は、誰も寄りつかないような夜更けの校舎の雰囲気に圧倒された。本当に誰もいないのかと辺りを見渡てみると、彼らの頭上の校舎からチェルベッロ機関と名乗る女の声が響いた。彼女達の後方には、敵の姿もある。
女達が前置きを終えた後に、屋上から今晩の対戦カードが切られた。初戦の対決の組み合わせは、笹川了平とヴァリアー幹部の一人のルッスーリアという男。刈り込んだ頭に、赤く染めたヘアスタイルとサングラスが敵陣の中でも異彩を放っている。
次に対決するステージが公開され、審判役のチェルベッロ機関から淡々と説明を受ける。ついに始まるのかと、不安は膨張して、沢田綱吉は断腸の思いでその場に蹲る。その辺に寝っ転がって寝ている牛の奴が羨ましいばかりだ。
「ねえ、ボスまだかしら?私の晴れ舞台だっていうのに〜」
「欠席みたいだね」
「あの男が他人の戦いに興味あるわきゃねえ……」
敵陣では、昨晩見たあの髪飾りの男の姿がないことに肩を落として愚痴をこぼしていた。沢田綱吉も去り際に男から睨まれたことが軽くトラウマで、あの男が出席しないと聞いて胸を撫で下ろした。
「あいつは来てないのか」
「あいつって、おじょーのこと?」
敵陣を見渡して彼女の姿が見当たらないと、山本武が思わずこぼした独り言を拾って、ベルフェゴールという男が口を挟んだ。異国人風のブロンドに王冠を乗せ、白い歯をニカッと見せた。
「来てねーよ。顔も見たくねえ奴がいるんじゃねーの」
ししし、と無邪気に振る舞いながら、山本武が動揺している様を明らかに楽しんでいた。
「あの野郎、なんかいけ好かねえぜ」とのちに対戦相手となるいけ好かない男を、彼の隣で睨む獄寺隼人だったが、山本武にすかさず牽制される。そいつは何でもないように、笑っているのだ。
獄寺隼人はそれ以上強く主張もできず、彼らとともに晴のリングのステージへと近づいていった。
そんなことはない。
自身の胸の内にその台詞を押しとどめ、ヴァリアーの黒服に身を包んだ紫乃は、屋上の一角から見下ろしていた。
そこから晴の舞台も、彼らが円陣を組む様子もよく見えた。まさかあの円陣を組む彼らを、上から拝む形になるとは。
一部の温度差があまりにも激しくて、紫乃も思わず声を堪えられずにいた。
あの時はモスカの後ろに隠れて難を逃れようとしたが、君達にああ言うしかなかったことを、紫乃は今も気に病んでいた。
まもなく晴の勝負が始まる。今はまだここで勝負の行方を見守ってやることくらいしか、紫乃が彼らにしてやれることはなかったが、最後まで見届ける覚悟だ。
明日にも守護者の戦いが控えている。
そして、あの男が必ず現れる。
固唾を飲んで、その目で今晩の勝敗の行方を見守った。
【十月十九日
晴の対決、笹川了平が白星をあげる。
初戦の晴のリングは、ボンゴレ側が征した。あの逆境が立ち憚る中、彼はよくやってくれた。やはり妹の存在は大きかった。
大空の戦いに全てがかかっているとはいえど、流れを掴むにはそれを崩すべきではない。何よりも、誰一人、失うわけにはいかないんだ。
息を吐く暇もなく、明日には雷の守護者の対決が迫っている。君のボンゴレとしての器が試される。私も是非この目に焼き付けておこう。死んでも仲間を救うためだけに灯した、君の覚悟を。】