REBORN DIARIO   作:とうこ

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日常編 - Ⅱ
秋、深まる人間模様


【九月三日

 

 新学期から初日に裸で登校する沢田綱吉を見かけた。おまけに笹川京子の兄がそいつの腕にくっついていた。順調そうだ。

 ボクシング部までは見に行けそうにないが、精々頑張ってくれと教室でも憂鬱そうにする彼の背中に語りかけた。

 

 今朝、グラウンドまで登校すると途中ユニフォームを着た山本武がこちらに気づいた。部活の朝練のようだ。

 当然のように無視してやった。あいつが落ち込んでいたとか知るか。君の親衛隊に目を付けられたら怖そうだからな。】

 

 

 

 

 

 

 新学期初日の朝から山本武をガン無視した伊波紫乃は、そのまま何食わぬ顔で校舎へと向かった。

 

 すっかり紫乃と仲良くなれたと思った山本武は、予想外の彼女の冷たさに戸惑い、グローブをはめた手を宙に彷徨わせている。校舎へ向かう生徒の一部に溶け込んでいく彼女の姿を見送るしかなかった。

 彼のチームメイトらは、そんな彼の無自覚である報われない思いに同情し、フラれた彼に皆でどうこうアタックしていけとフォローを入れてやるのであったが、山本武の中でそれらの助言は山本節に改ざんされてしまうのであった……。

 

 

 

 

 

 晩夏の暑さがまだ残る夏休み明けの並盛中のグラウンドの光景を、校舎の一角から見下ろす人物は、朝練中の野球部員の男の挨拶をかわし校舎の建物に消えたその女子生徒の動向を観察していた。

 

 

 開け放った校舎の窓際に腰を据え、穏やかな秋風に学ランの裾をたなびかせる。学ランの下にはこの時期にまだ蒸し暑いため半袖の白シャツを着ていた。

 

 春に数回校内の廊下で見かけたが、彼女はいつも誰かと群れることはなく、それが彼の印象にも深く残っていたのだ。

 

 

 

「いいね、彼女」

 

 

 狂気の眼が見開かれる。それはまるで取っておきの獲物を見つけたかのように、その身体を冷たい牙で引き裂いて内臓を搾り出すのが今から楽しみであるように、微笑んでいた。

 

 グラウンドでは山本武を入れた活発な野球部員やら、時間内に登校する気怠そうな生徒達がちらほらと窺える。

 こんな普遍的で飽き飽きしていた日常風景の中で、ありつけた貴重な獲物だ。サバンナの奥で猛獣を見つけるよりも昂った高揚感が今にも牙を振るいたそうにする。

 

 

 並盛中のグラウンドに轟く予鈴、規則的に動く生徒の群れ、そんなものに興味はない。

 

 一学年の在籍生徒の一覧名簿に載っている彼女の顔とにらめっこをして、その口角には愉悦をこぼす。眼鏡越しに目が合った純血のように赤い瞳と、直に相見える日を待ち望んでいる。

 

 

 

 

「伊波紫乃……彼女にしよう」

 

 

 


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