REBORN DIARIO   作:とうこ

46 / 92
春は桜と君と

 並盛にも春が来た。満開の桜が咲く頃は、彼らも春には定番の見頃の花を愛でるため花見へとやって来ていた。

 花見の場所取りをするために朝早くからやって来た公園で、チンピラだと思っていた相手が風紀委員だったことが運の尽きで、さらにその相手を獄寺隼人が一発でKOさせてしまったのが災厄の始まりであった。

 そして三人の前に、並盛中風紀委員長の雲雀恭弥が姿を現す。

 

 桜の木の幹に凭れて姿を見せたかと思えば、部下とも言えるその風紀委員を自ら叩きのめす鬼畜っぷりを見せている。呆然と見ていた三人も鳥肌モノだ。

 

 その直後には面倒な奴が朝から酔い潰れて話に入ってきたが、雲雀恭弥に自ら話しかけまもなく返り討ちに遭ったので皆がスルーした。もともと女しか診ない医者ならはなから役には立たないのだ。

 

 念願の赤ん坊にも会え、草食動物達を前に興奮高まる雲雀恭弥の鉄槌が最初に獄寺隼人に襲いかかる。

 正面から体当たりしていこうとする獄寺隼人に、雲雀恭弥も呆れたようだ。以前の屈辱的な敗北から何も進歩していないようだった。

 しかし、雲雀恭弥の振り下ろしたトンファーは空を切る。獄寺隼人の頭上スレスレを切り、雲雀恭弥は次に視界に飛び込んだダイナマイトに自身の身動きを塞がれた。

 周囲を数多のダイナマイトが彼を囲い、すれ違いにそれを投げた獄寺隼人が手持ち無沙汰に呟いた。

 

 新技、"ボムスプレッズ"である。

 

 

 

「果てな」

 

 

 同時に、後方で盛大な爆発が起きた。

 その衝撃的なまでの光景に、花見の場所取りに来ていたことも忘れて沢田綱吉達は壮絶な彼らの戦いに大口を開けて呆然と見守っていた。

 

 

「……で?」

 

 しかし、彼らの後方で聞こえるはずのない声がする。

 すると、煙幕に巻かれてトンファーを盾に構えた雲雀恭弥がそこにいた。平然とした顔つきで、身体には外傷もない。無傷である。その手のトンファーで爆風を起こし至近距離の爆発からも身をかわしたのだ。

 ダメージのひとつもその男に与えられていないことに動揺し、油断していた。

 

「二度と花見をできなくしてあげよう」

 

 咄嗟に男の反撃をかわしたが、獄寺隼人は膝をついてしまった。獄寺隼人の負けである。既に戦闘資格はないが、雲雀恭弥の腹の虫は収まりきらず獄寺隼人に襲いかかろうとする。

 

 その時、横から刀で雲雀恭弥のトンファーを受け止められた。山本武だ。

 

「次、俺な」

 

「山本!」

 

 獄寺隼人の危機一髪の場面に半ば強引に山本武が割り込んだ。沢田綱吉が驚くが、横からトンファーを受け止められたのと、この頃彼女の周りを彷徨く男を視界に入れ、雲雀恭弥の機嫌はみるみる損なわれていった。

 

「これならやり合えそうだな」

 

「ふうん……どうかな?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、雲雀恭弥のトンファーから仕込み鈎が飛び出す。山本武や、見守っていた沢田綱吉らも隙のない男の追撃に目を見張る。

 山本武は、咄嗟に身を屈め直撃を避けたが、地面に倒れ込んでしまった。

 

「彼女に集る蝿なら、目障りだ。君はこの場で殺してしまおうか」

 

 雲雀恭弥はつくづく、彼女に馴れ馴れしく接するこの男のことを気に食わないと思っていた。丁度いい機会だ。この場で粗末な蝿は潰してしまおう。血に塗れた花見会場というのもまた一興だ。

 

 

「復活!」

 

「!?」

 

 すると彼らの確執の間に、裸の男が突然割り込んできた。右手には何故かハタキを持っていた。

 

「ツナ!」

 

 裸男もとい沢田綱吉に窮地を救われた山本武は、情けない思いでその後の彼らの攻防戦を傍から見守っていた。

 また自分は決着をつけられなかった。やるせない思いで、膝を着いた地面からなんとか起き上がった。

 

 

 その後の勝敗の行方は、予想を上回る結果で雲雀恭弥が膝を着いてしまったことで沢田綱吉側の勝利を収めた。

 とは言いつつ、沢田綱吉が特に何かを仕掛けたのではなく、あのヤブ医者がこっそりとトライデント・モスキートを仕込んでいたのだ。

 雲雀恭弥は桜クラ病という奇病を患い、覚束無い足取りで花見会場を後にしようとする。

 

 

「ヒバリ」

 

 そこに後ろから、リボーンが声をかけた。

 雲雀恭弥は素通りすることはなく、赤ん坊の声に耳を傾けた。

 

「あの女は来てねえのか」

 

 思い当たる人物に、雲雀恭弥の片眉がピクリと反応する。向こうはいつも通りの声色だが、その語尾には不穏さが漂っている。

 

「……紫乃のことかい?」

 

「また二人で話してーことがあるんだ。伝えといてくれ」

 

「ま、いいけど。君が思っているより嫌われているよ」

 

「知ってるぞ」

 

 赤ん坊は表情ひとつ変えず平常心で返す。少しはいい反応でもしてくれるのかと期待していたが、すぐに雲雀恭弥の興味も失せたようだ。

 

 

「……伝えておくよ」

 

 桜が舞い降りる景色の向こうに、雲雀恭弥の姿は消えていった。

 

 その後には女性陣と子供達と合流し、彼らは花見を楽しんだ。その途中、何度もポイズンクッキングの脅威に襲われた沢田綱吉らであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 並盛中の屋上では、校庭で見頃を迎えた桜が見られる。その校舎の一角で紫乃はクタクタになって帰ってきた雲雀恭弥を迎えた。桜クラ病に罹ったようだ。

 

 紫乃の膝の上に雲雀恭弥が寝転んでいる。はしゃいできたのか紫乃の膝の上でおとなしく眠たそうにしている。

 重い瞼を開けた彼の視界には紫乃がこちらを見下ろしていた。いつも彼女との視界を阻んでいる銀縁の眼鏡は掛けていない。

 

 彼女の死骸を見つめるような冷徹な双眸が見下ろす。

 

 

「やっぱり……綺麗だね。君の毒々しい瞳は……」

 

 

 

 性懲りもなくまだ紫乃を口説き落とす余裕がある。紫乃は呆れた。

 

 

「あなたくらいだよ……そんなことを言うのは……」

 

「そう……僕だけが知っていればいいんだ。そうは思わないかい?」

 

 彼の髪を手櫛で梳かす紫乃の手が止まる。

 

 彼の手が重なると同時に、視界を塞がれる。まるで時が止まるような瞬間だった。

 

 

 彼女の意識がこの時まで自身に向けられているのをまどろみの中で満足気に見つめ、雲雀恭弥の意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

「眠れ……彼の再生のために……」

 

 

 静かに眠る雲雀恭弥の輪郭をそっと撫でる。穏やかな表情だ。紫乃の口元にも笑みがこぼれた。

 

 

 




ここまで書いたらおわかりでしょうが、紫乃はダークヒロインです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。