REBORN DIARIO   作:とうこ

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血に刻んだ野望

 そんな単純明快なことを語る女に失笑した。

 

 六道の目を手に入れる前から彼は既に悟った。こんな世に見出す価値などないと。権力に縋る男達の憐れな末路を見届け、こんな大人達しかいない世の中糞だと。価値もないのなら壊してしまえ。

 彼は、やり直したいのではない。ただぶっ壊したいだけだ。そしてこの手に堕とすまで。

 

 この六道の瞳に映る世界諸共、血の海に染め上げて、俗界の中に木霊する人々の嘆きにそっと耳をすます。

 今の彼にはそれだけでこの上なく喜ばしいことだ。

 

 

 説教じみたことを淡々と彼に語り、踵を返すその女を牽制する。どこへ行くのかと、地べたに這いつくばる男をまさか放置して一体どこへ向かおうとするのかと。

 これほどの挑発を受けて、この女に好き勝手に動き回られるのも彼には具合が悪い。ボンゴレのことで誤魔化しているようだが、この女の言動にはこちらの情報も恐らくどこかで手に入れている。

 早いところこの女を殺しておかなければ、そんな男の思考も見透かすように霧の中で女は振り向く。

 

「安心しろ。逃げる真似はしない。またここには戻ってくる。彼のこともあるしな……」

 

 六道骸のことなどはなから眼中にないかのように、暗闇に浮かんだ女の横顔はからりと余裕だ。

 暗がりにぼんやりと窺える表情は、何も恐れていないようである。幻覚も、死も、全てをこの身に受け止めるという覚悟に燃えた女の眼つき。

 

 

 彼――そう言って彼女は、会場の隅にじっと蹲る少年に目を寄越す。

 

 彼女の視線の先には、マインドコントロールされた彼が、苦しい顔つきでその手にランキングブックを大事に抱える。

 

「すまない。まだ幼い君を利用して……」

 

 人としての道を間違えたことは重々承知している。しかし、彼女ではダメなのだ。彼でなければ。きっと彼女の声は、少年には届かない。

 

 こんな自身も、汚い大人の手と同様に染まってしまうのだろうか。おぞましく、血塗れの手を細かに震わせ、自己を崩壊させる幻想が頭を過った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院前で襲撃された草壁哲矢は五本の前歯を抜かれていた。すると次に狙われるのはランキング4位の人物が妥当だ。

 沢田綱吉はランキングの紙面に視線をスライドさせ、その順位に該当する者の氏名に身体が戦慄した。

 彼の負け犬根性がゾクゾクと震え上がる他方で、そんな自身を日頃暴力的に宥める役目の家庭教師でさえ、この現状はかなりヤベーとこぼしている。あの雲雀恭弥が、未だ敵地に乗り込んだ以降連絡が途絶えている。これはかなり深刻な事態であるとさすがの沢田綱吉も察する。

 

 新学期早々の不穏な事態に困惑する沢田綱吉であったが、その後家庭教師の赤ん坊に念を押され、病院から抜け出して次の標的となる人物に報せなければとすぐさま学校方面へと引き返す。

 

 彼の直感は、嫌な予感がしていた。

 

 

 途中障害もあったが、なんとか学校まで着くとそこで早退したと教科担当の教師からの連絡を受け、沢田綱吉は次に飛び出した道端で偶然拾った他校生達の会話から、商店街方面に向かったという有力な情報を手に入れる。

 すぐさま友人の身を案じ、商店街へと駆け出した。彼が向かうと同時に商店街方面で謎の爆発がした。そこでは既に戦闘の強烈な跡が残っていたが、道端で呑気に煙草を蒸かしている獄寺隼人を見つけて酷く脱力感が襲う。

 まさかとは思ったが、見事に刺客を返り討ちにしてしまった彼にさすが普段から爆発騒動で面倒を増やしているのは伊達ではないと、つくづく納得するのであった。

 

 しかし、彼らは油断した。

 

 

 

「逃げて……ください……」

 

「獄寺君!」

 

 自分を庇い負傷した獄寺隼人に駆け寄る沢田綱吉。しかしすぐに敵の脅威が迫る。

 あんなボロボロの身体でも、ボンゴレを連れていこうとする彼らの死に物狂いの執念に、すっかり身体が竦んで、動けなくなる。

 

 

 絶体絶命のボンゴレのピンチに、滑り込みセーフと駆けつけたのは山本武だ。

 偶然通りかかったようだが、友人が倒れている現状を冷静に見て、腸が煮えくり返っているようだ。詳細も把握せず、眼前に立ち憚る黒曜の制服の男子を睨む。

 相手は彼の人相を見ただけでランキング3位の生徒であると見抜いていた。やはり学校側の情報は向こうに奪われている。

 

 山本武の力量を見て下手に深追いすると向こう側の都合で揉めるだろうと判断した相手は潔く引き下がり、ひとまずは窮地を脱した。

 地面に倒れ込む獄寺隼人をすぐに治療するべく、都合がつく並中の保健室へと早急に運んでいくようだ。

 

 

 

 

 

 それらの一部始終を、物陰にひっそりと潜んでいた紫乃は確認し、再び黒曜方面へと踵を返していった。

 

 

 


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