REBORN DIARIO   作:とうこ

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とあるダメツナの観察目録

 

 体育館に響き渡るダンクと快活な生徒達の声に埋もれていたはずの彼のもとに、チームメイトがパスしたボールが彼の顔面に襲いかかる。

 顔面でそれを受け取った彼はまるで情けない声で痛みに呻き、さらには重心を崩した足で体育館の床に転んだ。

 

「またかよー」

 

「頼むぜ、ツナ!」

 

 チームメイト達のそんな励ましのような呆れたような声援を受け取る。

 ツナ、と彼らに呼ばれたとんがり頭のその少年は、ハハッと愛想笑いで答えながら鼻を押さえてむくりと立ち上がる。

 

 

 

 情けない。

 

 伊波紫乃は体育館壁際に背中をもたれ、体育館の敷居の半分を使って行われる男子バスケの試合を一部始終見ていた。

 

 

 入学からこの二ヶ月の間、その標的を今まで観察し続けてきたが、ダメツナと渾名されるのも仕方ないほどのダメっぷり。

 時期が来るまでは陰ながらその行動を見守ろうと決めていたが、テストは入学以来赤点コンプリート、スポーツは彼が加わるチームは全敗という都市伝説級の話まで、とにかくやることなすこと結果を出せずじまい。

 

 挙句、負けたという言いがかりで一人掃除を押し付けられている始末だ。

 授業が解散すると、モップを手に立ち尽くす沢田綱吉は、ダメツナっぷりに開き直って体育館内を徘徊し、偶然屋外に見つけた憧れの女子生徒に心を奪われている。

 まあ、彼の性格からして、几帳面に押し付けられた仕事をするタイプでもないので、先に着替えて出てくるのを待つことにしようと紫乃は人知れず女子更衣室に戻る。

 

 

 

 ここ最近での体育の内容はほぼほぼバスケで、取っ掛かりが掴めていない。記憶にある時期にも体育の授業でバスケをしていたはずだが、連日のバスケの授業に沢田綱吉でなくとも飽き飽きして来る頃だ。館内でできる気軽なスポーツとして教師にはこの上なくやりやすいのだろう。

 しかしもう六月も半ば、もうすぐそこまで来ているはずだ。

 すでに彼女以外着替え終わり誰もいない更衣室の端で、待ちに待ったこの機会に血管の奥からうずうずと疼き始めていた。

 

 

 入学初日に、クラスが同じになったのも、偶然ではない。これはもう必然なのだ。沢田綱吉を見守ることこそが、彼女の宿命であるというように告げていた。

 

 

 

 

 

 その日の午後から沢田綱吉は授業をサボっていた。

 

 クラスで同時に二人がサボるのも目立ってしまうので、彼女はその日の沢田綱吉の行動観察を断念して午後の授業に出る。

 標的のいない教室での授業など、なんの意味もないようにくだらない時間だ。窓際の席から、どこまでも青く澄んだ空を見上げた。

 

 

 


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