REBORN DIARIO 作:とうこ
【七月十日
本来なら、沢田綱吉暗殺劇をこの目で見届けるべきなのだが、何せ分が悪い。沢田家で起こることまではこの時点で沢田綱吉達と関わりのない私には確認できない。
そして、ビアンキの件であるなら、高確率で10年後ランボが登場する。一応警戒しておいた方がいいと判断した。
しかし、私の不安もとうに杞憂であった。
たまたま外を徘徊していると、浜名湖に向かっていくビアンキの自転車とすれ違った。愛の力は強いのだな。
その不安も払拭した私は、夕暮れの頃、ちょうどこの間と同じ夕日の色に染まる河原で、再び出会ってしまった。あの男に……。】
「うっす、伊波!」
通りかかった河原の河川敷で、自主練中のようである山本武がこちらに気づいたようで手を振った。
面倒くさい……と思った紫乃は、直感的に無視することにした。
「おいおい、無視はねーだろ!」
どうやら直感は外れたようだ。彼のようには上手くいかないようだな。ほんの少し彼の持つ才能が羨ましいと思ってしまった。
そんな紫乃の考えなどまるで露知らず、山本武がこちらにまでやって来た。180cmもあるこの長身の男が、自分に一体何の用だと思わず身構える。
「この間は色々あんがとな。美味かったぜ、あん時の握り飯」
なんだ、そのことか……と紫乃は内心落ち着きを取り戻し、適当な相槌でその場を離れようとした。
しかし、野球で鍛えた直感か、紫乃の内面を見透かしたように山本武が食い下がる。
「キャッチボールやんね? ちょうど暇してたんだよ」
なんでお前とキャッチボールなんだよ、と内心激しく抵抗するが、相手はその屈託ない笑顔を夕焼けのほのかなオレンジ色に照らしている。
「私なんかが務まる相手じゃない。遠慮しておくよ」
「いいじゃねえかちょっとくらい、なっ?」
逃げ道を作らないようにか、咄嗟に紫乃の腕を掴む。
ただの野球しかない男だと獄寺隼人同様に考えていたが、こいつはこう見えて人の心に付け入る隙を狙っているんじゃないかと思った。単に一人っ子の甘え上手かもしれないが……。
もともと気さくで分け隔てなく人に接する人が良い男だ。もっと注視しておくべきだった。
「……離してくれ」
少し震えた声でそう返事をすれば、ピクリとそれに反応を示した山本武は、あっさりと引いてくれた。
「そっか。悪い。んじゃまたな、伊波」
彼は、紫乃を見送る最後まで、あの人柄の良い笑顔だった。
【河川敷で、山本武と遭遇した。
二度目はないと思っていたが、不覚だった。彼の人柄に触れて、そいつに呑み込まれそうになった。
教室でも目立たない女にもその手を差し伸べる。
彼はきっと、イイヤツなんだろう……。
『じゃあな』なんて言っていたが、君と次はもうないと思いたい。
縺れて、取り返しがつかなくなる前に……。】