REBORN DIARIO   作:とうこ

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デタラメに降る雨が景色を濡らした

【一月二十五日

 

 授業参観日。学校行事は堂々と同じ土俵で標的を狙える傍観者には数少ない機会だ。

 滞りなく授業参観がメチャクチャになって一時間が終わった。ここで一番の被害者は担当してしまった教師だろう。お見苦しいものを見せてしまった。

 私はあくまで傍観者だ。傍観者らしく窓際定位置で一部始終を見届けた。山勘で当て上機嫌だった山本武に途中話しかけられることも数回、だが私のようにプロの傍観者なら問題ない。蚊に刺される程度の鬱陶しさだ。当然のように全て無視してやった。

 

 

 

 

 一月三十日

 

 体育は男子はサッカーをしていた。山本武はサッカーでも大活躍だ。クラスの女子が沸いていた。

 私は当然のこと沢田綱吉の観察にこの日も忙しなく活動している。サッカーボールを顔面キャッチした沢田綱吉は一時グラウンドを離れ校庭に消えた。

 

 そろそろ彼が現れる頃だろうか。ランキングフゥ太。

 彼の力は脅威だ。跳ね馬と同様に私の計画を崩す恐れがある。今はしばらく様子を見る。タイミングが合えばその時は彼の能力を利用させてもらう。】

 

 

 

 

 

 

 

 

「伊波〜!」

 

 帰りに山本武に見つかった。隣には獄寺隼人もいた。なんだかんだ仲睦まじい二人である。紫乃は山本武の方を睨み返した。

 

「ツナの家に面白い奴が来てるって言うから今から見に行くんだ。一緒に来ねえか?」

 

「そうか。行かない」

 

「そもそもてめえらと一緒に行く義理はねーんだよ!」

 

 獄寺隼人が吠えている。だから私は行かないと言っているだろう話を聞けと言いたい紫乃だった。しかし余計な一言を言わないのがプロ根性というものである。

 

 

 

「よお、山本に獄寺」

 

 住宅街の道のど真ん中で話が拗れていると、誰かから声をかけられた。彼らが振り向くところに、大勢の部下を引き連れた跳ね馬ディーノがいた。

 各々に反応は違い、山本武は爽やかに笑顔を返し、獄寺隼人はそのキザなイタリア男を睨みつけている。

 

「こんちわ、ディーノさん」

 

「げっ、跳ね馬……んでてめえがッ」

 

「落ち着けよスモーキングボム、俺は敵アジトの情報を得るためにツナの家にいるランキングフゥ太に用があったんだ」

 

「俺らも今からツナんとこの面白い小僧を見に行くとこなんスよ」

 

 ランキングフゥ太に会った帰りだったのか、紫乃はすかさず山本武の背に隠れていたが、しくじったと奥歯を噛み締めていた。

 

 

「ん? そいつはどうしたんだ?」

 

「伊波?」

 

 ディーノは、山本武の後ろに隠れる少女の姿に気づく。彼の声にピクリと紫乃の身体が反応した。

 一切彼らと目を合わせることなく、重い前髪の下の顔色は窺えないが、山本武だけは自分の背中に隠れる彼女の身体が、小刻みに震えていたことを知っていた。

 

「あー、たぶんディーノさん達にビビってるんですよ。そんな大勢で来られたらびっくりしますし」

 

「マジかよ、そいつは参ったぜ。まあ、こんなナリだしな。怖がらせちまったならすまない。んじゃ、邪魔者はそろそろ消えるぜ」

 

「そんじゃまた」

 

「二度と来んじゃねえ!」

 

 男達の集団がノコノコと去っていく。今回だけはこの二人に救われたかもしれない。紫乃の心臓はまだ五月蝿く暴れていた。

 すっかり気配も消えた頃、山本武がゆっくりと紫乃の方を振り返る。

 

「……行ったぜ。にしても、伊波にも結構可愛いとこあるんだな……伊波?」

 

 自分の背に隠れていたはずの女子が、そこに忽然といなくなっていた。常に人が良い笑顔を浮かべていた山本武も思わず真顔になり、周囲を見渡して彼女の姿を探す。

 

「さっきそこの角曲がって行ったぜ」

 

「マジかよ……」

 

 獄寺隼人は、ディーノ達が去った直後フラフラと覚束無い足取りで角を曲がっていくその女を見ていた。別に止めはしなかった。隣にいる男が肩を落としているが、気を抜いているからだと山本武に言ってやった。

 獄寺隼人は確信犯だったが、そいつがまたいつものように笑い飛ばすと思いきや、珍しく山本武が機嫌を損ねていたので獄寺隼人にも少し意外だった。その後、二人は沢田綱吉の家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨……。

 

 

 フラフラと帰り道を歩いていた紫乃は、夕立頃に降る雨粒に天を仰いだ。ぐずついた空だった。まるで空が彼女の代わりに涙を流しているようだ。

 

 雨が降るとランキングはデタラメになってしまう――。

 

 今頃、沢田綱吉の方はどうしているだろう。

 彼女がいなくても、この世界は廻るのだ。

 

 彼女の頬を伝う雨が、小さな水溜まりの上を跳ねた。

 

 

 


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