REBORN DIARIO   作:とうこ

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校舎裏スラップスティック

【六月二十五日

 

 イタリアからあの男がやって来た。見る者を切り裂くような鋭い眼光を持つ銀髪の猛獣。彼の名は……】

 

 

 

 

 

「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人君だ」

 

 

 紫乃と沢田綱吉のクラスに留学生が転入してきた。

 銀髪に野性的な眼差し。

 

 彼は、獄寺隼人。

 

 

 その身なりは簡素にまとめれば"不良"だが、良く言えば"ワイルドなイケメン"だ。

 イケメンに帰国子女ということでクラスの女子が慌ただしい。すでに数名が浮かれまくっている。休み時間には他のクラスからも見物客が殺到するだろうなと紫乃は直感した。

 

 沢田綱吉の反応はどんなものかと確認する。ムスッとした顔つきでその転入生を見ているようだが、その男に教壇から眼光を飛ばされたようで負け犬根性がご丁寧にビビりまくっている。

 さらに教師の誘導を無視して教室を歩き出した獄寺隼人は、態々沢田綱吉の席まで宣戦布告をして自身の空いている席に座っていた。

 

 沢田綱吉は負け犬の如く持ち堪えている。

 

 

 ふと、紫乃は中央後方席に座る獄寺隼人を見た。

 こちらの視線にあちらも紫乃の顔を見たが、すぐに視線を逸らされた。

 

 その反応に紫乃は人知れず笑みをこぼした。

 

 

 その後も特に興味のないフリをしてやり過ごした。HRは獄寺隼人の話で持ち切りで、特に女子が大騒ぎしていた。

 

 

 

 

 休み時間になり予想通り獄寺隼人を見物に来る生徒やら遠くから取り巻く輩が増えている。

 

 紫乃は特に気にとめず、沢田綱吉が立ち上がる頃を見て人気のない校舎の廊下へと先回りしていた。ここからなら校舎裏の様子がよくわかる。

 

 校舎三階から待っていると、脂汗をかいて裏庭に出てくる沢田綱吉の姿が見えた。独り言を言っている内容はここからでは聞き取れないが、予定通り獄寺隼人が待ち伏せていた。

 よくあの取り巻きをまいてきたなとも紫乃は感心していたが、裏庭での彼らの会話を観察すると獄寺隼人が煙草に付けた火を爆弾(ボム)に引火させる。それを地面に落とす。

 

 

 さあ、アルコバレーノ。君の出番だ。

 

 風を切る音とともに導火線が鎮火した。二人が驚きを隠せていないところに紫乃がいる向かいの校舎の一階、スコープ付きのライフルを手に構える赤ん坊の姿がある。

 

 ……さすがだな。バッチリのタイミングだ。世界最強の殺し屋と恐れられるものは持っていると紫乃は肌で感じた。

 

 

 さて、次は彼自身の番だ。

 額を撃ち抜かれた男は、再び軟弱な炎を灯した。息を吹き返した男にたじろぐ相手の攻撃をものともせず、爆弾の消火活動に勤しんだ。のちに敵だった男が命の恩人だとあっさり寝返るのであった。

 

 

 

 

 思った以上にドタバタ劇を繰り広げたが、爆弾も爆弾男も鎮火し一件落着……。

 

 校舎三階から覗き見していた紫乃は、直後に乱入しようとしたチンピラ達の動向も観察しようと思ったが、すぐさま壁の死角に身を潜んだ。

 

 

 ――――沢田綱吉の家庭教師が、校舎三階の様子を窺っていた。

 

 彼は、一瞬人の気配がしたように思ったが、校舎を見上げても人影などなく、結局獄寺隼人の馬鹿騒ぎに便乗した。

 

 

 

 物陰に身を潜む紫乃は、つくづくやりづらい相手だと舌打ちした。あの騒ぎがある中でもこちらに気づくとは……。

 

 沢田綱吉を今後は導いてくれる重要なキーパーソンになるが、あまりに勘が良すぎる相手だ。彼が沢田綱吉のそばに付いているお陰で教室での動向観察にも支障が出始めた。下手に動くとこちらが目を付けられる。

 

 あの赤ん坊に、こちらの思惑を悟られるわけにはいかない。

 

 

 彼らが裏庭から退避するまで、紫乃はそこでじっと身を固めていた。

 

 

 

 

 

 

 

【イタリアからあの男がやって来た。見る者を切り裂くような鋭い眼光を持つ銀髪の猛獣。彼の名は、獄寺隼人。

 

 家庭教師リボーンが寄越した精鋭。爆弾のようにその男はなかなか手のつけられない問題児だ。

 沢田綱吉は見事に彼を手懐けた。

 

 あの男は見抜いているのだろう。沢田綱吉の素質。

 

 獄寺隼人もまた、彼と今後をともにすることで幼少期を少しずつ克服していくことだろう。

 

 厄介な相手だと思ったが、彼は家庭教師としての才能も十二分に持ち合わせていたのか。

 君が、沢田綱吉と炎を導いてくれるのか。期待している】

 

 

 


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