REBORN DIARIO   作:とうこ

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決戦の舞台袖

 ランチアが倒され、ついに六道骸との決戦へと向かう。

 

 重厚な建物へと消えていく彼らの背中を、ただ見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【沢田綱吉率いるボンゴレは、最終決戦へと向かう。昨日まで人を殴ることを知らなかった彼が、これから戦おうとしている。私には、彼の覚悟は偉大で。彼の覚悟は、いつも誰かを守るために灯される。

 

 この後悔と血みどろの手に、誰かを守る力はあるだろうか。】

 

 

 

 

 

 

 

 ランチアの解毒を終え、立ち上がる。床に倒れる柿本千種からくすねたものだ。紫乃が態々手を出すことでもないかもしれない。しかし、これくらいのことしかできない彼らへの詫びのつもりだ。

 

 

 ランチアのもとから立ち去ろうとした彼女の視界の端に、彼が過ぎる。ランチアの攻撃を受け、まだ意識が戻らない。木の幹に寄りかかり安静にする彼のもとに、なんとなく足が向いた。そいつの顔が窺える位置まで近寄り、しゃがみこんでいた。

 

 戦闘の跡が窺える傷だらけの顔を見つめ、その頬に、左の手を静かに添える。

 

 彼の温もり。吐息。鼓動。触れると、懐かしいと感じる。最後に触れたのは、水族館で彼と手を繋いだ時。

 

 

 

 ごめん。それを言うだけで、精一杯だった。意識のない彼にここで謝るくらいしか。

 自分は弱い人間だから、だけどもっと残酷な人間であるべきだった。この気持ちを肯定するべきではなかった。素直になるなんてやめておけばよかった。せめて、あなたの心までは傷つけずに済んだはずだ……。

 

 

 

 

 

 彼女の背後の物陰に潜む気配に、紫乃はその場から立ち上がる。そこに潜む猛獣を、これ以上刺激しないようにゆっくりと彼女は振り返る。

 

 

 

「お前、何者びょん……! 骸さんの攻撃が効かないなんてありえないびょん……!」

 

 

 物陰から吠える城島犬に、紫乃は視線を外さず相手の言い分を受け取る。あの男への深く植え付けられた忠誠心が窺えるな。

 攻撃してこないのは、彼の野性的本能だろう。己より圧倒的力量のある相手には、手を出すことはない。

 

 そして紫乃は、こんなことを言った。

 

 

 

 

「……教えてやろうか? 君が慕う男の幻術を、どう見破ったのか」

 

 

 ゴクリと、唾を飲み込む音が響く。大人しく話を聞くようだ。それを確認して、彼女は言葉を続ける。

 

 

 

「生物には、生まれながら、生きる環境に適応するための"耐性"がある。昔、知人の術師に頼んで鍛えてもらった。幻術への耐性だ。奴の幻術に対抗する術は、どうしても必要だった。その知人には、邪道だと揶揄されたがな」

 

 

 ひと通り語ったが、内容の半分もこの獣は理解できているかは定かではないが、あまりここに長居されても困る。彼にはまだ六道骸の駒としての重要な役割が任されてある。

 

 

 

「山本武が君を倒した後、ボンゴレは六道骸のもとへ向かった。中で獄寺隼人と柿本千種がタイマンをしている最中だ。そういえば、柿本千種にあそこまでの重傷を負わせたのは、あの爆弾男だったな」

 

 現状の話題に話を振れば、ピクリと紫乃に隠そうともしない反応が返ってくる。彼は今、逃げ出すタイミングを図っているだろう。

 

 

 

 

 

「消えろ」

 

 

 

 そう言ってやれば、一目散に建物へと逃げていく。それでいい。これで駒が揃っただろう。

 

 六道骸。欲望のままに暴れるがいい。君が幾度輪廻を巡ろうと、お前を倒すのは彼しかいない。

 

 

 

 

 

 青く澄んだ大空に黄昏ていた紫乃のもとに、炎の気配が近づく。禍々しい炎の空間が、そこに大穴を開くようにして現れた。

 

 

 


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