REBORN DIARIO   作:とうこ

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頼りない炎だな

 放課後、淡々と授業が終わりすぐさま学校を出て家路を歩く。

 今日も滞りなく平凡な学校生活が送られた。

 普段通り物静かな住宅街の家路を歩いていると、遠くから誰かの雄叫びが聞こえてくる。

 

 どこかで身に覚えのあるようなそれに振り返ってみると、その時紫乃が歩く道の横を真っ裸の男が猛烈な勢いをつけて走り去っていく。

 まるでジェット機が真横を過ぎ去る凄まじい風圧を受け、捲れそうな制服のスカートの裾とずれ落ちそうな眼鏡を掛け直す。

 

 それはほんの一瞬の出来事だった。

 

 

 

 

 

 ――――沢田綱吉!!

 

 

 

 すでに何もない住宅街の景色を見つめ、彼女の口角は無意識に吊り上がる。

 

 時は来たんだ。ついに。アイツが現れた。

 世界最強の殺し屋……アルコバレーノ……。

 

 

 あの感じなら問題はないだろう。

 明日にも誰かが言いふらして学校中が騒ぎ立ててるはずだ。

 

 

 

 

 

 

【六月十八日

 

 ついにイタリアの殺し屋が並盛にやって来た。これからだ。明日にも体育館で決闘が行われるだろう。その時が来るまで、傍観者に徹しよう。】

 

 

 

 

 紫乃は安堵していた。同時に、その胸中は言い知れない不安を募らせていた。

 

 

 

 

 

 翌日。案の定昨日の沢田綱吉露出騒動でクラスどころか学校中が噂していた。噂の本人が登校してくるまで紫乃は教室窓際でその心境を思うと沢田綱吉にとても同情した。

 

 

 ……と少しふざけていたところにその本人お出ましだ。クラス中から囲まれる。

 

 

 

「パンツ男のおでましだー!」

 

「ヘンターイ」

 

「電撃告白!」

 

「持田センパイに聞いたぞーっ」

 

「めいっぱい拒絶されたんだってなー」

 

 報われない主人公が登校してきたことで、教室がお祭り状態となる。

 

 まあ主人公の宿命だと紫乃は傍観することに徹底し、浮かばれない本人は踵を返そうとしたところで剣道部に拉致され連れていかれた。

 その流れで皆が道場へ足を運び、教室がカラになったところで紫乃は立ち上がり、野次馬達の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

「来やがったな変態ストーカーめ!! お前のようなこの世のクズは神が見逃そうがこの持田が許さん!! 成敗してやる!!!」

 

 これがフラグというやつか。持田という先輩がすでに剣道着を着込み待ち構えていた。このあと自身のフサフサだった髪に見放されるとも知らず……。

 

 持田とかいうよく憶えていないヤツがうるさいのは無視して、紫乃は沢田綱吉の方に目を向ける。わけもわからず連れてこられた本人は勘弁してよ〜と言いたげに道場の隅で小さく怯えている。

 

 持田が笹川京子をかけて勝負を挑んだ辺りで沢田綱吉が逃走を図り、道場がブーイングに包まれる。普段はあれだけお淑やかにしている笹川京子も賞品扱いにご立腹の様子だ。

 

 

 

 ……ここが正念場だ。世界最強の殺し屋、そう自負するなら必ず彼をこの場に寄越すんだ。

 

 

 

 紫乃は祈るしかなかった。生徒達でごった返す道場内の一角で、傍観すると決めたから、じっと持ち堪える。

 

 

 道場内の熱気がすっかり冷めて、どれくらい経っただろう。ほんの数分しか経っていなかっただろう。

 すると、道場の外から何やら慌ただしい足音が響き渡る。道場全体に響く衝撃音。中にいた誰もが扉に注目していた。

 

 

 

 

 

「いざ!勝負!!!」

 

 

 

 その雄叫びが場内に響き渡るとともに、熱気が再び沸き起こる……かと思えば、次に現れた沢田綱吉の格好が裸同然でお出まししたので場内は違う意味で騒ぎとなっていたのだった。

 

 

 

 あれが……死ぬ気の炎……。

 

 

 

 

 沢田綱吉が見事活躍し、無事に持田を禿げ散らかしたところで、人知れず紫乃は賞賛に包まれた道場を後にした。

 

 人気のない廊下をひたすらに歩く。

 これまで沢田家まで彼の行動を見届けていたが、今後はやめておこう。あの殺し屋の赤ん坊には勘づかれる可能性が高い。

 

 

 

 ここからだ。沢田綱吉、ボンゴレの血を継ぐ者よ……。

 

 

 

 

 

 

【六月十九日

 

 沢田綱吉が初めて死ぬ気の炎を灯した。まだまだ頼りない灯火だが、君の家庭教師の男が、きっと君を継承者に相応しい男にしてくれることだろう。とても楽しみだ。

 

 

 必ずボンゴレⅩに相応しい男になってくれ。】

 

 

 


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