REBORN DIARIO 作:とうこ
【十月に入った。奴はまだ仕掛けてこない。
ここ数日間での近況報告をするなら、至って平穏な日常生活を過ごしたが(雲雀恭弥の委員会活動においての破天荒には目を瞑るとして)、一昨日は食い逃げの件があったのか、教室で見かけた沢田綱吉と山本武の二人は、やけに具合が悪そうにしていた。ポイズンクッキングの新技の餌食となったと見て間違いない。
私にはあのシチュエーションは色々とリスクが高いからな。本当に為す術がなく辞退した。後悔はない。三時間置きの地獄など見たくもない。
その日は、山本武に絡まれることもなく平穏に一日を過ごした。こんなこともたまにはいいかもしれないと、ひとりごちてみる。】
午後の最後の授業が終わり、各々が帰り支度を済ませていた頃だ。
「ヅナァ゛ァアアア゛ッ……」
中学校で耳にするはずのない子供の声に、教室にいた全員が扉口を振り返ると、ガマンと呟くアニマル柄の服の男児がいた。
クラスであれはシマウマかパンダか牛か、その子供の特徴的な柄の服に興味を示していた頃、ようやく騒ぎに気づいた沢田綱吉がその子供のもとに駆けつけた。
学校に勝手に遊びに来といてチャックが壊れてトイレにいけないという手のつけられないランボに、沢田綱吉もたじたじだ。教室で騒がれるのと板挟みになりながら、恥を堪えてランボをトイレに連れていこうとすると、まだ五歳児のバカすぎる奴が教室前で漏らしてしまった。
クラス中がどっと笑いに溢れる。
それを窓際の席で傍観していた紫乃は、言葉にし難い同情の思いを沢田綱吉に向けるのであった。
「おもしれーのな、ツナんとこの小僧って」
紫乃に話しかけるのは、すっかり部活に行く準備も済んだ様子の山本武だった。
「そうか……」
「伊波んとこも兄弟はいるのか?」
「君には関係ない」
こいつの良いところで残念なところは面白いで片付ける語彙力だなと紫乃はつくづく思い、話を流した。
彼は父親と二人暮らしなのか、紫乃には彼に母親がいた記憶はないが、避けるべき話題だと思い先に教室を出た。
放課後には雲雀恭弥に応接室へ来るよう言いつけられていたので、書類整理とお茶出しに向かう。
書類整理の傍ら、お茶を煎れ雲雀恭弥に差し出す。
ここ最近は少し腕が上達したと、雲雀恭弥にも褒められるようになっていた。
「うん。少し良くなったね。草壁に言ってまだまだ修練してもらわないと」
濁る茶葉の香りを堪能する雲雀恭弥の話にも、紫乃は興味を示さない。彼女を見れば、どこかぼんやりと考え事に耽っていた。
「紫乃?」
「……煎れ直す」
彼女の心ここに在らずの態度に、雲雀恭弥も肩肘をついて悩ましげにするのであった。
【暦ももう秋だ。まだ一年あまりの猶予が残されている。
七年前の記憶は、今も健在だ。
忘れるはずもない。あの運命の日を。
じっと堪えてきたんだ。あの人の分も、その時が来れば、あなたのために償おう。
春には満開に咲く赤い花を、目が醒めたら一緒に見たいな。】