REBORN DIARIO   作:とうこ

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彼女と花とリグレット

 休日の朝に携帯が鳴ったので、着信相手の名前を確認して電話に出る。

 滅多に鳴らないその電話の相手は、風紀委員の草壁哲矢であった。

 

 委員長が風邪を患って入院されたので委員長たっての希望で見舞いに来いとの伝言だった。

 電話の相手の声は至って普通だったが、風邪で入院するような繊細な坊ちゃん気質でもないだろお前は、なんて無粋な発言は飲み込んだ。草壁哲矢は特に何も思うところはないのだろうか? その胸中が気になるところだが、紫乃は一言了承してから電話を切る。

 

 行く気にはならないが、行かなければ行かなければで後々面倒になる気がした。

 紫乃には記憶にある沢田綱吉の入院時期と重なることを思い出し、不安材料はあるが時間をずらして行けば問題ないと支度をして家を出た。

 

 

 

 

 

 花屋で時間調整をしたので最寄停留所でバスに乗って並盛中央病院の正面入口を潜る。大きな受付で雲雀恭弥の名前を出した途端、受付のナース達が明らかに挙動不審だ。そういえば病院ぐるみで質が悪いんだったな。

 そんなことを思い出しながら、受付で案内された病室にやって来た。雲雀恭弥の見舞人ということで受付でもこれでもかと丁重に対応されたが、紫乃はそこまで求めてもいないので、こうして一人で病室のドアを叩いた。

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の見舞いで並盛中央病院まで来たが、人相の悪い連れのお陰であえなく病院から追放されてしまったキャバッローネの跳ね馬ことディーノは、部下達を先に行かせ自分だけ残った。まだ沢田綱吉が心配だったのでなんとか受付で交渉してみたが、コロコロと変わる沢田綱吉の病室に結局二度目の見舞いに行けることはなく受付を後にした。

 

 落ち込んで病院内を行き交う通行人の人々に丁寧にぶつかりながら正面入口までなんとか行き着くが、この時間帯は出入りも多くふたつの自動開閉扉が忙しなく働いていた。

 ディーノは前の男性に続いて出口を潜ろうとするが、もうひとつの病院内へと流れる人の波の中に花束を抱いた少女と一瞬すれ違うと、ふわりと何か懐かしい感じを、胸の奥に抱く。

 

 並盛中の制服に反応したのだろうか? そのすれ違う少女が大事に抱えていた花束に、ディーノは引き出しの奥の思い出が過った。

 

 

 

 あの娘が大好きだと言っていた花だ。

 

 

 ディーノがすぐに振り返ると、そこには変わらず出入りの人々でごった返す正面玄関があった――――。

 

 

 

 

 

 

【誰にも一生の中で思い出のひとつやふたつはあるはずだ。

 その人にとって、どんな思い出であれ。

 

 私にもある。この花だ。

 彼との思い出だ。宝物で、今ではもう悲しい思い出。

 

 春には一面に咲く花の中を一緒に駆け回った。

 

 

 あの頃には、もう戻れないのだな。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕闇が室内に落ち始めると、彼女が飾っていった見舞いの花達は、まるで彼女の瞳の色にも似た毒々しい色に染まりかかる。空の夕闇がそうさせているのだが、熟す果実のような花の艶と毒々しさは、皮を剥いて果肉を潰してみたい彼女そのものだ。

 香りはなく、小さな蕾を咲かせる花は、あの瞳のように、独特な印象を残す。

 

 

 雲雀恭弥は、彼女の部屋にも同じ花が飾ってあるのを知っている。

 

 まるで君そのものだ、なんて彼は花に語りかけてみる。

 当然のように花は雲雀恭弥を無視して沈黙する。それさえ彼女に似て冷めていて、儚く色づいて、オリエンタルなその花達を見つめるほどに惹き込まれた。

 

 

 

 はらりと、花は彼女が流す涙を表現するように散っていった。

 

 

 

 


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