REBORN DIARIO   作:とうこ

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春はもうすぐ

【跳ね馬と数年ぶりに再会する。

 あの時待ち伏せされていたのは計算外だったが、計画に支障はない。

 ああ言っておけば問題はないだろう。あの男が、私への想いをまだ吹っ切れていなかったのは好都合だった。

 あれなら彼の元家庭教師の男に脅されてもそう簡単には口を割らないだろう。彼はそういう男だ。

 

 あの頃より少しは頼もしい一人の男になってくれただろうか。へなちょこディーノ、そんな響きが懐かしく感じる。

 

 さて、猶予はまだ半年あまり残されている。

 気づけばあっという間だった。あとどれほどの限られた時間の中でやり遂げられるかはわからない。

 

 彼の分も、後悔はさせない。君は10年後も、彼らとともに――。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らの再会の一部始終を、こっそり影から覗き込んでいた一人の人物は、元教え子の男が彼女を見送った去り際に残した名前に、思わず耳を疑った。

 

 

 

「……セランだと?」

 

 

 その声色は、不穏を孕んでいた。

 

 黄金色を反射するおしゃぶりをぶら下げたその胸中には、あの裏切りの日のことが点々と過った。

 決して忘れてはならない血を流したあの日だ。その当時のことは今もまだ彼らの記憶に新しい。当事者ではない者達も、多くの悲しみに包んだマフィア史上に残る事件だ。

 

 すぐに確認しなければならないことがあると、リボーンはその小さな身体を翻していく。不吉な予感がしていた。しかし、それはまだ具体的な形を帯びてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の春は、彼女の9年間を焼き尽くす炎の絶海だった。

 あの頃の思い出の景色も、ようやく蕾をつけたあの花達も炎の悪魔の手に燃え尽きていった。火の粉とともに黒い灰となったそれがハラハラと虚しく散っていった。

 

 かろうじて憶えていたのは、底知れない恐怖と悲しみと、あの人の血と身体が炎に炙られる独特な匂いと、思い出に裏切られてしまったあの日の涙の味だ。

 

 

 

「ああぁ……」

 

 炎が燃やし尽くす木造家屋の部屋の隅で、全ての感情が混ざりきらない微かな声を漏らした。

 涙と気管が詰まるほど溢れ出る嗚咽にグチャグチャになる顔を手で覆った。それも彼女なりの些細な抵抗であった。心臓まるごと鷲掴みにされたような息苦しさと、嘔吐感にその小さな身体が苛まれる。

 

 倒れたあの人の前に佇むその人影は、彼女の記憶に残る確かにその人だった。まだ彼女が幼い頃、どこかに連れていかれたのだ。

 その人の、血に飢えたような真っ赤な眼睛を、彼女は今でも悪夢に見る。

 

 

 

 

「………………やがって」

 

 

 何度繰り返した台詞、もううんざりだ。

 

 運命はあの日から、こうなることを知っていた。絶対に許さない。その人も同じだろう。ぶつけてやりたいんだ。自分を陥れた狡猾な大人に。

 

 

 

 

 あの日がなければ、彼女もまたこんな世界の運命に自ら乗り出すことはなかっただろう。

 

 

 そして彼女のもとにもうすぐあの春が来る。

 

 


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