REBORN DIARIO 作:とうこ
そして悲劇の幕は上がる
二学期が始まった並盛中学校では、週末明けから不穏な空気が生徒達の間に漂っていた。全校生徒が週末明けのとある報せを受け胸中の不安を煽られていた。
その原因というのは、この二日間の間に並中の風紀委員が無差別に襲われるというものだ。
不良同士のイザコザならまだよかったが、今朝になり立て続けに一般生徒が襲われている。並中生が無差別に襲撃されているこの理不尽な現状に、生徒達の不満は風紀委員会に向けられ、彼らの支配権はさらに生徒達を束縛し、更なる混乱の事態に陥っていた。そこに一部の生徒の反感を買い風紀委員会の支配権が機能しなくなるも事態は深刻化する一方で、明日は我が身だと誰もが自分の身に起こるやもしれない不幸を案じていた。
紫乃はこの日を待ち望んでいた。
【九月九日
土日で風紀委員八名が何者かに襲われた。襲撃者達は己らのことを隣町ボーイズと名乗った。襲った風紀委員達の歯を工具で抜いていく奇行を犯し、その者達に深い恐怖の根を植え付けた。】
この騒ぎに並中の猛者、雲雀恭弥も酷くご立腹の様子であった。
今朝の登校時間に相次いで並中生がやられたとの報せが入り、雲雀恭弥の機嫌はここ数時間で急激に悪くなる。地下マグマが噴火寸前のところである。紫乃でさえ迂闊に近づけないかもしれない。あの持田剣介やバレー部主将の押切までもがやられ、名のある生徒が無差別に襲われる現状に静かな苛立ちを募らせているようだった。
全く身に覚えのない悪戯だ。ムカつく。縄張りを荒らされることはこの男が一番嫌うことだ。
しかし彼はこれまで収集した証言から、ほぼ見当がついているようだった。あの歯のカウントにも既に気づいていた。
週末明けにその報せを聞いた紫乃は、今朝早くから応接室を訪れていた。
そして敵地に乗り込むという雲雀恭弥の身を案じ、このまま並中の風紀を穢されるわけにはいかないという彼の言い分に押し黙る。潔く引き下がり、眼鏡の奥の目を伏せた彼女。彼は紫乃にクスリと微笑んでみせた。彼女も滅多に見ない穏やかな彼の表情である。
「行ってくるよ」
「ああ、気をつけて……」
閉まる扉をしばらく見つめ、紫乃は深く息を吐いた。ついに、始まる。
今まで仕方なく隠してきたが、煩わしいと思えたその伊達眼鏡を取り除き、血に飢えた赤眼の目を見開く。
幕は上がった。途中で下ろすことは許されないこの世で最も悲しい悲劇の舞台が――。
もう引き返せないところまで来てしまった。
彼らの未来を犠牲にしても守ると誓う。己の罪深さと、あの人の死を無駄にはしない。あの頃に誓って。
これが、彼女にできるせめてもの償いであると信じている。
そうして彼女は脳裏に思い浮かべた沢田綱吉の身を案じるのであった。