とある無力の幻想郷~紅魔館の佐天さん~   作:王・オブ・王

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 涙子と初春飾利の二人が料理を済ます。

 プレートに盛られた料理は、フェブリも食べやすいように小さくまとめてある。

 ハンバーグも一口サイズに済まして、パスタなどもいれた。

 そして三人で卓を囲むと、涙子と初春の二人は同時に口を開く。

 

「いただきます!」

 

 二人でそう宣言するも、フェブリは不思議そうにしていた。

 初めてのものを目にするような顔で匂いをかぐ。

 

「どうしたの? ハンバーグだよ?」

「子供はハンバーグ好きだって言ったの佐天さんですよ?」

「いや、子供は好きでしょ」

 

 チルノもハンバーグが好きだった。

 他にもレミリアやらも……そこでふと思う。

 

「500歳は子供だった?」

「なに言ってるんですか?」

「あ、ううん、ほらフェブリ」

 

 そう言って自分のフォークでハンバーグを一つとるとフェブリの前へと差し出す。

 

「あーん」

「あーん、むぐっ……んん~!!?」

 

 ハンバーグを食べたフェブリが目をキラキラさせて喜ぶ。

 そんなフェブリを見え笑みを浮かべる涙子。

 おいしいか聞くと深く頷いて自分でもフォークを持って食事を始める。楽しそうに食事をするフェブリを見て、涙子と初春は顔を合わせて頷くと手を出して二人でハイタッチ。

 

 

 その後、涙子はフェブリと初春と共に風呂へと入る。

 湯船に浸かる初春が、フェブリが美琴から“もらった”指人形で遊ぶ姿をほほえましそうに見ているが、ふとシャワーを浴びる涙子の方を見て目を細めた。

 どこか憂いを帯びた瞳で見つめつつ、そっと手を伸ばして涙子の背中に触れる。

 

「ひゃあっ!? な、なにすんの初春!?」

「あ」

 

 自分でもなにかしようと思って触ったわけではないので、初春は苦笑を浮かべた。

 フェブリは素っ頓狂な声を上げる涙子の方を見るが、少しばかり赤い顔で涙子は笑顔を浮かべてフェブリの頭をなでる。くすぐったそうにするフェブリはすぐにゲコ太の人形で遊び始めるが、涙子はジト目で初春を見るのみ。

 それにもやはり苦笑で返す初春。公衆の面前でスカートをめくられることに比べれば大したことは無い……今回に限っては下手すれば本気で“狙いに来てる”と思われても文句は言えないが……。

 

「なんていうか、良く見ればありますね……傷」

「まぁ、良く見なきゃわからないだけマシだって」

 

 笑って言う涙子に初春は言葉をかけることをためらった。

 なにをしているのか、聞けない。聞きたい気持ちはある。だが彼女はそれでも言うことはないだろう。だからこそ自分を頼って、自分に打ち明けてくれる。そんな時を待つのみだ。

 奇しくも、親友である白井黒子が御坂美琴に抱いている感情に似たような感情を覚えて、同じ立場にいた。

 

 慕う故に、親しいが故に、相手が自分を想って何も言わないのだと気づく。

 

「ていうか学園都市の子供ならフェブリも能力者?」

「どうでしょう、無能力者だって決して少なくないでしょうし……子供は演算やら自分だけの現実(パーソナルリアリティ)の形成も中学生や高校生ほど上手くないと聞きますよ?」

 

 そう言ってフェブリの方を見るが、フェブリは首をかしげる。

 

「そっかそっか」

「だから佐天さんもまだまだ望みはありますよ?」

「だから別に良いって、あったら良いな~ぐらいだから」

「それはまた……良いのか悪いのかわからない心境の変化ですね」

 

 苦笑しながら言う初春に、涙子も苦笑を返す。それに関しては同意なのだが、実際に変わってしまったのも事実だったからだ。

 前は“自分もレベル5になりたい”という気持ちもあったのだがここ一月ほどでずいぶんその考えも改めさせられた。

 

 自分の憧れで友である“超電磁砲(レールガン)”御坂美琴。

 一方、自分の友の仇である“学園都市最強”一方通行(アクセラレーター)

 

 かたや自分の遺伝子を勝手に使われクローンを量産され、その命を弄ばれたレベル5(被害者)

 かたや自分が最強になるためにクローンを殺し続ける実験を提案され、実行したレベル5(加害者)

 

 佐天の中ではその公式しかできていないからこそ、そういう考えに至る。

 いや、その公式以外が出てきたとしても……“最強(最弱)”の真実に至ったとしても現在の佐天涙子は“力が欲しい”と思ったところで“超能力者(レベル5)”になりたいなど微塵にも思わないだろう。

 

 

 

 風呂を出てから、涙子はフェブリと共にベッドで横になっていた。

 絵本を読んでいたのだが、現在の涙子はウトウトとしておりハッとしてフェブリを見た時には既に眠っている。ゲコ太とアメを握って眠っているフェブリにほほえましそうに笑みを浮かべると、そっとアメを手に取った。

 そうしていると、座っていた初春が軽く笑みを浮かべる。

 

「少し変わった子ですよね」

「うん、でも可愛いね」

 

 そう言って軽く頭を撫でる涙子を見て、初春が頷く。

 

「佐天さんって良いお嫁さんになりそうですよね」

「え、そうかなぁ、褒めても何も出ないぞ~?」

「むしろ私が嫁に欲しいです」

「え~」

 

 そう言って笑う二人。

 お茶を汲んでくると言って立ち上がった初春、そんな後ろ姿を見て微笑んだ涙子が手に持っていたアメを見る。フェブリが起きて開口一番にアメが欲しいと言った。

 それほどおいしいアメなのかと思いつつ、一舐め。

 

「……っ!!?」

 

 

 

 ―――そして、翌日。

 

 風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部。

 固法美偉が佐天から差し出されたアメを受け取り、一口舐める。無論そのアメはフェブリが、涙子も舐めた例のアメである。

 故に、佐天涙子にはわかっている。その味が……。

 

「うっ……確かにこれは」

「ねっ! 凄いでしょ!?」

 

 一舐めしただけでそれなのだ。後ろでダウンしている黒子と美琴はどうしたのか考えるまでもない。

 嬉しそうに笑う涙子を、後ろで睨む初春。

 

「酷いんですよ佐天さんったら! 昨日、私にはすごくおいしいっていって舐めさせたんですから!」

「あはは、ごめんごめん! まぁまぁ、初春だけじゃなくて来る時に会った重福さんにもやったじゃん」

「あの人、佐天さんの舐めた後だって聞いてくわえこんだじゃないですか! マズイって言っても結果は同じでしたよ!」

「まさかぁ、おいしいって言ったからだってばぁ」

「私は佐天さんが心配です!」

 

 そう言って怒る初春に小首をかしげて笑う涙子。

 固法は苦笑しつつ、肩をすくめて黒子と美琴を見る。固法に見られた二人も呆れたように笑うのみだ。

 涙子という者がどういう人物か良く知っているからのことだが……。

 固法はそっとフェブリに笑みを向ける。

 

「おいしい?」

「うん!」

 

 ニコっと笑みを浮かべるフェブリの隣に移動してくる美琴。

 

「良かったね~フェブリちゃん!」

「……」

 

 無言のまま、フェブリは涙子の背後へと隠れる。

 苦笑する涙子、美琴はショックを隠せないという様子で肩を落とした。

 

 その後、フェブリが遊び疲れて眠るとタオルケットをかけて面々はPCの前に立つ。

 初春が操作するPCにはフェブリの顔写真と、行方不明者についての情報が並べられていた。

 それらのリストに一切、フェブリの情報はない。

 

「やはりデータはありませんね……こちらからも失踪人や迷子についての情報を上げられるデータベースに上げてますけどまったくです」

「となるとこの子は、置き去り(チャイルドエラー)なのかもしれませんわね」

「……そっか」

 

 自分はまだ良い。一人でも生きていくだけの力もある。

 だがフェブリのような一般常識がしっかりと身に付く前の子供がこの学園都市へと放置されたと思うと、ゾッとした。あんな場所で眠っていたフェブリ……自分たちが見つけなければどうなっていたかわからない。

 顔をしかめつつそんなことを考えていると、扉が開く。

 

「こんにちはなのー!」

「春上さん!」

「引っ越しとか色々と片付いたから挨拶にきたの!」

 

 やってきた春上へとこれまでの話をする初春。

 嬉しそうに話をする彼女を見て、涙子もまた嬉しそうに笑みを浮かべた。

 すべて話を終えると、春上は少しばかり眉をひそめてフェブリの方へと向く。

 

「あの子が、置き去り(チャイルドエラー)なの……?」

「色々手を尽くしてるんですけど、身元が分からなくて……」

「今は施設の人たちが来るのを待つしかない感じなの」

 

 春上の疑問に初春と固法が答える。

 そんな返答を聞いて、やはり表情を暗くする春上。

 それも仕方がないだろう。

 

「良い施設に行けると良いの……」

「施設の良し悪しってあるの?」

「色々と大変だって……」

「ほら御坂さん、枝先さんのとことか」

「え……あ、ああ、そうだった」

 

 涙子の言葉に、顔をしかめる美琴。

 彼女たちがあんなことになったのは、すなわち施設のせいだった。

 シャワーは一週間に一度、挙句モルモットにされて意識不明、子供の時の大事な数年をふいにされるという悲劇に見舞われた。

 故に、涙子は目を細める。そこでふと、思い浮かぶ。

 

「なんか、知り合いにいないんですか?」

「え?」

「ほら、良い施設を知ってる人とか」

「うう~ん」

 

 涙子の言葉に全員が難しい顔をした。

 ランキングとかがあれば便利なのだろうと思いつつも、無いことはわかる涙子は静かに息を吐く。

 ともなれば、聞き込みやらだろう。

 

(金髪幼女に優しい無能力武装集団(スキルアウト)の大男とかいないのかな……いや、ないか)

「そういえば寮監が……そういう施設の話をしていたような……」

「マジですか!?」

 

 涙子の言葉に、寮監のことを口にした黒子が頷く。

 

「まぁ確認はしてみますの」

「お願いします!」

 

 ということで黒子が電話を掛ける。

 すぐに寮監に伝わったようで、話がとんとん拍子で伝わって行った。

 涙子は静かに話の結果を待っていると度電話が切れたのか黒子が涙子の方を見る。

 

「先方に確認中ですの」

「そっかぁ……」

「佐天さん、そんな心配なさらなくても良いと思いますわよ……寮監は信用できる方ですわ」

「そう、ですよね……」

 

 信用していないわけではないが、心配で仕方ない。

 すぐに連絡が帰ってきたのか、黒子は次にスピーカーをONにして会話を開始する。

 それで寮監の声も涙子たちに届く。

 

『先方に確認してみたところ問題は無いそうだが……最低でも手続きなどで五日はかかるそうだ』

「そのぐらいなら私が面倒見ます!」

「私もサポートします!」

 

 涙子の言葉に、初春も続く。

 それに続いて美琴と黒子も顔を見合わせて頷いた。

 

「私も!」

「わたくしも佐天さんのサポートぐらいいたしますわ」

『そうか、なら先方にもそう伝えておく』

 

 会話が終わって、黒子が通話を切る。

 それと同時にタイミングよくフェブリが目を覚まして体を起こした。

 それに気づいて、涙子が近づく。

 

(なんとなくフランに似てるなぁ……いや、あそこまで色々すごくはないけどさ)

 

「ねぇフェブリ」

「ん?」

「しばらく私たちと一緒にいるの、良い?」

「涙子と?」

「そう、あとみんなもね!」

 

 そんな言葉に、眠気眼のままフェブリはゆっくりと顔を動かす。

 

「ういはーも?」

「はい!」

 

 初春。

 

「くろこも?」

「ええ!」

 

 黒子。

 

「……みいも?」

「もちろんよフェブリちゃん!」

 

 一つ(美琴)飛ばして固法。

 嬉しそうに笑うフェブリをよそに、沈む美琴を横に苦笑する黒子と固法の二人。

 初春がふと、思い出す。

 

「五日かぁ、それなら学級会の日までは一緒に居られますね!」

「あら、そういえばそろそろ会場警備の打ち合わせの時間じゃありません?」

 

 そんな言葉を聞いて、涙子はフェブリの方を見る。

 首をかしげるフェブリを前に、涙子は会場の場所を目に留まる場所に置いてあった資料に視線を移す。

 

「ん、せっかくだし一緒に行こうかな」

「さ、佐天さんがいくなら私も!」

 

 バッと手を上げる美琴。おそらくフェブリと仲良くなりたいのだろうとわかって、涙子はくすっと笑みを浮かべた。

 涙子としては、フェブリを電車に乗せてあげたいなということで行くことにしたのだが、美琴とフェブリが仲良くなるに越したことはないだろう。

 

「結局みんなで行くことになりそうですね」

 

 そう言う初春に、涙子は笑みを浮かべて頷く。

 

 

 

 ということで一七七支部から全員が出る。

 春上のみ別の用事があるということで別れることとなった。

 固法が笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、またいつでも遊びに来てね」

「はい! 今度は絆理ちゃんも一緒に!」

「二人で一緒に遊びに来てね!」

 

 ニッと笑う涙子に、頬を僅かに赤らめた春上が嬉しそうに笑う。

 

「うんっ!」

 

 満面の笑みを浮かべる春上。

 涙子の隣の黒子が軽く肘で涙子を突く。

 驚きながらもチラッとそっちを見る。

 

「佐天さん、ちょっとおいたがすぎますの」

「え、なんのことですか」

「この人は本当に……」

 

 溜息をつく黒子。

 だが、そちらを見ることも無く春上はフェブリの方を向いた。

 

「さよならなの、フェブリちゃん」

「さよならえりい!」

 

 春上まで名前で呼ばれたことで、美琴は露骨にショックを表情に出す。

 それを知ってか知らずか、春上は笑顔を向けたまま去っていく。

 道を曲がって見えなくなると、涙子の片手をフェブリが掴む。

 

「ん、行こうかフェブリ」

「うんっ♪」

「じゃあ反対側は私が繋ぐわね」

「キャンディ持てなくなっちゃうんで無理ですよ」

 

 そんな涙子の言葉に、固法がハッとして顔をしかめた。

 そもそも両側から手をつなぐなんて宇宙人を捕獲した時か親子ぐらいだ。

 顔をしかめた固法を見て『そんなにフェブリと手を繋ぎたかったのか』と苦笑する涙子。

 

「代わりましょうか?」

「そういうことじゃないのよ、佐天さん……」

「え?」

 

 なにを言いたいのかいまいちわからない涙子が首をかしげる。

 そんな涙子を見て、黒子は深い深いため息をついた。

 

「本当に佐天さんはポンコツですの」

「ひど!?」

 

 

 




あとがき↓  ※あまり物語の余韻を壊したくない方などは見ない方が良いです。















よっし、月一は守れそう!
フェブリ編は長いからガンガン進めていきたいところ
とは言いつつここらへんはあんまりストーリーに変化がないんで覚えてる人にとってはあまり楽しくないかも?

変化はこっから……たぶん(小声)

そんじゃ次回もお楽しみにー

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