REBORN DIARIO   作:とうこ

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黄昏と安らかな旋律を

【十二月三十一日 大晦日

 

 大晦日は、山本武と来年の挨拶を交わして別れた。

 来年は、君達と今以上に関わることは避けられないかもしれない。覚悟はしている。後悔は捨てる。

 

 

 

 一月一日 元旦

 

 あけましておめでとう。

 

 元旦の挨拶といえば、やはりこの一言に尽きる。

 昨晩、山本武と会った河原で、この日はボンゴレ達が正月合戦をやっていることだ。無論私は行かない。あんなところ、地雷が多すぎる。今日くらい私が家に引きこもることに誰が文句を言えるのだろうか。

 

 ……なんて小言を言いながら新年の朝からコンビニ飯ですまそうとしていたら、雲雀恭弥が新年の挨拶と言いながらこの新年明けから家の窓から侵入してきた。くそったれ。そして部屋でゴロゴロしていた私は渋々茶出しに出向くことになった。新年一発目の茶はこれでもかと渋くしてやった。彼の好みのようだった。くそったれ。】

 

 

 

 

 

 

 

 新年を迎えた暦はあっという間に暮れ、新学期が始まっていた。

 数回目の登校の朝、紫乃は沢田家の母に元気に挨拶をする獄寺隼人を見た。沢田綱吉は珍しく先に出たのか。恐らく彼の後を追いかけに向かう。紫乃は歩くペースは変わらず、沢田家の前を通り過ぎる。

 

「あら、おはようございます」

 

「……おはようございます」

 

 玄関前で獄寺隼人を見送っていた沢田綱吉の母親に、思いがけず挨拶をされてしまった。彼女の女子制服を見て思わず声をかけてきたのだろう。世話焼き体質なのも仕方ないものだ。無難に紫乃はオウム返しのように挨拶だけを返す。

 

「あなたも並盛中学校の学生さん? 息子と同じねえ」

 

「そうですか」

 

「息子とも学校で会っているのかしらね〜、頼りない子だけど、もし見かけたらよろしくね」

 

 話を合わせて沢田奈々とその後別れると、通学路を歩き始める。ほんの少し早足になる。動揺しているのか。まさか。しかし沢田綱吉の母親に声をかけられるとは。

 途中、通学路で動物達の餌にされる沢田綱吉と獄寺隼人を見かけたが無視して紫乃は目の前の道をひたすら突っ切る。

 

 

 

 

 

【彼女の息子は、頼りなくなんかない。

 この一年、君の小さな成長を見てきた私だから言えることがある。

 

 君は決してヒーローになれるような男ではない。

 君があまりに優しすぎるからだ。

 君の周りにいる人達に振り回されても、一緒に笑っている君は、お人好しで単純な男だ。

 そんなダメツナの頃から変わらない君だから、信じて託せるのかもしれない。

 

 君の優しさで、未来を、導いてほしい。

 私がともに歩むことのない未来を。】

 

 

 

 

 

 

 

 放課後の並盛には夕暮れが差し掛かっていた。

 グラウンドの部活も解散して、沢田家に向かう山本武を応接室で見送った紫乃も一人の帰り道を歩いていた。今朝に比べてすっかり落ち着いた足取りで並盛公園に差し掛かると、子供達も烏の声を聞いて解散した頃、公園のブランコでボーッとしている獄寺隼人を見つけた。

 獄寺隼人は、公園脇のブランコに跨って一人煙草を寂しそうに蒸していた。

 

 ああ、アイツの強化プログラムかと当たりをつけると、紫乃はしばらくその様子を電柱の影で見守ることにした。

 

 酷く落ち込んでいるようだが、紫乃から声はかけない。傍観者らしく彼をそっと見守ることで自分の立場を自覚する。できることなら、最後まで紫乃は傍からこうして見守っていたいと願う。

 

 

 彼女がそっと見守る他方で、偶然通りかかった沢田奈々が獄寺隼人を元気づける場面だ。やはり自分にはこのポジションがお似合いだ。もう彼なら大丈夫だとそう確信して紫乃は帰路に着いた。

 

 ……結局、彼女にはこの道しか残されていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 沢田奈々に元気づけられ、先に沢田家へと駆け出していこうとしていた獄寺隼人は、視界の端にかすった人物に二度振り返った。

 

 

 ――伊波紫乃。クラスメイトくらいに獄寺隼人は認知していたが、美術の補習課題を沢田家で集まってやった時以来やけに印象に残っている女子だ。

 

 というのも、あの時彼女の目を間近で見て、どこか既視感のようなものを感じていたからだ。さらにはあの山本武が密かに好意を持っているときた。なんであんな地味な女なんだ? と不思議にも思うが、将来有望な右腕である自分に下っ端の男の趣味などわかるはずもないかと浅く納得する。

 

 

 まるで以前に出会ったような印象を深く植えつけていった、あの女のことを獄寺隼人はしばらく考えていたが、今は先に自身が慕う人のもとへ向かおうと、すぐに踵を返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【彼は憶えているだろうか、昔のことを。

 

 私は、よく憶えているよ。

 父親のメンツのためにピアノの発表会を頑張っていた君を、建前ばかりの社会の中で子供ながら肩身の狭い思いをしていた君を、君の母親をまだどこかで求めているのを、あの頃の似ている君の背中を――。

 

 今も母親の面影を探しているのだろうか?

 昔聴いたことがある君のピアノの音色は、とても繊細で心地良く感じた。君が母親に教わった音色を、いつの日かまた聴いてみたいなんて思うんだ。】

 

 

 


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