この素晴らしい願い事に奇跡を!   作:赤福餅

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21話

 勇者御一行と勝負してから一週間が経った。

 

「これまでバイトでしたから、口出しは控えてきましたが――もっと扱いやすくお手頃価格の、まともな魔道具を仕入れましょう、ウィズ店長!」

 

 絶賛勤労少年とんぬらは、『このぼっちの少女に友達を!』よりも難易度が上かもしれない問題に突き当たっていた。

 

「う、うう、とんぬら君、私としては、これは冒険者にオススメ! と思って仕入れてるんです。品質も良いものばかりなんです」

 

「品質が良くても変な方向に進んでるのばかりじゃないですか。はっきり言って、最初からバイト代がもらえるとは全く期待していませんでしたが、これじゃあ店が潰れますよ! 初めてここを訪れたときからよく今日までもってるなと本気で不思議に思います!」

 

 一応店長のウィズに、とんぬらは算盤で弾いた店の現状を突き付ける。

 

「ウィズ店長は友人の夢を叶えるためにお金を稼ごうとしてるのでしょう? だったら、意識を改革しないと! そうです仕入れ先がおかしなのばかりだからいけないんです。お得意様を増やしましょう! 何だったら、紅魔の里のまともな魔道具職人やポーション工房との取引先を紹介しましょうか? ゆんゆんは族長の娘ですし、俺も時々人手の足りないとき応援のバイトで入って気に入られてましたから、ちょっとお値打ちですが質の素晴らしい紅魔品質を、身内交渉でいくらか割引してもらえるかもしれません」

 

「それなら、ひょいざぶろーさんという凄腕の魔道具職人をお願いできないでしょうか? あの方の製作なされる素晴らしい魔道具の数々にはとても私胸を打たれまして! ぜひとも、当店と良いお付き合いをさせていただきたいと思ってたんですよ! 一度里まで訪問したことがあるんですが、その時はあいにく留守でして……」

 

「ウィズ店長、俺はまともな魔道具職人といったんです。奇天烈発明家ではありません」

 

 ウィズの店でバイト。

 

 駆け出しの街ながら上級者向けの魔道具が置いてあるここを商売繁盛にすれば、駆け出しの街にいる高レベル冒険者、つまり、最年少の『ドラゴンナイト』がやってくるのではないか……とゆんゆんが考えたのだ。

 

 その案を採用し、二日クエストで経験値稼ぎして、一日休むというサイクルの冒険者生活の空いてる時間にほぼボランティアなバイトをすることにした。

 半年間の共同修行にクエストでの経験値稼ぎにより、着実にレベルを上げるゆんゆんは、一年後を予定していた上級魔法をあと少しで習得できるところまできていた。またウィズの『アークウィザード』にとってためになる話を聞いてるようで魔法使い冒険者としても成長してきている。良い師弟関係を築いてるようだ。

 

 だが、この貧乏店長の頑張って働くだけ赤字になるという、マイナス方向に突っ切ってる商才を舐めていた。

 

「本当にここまでの難題だとは思わなかった……せっかく、爆発コーナーを売り捌けたと思ったら、また次が来るなんて……ひょっとして、あれはまだ四天王の中では最弱とか、そういう勝てば勝つほどインフレが進んでいく展開と同じなのか?」

 

 爆発ポーションを使った派手な宴会芸のセールストークで一定の売り上げをあげてみせたとんぬらだが、この実戦にも利用できる爆発芸で稼いだお金が、次の日にはより癖のある魔道具に変わっていた。

 『この貧乏店主に黒字を!』は、根本的に店長をどうにかしないと無理だ。

 

「魔法使いとしては本当に尊敬できるのに……もうこれは、ウィズ店長には何もやらせず、素人でも俺が経営した方が上手くいくんじゃないか」

 

「それはひどいですよ、私だって店長なんですよ! 魔道具屋としての目利きは鍛えてきてるんですから! ほら、新しく仕入れたこれ!」

 

「え、何ですかそのチョーカー! 格好良いですね!」

 

 それまでせっせと店掃除をしていたゆんゆんが反応した。

 ウィズがテーブルの上に置いた新商品を、横からゆんゆんが手に取る。

 

「これは、『願いが叶うチョーカー』と言いまして。10万エリスで売り出そうかと考えてるんです」

 

「また、随分と強気ですね……でも、願いが叶う、ですか。幸運値が上がるのなら俺もひとつ欲しい、ところですけど、一体どんなクセがあるんです?」

 

 店長とバイト少年が話してる横で、バイト少女は、ぽつり、と。

 

「願いが叶う……ちょっと、試してみようかな」

 

 誰に見られることなく、チョーカーを首に装着した。

 

「この『願いが叶うチョーカー』は、願いが叶うまで外れない上に、日を追うごとに徐々に絞まっていく魔道具なんです」

 

「呪いのアイテムじゃないですか!?」

 

「違います! これは死ぬ気になるほど頑張れるという人をやる気にさせるものなんです!」

 

「それ願いを叶えるのは魔道具の力ではなくて自力でやれってことですよね! いえ、自力で叶えるのは神主として推奨していいとは思うんですが、これできなかったら死ぬ気じゃなくて死にますよね!」

 

 え……?

 その小さな声だが少女の声を拾った二人は、ゆっくりとその方へ頭を向け、チョーカーを付けたゆんゆんを発見。

 

「ゆんゆん! 俺がウィズ店長のおかげで説明書は二度読むようになった話を聞いてただろ!」

 

「だ、だって、願いが叶うっていうし、めぐみんもチョーカーしてたからお揃いで……だから、ちょっとくらい試してみてもいいかなー……って」

 

 肩を掴んで思い切りこの能天気な少女を揺さぶるとんぬら。

 『願いが叶うチョーカー』

 付けた本人の願いが叶うまで外れず、しかも日ごとに締まっていく装飾品。値段は10万エリス。

 

「た、大変です! これは一度つけたら、絶対に外れないんです! 『アークプリースト』の解呪魔法でも外れないと製作者が豪語して……このままだと四日後に……」

 

「その頭のおかしな製作者と取引するのは今後一切止めましょう」

 

 こんな阿呆なことで、ゆんゆんが命の危機に。

 品質と価格だけでなく、この貧乏店主の頭には安全基準も設けないとダメなのか。

 ひとまず、頭を冷静にしたとんぬらは、ゆんゆんの方を掴んだまま、目をまっすぐ見て、問う。

 

「俺にできることなら、なんだって手伝ってやる。そのチョーカーを外すために全力を尽くすと誓う。だから、ゆんゆん。願いは、なんだ? ……言ってくれ」

 

 間近で見つめられるゆんゆんは、テレテレとしながら、とんぬらを見つめ返し、

 

 

「その……。えと……早く大人になりたい、かな?」

 

 

 もしかして、13歳にして人生の崖っぷちに立たされたのは、こっちもなのか?

 この急展開は、まだ一年以上はあるはずの猶予期間すら与えてくれないのか?

 

「わかったわかった。一人前の紅魔族として上級魔法を覚えたいんだな! そうだな! そうだよな! よーしレベル上げに頑張っちゃうぞ! 今日中に上級魔法スキルを覚えさせてやる! 今日は宿に帰らず連続狩猟クエストだ! 冒険者としても一人前になるぞ!」

 

「え……」

 

 パートナーに上級魔法スキルを四日間で習得することを強いられる。そういうことにしよう。

 そして、とんぬらはゆんゆんの腕を引っ張って、冒険者ギルドへ向かおうと――したところで、爆発音。

 街全体に轟く地響きに強烈な魔力の波動。ここ数日発生するこの現象に、とんぬらはブルブルと打ち震え、

 

「あの、天才バカは、今日もまた……!」

 

 次から次へと……!

 とんぬらは迷惑をかけてるだろう門番のいる方へと駆けだした。

 

 

 ♢♢♢

 

 

 爆裂魔法使いが駆け出し冒険者の街に引っ越してきてから数日、一日として欠かさずパーティクエストを頑張った結果……冒険者ギルドの掲示板から、魔法使いを求めるメンバー募集が貼り出されなくなった。

 

 本来、才能が必要とされる魔法使い職は他の職業に比べて希少であり、その分需要も高い。はずなのだが……

 それもその土地の生態系を変えてしまうような外来種の如く。爆裂魔法使いが、『アクセル』という環境に多大な影響、もとい迷惑をかけているからである。

 

「弁明を聞こうか、めぐみん」

 

 冒険者ギルドの隅の席。取り調べをするように、昼ご飯を脇に置いて、この今日も引き取りに行かされた同郷の娘にとんぬらは詰問する。ここのところ追い詰められる展開が続いてるせいか、やや気が立っている。

 

「どうして、街のすぐ近くでカエル相手に爆裂魔法を使って、門番の人に迷惑をかけた」

 

「それは、爆裂魔法使い差別をされたからですよ」

 

 魔力切れの気怠い身体ながら飯に伸ばそうとするめぐみんの手を、ぺしっととんぬらが軽く鉄扇で叩き落す。

 

「あんた、一発芸専門の爆裂魔法使いがどれだけ扱いづらい人材なのか自分でもわかってんだろ」

 

「ですが、それでも私を見ただけで掲示板に貼り付けていたメンバー募集を慌てて引っぺ剝がしたんですよ! 魔法使い募集! 使える魔法は不問! と紙に書いておきながら! このギルドの冒険者総出で私はハブにされているのです! 同じ紅魔の里の者として、天才と呼ばれたこの私が、いらない子扱いされてるのを黙っていられるのですかとんぬら!」

 

「つまり、不採用されたときと同じ鬱憤晴らしか。色々と話は聞いたが……最近、爆裂魔法を操る紅魔族の娘が、モンスターを見ると、周りを考えずに出会い頭に魔法をぶっ放す、頭のおかしい奴だって言われたな」

 

「誰ですかそいつ! その喧嘩買ってやりましょう! この私の頭がおかしいかどうか、私の魔法を見た後もそんな悪口が言えるかどうか、試してあげます!」

 

「やめい! あんた、爆裂魔法だけでなく、喧嘩っ早い性格まで扱いづらいじゃねーか! さっきも引き取りに来た時も守衛の人からいい加減にしてくれと俺が怒られたんだよ!」

 

 最初はひとりで頑張らせてやるべきと放任しておいたのが間違いであったか。

 とんぬらは顎を組んだ手の甲に置くポーズから、頭を抱えるポーズに移行する。そして、めぐみんは魔力補給にと奢り飯にありつく。そのとき、とんぬらの隣に座るもうひとりの同郷に目を向け、

 

「なんですかゆんゆん。首輪など付けて……まさか、ペット宣言ですか? ついに子猫ちゃんに調教されたんですか? 猫耳よりは目立ちませんが、レベルが高いですね」

 

「ち、違うわよめぐみん! これは『願いが叶うチョーカー』で、とんぬらのものになったとかそういうのじゃ……ないから、ね」

 

「私は別にとんぬらのだとは一言も言っていないのですが。しかし、自分で言っておいてなんですか、この子、満更でもない反応してますよ。ええ、まあ、二人のお付き合いに私は口出ししません。……さて、あとで里に報告する内容が増えましたね」

 

「頼むから勘弁してくれ色々と……」

 

 ついに手のひらで泣きたくなる顔を覆ってしまうとんぬら13歳。

 今や心境は攻め落とされた城を明け渡し、切腹を迫られている城主だ。

 

「そのチョーカーは、願いが叶うまで外れず、日ごとに徐々に首を絞めてく呪いのアイテム同然の魔道具でな。店長が解除法を製作者に問い合わせてくれているが、そのせいでこれからゆんゆんを大人に……上級魔法を覚えた一人前の紅魔族にしないといけない」

 

「う、うん……族長の娘として修業するためにも里を旅立ったんだし……」

 

「ゆんゆんが微妙に思ってるのと違うというような反応してますが、本当にその解釈でいいんですか?」

 

「まずそれを試してからだ。最後の手段というのは、最後の最後までダメだったら使うもんだ」

 

 お酒を飲むのも自己責任であるこの世界だが、一応ちゃんと成人基準はある。周りから如何に誘導されようと、簡単に流されちゃいけない一線はあるのだ。

 

「だが、めぐみんをこれ以上、ひとりで放置してやるのは不安だ。ああ、もうこうなったら二人とも面倒みるから、一緒にパーティ組んでクエストを受けるぞ!」

 

 そして、とんぬらは二人を連れてクエストを受けようとした、その時だった。

 

 

「おうおう、可愛い女二人も連れて、新人のクセにハーレムかよ! 羨ましいじゃねぇか、片方くれよ!」

 

 

 テーブルを離れて掲示板へ行く途中、へらへらと笑う戦士風の男が立ちはだかる。

 

「何か用か。こっちは急いでるんだ。どいてくれ」

 

 とんぬらが睨み据えながら男の前に立つ。

 それにゆんゆんが心配そうにするも、ここは冒険者ギルド。

 荒くれが多い冒険者にとって、この程度は日常茶飯事だ。新人が絡まれるのは、冒険者の洗礼と言っても良い。

 

「ああ? なんだその態度は? こっちは目上だぞ。モノを頼むときは、仮面を取ってそのツラを見せるもんだろ?」

 

「悪いな。俺はシャイで、人前でこれを外せないんだ。不快であれば謝ろう。だが、こっちにも敬うべき相手かどうか決める権利はある」

 

「てめ」

 

 とんぬらはこの典型的な三下の金髪男を避けようとするが、また割って入られる。

 

「表に出ろ! 礼儀のなってない新人には、指導してやらねぇとな! 女の前で恥かかせてやるよ!」

 

 街中での魔法の使用は原則禁止だ。喧嘩などに使えば警察に捕まる。

 そして、とんぬらの風貌から後衛職、それも魔法使いだというのはわかってるのだろう。

 魔法使いが剣での勝負で、バリバリの前衛職の戦士には太刀打ちできないことも。

 それを見かねて、男の仲間の女の子が止めようとするが、

 

「ねぇ、止めなよ。あんたの性格が歪んでるのは知ってるし、絡むなとは言わないけど、せめて相手くらい選びなよ。ウィザードに喧嘩売るのみっともないよ。私だって、魔法使いだからイヤなんだけど」

 

「うっせー、黙ってろ! 魔法使いだろうが冒険者なら荒事に慣れてねーとダメだろうが! だから、戦士の俺がわざわざ稽古をつけてやんだよ!」

 

 仲間の女の子のほかにもギルド内に顔を顰め、注意しようとする者もいる。

 それからゆんゆんとめぐみんもとんぬらに、

 

「とんぬら、相手にしてはいけません。私なら、何を言われても気にしませんよ」

「ほら、早く行こ。あの手の輩と付き合っちゃダメだよ」

 

 しかし、この手のチンピラの性質を知るとんぬらは嘆息して、

 

「わかった。一手ご指導願おうか、先輩殿」

 

 

 ギルド内の注目を集めながら、騒ぎの主達は建物の外へ出る。

 

「紅魔族は、売られた喧嘩は買うものだろ」

 

「そんなの知らないわよ! もう、どうして喧嘩なんか受けて……わざわざ相手にする必要ないのに」

 

「まあいいではないですか、でもとんぬら買った喧嘩は勝たなくては格好がつきませんよ」

 

 その間にも、ゆんゆんはとんぬらを止めようとしたが、めぐみんの方は応援に回った。

 

「ほれ、剣いるか? どうせ小さいナイフしか持ってないんだろ」

 

「結構だ。自前のがある」

 

 だらしなく崩れた姿勢で剣をだらりと下げるチンピラに、とんぬらは和装の懐より鉄扇を取り出す。

 

「……なあ、やる前にちょっと気になったんだけどよ。そこのちびっ子とお前さんら同い年なの?」

 

「そうだが。まだ俺達3人は13歳だ」

 

 そういうと、一気にやる気が下がったように肩を落とされた。

 

「つーことは、守備範囲外のクソガキじゃねーか! そこのヤツがやたら体が育ってるから声かけたってのに、あー、シラケちまったぜ!」

 

 今日初めて会ったチンピラ冒険者にクソガキと言われ、めぐみんと温厚なゆんゆんもいきり立つ。だが、そんな批難の視線も男にはどこ吹く風は、抜いた剣を腰の鞘に戻そうとした、そのとき、

 

「おい、何、勝手にやめようとするんだあんた。稽古、付けてくれんだろ」

 

「あ? シラケたっつったろ。やめだやめ。安心しろよ、俺は守備範囲外のクソガキには手出ししねーから」

 

「あんたの事情なんざ知ったことか。不躾な視線をぶつけただけでなく、俺の…マスターを侮辱されて、謝罪もなくはい終わりだなど認められるか」

 

 赤々と燃えるように輝く仮面の双眸。

 勝手な退場を許さぬと釘を刺す。

 

「それと、本来の得物に装備を変えろ。あんたの剣じゃ手本にならん」

 

「なに?」

 

「剣じゃなくて槍だろ。あんたの足運びや間合いのとり方は、この前見た『ランサー』と同じ。だけど、あんたの方がずっと洗練されてる。間違いなく、達人だ」

 

 槍という単語を聞いた男は眉をピクリと動かす。なんだか気まずそうに頭を掻き、

 

「俺は……――はっ、魔法使いのクソガキ相手に」

 

 バシッ! と。

 相手が言い終わる前に、一気に間合いを詰めたとんぬらが男の手にしていた剣を鉄扇で弾き飛ばす。

 

「咄嗟の動きがぎこちないし、反応が遅れてる。あんたに染み付いてるクセはやはり剣じゃないな」

 

「ちっ、お前こそ、魔法使いの動きじゃねーだろ!? 護身術の域を超えてんぞ!」

 

 鉄扇で強かに小手を打たれ、痺れた手の甲を摩りつつ、後逸する男。

 そして、仮面の奥の瞳孔が開かれた、人ではない眼差しを直視した。

 

「っ、その眼は……!」

 

 その眼光に射竦められたのか。それとも仮面の少年より放つ只ならぬ覇気を浴びたからか。

 

「――悪かった。これでいいか……」

 

 頭こそ下げはしないが、言葉少なに謝罪した。

 その駆け出しの街で悪名高い不良冒険者らしからぬ反応に周囲のギャラリーはざわつくも、そこへ噛みつくように男はガン付ける。

 

「おうコラッ! お前ら何見てやがんだ、見せもんじゃねぇぞ!」

 

 去っていく金髪男の背中を見て、一度瞑り、目の色を切り替えたとんぬらは鉄扇を仕舞う。

 

 

「かっこワル。『戦士』のクセに年下の魔法使いに瞬殺されて、睨まれてビビるなんて……ピエロも良いとこじゃん」

 

「うるせリーン。あんな怪物ルーキーだとは思わなかったんだよ。次は見るからに弱そうなのを相手にするぜ……。良い女たくさん連れた、最弱職のカモとかが来ねぇかなぁ……」

 

「はいはい。さっさとクエストに行くよダスト。テイラーとキースももう先に待ってる」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 最近の冒険者ギルドでよく聞く噂。

 元々、森に生息していたモンスターは、昔、そのほとんどが駆除され、それ以来、モンスターたちは森の奥深くに隠れて、街の傍には近寄ってこなくなった。

 それが最近、森の奥に隠れていたモンスターが街の近くにまで現れるようになり、それで、森が美味しい狩場として注目されている。

 だが、街付近までモンスターが湧きだした原因は、森に強大な悪魔が現れたからだという。

 

「つまり、その高額賞金首にもされてる例の悪魔を倒し、富と名声を手に入れるということですねとんぬら」

 

「違う。今日の爆裂魔法を使い切っためぐみんを連れて、悪魔退治なんてするか。あくまで今日は経験値稼ぎだ」

 

 変異種の仔豹を肩から地面に降ろしながら、とんぬらは否定する。

 つまり、今日やろうとするのは学校の野外実習の養殖と同じだ。

 

「でも、私たちの場合、森に入ると絶対その悪魔に遭遇すると思うんだけど……」

 

「俺もそんな気がしてきたが、フラグは立ててくれるなゆんゆん。ここが今美味しい狩場だというのは確かなんだから――と、めぐみん」

 

 森に入る前、とんぬらは卵ほどの大きさの液体の入った小瓶を三個めぐみんへ渡す。

 

「何ですかコレは」

 

「バイト先の店長オススメの空気に触れたら爆発するポーションだ。ビンが割れたら炸裂魔法くらいの威力で爆発するから落とすなよ」

 

 そういって、とんぬらは腰に巻いた専用の革のホルダーから、水ではなく聖水に濡れたら爆発する特注のポーションを紙に染み込ませた起爆札を一枚取り出し、ちょうど近くにいた緑色のスライムに向けて投擲し、刺さったところに鉄扇から水鉄砲を放つ。

 

「『花鳥風月・猫火鉢』」

 

 爆発が起こり、スライムの身体が四散し、蒸発。

 札一枚で、モンスター一体を一撃で倒せるだけの威力だ。そして、めぐみんに渡した瓶詰の方はこれの同等以上の威力がある。

 

「な……なな…………」

 

「だから、俺がモンスターの動きを止めるからめぐみんはそれを投げろ。落としたくらいじゃ割れないが、強く投げつければ割れる。これでモンスターを倒して経験値も入るし、多少はスカッとする。爆裂魔法ほどじゃないがな」

 

「なああああにいってるのですかとんぬら! そんなの当り前です! こんな邪道を爆裂魔法の代用品にしようなど、私は断じて認めませんよ!」

 

「わかったわかった。でも、投げ捨てるなよ。爆発ポーションは少々お高い消耗品なんだからな。それに、護身用の道具くらい持っておけ。爆裂魔法を撃った後のあんたは無防備で、モンスターや変な冒険者に捕まっちまったら、なにも抵抗できないんだから」

 

「くぅ……こんな紛い物に頼ろうなどと……」

 

「だったら、さっさと信用できるパーティを見つけるんだな」

 

 歯軋りするほど悔しそうにするめぐみんだが、とんぬらが言い聞かせたので、それを捨てることはしないようだ。

 

 鬱蒼と木々が生い茂る森の中を、とんぬらとゲレゲレを先頭にしてどんどん奥へと進んでいく。先程スライムに遭遇したが、それ以外のモンスターを見ることなく順調だ。

 

「こないだ私が森に来た時は、スライムだのモモンガだのが大量に襲ってきたのに、今日は何も出ませんね」

 

「モモンガ? この森にはモモンガがいるの? ムササビとかモモンガって、なんか可愛いよね」

 

「ゆんゆん、ブラッディモモンガは、獲物にマーキング用の尿をかける。それを浴びると、水洗いしても落ちない。一週間は強烈な臭いが取れなくなるから気を付けろ。ほら、めぐみん、この最近、帽子つけてないだろ」

 

「あ……」

 

「どうして、そこで私から距離を取るのですかゆんゆん! 私は臭くありませんよ!」

 

「ご、ごめん、つい」

 

「口で謝りながらも距離を戻しませんね。許しません。おしっこの臭いを擦り付けてやります!」

 

「だから、ごめんなさいめぐみん~~~!?」

 

「おい、忠告したのに遊ぶなよあんたら」

 

 じゃれ合い、前のとんぬらを抜いて走り出した二人だが、突然、茂みからがさりと音がして、足を止めた。

 ドンとぶつかるようにめぐみんが背中に抱き着かれたゆんゆんは、やや姿勢をよろめかしつつも腰から短刀と銀色のワンドを抜く。

 そして、藪から出てきたのは……

 

「か、可愛いっ……!?」

 

 目を輝かせて力の入った声で呟くゆんゆん。

 現れたのは、子犬くらいの大きさの、つぶらで愛らしい瞳をした、ふわふわの毛皮を持つウサギだった。

 ただし、額には角が生えている。見た目が可愛かろうが、立派なモンスターである。

 

「ゆんゆん、これはギルドの職員さんから特に気を付けるようにと注意を受けていたモンスター、一撃ウサギ(ラブリー・ラビット)ですよ。可愛いからって油断は禁物です、注意しながら狩りましょう」

 

「ええっ!? か、狩るの!? こ、この子を!?」

 

 ゆんゆんは涙目になるも、これはモンスターだ。油断は禁物。

 めぐみんは早速、とんぬらからもらった卵サイズの爆発ポーションを手に……

 

 

「きゅー……」

 

 

 できなかった。

 こてん、と小さく小首を傾げる、可愛らしいモンスターの愛くるしい反応。

 一撃ウサギは生まれたての動物のようによちよちと、覚束ない足取りでゆんゆんの足元に近づいていく。

 

「か、可愛い……! どうしよう、めぐみん、可愛い! この子、すごくかわいいんだけど! この子がモンスターだなんて何かの間違いよ! だってこんなに可愛いし!」

 

「しっかりしてください、職員さんが注意を促していたモンスターですよ、それに一撃ウサギなんて物騒な名前も気になります、油断は……」

 

 けれど、めぐみんが見つめる先で、小兎は赤目をウルウルとさせて、

 

「きゅー?」

 

 構ってくれないの? とでも言いたげに鳴いた。

 これを、撫で回せずにいられるか。

 抱き締めて、思い切り撫で回せずにいられるだろうか。いやない。

 

「ほら、野菜スティックがあるよー。おいで、おいで!」

「ズルいです、私にもエサをあげさせてください!」

 

 使い魔物の仔豹用に携帯してるおやつの野菜スティックを取り出す、すっかり陥落したゆんゆん。

 

「きっとこの子も、ゲレゲレみたいに調教すれば」

 

 飼えるはず、と言葉が続こうとしたゆんゆんだが、鼻先に差し出した野菜スティックになど、まったく臭いを嗅ぐこともなく、依然、よたよたとこちらに近づく。

 ひょっとして抱きしめてほしいのかな? なんて、考えが過ったゆんゆんの頭をひっぱ叩くような怒鳴り声が飛んできた。

 

 

「――迂闊にそいつに近づくなゆんゆんっ!」

 

 

 大声の忠告に伸ばしかけた手が固まり、ウサギの目がギラリと輝く。

 そして、ゆんゆんが反応するよりも早く肩を掴まれ、後ろに引き倒され――その一拍遅れて、頭めがけて白い何かが飛んできて、眼前に遮られた手に掴まえられた。

 いや。

 ぐちゅり、と肉を抉る音。

 掴まえたのではなく、手のひらを串刺しに貫かれたのだ。

 

「とん、ぬら……!?」

 

 右手を角で刺し貫いた一撃ウサギは、ジタバタともがくが、とんぬらは左手で首根っこを捕まえ、絞め落とす。ぐったりとしたウサギを手から引き抜いて、乱暴に投げ捨てたとんぬらは激痛を噛みながら、叫んだ。

 

「茂みの奥を見ろ! 一撃ウサギは、冒険者を油断させて襲う、安楽少女並みに性質(たち)の悪い殺人モンスターだって、学校でも教えられただろうが!」

 

 ガサガサと複数の音がする茂みの奥を覗く。

 そこには、真っ白なウサギたちが大きな何かに群がっている。

 さらに良く目を凝らしてみれば、それが穴だらけの狼モンスターの死体であることに気付き、そして、ウサギたちの血塗られていて、絶命した狼の屍肉を齧っている。

 つまり、肉食。

 

「『雪月花』! ――めぐみん!」

 

 利き手とは逆だが器用に左片手で開いた鉄扇を振るい、巻き起こした寒風でこちらに気付いた一撃ウサギたちの動きを一瞬凍えさせる。

 

「愛らしさを振り撒きながら、無害なふりをして不意打ちをしてくるなんて、えげつないモンスターですね!」

 

 そこへ、めぐみんがとんぬらからもらった爆発ポーションの小瓶をありったけ投げ込んだ。連鎖する爆発。発破工事にも利用される炸裂魔法と同等の威力は、一撃モンスターの群れを吹き飛ばした。

 

 

 一難は去った。

 ぬいぐるみのような可愛らしい顔をしたモンスターが、集団で死肉を喰らい、襲い掛かってくる光景は、気の弱い人だとトラウマになるだろう。

 だが、ゆんゆんはそれどころではなかった。

 

「あ、ああ、とんぬら……手が血塗れ……私を、庇ったせいで……」

 

 それ以上はゆんゆんに何も言わせぬよう、とんぬらは口を開いた。

 

「この森には薬草が生えているはずだ。めぐみんは戦えないから、ゆんゆんが摘んできてくれないか。ああ、ゲレゲレも連れてってくれ。『盗賊』の『敵感知』スキルのようにセンサーの働きをしてくれるはずだ」

 

「う、うん! すぐに採って来るね!」

 

 仔豹を連れて急いで駆けだしたゆんゆんを見送ってから、切り株を見つけそこにとんぬらは腰を下ろす。

 

「じゃ、めぐみん。悪いが、片手じゃ包帯がうまく巻けないから手を貸してくれ」

 

 言いながら、すぐ足元に生えていた薬草を取り、それを口に放り、噛む。くちゃくちゃとよく噛みながら、鉄扇からの水芸で、右手の傷を洗い、綺麗になったところに、唾液を混ぜて細かく噛み潰した薬草を吐いて、塗り込むように擦りつける。

 っぅ、と痛みが走り顔を顰めるとんぬらだが、手慣れた応急処置をこなすと、鞄から包帯を取り出すと、呆れた顔をしているめぐみんに放る。

 

「よくもまあ、ああもウソをつけますね」

 

「ウソはついてない。そういえば、掲示板に薬草採集のクエストがあったのを思い出しただけだ」

 

「あなたに騙されたゆんゆんは、きっとドッサリと薬草を取って来るでしょうよ。それを意地の悪い頭に塗り込んだ方が良いんじゃないんですか?」

 

 恍けたセリフを吐く少年に、めぐみんは辛らつな言葉を投げながらも、右手に丁寧に包帯を巻いていく。

 

「まだまだ駆け出し冒険者なあんたらから目を離した俺の責任だ。余計な責任を覚える前に、とっとと傷は見えなくしちまった方が良い」

 

 深々と突き抜けるほどに一撃ウサギの角は抉ってくれたが、仮面の自己治癒力ならば街に帰ってくることには塞がってるはずだ。ただ、その短い間も傷をそのまま晒すのは忍びない、と。

 

「とんぬらは、あのめんどうくさい娘が嫌なんですか? 頭も色ボケてますが、体も年の割には成長していて、チンピラにナンパされるほど男性的には結構エロいんじゃないんですか?」

 

「……興味がなかったら、こんなに苦労してない」

 

 薬草を傷口に塗り込んだ時よりも苦汁を噛むような表情に、相当我慢してるのだとめぐみんは悟る。実は、ダンジョンに潜ったとき最初の方はずっと抱き着かれて、年不相応に育った身体の感触にわりと内心テンパっていて、それを彼女に気取られないようにするのが大変だった。

 

「あれは本当に無防備過ぎるぞ。どれだけ箱入りに育ててきたんだ族長は」

 

 左手で仮面を押さえるように頭を抱えながら嘆くとんぬらに、めぐみんも同意する。

 

「ええ、とんぬらが来るまでは私を除いて、クラスの誰ともほとんど会話したことのないぼっちでしたから」

 

「ああ、それまで一番話をしたのがサボテンとマリモだと聞かされた時点で想像できるな」

 

「で、とんぬらはいつからゆんゆんが好きなんです?」

 

「最初からだ」

 

 さりげなく訊いたつもりだが、あっさりと返され逆に驚く。

 あんなめんどうくさい娘の相談に付き合えるのは好きでもないとできないというのが持論だったが、

 

「まあ、一目惚れというやつだな」

 

「そうなのですか?」

 

「初めてお賽銭してくれた奉納者だからってああも何度も命を懸けられるほど、俺は出来た人間じゃないぞ。そんなにホイホイ頼み事聞いてる聖人なら、ミツルギの勇者パーティに加わって、魔王討伐を頑張ってんだろ」

 

「確かに、言われてみるとそうですね」

 

「好きになった子だから、その前じゃ格好つけようと見栄を張るし、いつだって全力だ。本当はこの里に帰ってきたが、最初は学校に通うのかも迷ってた。初級魔法でも覚えて卒業することもアリだと考えてた。スキルアップポーションは魅力的だけど、すでに奇跡魔法は覚えてたし、学校に通っていられるほど余裕のある生活はしてなかったからな。ああ、だから、ゆんゆんを届けた後、どうか学校に通わせてくれと改めて族長に頼んだな」

 

 そう昔のことでもないのに懐かしむように語り切ってから、

 

「そしたら、実はその子が、友達になろうとしただけで簡単に心許しちまいそうなチョロい娘だったから、これはもう俺が自制しないとダメだろ。本当、猫じゃらしとマタタビと鰹節を目前にチラつかされながら、待てを強いられる猫のような生殺しの気分だったよ」

 

 長ーく、深ーく、胸の奥が空っぽになるほど息を吐くとんぬら。

 惚れた相手があまりにも危機意識が薄いからこそ、逆に過保護になって手出ししにくくなったという。成人までという一線を固持してるのは、純情というより、心配性な性分ゆえだった。

 

「がっかりしたか?」

 

「いいえ、呆れました」

 

 その問いかけに、めぐみんは正直な感想を漏らした。

 これは、ヘタレ、だが、目的を忘れ意固地になるほどメチャクチャ頑張ってるヘタレだと。だが、そのおかげで恋猫のようになってるめんどうくさい娘が純潔でいられている。ライバルに自分よりも先に大人になられるのは大いに悔しいところなので、

 

「まあ、頑張ってくださいとんぬら」

 

 キュッとめぐみんは戒めるように巻き終えた包帯を固く結んだ。

 

 

「――っ! この臭いは……! めぐみん! 至急、ギルドへ応援を!」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 早く彼に薬草を――!

 

 どれだけ必要なのか、冷静に考えられない。

 とにかく見つけるだけ見つけて届けよう。あり過ぎて困るということはないのだから。

 

 そして、森の奥まで入ったとき、それに出会ってしまった。

 

 

「あん? お前はこのホースト様をぶっ飛ばしてくれた『ドラゴン使い』じゃねぇか」

 

 

 あのときの、強大な上位悪魔に。

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 ……あれ? 何があったのだろう?

 

 あれから、記憶が、飛んでいた。

 

 

『『ドラゴラム』――ッッ!!!』

 

 

 そうだ。

 まず、私が捕まりそうになった時、彼が助けに来てくれた。

 上位悪魔にも負けないほど強大な、輝く白き竜に変身して、戦った。

 

 でも、あのときのような墓場を盾とした戦法も取れず、向こうも最初から遊び無しの全力でかかってきて、やられそうになって……

 

 ――彼は、諦めていなかった。

 

 一方的な上位悪魔の攻撃に耐え忍びながら、渾身の一発を打ち込む隙を伺っていた。

 

 けど、私はそうだとは信じられなくて、どうにかして援護したくて……

 

 

『『ファイアーボール』――ッッ!!!』

 

 

 ……そうだ。思い出す。

 すべての魔力を注ぎ込んで放った大火球が、上位悪魔に直撃し、そのせいで彼の渾身の『ドラゴンブレス』が外れてしまった。ドラゴンから人に戻ってしまうほど、すべての力を注ぎ込んだ、決死の一撃が。

 

 それから、忘れてたのを思い出したかのように彼と『使い魔契約』を結んだ私のほうへ上位悪魔がこちらに強力な呪いを放とうとして……彼が、私を、庇った。

 

 ドラゴンから人に戻ってしまったのに、その身を盾にして、私を襲う呪いの波動を受ける。

 …………そして、攻撃が止んだ時、彼は、鉄の塊に変わっていた。

 

 ああ、そうだ。

 紅魔の里にある石化の呪いをかけられたグリフォンのように、鉄の塊になっていた。

 

 

『――ぁ!? ……一体どう……やがる!?』

 

 

 上位悪魔が何か言っていたが、もう耳に入らなかった。

 私を庇って呪いを浴びてしまったばっかりに、彼は、鉄の塊になってしまった。

 

 

『――はああああ!!! 『グラム』ゥゥゥッッ!!!』

 

 

 そのとき、冒険者ギルドから応援要請を受けた魔剣使いの勇者が参上したのだ。

 だが、神器を持った『ソードマスター』の到来を逸早く察知していた上位悪魔は、鉄の塊となってしまった彼を捕まえ、

 

 

『重っ!? ――っ、こいつを返してほしくば、ウォルバク様を連れて来い!』

 

 

 上位悪魔はいずこへ去ってしまった。

 

 

『待てっ! とんぬらをどこへ連れていくっ!』

 

 

 勇者は彼を連れ去った上位悪魔を追い、そこに仲間の女性冒険者二人が追従する。

 

 そして。

 

 ひとり。

 

 取り残されてしまった私は……

 

 ………

 ………

 ………

 

 

「――うわ、だせぇ。仮にもドラゴンのマスターがよ、ドラゴンの後ろでビクビク守られてるだけのヤツだったなんて、がっかりだ」

 

 

 救助要請に来たのか、それとももともと森でクエストを受けていたのか。

 意識が過去から現在に戻ってきたとき、目の前に、クエスト前に会ったチンピラとそのパーティと思しき人達がいた。

 

「ちょっとダスト。私たちは来たばかりで何があったか知らないけど、言い過ぎよ。ほら、その子……」

 

 痛ましそうに私を見る、『ウィザード』の女性冒険者が止めようとするが、チンピラ冒険者はそれを鼻で笑い、

 

「ドラゴンは信じた分だけ答えてくれる。負けちまったのは、お前が、パートナーを信じ切れなかったからだ」

 

 何を偉そうに……! と言い返す気力も湧かなかった。

 それに、どこから見られてたのかは知らないが、きっとみっともないところも見られてたんだろう。

 

 守備範囲外のクソガキに優しくしてやれるほど甲斐性はねぇんだ……と言って、チンピラ冒険者は勝手にパーティを抜けてひとりで帰って行ってしまった。

 

 それから、そのパーティに連れられながら森を出て、冒険者ギルドで待っていてくれためぐみんに抱き着いてしまった。

 

「ゆんゆん!?」

 

「私……私……っ!」

 

 いきなりのハグに驚いためぐみんだけど、すぐに事情を察してくれた彼女はそのまま受け止めてくれた。

 だから、彼女の胸の中で、この誓いを吐露する。

 

「私……強くなる……っ!」

 

 今のただ守られるだけの私は『ドラゴン使い』などととても呼べる者じゃない。

 あのとき、ダンジョンでの決着に、彼が勇者候補のパーティに言ったのと同じ、私は彼に頼り過ぎていた。

 だから、そんな弱い私を、今ここから、超える。

 

「私、強くなる、から……っ!」

 

「ゆんゆん……」

 

 首が絞まるまで、あと四日。

 でも、三日もあれば、十分、変わってみせる……!

 

 

 ♢♢♢

 

 

(どうやって戻ろう……術解除のことまで考えてなかった……!)




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