この素晴らしい願い事に奇跡を!   作:赤福餅

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136話

 かすかに涼やかな風がそよぎ――

 

 音もなく緩やかに扇を振るう。

 冷気を纏わず、無音のまま鮮やかに成す。

 

(なんて綺麗……)

 

 冒険者カードで学習し、スキルポイントを費やして習得すれば誰でも魔法やスキルは扱える。

 しかし、優れた楽器があれば、名曲が奏でられるわけではない。

 楽器を吹けば音を出せる。けれど、それが鮮やかな音色になるかはやはりその者次第。

 

「――ひとつ、忠告しよう」

 

 宙空にある見えない鞘を引き抜いたように、起こりも覚らせずに鉄扇の先に生まれるのは、抜けば珠散る氷の刃。氷像であるにもかかわらず、怖気が走るほどに艶がある。

 

「王女よ、お転婆なあなたにその鎧は似合わない。すぐに殻を破ることをおすすめする」

 

《はぁーっ! いきなり何言っちゃってんのこの仮面野郎! あたいとお姫様はパーフェクトマッチングに決まってんでしょうが!》

 

「さもなくば、負ける」

 

 抗議に喚く聖鎧を無視して、そう言い切る。

 性格はとにかく、防具としては完璧な『アイギス』は、完全無欠。その防御を破ることは自分にも想像できないけれど、この男には攻略法があるというのだろうか。

 

《あんな戯言に耳を貸しちゃダメだぜ、お姫様! 魔法使いのクセにバリバリ近接やる気満々とかいうよくわからん野郎はこれ以上調子ぶっこく前にちゃっちゃとやっちゃいましょ!》

 

「ええ、わかってます! 『ベルゼルグ』の王族は強いんです!」

 

 

 ドンッッッ!!! と王女が先手を取った。限界まで引き絞られた弓から放たれた矢のように、爆発的な勢いで飛び込んでくる王女に対し、仮面の青年も躊躇なく得物を振るう。これに聖剣で合わせ――『氷彫像(アイスメイク)』で模られた造形品が一瞬で粉々に砕け散る。

 当然。聖剣は神器であり、材質からして違う。そんなことなど百も承知で、男は横一文字に振り抜いた。

 

「っ!」

 

 王女の聖剣で砕かれた氷の刀身はむしろ自ら砕けることで相手の攻撃から威力を削ぎ、しかも霰となって鋭い破片を王女へ降らせる。それは細かく、剣一本で対応し切るには無理がある。だが、王女には守護するもう一つの神器がついている。

 

《小癪な真似してくれんじゃねーの! でもこんな小技で俺がお姫様の柔肌にかすり傷一つつけるとでも思ってんの?》

 

 全身鎧の神器『アイギス』。先は紅魔族の魔法さえ弾いたその装甲に、防げるか否かなど考慮するまでもない。迫りくる横殴りの霰は一切ダメージを王女の身には届かせなかった。

 

《やっちゃえ、お姫様――!》

 

 そして、王女は怯むことなく次の手を打ち込む。

 攻撃を浴びながらも剣を振り切ってくるその姿勢は狂戦士のよう。

 

「―――」

 

 だが青年も武器が砕けることなどとっくの織り込み済みで動いている。予定通り。一手先んじる形で真横へ跳ね飛び、王女を中心に円を描くとんぬらをギリギリでとらえきれない。

また材質では劣るものの、氷と成る水は大気中に大量にある。

 瞬く間に鉄扇の先より抜けば珠散る氷の刃が再鋳造され、聖剣の演武に向けてその使い捨ての得物を突きこみ、また、今度はより微細に、視界覆うホワイトアウトの弾幕を散らす。それで、砕かれたのは氷の刀身。根元の鉄扇は無事であった、目測を僅かに見失い剣筋が乱れた聖剣を打擲する。

 

「っ!?」

 

 側面を叩く、さらに手首を捻って、剣を半回転させた。結果、滑るように軌道は逸らされ、豪快に空振る。

 巧い。特に守りが堅い。魔法使いだと話には聴いていたけど、こうも誘導されてしまうなんて。

 王女のテンポが、僅かに狂う。身体が泳ぐ。空いた空白で、相手は手中に空を掴む。

 

 魔法……!

 最初に披露された手際と同じ、この相手は魔法を行使するのに呪文を唱える必要も、大仰な前動作も必要もない。ただひたすらに静謐のまま、静寂をもたらす。

 ――だけど、あらゆる魔法もこの(装着者も含め)魔法無効化の聖鎧には通用はしない。

 

 

 べちゃ……と何かが当たった音。

 

 

《「え?」》

 

 思わず、止まる。どんな魔法でこの聖鎧を破るのか身構えたけど、衝撃(ダメージ)は僅かも通らない。ただ、何かが当たった音だけはする。一度、間合いを離して、着弾点と思しき脇腹を窺えば、そこに白い塊。アイスクリームをつけられたように、何かがべっとりとついてる。

 

「これは、いったい……?」

 

「雪精の模造品(レプリカ)だ」

 

 そういって、とんぬらは実演。握り込む五指それぞれに違う色の線状の光が空を引いて、ひとつにして、ぽんと開けた掌の上にそれがふよふよと漂うまんまる。

 『ティンダー』、『ウインドブレス』、『クリエイト・ウォーター』、『クリエイト・アース』、『フリーズ』と基本的な五属性の初級魔法を神業の指先でもって同時行使して生み出されたのは、いつぞや弟子にも教授した、本物よりも耐久性があり長持ちな疑似雪精である。

 

「雪精、ですか。これが、あの雪精……??」

 

 王女も話には聞いている。

 雪精。それは火の精霊サラマンダーや土の精霊ノームなどと契約の出来る『エレメントマスター』が見向きもしない、最弱の精霊だと。守護者として控える『雪将軍』相手に勝手を働くことなどできないし、ちょっと突くだけで散ってしまう雪精に、わざわざ命懸けでそんな真似をする物好きなど皆無で、割に合わな過ぎる。

 酔狂にもそんなこの世界で最も弱いとも言える存在を使役しているとでもいうのだろうか。

 

「ああ、俺は雪精と契約しているおかげで、俺の魔力を篭めた魔法に『錬金術』を働かせれば疑似的なものだけれど生み出せる。夏場のクエストの最中でも食材が痛まないように保存できる冷蔵庫要らずで、風邪を引いた時も熱冷ましの冷えピタにも重畳する」

 

「まあ、それは便利なのですね」

 

 とセールストークに頷いてしまったが、しかしこれが何だというのだろうか?

 つまりは、あの一髪千鈞を引く攻防の最中に、雪玉のように雪精を投げてきたということなのだろうけど。

 上級魔法すら通じない最上位神器の『アイギス』に、そんな最下級精霊の雪精をぶつけるような真似をするなんて、意味がない。

 ぽん、とポケットを叩いては、ぽんぽん白い塊を作り出していくその手腕、芸としては見事だけれど、術としてはそれまで。演芸の域を脱しない。彼の意図がまるで読めない。

 

《……おいおい、何を繰り出してくるかと思ったら、雪精? 軽く吹けば飛んじまうような雑魚中の雑魚で、まさかオリハルコンでできてる俺様をどうにかできるとでも思ってんの?》

 

 思いついて、精々、挑発。これにアイギスも不機嫌さを隠そうともせず念話に乗せてくる。そんなイラついた様子の聖鎧に、彼はふっと笑う。そして、言葉よりも行動で返答する。

 そう、さきから雪合戦のように作り貯めしていた雪精をこちらへ投げるという形で。

 

 べちゃべちゃべちゃ、と。

 避ける必要性もなければ、装甲についたのを払うことさえも無駄にさえ思えるくらい、ノーダメージ。まったくの無害、危険性が皆無。むしろ冷えペタの説明の通りに、熱が篭る全身鎧を程よく冷やしてくれて心地良い。しかし、不愉快である。

 アイギスも、それにアイリスも、こんなことでこちらが降参するとでも思われているのだろうか。

 

「……あなたも、私が本気ではない。お遊戯だと侮っているのですか?」

 

 最初は目を瞬かせていた第一王女は唇を震わす。

 一番に舞台に上がったあの偽者の仮面の紳士が行ったデモンストレーションと同じ、本気で闘うに値しないとでも言いたいのか。であるなら、わからせる必要がある。この最後通牒に対する返答次第では、いくら何でもこの侮辱は許せない。

 

 

「いいや、こちらは本気で相手をしているつもりだ。そして、この雪精こそが王女さんを負かすのに最良の切り札だと確信している」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「てやぁぁぁ――っ!!」

 

 先程のゆんゆんとの戦いとは逆で、今度は王女が息つく暇を与えないとばかりに果敢に攻めている。瞬間で造り上げる氷の刀身を、一振り一振りごとに砕いていく。飛沫の破片が当たるも、防御などしない。あの王女は向こうが品切れす(バテ)るまで付き合う所存であろう。ややムキになっているようである。

 

(よくよく思わされますが、あの男は魔法使いのクセして本当によく動きますね)

 

 そんなタイトロープ状況の最中にも、トール(とんぬら)は雪玉を投げる余裕があるようだった。大道芸(サーカス)の綱渡りとジャグリングを同時にこなしているのを見ているような、そんなハラハラさせられる状況でありながら、しかし王女の剣を捌くその様は紳士淑女の優美なダンスのように相手の呼吸をしっかりと呼んでリードしているような安定感がある。

 そう。

 あんな雪精を投げ当てたところで聖鎧を纏う王女様に1ダメージも与えられやしないが、あの氷の刀身をいくら叩き割ったところであの男には1ダメージも食らってはいないのだ。

 見かけは派手に破片飛び散らせていても、見かけに寄らずに堅い防御を崩すことはできないでいる。これに気付かない観衆の多くは王女が優勢だと見ているだろうが、その王女自身は芳しくはないだろう。

 

「昔、アイリス様の剣の稽古に付き合ったことがあるのだが……ああも翻弄されるとは」

 

「もしかして、ダクネスが教えたせいで変な癖がついて外れやすくなっているんじゃないんですか?」

 

「バカを言うなめぐみん! そんなことをするはずがないだろう。だいたい私などとは違って、アイリス様は彼の聖剣に選ばれるほどの天凛の持ち主なんだぞ」

 

 めぐみんが軽い冗談で言えば、張り詰めた声で慄いていたダクネスが反論する。

 確かに武芸に関して喧嘩くらいな素人目で見ても、王女が繰り出す猛連撃、その技の冴えと正確さは達人の域にあるだろうことはわかる。

 

 しかし、そうなるとその天賦の才能を持ち、英才教育を受けている間違いなく手練れな王女の剣を凌いでいるトールは何なのか?

 鉄扇を手繰るその技巧は精緻にして無謬。瞬きの間に造り上げる氷の刀身も月下に輝く湖水の如く照り返していて、一種の芸術品。それを何の惜しげもなく壊して振るう様はもはや華麗ですらある。

 そして、あの仮面の奥の眼の輝き。漆黒の瞳に真紅の光が閃いている。彼の頭脳が急速に回転をしているのが遠目でも窺える。

 攻め手も受け手も常軌を逸しているようだが、一筋縄ではいかないのはやはり、

 

「無駄に趣向を凝らしているように見えますが、あの男は合理というのを極めている性質(たち)です。このまま防戦一方でいるとは思えませんね」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「『黒猫の手(アストロン)』」

「ッ!?」

 

 キン、と。

 

 得物(おうぎ)の中軸たる鉄扇へ王女は聖剣を叩きつけた。体勢、速さ、タイミング、全てにおいて万全だった。聖剣の担い手に恥じぬ会心の一撃。それは一刀両断を確信させるに十分すぎて――だからこそ、容易く狙いは読まれ、なおかつ刀身が阻まれ止められた瞬間の王女の驚愕はひとしおだった。

 

「隙ありだ」

 

 と、トールはもう片方の手を王女の聖剣の側面へ当てる。そして、聖剣を挟み込みながら身を捻るトールに、引っ張り込まれた王女は、戦慄に総毛立った。

 私から、剣を奪おうとしている!?

 変則ながらも真剣白刃取りなる絶技で封殺。内心の驚愕を棚の上に慌てて放り投げて、半ば反射的に転がるように後退ったアイリス。しかしそんな行動も無効に先読みされていたのか。聖剣の奪取はフェイントであったとばかりあっさり切り替える。むしろ剣を確保しようとする動きを利用されて、さながら自ら倒れ込ませる合気術にかけられたように、強かに背中を打ってしまった。

 

「一本、だな」

 

「まだまだです!」

 

「おっと、危ない」

 

 倒したところで何もせずに見下ろすトールへアイリスは咄嗟に剣を振るうも、一歩後退されて避けられた。

 

 油断した。

 これまで氷の模型刀を砕き続けたことで、“剣を振れば砕ける”と頭が慣れていた。いや、慣れさせられていた。

 相手は己よりも駆け引きが上手の巧者である、と認めざるを得ず、また未だに腰の得物、刀や杖を取ってすらいない。振るっているのは鉄扇ひとつ。その手札はまだまだある。何せ、隕石すら降らせたという逸話を聞いているのだ。この程度で参っていては、見返すことなんてできやしない。

 

 ですが、この人……私の剣筋を熟知している?

 こうも当たらない。読まれる。無論これまでフェイントをいくつか差し込んでいるのだが、それさえも看破される。でも、アイリスはこの男(トール)は見知っていない。なのに、向こうが一方的に既知であるようなこの矛盾。

 本当に何者なのだろうか?

 

「それ、宴会芸がひとつ、玉投げスキル『キラージャグリング』!」

 

 考えに沈むとそこへすかさず反撃。でもダメージ皆無。

 いやだからこそ反応が遅れてしまう雨霰。これが先程のゆんゆんのような魔法であれば剣を振るっただろうが。それは大変見事な曲芸であって、決闘の場でなければおひねりが舞台に来そうな投げ方であって、それでも弾幕は弾幕。アイリスは手を包む籠手で頭部を庇うも、構わず着弾。一見して餅のように柔らかそうな礫は、手首から肘にかけて、腕部のあたりの白銀の鎧装甲にべちゃっと張り付く。同じ白色なので目立ちにくいかもしれないが、それでも兜、胴、肩、足、手の届きようのない背中にも雪(精)玉があるとなれば観客席からもその様は伺いしれよう。全身鎧を雪玉だらけの晒し者にしてコケにしているのか、ととらえてもおかしくないくらいに。実際、聖鎧はもしあればこめかみのあたりに血管が蠢いていそうな感じで。

 

《おいこら! さっきから何フーリガンみたいな真似してくれてんだ! ねぇ、神器『アイギス』を舐めてくれちゃってんのおたく? この輝けるマイボディを雪塗れにするなんて普通じゃ考えらんないよ》

 

「そうかっかするな。雪玉遊びなど季節がら今できるようなもんじゃないぞ。童心にかえっていいじゃないか。それに雪化粧も中々様になっている。水に滴るいい男ならぬ、雪に塗れるいい鎧ってところだ」

 

《え? 本当、俺、男前になってる?》

 

「いや、冗談だ」

 

《ファーック! これ、真剣勝負! 遊びじゃないの! あたいカンカン、激おこぷんぷん丸よ!》

 

「そうか、それは大変だ。それはそうと、話は変わるが、アイギスは踊ることもできる聖鎧みたいだが、それはどれくらいのものなんだ? 芸を嗜むものとして興味がある」

 

《だから、今は決闘の最中だっての! ねぇ、真面目にやって! こういうのもなんだけど俺が説教するってよっぽどなんだけど!》

 

「おや? 芸を乞われて応じぬとはサービス精神のない神器だな。それとももしや、自分の踊りに自信がないのか? いやそうだとすれば、すまない。別にこちらはあんたを大衆の面前で恥をさらさせるつもりはないのだ、自称歌って踊れる聖鎧さんよ」

 

《自称じゃねーし、受けて立ってやろうじゃねーか! おうおうその目ん玉かっぽじってよーく見とけよ! この重厚感半端ない鎧が蝶のように可憐に舞う姿をな!》

 

「アイギス! 勝手に動かないで!」

 

 自分だけでなく、この聖鎧の性格まで熟知していそうである。向こうの挑発にあっさり乗ってしまいそうになるアイギスを嗜めて、気を取り直して剣を握り込むアイリス。

 

《くっ、すまねぇお姫様。煽りスキル持ちのアイギス君が口車に乗せられてしまいかけるなんて、油断ならない相手だあの仮面野郎!》

 

「その意見には同意しますが、もっと気を引き締めてください」

 

 とにかく今のままではダメだ。相手の掌の上から脱せやしない。

 ここから状況を覆してみせるには――

 

 

「――いや、残念ながらそろそろ幕引きだ」

 

 

 ゆるりと言い放たれる。

 バサッと鉄扇を広げ、円盤状に。途端に――いいや、とうの昔に空気が変わっていたことを今更に思い知らされた。

 そう、相手は慣らし運転も小手調べもせず、最初から真剣に応じていたことを。油断していたのは自分たちの方だったことを。

 

「汝らが披露せぬのなら、こちらが一献芸を奏じよう! ――『カレイド・マジックゲイン』!」

 

 鏡となった扇を中心に花開くは、万華鏡の魔法陣。

 そこに彼の周囲に漂っていた雪精が旋風に吸い寄せられるように鉄扇を掲げる手に集い――陣を通り抜けた途端、一気に増殖した。

 凄まじい勢いで、ほとんど倍々ずつにその数を増し、数えきれない物量でもって舞台会場を埋めていく。長さ、幅、高さの三軸をほぼ完全に白一色に染め上げている。塵も積もれば山となるよう、雪精も増えれば極寒の吹雪雪崩となって、銀世界に塗り替えてしまう。

 

「さあ、歌え歌え初雪よ。季節外れであろうと構うものか、この舞台を我が物として席巻してしまえ――『精天仙物』!」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 魔法も物理も状態異常も通じない相手に、如何なる攻撃をしたところで無為に終わる。

 であれば、攻め方を変える。視点を変える。変えるべきはその周囲。

 

「雪精は一体で、春を半日遅らせるとされる。つまりそれは、環境に働きかける力を持っていることで、さらにそれをこの舞台上局所的に振るえば、極寒低温の世界に早変わりするような芸当も不可能じゃあない」

 

 その現象を引き起こす仕組み――原理を解すれば、視える世界は一変する。

 雪の精も本質を極めれば、脅威(ぶき)となる。人を封殺するのに、氷雪を舞わせる必要も、大仰な氷刃を振りかざす必要もない。

 局所的に、大量に発生させた疑似雪精は、ほとんど気配もないまま、実態は荒れ狂う暴風雪の如く、この空間そのものを浸潤、支配していた。

 かつて、『魔女の禁書』が猛威を振るった気象干渉魔法『コール・オブ・ブリザード』と同じだ。

 

「個人を対象とした魔法であれば弾けただろうが、これは全体に作用される力だ。環境の変動を無効化できる力はその神器にはないし、また鎧は気温(ねつ)の影響を受ける」

 

 かつて、神器の聖鎧(アイギス)を装備した(させられた)からわかる。

 日光に炙られて、鎧の装甲が酷く熱かったのを覚えている。

 衝撃・魔法は完全に遮断するとはいえ、金属。熱伝導性がある。

 真冬の雪山と変わらぬ過酷な環境下に陥った今、聖鎧は、冷凍庫と変わらない。

 

「っ、しかしそれだと、ここにいるあなたも巻き込まれるんじゃないんですかっ?」

 

「別に構わん。この程度で音を上げるような軟な鍛え方はしていない。むしろこれくらいが心地いいくらいだ。猛吹雪の中で山篭りをさせられた寒冷地仕様の身としては、温室育ちの王女さんと我慢比べで負けるつもりは毛頭ない」

 

「っ、っ!?」

 

「凍傷になる前に鎧を脱いで降参することを勧める」

 

 王宮暮らしで、王都から外へ出たことのない王女様にはこれは初体験で、過酷である。人間の身体からして、慣れない寒さには勝てないし耐えようがないのだ。

 カチカチカチカチ、と兜の奥から歯が鳴る音、反論が出てこないところから察するに舌も唇も喉もまともに動かない。おそらくは指先もかじかんでいる。これ以上、温度を下げていけばまともに剣を振るえなくなるだろう。

 

「アイリス様……!」

 

 審判役であるクレアが心配そうに声をかける。王女がまだこの決闘に白旗を上げていないことから救助に入るのを踏み止まろうとはしているみたいだが、もう姿勢は前のめりになっている。時間の問題だ。

 こちらも王女を凍えさせてやろうとか、いたぶろうとかそんな気は一切ないのだ。早く負けを認めてくれと願うばかり。しかしこうなったらこうなったで頑固な王女の性格からして、長引きそうだ。

 そこで矛先を変える。

 

「アイギス……装着者のことを第一に考える聖鎧ならば、ここは自ら離脱するべきではないのか?」

 

《へっ! お姫様がまだ諦めてないのに離れてたまるかよ! それにこのホットなパッションを抱く俺の身体の中はじんわりと温いんだぜ。お姫様を凍えさせなんか……》

 

「強がりは止せ。気合いでどうにかなるレベルじゃない。今も霜がつくほど冷え切ってるその装甲(からだ)では人を温めることなどできやしない。むしろ魔法を弾いてしまうその性質からして温めようがない」

 

《けっ、つまり人肌で温めてやろうって言いたいわけか! んなのダメ! 絶対ダメダメ! アイギスさんはお姫様をお嫁に出すのは反対です!》

 

「ふざけている場合か」

 

 溜息をつく。

 そして、訝し気な眼差しを向けて、

 

「まさか、だが。王女さんが中に入っている状況から別れるのを惜しんでいるわけではあるまいな?」

 

《ギクゥ!!?》

 

 わかりやすい。普通、鎧の表情など見分けがつくはずもないのだが、感情豊かな聖鎧は簡単にぼろを出してくれる。

 

「あのな。アイギスが女性との接触を楽しみにしているのは承知している。汗や匂いをくんかくんかぺろぺろするフェチだったり、全身装備にかこつけて美少女の柔らかい肉体をハァハァ堪能するセクハラ野郎だってのもわかってる。けどそれも状況を選べ」

 

 ジジジジ、と耳鳴りのような音が鼓膜の奥でしたかと思うと、騒がしい小声が。

 

《ちょっとちょっといきなり何言ってんのおたく! 世間では美女美少女に特に優しい紳士的な聖鎧アイギスになんて風評被害してくれちゃってんの!?》

 

「それこそ捏造だろうが。まあ、俺も一度鎧に変身したことがあるから、あんたの気持ちはよくわかる。あの柔らかな肢体を包む一体感には凄くドキドキした」

 

 すぐ傍に悍ましい怪物が接近していたせいで心臓が跳ねたのも一因だろうが。

 

《おお、まさかこの感動を理解してくれる猛者がいるとは思わなかったわ》

 

「だけどそれでも、相手に無理はさせてはいけない。名残惜しいんだろうがそこは我慢して、装備解除するんだ」

 

《やだやだやだー! お姫様の玉のお肌と純血は、俺が独占するんだい!》

 

「ったく、そもそもアイギスとしては、その幼い女の子よりも育った大人の女性の方がタイプだろうに。失礼ながら、王女さんは、抱きしめるにしても物足りないんじゃないのか」

 

《そりゃまあ……本音をぶっちゃけると、俺の相性チェック的に胸の合格ラインには達してないよ。エッロイエッロイ体してるチャンネーの方が望ましいかな》

 

「そうだろう。そんな未成熟で、合格ラインに達していない青い果実であるのはわかっているというのに。神器アイギスはもっと己が求める抱き心地の良さには妥協しない奴だと思っていたんがな」

 

《でも将来性は有望だし、このまま囲っておくのが賢い選択ってヤツじゃない? 青田買いって寸法よ》

 

 二度目の溜息。

 しょうがないというか、どうしようもない。ここはこの駄々をこねる変態鎧を説教してやる。

 

「……なあ、アイギス、話を聞いてくれ。幼い貴族子女に一目惚れして、それから婚姻できる年齢になるのが我慢できずにずっとあの手この手とアプローチし続けて、ついには悪魔の力まで借りて結婚までこぎつけた悪徳貴族がいた」

 

《はあ!? なにそいつ! 許せないんだけど! 絶対デブで薄ら禿げで脂ぎったおっさんに違いない!》

 

「ああ、アイギスのイメージ通りだ。そして、今のままでは、アイギスはそのデブで薄ら禿げで脂ぎった最低ゲス野郎と変わらんことになってしまうぞ」

 

《はあああ! 違うし! 何言ってんの! 俺はか弱い女の子の守護者であって、そんな最低ゲス野郎と一緒なわけがないだろ!》

 

「違わない! 鏡を見ろ! 女の子を全身鎧の中に閉じ込めているんだと自覚しろ! 言っておくがな。アクシズ教でも、未成年の童女にみだらに接触することは戒めている。『YESロリータNOタッチ!』と教典に記されているんだ。王女さんを独り占めにしようとしているアイギスはその変態集団すら守る一線を大きく踏み越えている!」

 

《な、なんだとぉぉぉ!!?》

 

 アクシズ教以下だと突き付ければ流石にショックを受けたかたじろぐ聖鎧。

 そこへ一気に畳み掛ける。

 

「それに加えて全身鎧姿というのはロマンがない! 聖鎧であるアイギスは観賞用としても通用するフォルムをしているがそれは格好良いんであって、ちっとも可愛くない! そんな見るからに硬そうな装甲に纏われていては、女体の魅力的な柔らかさなど一切伝わらない! いいか良く聞け鎧野郎。感動というのは個人だけに留まるもんじゃない。皆にも伝播し共有できる形に昇華してみせてこそ一流だ。自己満足に浸っているのなんてド三流。つまり、身の裡で女の子の柔らかさや匂いを堪能してハアハア悦に浸っている鎧野郎のことだ! わかったな!」

 

《な、なあ!?!?》

 

「返事はどうしたアイギス! 貴様のボディでは女の子の可愛さを押し殺してしまうことがまだ理解できないのか! 身体だけでなく頭も固いのか! それとも現実逃避しているのか! こんな序の口で目を逸らすなどしては俺の講義についていけんぞ!」

 

《は、はい! なんか、すみませんでした! 押忍!》

 

「ふむ、まあまあ及第点の返事だ。ここで説教しては話が進まないし、大オマケして教授してやろう。この世の何にも勝る素晴らしい装備(アクセサリ)、猫耳についてな! よし、じゃあまずは金髪碧眼の王女さんに似合う猫耳を思い描いてみろ! 時間は3秒! できたか? おい、どこに脳みそがあるかはわからんが考える思考力があるならこれくらいの妄想はできんか、気合いが足りんぞッ! 仕方がないから俺が手を差し伸べて参考程度の解答を述べてやるが、それでイメージを補強しろ! いいか、猫耳はやはり奇を衒わず髪と同色に近いのが望ましい。違和感がないし、初心者にはイメージもしやすいだろう。これは基本でテストに出る。そして、王女さんの艶やかな金髪にふさふさした毛並みの猫耳がツンと出る、もしくはしゅんと中折れしているトキメキ感まで具体的に想像できれば合格。さて、猫耳とは人を動物の姿に近づけてみせるアイテムだ。でも、人は人であることに変わりはない。では、このたった一点のアクセントが何をもたらすのか、想像した猫耳娘と比較してみろ! ……わかったな。わかったはずだ。わかりなさい。そう、それはロマンだ。頭に乗せるだけで人でありながら小動物特有の庇護欲をくすぐってくる愛玩性さえなんて備えてしまう奇跡的な融合。それはもう見ているだけで伝わる抱き心地の良さ、心の底からモフりたくなってくるだろう? 抱きしめたくなるんじゃなくて、モフる、MO☆FU☆RU! もうモフモフしたくてたまらない! 違うか? いいや、違わないだろうそうだろうなあアイギス!」

 

《くそっ! どうして俺は可愛い女の子をデンジャラスビーストに仕立てられる聖猫耳アイギスじゃなくて、聖鎧なんだ! この最硬で格好良い男前ボディが憎い!》

 

 ふっ、これでもアクシズ教の変態どもに猫耳を布教してきた伝道師。

 たとえ相手が鎧であったところで、言葉が通じる相手ならば導くことができる。多少勢い任せで強引なところもあったが、主導権はこっちが握った。

 

「諦めるな、アイギスも感動の一助になれる。“猫鍋”というのを知っているか? 料理じゃないぞ。猫が鍋などの器の中で丸まっている状態のことを指す言葉なんだが、それもうぐっとくる愛くるしさだ。見てるだけで癒される。アイギス、お前もその器になるんだ。猫耳娘鎧というロマンのな」

 

《!!》

 

「料理でも一品を盛る皿や器がベストマッチすれば見た目から格まで引き立てられるだろう? それで硬いものの中に圧倒的にモフりたい存在があると仮定してみろ。最硬の鎧であるからこそ、そのモフモフが映えてくる。硬さとモフりたさが中和されるのではなく、掛け合わさったことで更なる高みに行くんだ! 猫耳というのはな、頭につけるだけで簡単に成立してしまうお手軽さだけでなく、更に他の要素と競合することのできる無限の可能性を秘めているんだ! だがしかし、それはあくまでも猫耳をつければの話。残念ながら、今のただ単に全身鎧(アイギス)を纏ったままではほとんど誰だかわからないし、個性も表に出ない。女の子の可能性は殺されてしまうことになる。そんな事、アイギスは許せるのか?」

 

《許せません! マスター! 俺も、モフりたいです!!》

 

 説教から説得、緩急自在な論法でもって何人ものアクシズ教徒らを落としてきたが、ついに猫耳神社神主の口舌は鎧さえも陥落してみせた。

 そうして、最後は宥めるような論調で、

 

「そうだ、アイギス。ただひとつ注意だ。子猫も構い過ぎると嫌がれる。ほとほとの距離感が大事なんだ。だから」

「――つまり、話をまとめると、私が幼くて、猫耳とやらをつけていないから手を出さないと?」

 

「そういうことになる」

 

「『エクステリオン』!」

「うおっ!?」

 

 瞬間、躊躇なく放たれた、凄まじく切れ味のいい飛ぶ斬撃を緊急回避。

 この情け容赦のない攻撃は、ようやく言葉を尽くして諭したアイギス――ではなく、

 

「お、王女さん?」

 

「はい、おかげさまで、寒さなんかどうでもよくなるくらい気合いが入りました」

 

 ドドドドドドドドド、と背景に立ち込めるオーラ。

 それは気合いに火が付いたというのではなく、怒りに目覚めたというではないのだろうか。

 それに、観客席からは凄まじい魔力の波動――今にもオーバキルな爆発魔法をこちらにぶっ放しそうなめぐみんが慌ててダクネスに抑えられている様子も視界の端で捉えた。

 

 しまった、変態鎧(アイギス)との会話に夢中になってしまい状況をほんの僅かだが忘れてしまっていた。

 いやしかし、アイギスとの話も参照してもらえば、俺ひとりが咎められるということにはならないはず。

 

「いきなり何を()()()で語り出したかと思えば……アイギスに訴えかけていたみたいですが、こっちは真剣なのにそんなふざけた真似は許せません!」

 

「は?」

 

 独り言?

 いや、ちゃんとこっちはアイギスと誠心誠意説得を試みていたし、だいたい主義主張的にアイギスの方が酷かったと思うのだが……

 

「――はっ!」

 

 まさか! さっきの念話は個人回線で会話の内容が他にはわかっていないのか。

 

 その通り。

 とんぬらが、アイリスではなくアイギスへ視線の焦点を合わせれば、

 

《ぷるぷるぷる、僕は紳士的な聖鎧です。くんかくんかとかぺろぺろとか一体何のことだかちっともわかりません。あんな変態紳士と一緒にしないでください》

 

「おいこら、てめ、猫被って」

 

 同士になったかと思えば、あっさり裏切ってくる。やはりこの世界でもこの聖鎧の性格はロクでもないのは変わらない。

 

「個人的な事から始めた決闘ですが、あなたのことは女性の敵として天誅をした方が良いみたいですね」

 

「王女さんは騙されてる! 俺はこれ以上無理をさせる前に降参を勧めていただけで、そして、女性の敵はその鎧野郎だ!」

 

「問答無用! 『ベルゼルグ』の王族は強いんです! 寒さだってへっちゃらです! ――『エクステリオン』! 『エクステリオン』! 『エクステリオン』ッ!!」

 

 火事場の馬鹿力でひとつの限界(かべ)を突破した第一王女より、必殺剣が連続で飛んでくる。

 一閃一閃が迸るごとに舞台がケーキを切り分けるように割断されていく。攻撃こそ最大の防御。そんな守りに入ることなく攻めに攻める攻め一辺倒な我武者羅に振るわれる滅多切りを前に、流石にとんぬらも氷細工を披露する余裕もなく必死に躱し続ける。

 そんな最中に、また呑気に個人回線がつながった。

 

《うひょー、こりゃ凄いわお姫様、やっぱり素質はぴか一だわ》

 

「アイギスっ! さっきは良くも嵌めてくれたな!」

 

《そんな責めるように目を紅く光らせないでくれよ。俺のせいだけじゃないと思うし、おたくも中々良いご趣味をしているというか、結構業が深いと思うよ。うんうん、さっきの熱いパッションのおかげで世界が広がったし、ここはこのアイギス様の魂の兄弟に認めてもいい》

 

「その固い絆で結ばれた同士が割とピンチというか、装着者の第一王女手ずから処刑されそうになっているんだが」

 

《がんばれー、大丈夫大丈夫、峰打ちじゃなくても最高で最硬の聖鎧のソウルブラザーなら首の皮一枚でしぶとく生き延びそうだと信じてる》

 

「やはりあんたは物理的に矯正してやらないとならんようだな!」

 

《はっはー、やれるもんならどうぞー!》

 

「よくいった。マジで歯を食い縛って覚悟しておけよ。あんたの天敵をぶつけてやるから――」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 アイリスは剣を振るう。

 この相手には何の遠慮もいらない、自分の全力を――この溜まった鬱憤ごと――ぶつけられる。

 

「――強い。本当に、王女さんは資質に恵まれている。一国の姫には不似合いな、不必要なくらいにな」

 

 氷の武器も、大気を凍えさせる雪精も創る余裕はないけれど、回避しながらも言葉を投げかけてくる。

 

「そんな才覚を自分でもわかってしまえば、多少の欲目が出てしまうものだ。そうだな、王女さんはよく有名な冒険者の冒険譚を聴きに行くみたいだが、そのときに、それは自分にも成し得たかもしれないと思っただろう」

 

「っ、何を……?」

 

「机上の空論に過ぎない戯言ではあるが、たとえば……もし王女さんが剣を取っていれば、隣国『エルロード』は魔王の脅威にさらされる前に救えたのかもしれない」

 

 聖鎧『アイギス』は魔法も物理的な衝撃からは守ってくれるが、熱に影響されてしまうし――この胸を衝いてくる言葉は届いてしまう。

 

「“自分はやれるべきことをやり切っていないんじゃないか?”、そんな考えが少しでも過ってしまえば、素直に喜べやしない。周りが喝采をあげても喉奥の小骨のように引っかかる。過分な力というのはそれだけで重責だ。気負ってしまうのも無理はないし、かといって大人のように割り切れるかと言えばそうじゃない」

 

 剣を振るうのをいったん止め、そして、蓋が外れて込み上げる衝動を、目を閉じてこらえる。

 

「だがしかし、“自分よりも強い者がいて、勝手な振る舞いをしていればそれの足手纏いになっていたかもしれない”、なんて考えることができれば……王女さんも少しは気が楽になるんじゃないか」

 

 返答は、ない。

 だけど、その仮面の彼は苦笑したように思えた。そして、今日はいきなり散々な目に遭わされたというのに、こちらの目を覚まさせてくるような文句を言い放つ。

 

 

「ほら、受けて立ってやるから、かかってこいお転婆王女さん」

 

 

 アイリスは、言葉の通じない人間を見るような、じれったい目を思わず向けてしまう。

 

「どうして、あなたは、こんな愚かしく危険を犯そうとするのです? こんな私のわがままに付き合う義理なんてないはずですよ」

 

「『女の苦悩に手を差し伸べるのが男の役目だ』と師匠に説かれたことを今更ながらに思い出したからだな」

 

 借り物の言葉で応じたのが恰好つかないのか、仮面の下の頬を指でかく。

 そして、この会場に集った全員が目を剥く行いをした。

 

 外したのだ。

 鉄扇を、太刀を、長杖を、腰の道具袋から上半身に纏ってる衣まで、装備を脱ぎ捨てて、そして、持っているのはその右手で握り込んだもののみ。

 

「なまじ手札が多いとどうあっても雑念が混ざる。勝負を決める切り札とは、ひとつで十分だ」

 

 一瞥すらもせず。背後に放った武装など気にも留めず、仮面の青年は不敵に笑む。それはけして無理な強気でも、過剰な自信でもなく、当たり前のように。

 無理難題な相手を嗾けられて、かえって吹っ切れた。今の彼は、善悪正否にかからず己が選びたいモノに手を伸ばせる。“殻を破る”とはこういうことなのだと、他人のふり見て我が振りを思い直したとんぬらは、その体現した姿勢でもって王女へ手本を示す。

 舞台上の砕かれた石材が、さらに微塵に弾け散った。この『ベルゼルグ』の第一王女である鎧乙女の兜の奥からの眼差しに、揺らめく激しい衝動。敏感な部分を不用意に刺激されたように、彼女が強く唇を引き締めた。アイリスの心は今も、たぶん魔王が討伐される前日で立ち止まっていた。

 

「あなたという人は、決闘の最中でもおしゃべりですし、どこまでも格好つけなんですね!」

 

「それが、男の性分だからな。特に……惚れた娘の前では意地でも見栄を張りたくなるもんだ」

 

 聖鎧の籠手が、剣を握ったまま、吼え猛る猛犬のようにガチガチと金属を噛み合わせる。初めて、自覚をした。羨ましい、と。民衆から羨望されるお姫様である自分が、この男の自由さを羨んだ。そんな、素直に己の嫉妬を認められてしまうのが不思議で、しかし胸にストンと落ちる。

 

「……いいでしょう、そこまでいうのならベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスの全力を見せてあげます!」

 

 聖剣を眼前に構え、瞑目する。

 今、眼前にいるのは、自分が全力を振るって構わない――ひょっとしたら全力でさえかなわないかもしれない、待ち望んだ相手なのだから――!

 

 

 ♢♢♢

 

 

 この決闘を見守る運を司る女神は、かすかに目を細める。

 地上に瞬く鮮烈な輝きを見つめるように。

 

(どこかすれ違っているみたいですけど、でも大事なところはきっと見誤らない者なんですね)

 

 あの“別世界から来た人間()”は、ある意味で強運。ただしそれはステータス上、生まれついての天運に恵まれているという意味ではない。

 天賦の才はある。しかし、それが幸運とは限らない。才の代価を求めるように、不利、不遇、不幸ばかりがのしかかってきたはずだ。過酷な道を歩かされて尚、彼は己が奇跡を起こすことを諦めない、すなわち己の運を信じている。

 その心構えこそが、彼を真なる強運たらしめている。

 己の運を信じる者は、機への備えができている。故にわずかな好機を掴むことができる。

 不幸の中から一握の幸運を見出す力、そして、不意の好機にも飛び乗れる力。その力を持つ者が、強運と呼ばれるのだ。

 己の幸運を信じないものには、それができない。

 そして、信じ切った者は、神にさえ思いも寄らぬ未来を掴み取ってしまう。

 

 

 ♢♢♢

 

 

 右手を掲げた。

 ひどく軽い挙げ方だったのに、反比例して重厚感が目に見えるほどに濃密な魔力がそこに宿る。

 熱い。そう、先程からこの手の中にある“核”は徐々に、そして際限なく熱を上げて、拳周りの大気を蜃気楼の如く揺らがせている。

 

 盾と鎧は、二体一対の神器だと聴く。

 この、明らかに共鳴している反応に、千載一遇の好機を見た。

 女神さえ叶わぬという偉業を起こすのに足りないものがあるのなら、自腹を切ってでも補ってみせよう。

 奇跡を成す材料はすべてここに揃っている――ただし、()()()のが大変だが。

 

 瞳の色が紅から蒼へ。

 掲げた右手が掴む蒼の宝玉に、虹色の波動を放つ己の魔力を握り籠めて、奇跡を起こす呪文を唱えた。

 

「『パルプンテ』!!」

 

 奇跡魔法が、二つの効果をもたらす。

 ひとつは、神に成り上がった堕天使の無限大の魔力を根こそぎ奪うもの。

 もうひとつは、師を生還させた超高等の蘇生魔法と同じ効果をもたらす精霊の歌。

 それらを合わせる――

 

 神器を復活させるのは彼の女神でも無理であったが、とんぬらは知っている。

 かつて、仮面の悪魔(バニル)が、アクア様に残機を消し飛ばされた着ぐるみ(ペンギン)にその“残機”を分けて助け出したことがあることを。

 

 ただの蘇生ではなく、己を贄とし分け与えてそれを相手のものにする――神ならぬ悪魔の所業さえ貪欲に取り込む人間の業がここに。

 

 

「――俺の心身でもって支払い、借りたものを今こそ返そう! 『メガザル』!」

 

 

 蒼穹の如き宝玉を中心の核に据えて、変化魔法で己の骨肉をオリハルコンと変えて、錬金術でもって纏わせる。

 竜と変じた時、全身の装甲に黄金の紋様――聖盾の加護は刻み込まれていた。であるのなら、己の肌はその材料へと昇華できよう。

 

 一旦始めてしまえば、あとは速い。

 栓を抜くようであった。全身の血液が一気に放出されていくようだった。体内から何かが吐き出され、それに伴うよう体表の皮膚まで剥がれ落ちていく。

 自分の状態を確かめる術もなかった。目の前が真っ白になり、五臓六腑がそれぞれ別々に蠢き、姿勢の意地もままならないほど全身の筋肉の痙攣が止まらない。

 痛み、を覚える次元ではない。呼吸すら忘れてしまう。心臓は不規則に荒れ狂い、しかしそれでもこの感覚は手放さない。これは自分で自分の首を絞めるような行為で、本来であれば防衛本能が働くところをその本能に逆らって我を通す。

 自己の根幹を芯として支える柱、それはなまじ屈強であるからこそ堅固であり、幾多の不幸に見舞われても生還を果たしてきたその強度は削るにも大変な労力を要する。

 だが、それが何だという。

 あの時、本来であれば巻き込まれたはずの災厄より、その身を盾とし、己は庇われた。であれば、この程度の痛苦に堪えるわけにはいかない。歯を食い縛り、生皮の剥がれた右腕を、同じく血塗れな左腕でもって支える。阿鼻叫喚のシグナルをただ愚直に噛みしめて、とんぬらは声高らかにその名を叫ぶ。

 

「イージス、起きろッ!!」

 

 その右手に組み上がっていくのは、全面に渡って、凄まじいほどに精緻な衣装が施された白金の盾。

 その出来上がった(からだ)へ、最後に、魂を、篭める。

 経験値として得た、聖盾『イージス』の残滓を。

 聖鎧『アイギス』と共鳴し、朧げだが起きかけてるその意志を精霊の歌で呼び覚まして――輪唱するかのように彼の声を反響させる白き雪精が煌いて――完成(ふっかつ)させた。

 

ご主人様(マスター)にそこまでして腕を伸ばされちゃったら、盾として応じないわけにはいかないわね!》

 

 

 ♢♢♢

 

 

 ――時間をかけて溜め、力を極限まで高めた聖剣が真なる輝きを解き放った。

 

 

「『セイクリッド・エクスプロード』!!」

 

 

 目を覆うその瞬間を、観衆の誰もが捉えられない。

 しかし、王女の聖剣から放たれた閃光は、仮面の青年の一歩手前で停止した。

 不可視の壁に阻まれている。

 ギチギチと耳障りな音が響くも、大地を割るその一撃に、その守護は微動だにしない。

 

 

「『セイクリッド・リフレクト』!」

 

 

 そして、全て耐え切って、閃光と共に弾き飛ばす。

 不可視の怒涛のようなものが場に溢れた。

 

《ぬなっ!? そいつぁ、姐さんの――》

 

 その腕が掴み取った“奇跡(たて)”に、その片割れの相方は驚嘆の声をあげる。

 あれは、攻撃を倍返しにするイカサマめいた性質の反射防壁。

 第一王女の全身全霊で放った王家伝来の必殺剣が、倍の威力で跳ね返されては、聖鎧としても溜まらない。その重厚な全身鎧は大きく吹き飛ばされて――

 

 

 ♢♢♢

 

 

 会場が、静まり返った。

 その刹那に走り抜けた強烈な光が止んで、視界が落ち着くと、見るも無残に蹂躙された舞台の上には、全身血塗れの男のみが立っており、審判役の貴族令嬢をも吹っ飛ばされて、今は観客席で目を回して昏倒している。

 そして、天を仰ぐよう背中から倒れる全身鎧の胴体に大きく切り開かれた傷跡があって、その隙間より、無事な金髪碧眼の少女の姿が垣間見えていた。

 そんな誰もが目の前のありように絶句する中で騒がしいのは、

 

《まったくもう呆れるのを通り越しちゃうような無茶するわねご主人様。それでちょっと、アイギス! そんなところで寝っ転がってないで、あんた治癒能力があるんだから、ご主人様に装備しなさいよ!》

 

《おいおい、イージス姐さんや。あたいも結構な重傷よ? お姫様を守って、こんなボロボロになった相方を心配しないのかい?》

 

《え? 道端で放置してくれた鎧野郎に思いっきりブチかませてボロ雑巾にできて盾姉様はとてもすっきりしてるわ。いい気味ね!》

 

《ファックッ! 万全な状態ならアイギスパンチでその小姑盾を凹ませてやったのに!》

 

「あー、結構だ。瀕死には(これくらい)慣れてる」

 

 上位神器同士、感動の再会とかあったもんじゃないな、と息を吐くのも辛い。

 爆裂魔法でもぶっ放した直後のように魔力はすっからかんで、そして、HP1だと言えるくらいに瀕死の重体。これほどに死にかけていると、オークの里で自爆魔法(メガンテ)をした時を思い出してしまう。

 今回はその二度目であるから意識はあるようで、どうにか“勝者”として立つとんぬらは、喧嘩する神器たちを他所に、装備等を回収して、腰の道具袋からまずは回復ポーションを頭から浴び、それから取り出した『吸魔石』に魔力を肩代わりさせて自らに回復魔法(ヒール)を施す。全快したとはとても言えないが、とりあえずは流血を止めることはできた。

 それから、地面に転がったままの聖鎧――王女の元へゆっくりと歩いて、

 

「……受け止めるんじゃなかったんですか、私の全力」

 

「受けて立つといったんだ。都合よく解釈されては困るぞ、王女さん。あんたの全力を食らったらドラゴンでもひとたまりもないんだからな」

 

 と放心状態だったが空を見上げる視界に仮面の顔が影を差すと、紅顔の唇から不平が漏れた。

 それに状態的には応急処置をしても依然と王女よりも重傷である仮面の青年は軽く肩を竦めて、冗談でも口ずさむような軽い口調で、

 

「王族のしがらみ、その心中をすべて察するなど畏れ多くて口が裂けても言えないが、まあ、聖鎧をこうもぶち破れるんだ。自分の殻を破ることくらいわけないだろうな」

 

「そういわれますと、自信がつきますけど」

 

「人生、敗北からの方が色々と学べるもんだぞ、王女さん」

 

 ムッとするアイリス。

 

「あなたの方が、判定的にダメージが大きいように思えるんですが」

 

「男の痩せ我慢を口に出して指摘するのはいい女とは言えないぞ。それと何事も最後に立っていた者が勝者であって、あとになってそれにケチをつけるのは負け犬の遠吠えというんだ」

 

「むぅぅ!」

 

「ほれ、悔しいのはわかるがぶうたれてないで。いつまでも王女さんを倒れっぱなしにさせたままのカッコ悪い真似をさせてくれるんじゃない」

 

 そういって、とんぬらは鎧の隙間に差し入れるように手を差し出して、アイリスはやや不満ながらもそれを手に取って、破れた(から)の中から立ち上がる。

 

 途端、会場に拍手喝采が湧いた。

 

 

「うおおおおおっ! 凄かった! 最後は一瞬でよくわからなかったけど凄かった!」

「アイリス様も凄まじかったけど、仮面の王子様が本当にあれほど強いだなんて……! 流石は王族のお相手になるのに相応しい方ね!」

 

 

 ……んん?

 決闘の迫力や第一王女の強大さ、それに勝利した己への憧憬――以外に混じる何かを、今更ながらに当事者なとんぬらは察知した。

 

 

「おめでとうございます! アイリス様!」

「ええ、本当に良かった良かった。魔王が討伐されて、これからの『ベルゼルグ』も安泰ですな」

 

 

 何故か、負けたのに祝福の賛辞(ことば)が贈られる。普通、自国の王族が正体不明な輩にやられたらもっと悲しんだり、王女に気を遣ったりするものだととんぬらは思っていたのだが、その予想を裏切る事態。

 これにとんぬらは、決着がついた後にするのは空気が読めない感じがしてアレであるが改めて、王女様に訊ねる。

 

「そういえばだが、王女さん、これっていったいどういう催事なんだ? これほどハチャメチャな決闘騒ぎを起こす理由って何なの?」

 

「? 第一王女(わたし)のお相手を決めるのが目的ですよ」

 

 …………は い?

 

「お相手とは、勝負相手という意味で?」

 

「いいえ、違います。ですから、“私よりも強い相手と結ばれたい”――そう宣言して、この決闘を行ったんです」

 

 本当に知らなかったのですか? と小首を傾げるアイリスに、固まるとんぬら。

 ………………あれ? そうなの? ――いや、おかしいだろ。だって、それならどうして、王女とゆんゆんがあんな真剣になってやり合っていたの? 女子同士なのに国の王族と里の次期族長が婚約? 本当にどう言うことなんだ!?!?!?

 

 ダメだ、さっぱりわからん。下手にこれ以上考えを進めてしまうと変な方向に転がって頭の中が余計に拗れてしまいそうだ。それにここでつい勝ってしまった己の立場は……

 と、そんな精神安定のために思考停止させたとんぬらであったが、それでも言えることはある。

 

「なんとまあ、じゃあこの催しは失敗するのが決まっているではないか。聖鎧聖剣装備(チート)の無理難題もそうだが、なにせ前提から破綻しているんだからな」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「王女さんの興味を惹くのは、強さよりも弱さだからだ。真っ当に強いあんたが単純な強さになどこだわるものか」

 

「弱さに、私が……?」

 

「人間、自分にないものにこそ惹かれるものだ。周囲になかなかわがまま(弱み)を見せられない王女さんにはそれが眩しく映るだろうな」

 

「しかし、それでいいのでしょうか。王族であるのなら、強い者と結ばれるのが良いと思うのですけど」

 

「矛盾したように聞こえるだろうが、己が弱いことを自覚するものほど、いざ本気で勝ちに来るとなると強いぞ。力がないから我武者羅に考える。王女さんのような、工夫の必要性に迫られたことがない強者にはなかなか持つことができない得難い武器だ。それを誰よりも持ったカズマだから魔王をも討伐し得たんだろうな」

 

 最後は他者(カズマ)押し付けてしまう(アピールする)形であるが、王女の興味を逸らす意図も含めそう語る。何せこの状況に流されたままでは本当に婚約者になってしまいそうで、これ以上の混乱が起きてしまう前に去らなければという想いに拍車をかけて――それが最終的な後押しとなった。

 そして、効果は思いの外大きかった。

 

「え? お兄様が魔王を倒したのですか!? あなたではなくて?」

 

「そうだが、ダクネスさんから話は聞いていないのか?」

 

 詰め寄るアイリスに、とんぬらは横へ視線を投げる。

 その先には決着がついてすぐにこの舞台上へダクネスとめぐみんが駆け寄ってきている。

 それを見やりながら、二人はまた少し言葉を交わす。

 

「どうやら情報が錯綜しているようだが、これからは自分の目でもって相手を見つけるのがいいだろう。魔王が倒されて平和になったのだから、それくらいの余裕はできるんじゃないのか」

 

「では、あなたはどんな相手が良いと思いますか? 強い方ですか? それとも弱い方ですか?」

 

「強さ弱さはその者個人の感性が入るからあまり言えないが。でも、強さも美しさも永遠のものではない。いずれは衰えるし老いる。だから、それでもいいと思える相手が俺は良い思う。そうだな、一緒にいれるだけで十分と思える相手と付き合えるのが幸せなんじゃないか」

 

 この言葉に、目を丸くした王女と繋いだままだったその手を解く。

 

「じゃあ、とりあえず、この決闘はダメージ判定的に王女さんの勝ちだ。おめでとう」

 

「いきなり手のひらを返してきましたね」

 

「俺は、魔王を倒した勇者でもない。そして、この決闘を制しても王女様と結ばれたいと望んでいない。好ましいとは思うがね」

 

「そうですか。私もあなたのことは好ましいと思っていますよ。ですが、お相手をするのなら今日のように剣を交える形が良いです」

 

「そいつはご勘弁願いたい」

 

 そうして、とんぬらはそのスッキリした笑みを浮かべるのを見収めにして、アイリスから離れる。

 これ以上、面倒ごとに囲まれる前に退散させてもらう。

 

「最後に、あなたは何者なのですか?」

 

 背中へ投げかけられたこの問いかけに、仮面の下の口元をふっと綻ばせて、名乗り上げた。

 

「我が名はとんぬら。悩み相談から魔王の討伐まで請け負う神主なる者だ」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「アイリス様、トール!」

 

 心配したのだろう。必死に駆け付けてくるダクネス。ちょうどいいととんぬらは手を振り、それを放る。

 

「ダクネスさん、『ルラフィン』の中心街にある酒場の賠償で、もし俺の分の賞金を取ってあるのならそれで支払ってもらえませんか。クリスさんが居残りして働いているので、早く解放させてあげてください」

 

「はあ? 一体どういうことだ? いや、それよりも、これは」

 

「あと、『イージス』のこともよろしく頼みます」

 

 ダクネスへ投げ渡したのは、ついさっき復元したばかりの聖盾の神器。この対応に当然のように念話の悲鳴が届けられた。

 

《ちょ、ご主人様! いきなり盾姉様を手放すなんてどういうこと!?》

 

「突然で悪いな。今度はちゃんとした相手を見つけてくれ」

 

《ええっ!? ご主人様以上に素晴らしい腕っぷしに巡り合えるとはとても思えないんだけど!》

《ぷふっ! 上位神器のクセにフラれるとか、ご愁傷さまです! いやあ、相方の不幸でメシウマだわー!》

《あんたは不良品回収されたらいいんじゃない? ちょうどスクラップになってるし、ロリコンな鎧だなんて素材のオリハルコンにまで戻して生まれ変わった方が世の為よ》

《ロリコンじゃねーし! 美女も美少女もイケる懐の広い聖鎧だし! この聖盾は造り直されても口煩いところが治ってねーよ、どうなってんのソウルブラザー!》

 

 騒がしく再び喧嘩をおっぱじめる神器の相手を押し付けてしまう形となって申し訳ないが、しかし持っていくわけにはいかない。この世界の守護者はこの世界にあるべきだ。『盾の一族』とも呼ばれるダスティネス家であるし、聖盾を預かるには相応しい場所であると勝手ながらも思わせていただくとする。

 それから僅かに遅れてやってきた、この世界の紅魔族の同士へ、

 

「めぐみん、カズマとアクア様、あとウィズさんに……ああそれからミツルギたちにもよろしく言っておいてくれ」

 

「トール?」

 

 伝言役を任せれば当然訝しまれたが、それに勘づかせる間も与えさせる気がないとんぬらは、短く告げた。

 

 

「じゃあな」

 

 

 そして、眠り姫なひとりの少女を背中に乗せて傍に駆け付けて来た天馬に跨り――

 

 

 参考ネタ解説。

 

 

 メガザル:ドラクエシリーズに登場する呪文。術者の全てのHPMPを消費して、パーティのHPを全回復させ、死亡状態も確実に蘇生する自己犠牲呪文。ドラクエモンスターズシリーズでは、“術者も時々瀕死のダメージで持ちこたえる”という仕様になっている。

『メガザルダンス』という踊り特技もあり、そちらは自身の現HPの99%と全MPを使って味方を完全回復させるというケースもある。また『メガザルの腕輪』なる装飾品もあって、そちらは装備したものが死亡すると自動的に『メガザル』を行使する(ただし一度きりの使い捨て)


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