REBORN DIARIO   作:とうこ

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右腕を庇う理由

 沢田綱吉率いるボンゴレが正面突破を図った。悪臭が漂うので、ジャングルのように茂る木陰のひとつに潜んでいたが、酷く気分が悪くなった。

 

 仮に姿を見られても差し支えないよう、黒のフードを全身に羽織りボンゴレ達の動向を窺っていた。

 

 

 正門前を右往左往しているボンゴレ達のもとに、忍び寄る影が背後から迫る。既にドーピングを済ませた城島犬だろう。紫乃の方から視認はできなかったが、狙われている彼らの方はまだ敵の気配に気づいていない。

 

 そして沢田綱吉に付いてきた山本武が穴に落ち、城島犬と邂逅した。

 沢田綱吉の記憶にあった動植物園は長い年月で地中に埋まっていた。

 そこで獣の男と対面した山本武は、最初こそ本来の天然と能天気基質で城島犬を呆れさせていたが、刀を折られるやこれがただの遊びではないとようやく理解したようだ。

 

 

 

 

「マフィアごっこってのは、加減せずに相手をぶっ倒していいんだな。……そういうルールな」

 

 

 山本武のやる気が入ると、相手も自身の手の内を見せる。そして山本武に本格的に強襲を仕掛ける。

 山本武は咄嗟に右腕を庇っている。野球のためだ。自殺しようとしてまで向き合ってきた野球を、失うわけにはいかないだろう。

 

 

 そんな窮地に、割り込んだのが頭から落ちてきた沢田綱吉だ。全く情けない。城島犬に真っ先に目を付けられている。ここまで来て情けないぞ、ボンゴレ十代目。

 

 すると、山本武が獣の後頭部に石を投げつけた。

 振り返った城島犬に、こいつぶちあててゲームセットだ、と挑発している。

 まんまと挑発に乗った城島犬が、山本武の腕に噛み付く。そのまま身動きをとれない体勢で、男の側頭部に刀の柄を打ち込んでやった。

 

 

 その一部始終を紫乃は木陰から静かに見守る。城島犬は支障なく倒された。

 

 

 

 その後は、沢田綱吉が山本武に駆け寄り謝っていた。自分のせいで大事な腕を怪我させた……と酷く落ち込んでいる。

 山本武は、明るく笑って自虐的になる沢田綱吉を慰めていた。これだから情けない。ともあれ、第一ノルマはクリアだ。

 

 

 

 

「それに、野球を諦めるわけにはいかねーよ。あいつのこと、待っていてやんねーとな」

 

 

 

 

 そんな言葉に紫乃の気持ちは揺らぐ。

 

 

 あんなくだらない一方的な約束を、まだ憶えていたのか。

 彼女の方はすっかり忘れてしまっていたというのに、否、忘れようとしていた。忘れなければと、振り返らなかった。

 

 あの日、泣いても、泣いても、君の面影は消えなかった。

 

 

 

 

「誰だ」

 

 

 地上にいるリボーンの鋭い指摘に、紫乃は意識を振り戻す。ここで彼らに気づかれるわけにはいかなかった。

 

 

 

「小僧、敵か」

 

 

 あいつの声だ。こちらの気配を警戒していた。紫乃に気づくはずがない。

 

 

 

 

 そしてその場から彼女は既に退避していた。あの場にいた誰にも正体を知られず、彼女は鬱蒼とした木々の間を軽快に走り抜ける。

 

 

 あの不意打ちの言葉が今も頭を離れなかった。

 この気持ちは本物でも、約束は守れないだろう。彼の気持ちに、こんな不甲斐ない自分には応えられない。彼女には、最後までこの選択しかなかった。

 

 

 

 

 

 

「あの……バカっ……」

 

 


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