REBORN DIARIO   作:とうこ

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日本茶は殺意の香り

「遅いね」

 

 

 応接室の扉を叩いた紫乃に第一声をこぼした雲雀恭弥は、応接室の定位置に着いてのんびりと紫乃を迎え入れた。秋も深まるこの頃は学ランを肩に羽織っている。

 それなりに急いで来たのに悠々とそこで待っていた人物を、レンズの奥で紫乃は睨んでいた。

 

「まあ、安心しなよ。君に書かせた誓約書には君の保身を保証させてあるから」

 

 言いつけられていた時間より遅れてきた彼女に機嫌を損ねたかと思いきや、雲雀恭弥は寛大な態度を見せる。

 紫乃も無闇に咬み殺されるのは勘弁だが、あの後に書かされた風紀委員会の誓約書という書類に記述があった内容を思い出す。

 校外に敵が多い雲雀恭弥に就く紫乃の身辺を保証する契約のようだが、正直監視されているようであまり気持ちのいいものではない。

 こう思うと、日頃沢田綱吉の身辺を漁る自分には言えないことだなと苦虫を潰す。

 

 

 応接室まで来た紫乃は、着いていきなり大量の書類整理をさせられるかと思っていたが、雲雀恭弥の指示は手短だった。

 

「じゃあ、まず煎れて」

 

 室内の隅のテーブルに用意されている日本茶の茶葉と道具一式を指して雲雀恭弥が告げる。

 自分で煎れろ怠け者と言ってやるわけにもいかず、渋々と湯呑みに濁った茶湯を煎れる。深い緑色の日本茶をセットして書斎机の上に差し出すが、一口啜った雲雀恭弥の返事はこうだ。

 

「やり直し」

 

 

 そしてここからが地獄だった。

 

 雲雀恭弥が頷くまで日本茶を一から煎れさせられ、そして結局雲雀恭弥が頷いてくれる日本茶をこの日は煎れられず、草壁を呼んで口直しの一杯を煎れさせる始末。

 日本茶がこの日彼女の深いトラウマとなる出来事だった。

 

 同時に絶対君主雲雀恭弥への謀反を起こさせるほどの根深い殺意をこの日確実に芽生えさせた紫乃であった。

 

 何故こんな嫁入り修行のようなことをさせられるんだと怒りのパラメーターがエクストリームを飛び越えそうな時、雲雀恭弥から明日の体育祭には美味しい日本茶を煎れろと宿題が出て、今晩闇討ちを謀ろうかと紫乃の頭を過ぎるのであった。

 

 

 

 

 

 その後、雲雀恭弥から宿題を持たされ、帰り道の河原の橋を渡っていると、向こうの河川敷の方で棒倒しの特訓をする姿を偶然見つけた。

 自分がいないところでも順調そうだと、紫乃は安堵する一方で、その直後爆発がした。沢田綱吉が頂上に立っていた棒が爆風に耐え切れず煽られ、そのまま秋中旬の氷のような水面へと一直線に突っ込んでいく。

 順調そうだ、紫乃は何も見なかったようにその場から立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

【明日は体育祭だ。彼らの健闘を祈る。】

 

 

 


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