なんということでしょう!
この佐天涙子の不覚、まさか初春がこんな日に休みだなんて、ほんと勘弁してよ~。
大きくため息をついてから先生の話に耳を傾ける。ここで私が隠された能力を持つレベル5ぐらいなら『教師は今日もくだらない雑音をたれながしている……』とか言えたのに。
てか紅魔館行ってから私は人の話を聞きながらほかのことを考えることができるようになった気がする。
なんという微妙な才能。
「佐天!」
「はい」
私は反射で紅魔館に居た頃のように返事をして立ち上がってしまう。
まるでレミリア様相手にやっていた時のように、凛々しくしてしまったものだから先生はおろか教室中のクラスメイトたちも私の方を驚いた顔で見ている。
あぁ~、つい癖で……最近帰ったら紅茶汲んじゃったりとかもう癖が抜けなくて抜けなくて。
どうにもクラスメイトたちの視線が気になる。
「あぁ~えっと、今の話を簡単に」
「え~
私が喋りはじめた途端、チャイムが鳴った。
「じゃあ佐天は最近真面目に能力の授業を受けているようだから今回はこれぐらいにしておくとしよう。では」
そのまま授業は終わって、ついでに六限目であったこの授業が終わったので帰れるというわけなのだ!
あぁ~ダルイ~!
昨日勉強してて助かったぁ。それに量子力学とかシュレディンガーとか聞いてもパチュリーさんが軽く話してくれた思い出があるから少しだけ思い出すし、余裕だねこれ!
とりあえず初春に色々届けなきゃいけないし、行こっと!
あっ、木山先生と重福さんからまたメール入ってる。
初春の家に行く途中、御坂さんと白井さんと会ってかき氷を食べたりした。
それにしても白井さん関節キスがしたかったなら別の味にすれば良かったのにほんと、まぁ私は間接キスがしたかったから別のにしたわけでもないんだけど……フランは同じもの食べてるのにあーんしたがってたなそう言えば、まぁ495歳児だしそんなよこしまなことは考えてないと思うけど。
なんて考えてれば初春が住んでるマンションの初春の部屋の前に来てた。
そう言えば入ってって言ってたっけ?
「お邪魔しま~す!」
礼儀として私がそう言うと、御坂さんと白井さんも一緒に家へと入る。
とりあえず初春に軽く片手を上げて挨拶をした後にキッチンを借りることにした。二人にお茶を出して、冷たいタオルをつくって持って行く。
居間に戻ってから体温計を出すと二段ベッドの上に寝ている初春の体温を計った。辛そうな顔をしている初春。
「まぁ微熱だね。もうお腹出して寝ちゃダメだよ初春?」
「佐天さんが毎日スカート捲るからですよっ」
おっとこれは良い返し。
「そりゃ私は親友として毎日初春がちゃんとパンツ履いてるか気になるじゃないですか、ねぇ?」
御坂さんと白井さんに同意を求めると苦笑して顔をそらす。
いやいや、白井さんと大ちゃんにだけはこの話はその反応を受けたくない。侵害である。
「ちゃんと履いてます! 毎日っ!」
「はいはいわかったから、ほら、病人は大人しく寝てなさい」
御坂さんにそう言われたけどどこか納得いかなさそうに初春が横になった。
「とりあえず、晩御飯作ってきてあげるね!」
私はそう言ってから二段ベッドに上るための階段から降りてキッチンへと向かう。
居間の隣りだしお互い姿も見えるからネギを切りながら私は初春と白井さんと御坂さんの会話に聞き耳を立ててみる。
どうやら初春は
まぁそれに関しては私は“それほど”関係ないので口を出さない。
あの犯人がレベル2だということに関して話をしてるみたいだけど……なるほど、レベルを上げるアイテムがあると思った固法さんが私に情報集めをもちかけたのはまだまだ確信が持てなかったからというわけですね。
うかつにそのことを白井さんや初春さんに話すわけにも行かず私に話したと、なるほどなるほど……でもそんなことせずとも二人は感づきそうですけどね。
「
まぁとりあえず私が話を切り出してみることにした。たぶん初春に頼んだほうが速いだろうと思ったからこそ、だ。
ネギを切り終えて土鍋にお米と水と具を入れていく。
向こうから白井さんの『レベルを上げる?』という声が聞こえてきた。
「まぁ都市伝説なんですけどね、噂の中身もバラバラなわけのわからない都市伝説。一番信憑性のない都市伝説だと思ったんですけどね。まぁ最近の事件は多いですよね“登録レベルと事件内容が食い違った”事件っていうの?」
「佐天さん、勘がよろしいのですね。って思い出しましたわ! 問い詰めようと思ったのですけれど固法先輩が『今回は佐天さんに協力を頼んだから』って言ってましたがいつの間に知り合ったんですの!?」
ひゅ~あの人も面倒なことしちゃって、あぁ~どうしよっかなぁ~。
初春も起き上がって驚いた顔してるししょうがないか、とりあえず前回固法先輩と一緒に重福さんを捕まえた話をする。
あくまでも重福さんを捕まえた話だけで不良を倒した話まではしない。したくない。
個人的に戦力にカウントされるようなことをしてないし御坂さんや白井さんの方がもっとうまくやっただろうし。
「なるほど、だから知っていたのですね。それにしてもなんで佐天さんを……」
「そう言えば
そう言うと、初春がなにやらパソコンをいじりだした。
白井さんは私を問い詰める気満々のようなので早くして欲しいけど、ってもうできたのか速い。
「これじゃないですか!?」
「それ!」
素性はわからないけど溜まり場はさぐれたようで、ってジョナGじゃん!
たぶん来るのは夜だよね。それまでは張り込みしてればイイのかな?
無能力者だけど足でまといにはならない自信あるし!
「ありがとう初春さん! 行ってみるわ! お大事にね!」
そう言って走り去ってしまう御坂さん。
「お姉さま、んもぉ! 佐天さん、この件はまたしっかりと問い詰めさせていただきますわよ!?」
面倒だなぁ~とか思ってたら白井さんも離脱。
とりあえず私はため息をついてから立って、エプロンをつけておかゆを見る。
大丈夫そうかな? って初春ベッドから降りてきてるしぃ。
「固法先輩とそんなことしてたなんて」
「まぁ一昨日に初春を迎えに行ったんだけど居なくてねぇ、それで」
「……最近佐天さんが変わったのって、その左目は関係あるんですか?」
……初春って変なとこで鋭いよね。
私はそっと眼帯を外して、机の上に置く。
紅い左目が初春には見えてるんだろうけど、私にはまったく変わりがわからない。
その左目で見る初春は少しばかりさみしそうにも見えた。
「なんだか最近、少し距離を感じちゃって……」
風邪だから多分人肌恋しくなってるんだよね。
そっと初春の手を握る。驚く初春だけど、私も案外暖かい初春の手にびっくりした。
といより熱いってことは、やっぱり熱が少し上がったんだと思う。
「大丈夫だよ、この眼はちょっと酷い充血だから」
ごめんレミリア様、まぁ勘弁しといてください。
「御飯作ったら私も行くね」
そう言ってから手を放すとおかゆを仕上げることにした。
少し具材を豪華にしてみたりして、あとはもう一度初春と色々話をすることにする。
どうせジョナGに集まるのだった夜だから、その時にあの二人に合流すれば良いからね。
しばらくは初春と一緒に居ようと思った。
夜、私はジョナG周辺を見てあの二人が居ないことを確認すると中に入ることにする。
とりあえず中学生だとバレないようにタンクトップのシャツとジーンズ、それに薄いタンクトップのジャケットを着てきた。
最大限気配を消しながら入って店員さんには『待ち合わせしている』と言ってから、そっと周囲を確認。
とりあえず白井さんを見つて白井さんの隣りに座った。
「なっ、佐天さ―――むぐっ!」
「シーッ……御坂さんは、交渉中ですか」
私は白井さんの口を一度塞いでからそっと御坂さんの方を見る。
うっわ~すっごい演技派なんだな御坂さんって、お兄ちゃんって……ぶふっ、やばい笑いそう。
ここは我慢して後ろの話に聞き耳を立ててみる。
「佐天さん、貴女は一体なにを考えてますの、とくに固法先輩から頼られるほどのことが貴女にはっ」
「だから静かにしてくださいって、というより御坂さんは大丈夫でしょうけど……寮の方は大丈夫ですか?」
そう言うと、一瞬で顔を青くする白井さん。すこし恨めしそうに私を見る。
おぉこわいこわい。とりあえず白井さんをなんとかしなきゃならない。あの人たちから
白井さんがお金を私に渡した後、テレポートで店内から出て行く。
一方の御坂さんは、ほぉ正義のヒーローとは意外……てか例の上条さんじゃん!
あぁ、男の人がトイレからいっぱい出てきて、逃げたぁっ!?
男の人たちも上条さんを追って出て行く、そして御坂さんも追って出て行く。
ファミレスの席に残った男の人が一人、あの人数分払うのかぁ……たく、しょうがないかなぁ?
「あの~お兄さん?」
「えっ、あ?」
少しガラが悪くてこういう人は苦手だけど、しょうがないかぁ。
「さっき
「ダメダメ、さっきへんなのに当たったばっかだし!」
むぅ、普通にガードが硬いなぁ。まったく!
じゃあここは佐天さんもねばっちゃいますよ。
「私、無能力者でレベル0の烙印を押されてて……だから少しでも強くなりたいんです。ここのお代半分持ちますから!」
最後の一言で、男の人はぴくっと反応した。ふふふっ、体は正直よの~。
少しだけ気まずそうにして男の人は私の方を向く。
大丈夫ですよ。私は無害ですよ~。
「わかった。ついてこい」
そう言って私にお代の半分を出させた挙句話題の一つも上げずに黙ったまま私と男の人は路地裏へとやってきた。路地裏と言っても少し広くて集まるには丁度良いんだと思う。
ついたそこにいたのはさっき上条さんを追って行って挙句に御坂さんにおわれていた不良の方々、たぶん無能力者じゃないからスキルアウトとは私は呼ばない。
そんな不良の方々は私を見て露骨に嫌悪感を現す。
「さっきのJCみたいに能力持ちかテメェ、なんのつもりできた?」
「私はただのレベル0ですよ、ほんとです!」
ついつい感情を込めて本気で訴えてしまった。
だけどそれが余計に悪かったのかもしれない。男の人の一人が近づいてきて私の左腕を掴んだ。
そのせいで、私はつい敵意を持っていたその相手に対して右腕でその相手の腕を掴んで足に蹴りを入れてしまった。勢いのまま回転して、その男の人は倒れた。
あぁ、ヤバ……。
「てめぇ! さっきの女はレベル4クラスぐらいだから負けたけど、てめぇみたいな“無能力者”に負けるかってんだ!」
……。
「今の私は、少し危ないですよ?」
片目だけで、充分。一瞬で片付ける。
無能力者だって、努力してここまでできるってことを見せて上げるっての!
結果、私は全員を片目で片付けた。
結構体力を消耗したけどレベル2から3クラスの人たちを倒せたんだから充分って言えると思う。
さすがに
よし、後はこの人たちにレベルアッパーのことを聞けば良いんだけど……。
「随分と地味にやってくれたじゃないか」
女の人の声と足音が聞こえて、そちらに視線をやる。
「あ、姉御……」
「おい、お前たち、あんな嬢ちゃん一人に相手に何やってんだ?」
うわぁ、恐いっす。
「イライラしてたからって女に当たろうとしやがって……」
「で、でもっ」
言い訳しようとした人を引っ叩いた。
超恐いですよ姉御さん、さすがの私もこれ以上はご遠慮願いたいね。ていうか最初から見てたならその時に止めてくれればいいのにっ。
口答えかいって、いつの時代のスケバン。てか埋めるってリアルに恐い。
ぞろぞろと男の人たちが立ち上がって、座り込む姉御さんの背後に並ぶ。
「あの、悪かった」
「そうじゃねぇ!」
もうやめたげてよぉ。
「本当に、サーセンした!」
「サーセンしたッ!」
並んで謝ってくる男の人たち。
頭を下げるその姿はもう、勘弁してやってくださいという感じだ。
私もちょっとした“発現”にイラッとしてやりすぎちゃったし。
「これでけじめはついたろ? 許してやってくれ……お前ら! もう帰んな!!」
いやほんといつの時代よ、男の人たちはたったか帰っていく。
てか笑えば結構可愛いのにどうしてそんな仏頂面……とか思ったり。
少しづつ私に近づいてくる姉御さん。
聞こうと思ってたことを忘れてたので、私は話を続ける。
「貴女があの人たちのトップですよね、
私はできる限り紅魔館に居た頃のように丁寧な言葉で聞いてみる。
いや、紅魔館に居たときでも滅多にしなかった。紅魔館で教えられた社交的な笑みと態度で聞いたみたというだけ。
「そんなことより、あたいの舎弟を可愛がってくれたんだ。覚悟はできてるんだろうね?」
「へ、覚悟ってあの……さっき謝ってくれたんじゃ?」
「あれはあれ、これはこれ、借りはきっちり返さないとね……」
まったくもぉ、面倒だなぁ!
「いくよ!」
来なくていいから!
地面に手をつく姉御さん、つまりは能力は地面を伝ってくる系か地面を操る系。
そして手の周辺からわずかに波紋のようなものがアスファルトを伝ってくるのを理解できた。
地面の感触が少し変わった!?
「もぉっ!」
地面を蹴って真上を通ってるパイプに両手で捕まると、真下のアスファルトが波打っているのが見える。
さっき男の人の一人が落としたアクセサリが地面に飲み込まれた。つまりは地形操作ってことで、呑気に地面にいなかったのは正解ってことなわけだ。
しょうがないか……。
私は両手で上のパイプを掴んだまま両足を振って振り子の原理で勢いをつけてから、クルンと回ってパイプの上に立つ。片手を壁についてないと落ちそうだからそうしておく。
「やるじゃないか、無能力者とは思えないよ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
私は軽く飛んでから少しひらべったいパイプに降り立つ。足場が安定しているので少し安心だ。
「あたいの能力は
「ご丁寧にどうも」
でもどうすれば良いか、こうなれば私ができるのは遠距離攻撃とわずかにあるタイムラグを利用してまだ融解させられてない背後を取るということだけ、でも姉御さんと私の距離は5メートルほど、ここからジャンプで彼女の背後を素早くとって攻撃を加えるなんてことは、できないよね。
じゃあどうするか、ジャンプという選択肢を消しても見つかる選択肢なんて、いや一つだけないことはないけど、成功率はかなり低い。
「あぁもう、面倒だなぁ~」
「ハッ、じゃあ負けを認めるんだな」
「私が勝ったら
そう言ってから、私は片目の眼帯に手を当てて、外す。
ポケットにその眼帯をしまってから、同じくポケットの中に入っているお守りをギュッとにぎった。
おまじない。大丈夫、私は勝てる。
「なるほどね、その目は見えるのに隠してたってわけか?」
そう、この綺麗な紅を隠すっていうのはレミリア様に悪く思うけど私を心配する人がいるから私はこれを隠すしかない。
調べられでもして厄介なことになるのも大変だから、だからこそ私はこの眼を見せたくない。
でもそんなことを言ってられる状況でもない。
「それで勝てると思われてたんじゃ、あたしも舐められたもんだね! この
私は不思議と口の端をつり上がってしまうのがわかった。
こう正々堂々した人は嫌いじゃない、むしろ好きな方で楽しくてしょうがない。
そう、この手の人に手加減は侮辱にあたるし、この人は筋の通った人であるのは確かで……。
なら私が本気で戦う以外、あの人を倒せることはない。
「ならば私もこの紅魔の魂を持ちいて全力を持ち貴女を倒しましょう!」
ジャケットの前のボタンを開けた。このジャケットには少し改造がくわえてあってですね……内側にポケットを作ったんですよ。
それもナイフを収納できるようにね!
職務質問されれば一発でOUTなそのジャケットの内ポケットからナイフを一本出して投げる。
「なっ!」
姉御さんは驚きながらもアスファルトの壁を出して私のナイフを防ぐ。
やはり! ならこの勝負は私がいただきましたよ姉御さん!
私はアスファルトの壁へと飛んでから刺さっているナイフの柄を掴む。
そのままアスファルトの壁を蹴ってからもう一度パイプの上に立つ。
壁が地面へと沈むと、姉御さんは私を面白そうに見てくる。
「ハッ、さっきと全然違う感じだね。気迫だけで充分あんたが実力者だってわかるよ」
そう言っていただければ光栄ですわ姉御さん?
さぁ行くよ……でもその前に次の攻撃を待つ。
姉御さんが地面にもう一度手をつくと、パイプの真下のアスファルトから黒い筒が飛び出してくる。私は鉄パイプを右に移動してその黒い筒を避ける。
笑ってる姉御さんを見て、なんとなく理解した。
左目の眼帯を外してて良かったと思った。左の鉄の筒から私の方にのびる筒をさらに避けてから、跳ぶ。右横の壁を蹴って、左に跳びながらジャケットの内側にあるナイフを何本も投擲した。
でも姉御さんはアスファルトの壁を出してナイフはすべてアスファルトの壁に突き刺さる……私の勝ちだね。
空中で勢いだけで体の方向を変えてから、さらに左横の壁を蹴ってからアスファルトの壁の方へと向かう。
すぐにアスファルトの壁にささったナイフの柄を、足で蹴る。そのまま刺さったナイフの柄を蹴って壁を登っていく。
あたいったら天才ね! あっ、そういや姉御さんってチルノ思い出す、ねっ!
壁に刺さったナイフの柄を使って壁を乗り越えた私は、ジャケットの中にある最後のナイフを持って姉御さんに背を向けたまま背後に着地、そのままクルッと身をひねってから私は姉御さんの首元にナイフをそえた。
「チェックメイトです」
「……あたいの負け、か」
こうして、私は路地裏をボロボロにして姉御さんに勝つことができた。
代償はここにつくまでに払ったあの人たちの食事代半分。
ナイフはとりあえず回収させてもらうとしても、とりあえず
その後、私は
これで今度会った時も恨まれることはないと信じたい。まぁ姉御さんはそんな人じゃないだろうけど……。
帰り道の途中、前の方から走ってくる上条さん。
「どうしたんですか?」
「あっ、君はぁ……デパートでビリビリと一緒に居た」
「佐天ですよ。佐天涙子」
そうだそうだ。と思い出したように言う上条さん、とりあえずどうしたか。
「あぁビリビ……御坂に追われてるんだかくまってくれ!」
あの人ももうちょっと素直になれば良いのに、と思いながらしょうがないので私は上条さんの手をとって目の前のマンションみたいな寮へと入る。ていうかこの“停電”も御坂さんのせいか……派手にやったね。
御坂さんもさすがにここまでは追ってこないだろう。私はそのまま階段を上がって自分の部屋の前に立った。
鍵、鍵っと……あれ、普通に来ちゃったけど。
「あっ、ごめんなさい。ほぼ無意識のまま連れてきちゃいました」
上条さんまで私の部屋の前にいた。
まったくの無意識、これ御坂さんに知れたら私殺されるんじゃなかろうか?
というより考え事とかもあるんだけど、まぁ良いか。
「上がって行きます?」
「え?」
「お茶ぐらいだしますよ、夜中ですし晩御飯ぐらい作りますけど……」
そう言うと、悩むような様子の上条さん。
しかし結果的に上条さんは誘惑に負けて私の家に上がっていくのだった。
座っている上条さんに紅茶を出してから、私は晩御飯を軽く作る。
今日の晩御飯は麻婆豆腐。煮えるまで暇なのでポケットにしまったアレを出す。
眼帯はすでにつけているのでポケットにお守りの他に入っているのは私が先ほど姉御さんからもらった“
まさか音楽プレイヤーごとくれるとは思わなかったけど……というか
「これがあれば、私にも能力が……」
なんてつぶやいてみる。
「なあ佐天さん?」
「わひゃぁっ!?」
驚きながらそっちを見ると、上条さんがこちらを見ていた。
「いや、上条さんにも手伝えることあるかなって……」
「あ、あはははっ、大丈夫ですよ後は煮えるのを待つだけなので!」
「そうか?」
「はい、お客さんなんだから待っててくださいよ~」
それから、私はレベルアッパーのことは一旦忘れて上条さんと晩御飯を食べてから色々話をしていた。
例の“停電”のせいで明かりは少ないけど、話をしているとつい無能力者あるあるで盛り上がってしまう。
厳密に言えば上条さんはただの無能力者じゃなく、私も最近はただの無能力者じゃないけどレベル0という立場でどういう扱いかは大体同じ。
話が盛り上がり、時は過ぎていき12時を超えていた。初春とでもこうならないよ、たぶんレベル0の人と話すのが久しぶりだったから私が勝手に盛り上がっただけだろうけど……。
そうこうしている内に時間は12時ぐらいになった。
「やべ、そろそろ帰らないと」
「別に泊まってっても構いませんよ? 布団出しますし」
問題としては御坂さんに殺される可能性があるだけだ。
「いやいや、さすがにこの上条さんだって一人暮らしの女の子の部屋に泊まるのはってことで!」
そう言うと上条さんは玄関へと向かう。
私もさすがにこの時間まで話し込んでしまったのは悪かったので玄関までは見送ることにした。
「じゃあ、おやすみなさい」
「うん、それじゃあまたな佐天さん」
そう言って上条さんは帰っていった。
まぁ私としても無能力者仲間なんて周りには初めてだからつい嬉しくなっちゃったんだと思う。
男の人と話してここまで仲良くなったのは初めてだけど、上条さんだし問題ないとか思ったのはたぶんあの人には妙な安心感があるからだ。
とりあえず
じゃあ、寝ますか!
あっ、上条さん財布忘れちゃってるし……後で連絡しよ。
◇◇◇◇◇◇
そしてこの時の“私たち”はまだ知らない。
明日、どんなことに巻き込まれるかも、知らない。
まだ科学の真実はおろか“魔術”すら知らなかった頃の私や上条さん。
そして、この学園都市がどういうものかまだ知らない私や御坂さん。
魔術と科学が交差する時―――物語は始まる。
あとがき
なんか仲良くなった二人!
さてさて、次回はあの子が登場でござるな! ようやく、ようやく、もう一つの本編がはじまる!
ともかく佐天さんをフル強化したので結構頑張ってもらうとするでござる。
佐天さんは姉御さん相手が限界でござるな。これ以上相手が強いと一人じゃどうしようもない状況でござる。
あと次回は木山先生とも再開! なんかオラワクワクしてきたぞ!
では、次回をお楽しみにしてくださればまさに僥倖ォッ!
PS
みなさま感想ありがとうございますで候。
拙者の執筆の支えになっているでござるよ。
次回から魔術も絡むのでござるが、これからもよろしく願えればまさに僥倖にて候。