REBORN DIARIO 作:とうこ
雲雀恭弥を相手にするのも飽きたのか、起き上がった城島犬に階下の空き部屋に運ばせると、不気味なオッドアイの双眸が舞台袖にいる紫乃を睨む。
「その少年に随分と入り浸っているじゃありませんか」
マインドコントロールに罹ったフゥ太を見て、そいつが言った。そいつの表情に、これまでの罪の意識は一切ない。彼のような切り捨てる器でなければ、マフィア殲滅など謳わなかっただろう。
「ボンゴレの情報を手に入れられていない現状では、君が彼に手を出すこともない。彼は、私にとっても大切な人質だ。君が既に彼と契約し、マインドコントロールで私の隙を狙っているようだが、私の計画に支障を来すようなことがあれば、ボンゴレが君の手に堕ちる前に……わかっているだろうな」
マインドコントロールに関しても、こちらの情報が筒抜けなのか。どこまでも六道骸にとってやりにくい女だった。
この女の正体が気になるところだが……ここで口を割ることもなさそうだ。挑発したところで彼女の純血の眼に牽制されるのは容易に想像できた。
六道骸の方で、彼女に関する情報が何かないかと模索してみたが、十数年の長期に渡る監獄生活の中で、これといった有力な情報を得られるはずもなく、これだと思しきものも考え至らなかった。
ボンゴレを迎え撃つ前に、自身が冷静を欠いているのを自覚していた。眉間には珍しく皺が寄っている。あの女ごときに自身の計画を狂わされていると思うと、衝動的な怒りが襲った。
視界に入るのも不快だった。しかしマインドコントロールで探っても隙を見せないその女は、六道骸を前にして哀れみの表情を浮かべた。
「……君には、できることならこんな真似はしてほしくなかった」
そう上から物を言う女に、六道骸の機嫌は損なわれるばかりだ。しかし、自身が操られてはいけない。平穏を装い、六道骸らしく、薄笑いを刻む。
「クフフ、何故です? 神という男は、地上の者に平等に死を与えた。人に生きる権利があるなら、彼には僕の駒となりその若い生命を以て散らす権利がある。"契約"ですから」
どこまでも残酷になれるこの男だからこそ、沢田綱吉の霧の守護者は彼にしか務まらない。
誰よりもマフィアの闇を見てきた彼だからこそ、大人達の晒し者にされる中で死に物狂いに戦ったからこそ、その死を恐れない拳を彼とぶつけ合う価値がある。
ここまでのし上がった彼の過去の背景は紫乃も知るには至らないが、幼少の頃に傷を負った屈辱を知る者なら、過ちを繰り返すべきではなかった。紫乃も同じだ。それ以上は追及しなかった。
外から物音とともに、錆びた扉の隙間から何かが飛び出した。ボンゴレ狩りの途中に重傷を負った柿本千種が屋内の床に転がり込んできた。
ピクリとも動かない柿本千種を迎え入れ、クフフと彼が冷笑を浮かべる。徴発的な目を紫乃に向けた男が茶化すように告げる。
「僕が先にボンゴレを手に入れるか、あなたが僕を出し抜くか、すっかりわからなくなりましたね……」
彼女にも結果はわからない。彼女にもわからないことだらけだ。
けれど、やらなければならない。彼らを見捨てる選択なんて、彼女にはできなかった。あの人の死を、無駄にはできなかった。
君の気持ちが、痛いほどわかるんだ。
望まない権力、この身体に背負いきれない圧力、逃げ出したくなる。逃げても解放されるはずもない。
不幸にするくらいなら、この身体がボロボロになろうと戦ってやろうと決めたんだ。結局は、何の力にもなれずとも……。
君が、背負わなければダメなんだ、ボンゴレの性を、君を巻き込んでしまって、今でもすまないと思っている。
頼む。沢田綱吉。後悔させないでくれ。