ガトーの護衛たちを倒した第11班が集まる。
「こいつらを埋葬するにも時間が掛かる。まずは任務を優先しよう」
「ガトーですが、どうやら結構な数の人間を集めているようです」
ガトーのアジトの近くの位置で潜伏している第11班であるが、ソラがシカクに話しかける。
「ふむ、俺がやるか。あまり出張りたくもないのだがな」
「すみません」
「いや、いいんだ。先の戦闘自体が想定を大きく超える自体だってだけだ」
そう言ってソラたちをシカクが眺める。
気絶者2人と限界のくノ一が1人。とても敵アジトに侵入し、暗殺ができるような状態ではない。時期尚早でも暗殺任務を請け負ったからには、下忍の誰かにやってもらうことを考えていたシカクだが、自分にその役目が回ってきてしまったことにため息をつく。
別段、急ぐ必要もないか。
部下の成長の早さに焦りを感じていたのかもしれない。実力は上がっていても心が追いついていないソラとハザマには辛い任務だろう。まだ12歳の下忍たちに暗殺を要求するのは酷だ。暗殺任務を受け持った時は、この子たちならできると勘違いしていたようだ。シカクはソラが俯いているのを見て察する。
「…」
「あー、…読まれたか?」
自分の考えがソラに伝わる。
「私はわかりません」
「いいんだ、そんなに生き急ぐ必要もない。暗殺は俺に任せておけ」
「はい」
「ソラたちはここで待機。どうせガトーはならず者しか集めていないんだろう?」
「忍は1人もいません」
「それなら楽勝だな。2人は任せる」
瞬身の術でその場から、一気にガトーのアジトにシカクが侵入する。見張りが認知できない速度で内部に侵入していくシカク。そしてガトーが大勢の人間を集めている場所へ侵入した。
「お前らいいか!忍一人につき千両払う!所詮あいつらも人間だ、殺せ!」
うおおおお、歓喜が上がり、集まった百程の人間の興奮がピークに達する。
「任務完了」
わざと集まった百人のギャングたちの前にシカクが姿を現す。突然の出来事に動揺するギャングにわかりやすく、何が起きたかを示した。
「ガトーの首はもらった。俺と殺り合いたいなら掛かってきな」
依頼人の死亡。全員が動けなかった。そして首を刎ねられたガトーから血飛沫があがると全員が恐慌状態に陥る。
恐怖で逃げ出す者、足腰の力が抜けその場に倒れこむ者、そして死を覚悟し、生き残る術を敵の排除と勘違いした者がいた。
「命はないと思え」
シカクに攻撃を仕掛けた4人のならず者を苦無で切り裂く。怯え、動けなくなった者たちを尻目にシカクは有然とガトーのアジトを歩く。シカクが外に出るとき、そこにある程度の大きさの集団が集まっていた。シカクを見て最初に逃げ出した連中である。その者たちが外を見て怯え、足を止めざるを得なくなったこと。それをシカクが理解した。
「通してくれるか?」
シカクの声が集団に道を作らせる。
「…これも忍の戦闘で起きた現象だ。気にすることはない」
集団を通り抜けながらシカクは呟いた。丘が吹き飛び、地面がえぐれ、雑木林は見るも無残な光景。さながら災害である。気にすることはないと言うが、その言葉を受け取る側の心境は想像に難くない。
シカクは近くの岩陰に潜伏している3人の部下の元まで足を運ぶ。
「終わったぞ。起きたか2人とも」
「ああ」
ツカイは伸びをしながらシカクに答える。口には苦い兵糧丸を含み、嫌々ながら食べているのか眉も曲がっている。もう1人のハザマも同じく兵糧丸の苦みに耐えながら咀嚼をしている。そのためかシカクが声をかけても返事ができなかった。
「ソラはどうした?」
「遺体を集めてる」
「そうか…、俺たちもうかうかしていられないな。そうだ。青の信号送らないとな」
「…それって戦闘中に気づけるような代物なのか?」
「いや、無理だろう。無益な争いは必要ないからな。止めに行くか?」
「ソラはそうしたいはずだ」
「俺はツカイとハザマにも聞いているんだぞ」
シカクがソラを言い訳にするツカイと、まだゴホゴホと水を流し込んだりして苦みから逃げようともがいているハザマに聞く。
「…俺も別に殺し合いがしたいわけじゃねえからな。避けられる戦いなら避けるべきだろ」
「ん、んー」
同意といったニュアンスのボディランゲージを送るハザマ。それを呆れながらシカクは笑う。
「それなら、善は急げだ。埋葬は後にしよう」
灰牙3兄弟の遺体を集めて、戻ってきていたソラにシカクが話しかける。
「わかりました」
「ハザマ、行けるか?」
ハザマは兵糧丸を飲み込んで頷く。
「気絶しても黒助がチャクラを消費しながら残っていたみたいだ。…たぶんギリギリ行けます」
「よし、ハザマに捕まれ」
「転移・口寄せの術!」
第11班はハザマの口寄せ動物、カラスの黒助の元へ転移した。
タズナが建てている橋の上でカカシと再不斬が対峙していた。再不斬は口寄せ動物に捕らえられ、逃げ出すことができない。
「再不斬、お前の野望は大きすぎた」
水影の暗殺を企み、クーデターを起こした再不斬にカカシは告げる。
「報復のための資金作り、そして追い忍の捜索と報復から逃れるため、…そんなところだろう。お前がガトーのような害虫に組みしたのは」
一度言葉を切り、再不斬を見据える。
「お前はこの俺が写輪眼だけで生きてきたと思うか?今度はコピーじゃない俺自身の術を、…披露してやる。
雷切!」
カカシが印を結び、目で見えるほど濃密なチャクラが雷の性質に変わり、その雷がカカシの手に収束していく。
「お前が殺そうとしているタズナさんはこの国の勇気だ。タズナさんの掛ける橋はこの国の希望だ。お前の野望は多くの人を犠牲にする。そういうのは忍のやることじゃないんだよ」
「…知るか」
カカシの言葉を再不斬は無下にする。
「俺は、俺の理想のために戦ってきた。そしてそれは、これからも変わらん!!」
カカシが動く。
再不斬の息の根を止めるため、雷切が再不斬を射抜こうとする。
ここまでか…
自分の野望が終わることを感じ、再不斬は諦める。
そこへ瞬身の術で回り込む影があった。
写輪眼でそれに気づいたカカシは止まれる距離ではなかった。
再不斬の弟子である白が再不斬を庇おうと2人の間に体を差し込んだ。
だが、もう1つカカシと再不斬の間に介入するものがあった。
「火遁・炎刀百尺」
炎の刀がカカシの雷切を止めた。
ハザマの口寄せにより第7班の元へ空間転移で急行した第11班だったが、その場所が想定の範囲外だった。
「地面がないんだが」
突然の事態に真っ先に言葉を発したのはシカクである。
「これ、このまま落ちたら死ぬぞ」
「そうだね」
呑気な表情で宙に放り出されたツカイとソラが会話する。そして重力により加速し、落ち始める。
「黒助!空飛ぶなって言っただろうが!?」
珍しく動揺で声を荒げるハザマ。カラスの黒助はそれを聞いて素知らぬ表情をしているようにそっぽを向く。1人と1匹のやり取りを見ずに他の3人が真っ逆さまに落ちながらどうするか思案する。
「とりあえず、下に炎刀放ってくれる?特にカカシ先生の技を止めるように」
霧が深いが、多少薄れているおかげか遠目からでもカカシの雷切が目で見て取れる。
「おい、俺、今ほとんどチャクラないんだが」
「兵糧丸食べたでしょ?」
「いや、まあいい。一瞬だけなら問題ない技使う」
シカクは地上を見る。地上というよりは橋上であるが、そのまま落ちれば死んでもおかしくない高さだ。
「火遁・炎刀百尺!」
30メートルほどの炎の刀がカカシの雷切と衝突する。
カカシは突然の2つの事態に驚き、その場を後退。身代わりとなって死ぬ気でいた白も驚いて反射的に視線を上げる。再不斬は命を投げ出して介入してきた白と炎の方の両方に驚いていた。再不斬の行動を封じていた口寄せ動物たちは雷切が決まると判断した瞬間に帰還しているため、再不斬も回避行動が取れる。再不斬はとっさに白を抱えて後退。
「結界術・八方水精」
地上に立方体の水の幕ができ、そこに4つの影が落ちる。
「いでぇ」
一番下に敷かれたツカイが肺から息を吐き出しながら愚痴を言う。上に乗った3人の重さで呼吸がし辛いのだろう。
「僕も身動きが取れないだが」
「上に乗られちゃ動けん」
一番上に不時着したソラはよいしょという掛け声で橋に立ち、八方水精を解除する。するとシカクに敷かれる形で2人の下忍が橋に倒れる。再びチャクラが空になってしまい、身動きさえ取れない状態だ。
「お前が桃池再不斬か?」
2人の子どもの上に悠々と着地したいい歳した大人が口を割る。
「新手か、白下がってろ」
「再不斬さん…」
再不斬はシカクを警戒して首斬り包丁を構える。
「ガトーの暗殺が完了した。お前にタズナさんを襲う理由はなくなった」
そう告げてガトーの首を晒す。それは決して作り物ではないと判断できるほどに生々しいものだった。
「…そうか、俺の手下をやったのもお前らか。だが、解せねえな。あんたがボロボロになるような相手じゃねえと思ったが」
「ガトーはお前共々タズナさんを始末する気でいたようだぞ。岩隠れの抜け忍、三獣を使ってな」
「…ガトーの野郎、そんなことしてやがったのか…」
再不斬は緊張が解かれ、霧隠れの術を解く。
「白、引くぞ。ここにもう用はない」
「待てよ!!お前らはサスケの仇だ!!」
再不斬たちが自分たちの仕事は終わったとして去ろうとした時、ナルトが止める。ただで逃しては死んだサスケが報われない。そう考えていた。
「ナルトくん、サスケは死んでませんよ」
「へ?」
気質で生きていることを確認していたソラが横槍を入れる。
「相変わらず甘いな、白」
「すみません、殺したくなかったので」
ちょうどその時、サスケが目を覚まし、それをサクラが遠くからナルトに伝える。
「急所は外しました。時期に動けるようになりますよ」
「な、なんだ…、よかったってば。…サスケ!生きてんなら紛らわしい気絶すんな!」
白と戦う理由がなくなったナルトは、一息吐いてからサスケを叱責しに行く。無理言うなウスラトンカチというサスケの返しが聞こえてきていた。今度こそもう用はないと再不斬は踵を返す。
「待て、再不斬」
「…カカシ、俺とお前が戦う理由はなくなったはずだが」
またも止められる。抜け忍は基本的には他里の忍が倒す必要がない。もちろん木の葉にとって害になればカカシは再不斬と戦うが、今回の件、再不斬は任務依頼によってカカシと戦闘を繰り広げているだけだった。そのため戦う理由はない。
「お前に聞きたいことがある。お前は何故に霧隠れにこだわる」
背を向けて去ろうとした再不斬が固まる。
「お前は何か大きな野望を掲げて、何故それを本気でやろうとしていない」
蒼井一族でもないカカシだが、再不斬の心情を見抜いていた。
「何のことだ?」
「お前は俺の雷切に死を覚悟し、それを受け入れた。それが解せない。…お前と戦ったのは2回しかないが、それでもお前の野望の大きさを感じ取った。それを捨てるとは到底思えないほどにだ。何としても争うはずだと俺は思っていた。だが、あの時お前は諦めた」
「本気で死を覚悟したらどんな野望を抱えていようと諦めるものだろ?」
再不斬はカカシに目を合わせずに一般論のようなセリフで反論する。やはり再不斬らしくない。カカシはそう感じていた。カカシの興味本位のことではない。過去に闇を抱えているカカシは血霧の里のことが心に引っかかっていた。
「霧隠れの里と呼ばれる前の血霧の里、お前はアカデミーの卒業試験で同期のすべての生徒を皆殺しにした。そして俺はお前がクーデターを起こし、霧隠れの里を再び、血霧の里に戻そうとしているのではないかと最初は考えた」
「そうか」
「だが、それは違うだろう。その程度のことでクーデターを起こしたりはしないだろう」
「…」
「だから解せない。霧隠れの里を血霧の里に戻す。それはガトーに与してまでやることじゃない。お前は何故クーデターを起こそうとした?」
再不斬は黙る。答える必要はないと本来言うべきだったが、再不斬はそれができなかった。
「遠い過去に悲しみの誓いを立てたから」
再不斬は目を見開く。ソラの言葉が再不斬の心に触れた。まるで見透かされたような感覚に再不斬はソラへと反射的に振り向く。
「ごめんなさい。あまり詮索するつもりはないけど、私は蒼井一族だから」
「…ちっ」
蒼井の特性を知っていた再不斬は舌打ちするだけ。その再不斬の隣に立つ白は再不斬の心情が揺れ動いていることに動揺する。白はこれ以上再不斬に不安を与えてはならないと、再不斬の前に立つ。
「何も詮索しないでくれませんか?」
道具として自分を見ている少年は今、再不斬の前に立ち、再不斬を助けるべきだと考えていた。だが、ソラはそれを許さない。
「きついことを言うけど、あなたよりも私の方がこの人の心に詳しいよ」
白は一瞬何を言っているのか理解できなかった。そして侮辱され、自分の中で決して赤の他人が踏み込んできたら許せないことだと気づく。白の怒りがチャクラになって溢れ返る。
「やめろ」
怒りが行動を起こす前に、再不斬から白へと停止の命令が出される。
「ですが!?」
「やめろと言ったんだ」
白は自分の心が完全には制御できていないが、再不斬に言われたことを厳密に遂行する道具としてなんとか感情を押し殺す。
「カカシ、知りたいことは教えてやる。その代わりに一つだけ要求を呑め」
「…無理のない範囲ならな」
「白を木の葉に連れて行け」
白はさらなる衝撃を受けた。
橋の修復をするため厄介払いになった忍達は、傷付いた者達の応急処置を済ませ、カカシ班とシカク班と再不斬達は橋の見える丘にいた。白を木の葉に連れ出して欲しいと願った再不斬が、自分のクーデターの理由を話し、それを考えた上で、白が再不斬に賛同して行動を共にしていたことを問題とするかどうか。それを話し合う会合となった。なぜ再不斬の事情を話すかといえば、白が再不斬につきっきりであり、その価値観が崩れていないか、木の葉に敵対心がないかを知るためである。
語るにあたり、再不斬が木をなぎ倒し簡易的な椅子として切り株を作り、腰掛けてしばらく、口を最初に割ったのは再不斬だった。
「俺のクーデターの動機か。ま、ただの復讐だな」
「復讐?」
その言葉に一番敏感なサスケが反応する。
「ああ、それも復讐とは言えない。ただの八つ当たりだがな」
「八つ当たりって…」
予想外な言葉にハザマが呆れる。これでは白を木の葉に連れて行くのに賛成できなさそうだとハザマは考える。
「霧隠れがまだ血霧と呼ばれていた頃、三代目水影の時代から、アカデミーの卒業試験は殺し合いをしてきた。それが他里の連中はよく知っていたみたいだが、実際は違う」
「階級制度か」
事情を少なからず知っている年長者のシカクが口を挟む。
「よく知ってるな。そうだ、霧隠れは当時、厳密な階級によって支配されていた。三代目と四代目水影が恐怖政治で支配していた。そして殺しあうアカデミー生は全員が最下層の階級出身者のみで行われていた」
ナルト、サスケ、サクラ、ハザマ、ツカイには衝撃的な内容だった。ソラはそれを予想していたため驚きはしなかったが、聴いている身として気分のいいものではないと顔を歪ませる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれってば!じゃあなんだ?再不斬はお前と同じ最下層の身分の奴らを皆殺しにしたのか!?」
「ああ、そうだ」
「っ!?どうしてだ!同じ境遇の仲間じゃないか!!」
「…」
再不斬は沈黙する。それに勘のいい者は気づいた。
「…まさか、お前!?」
「…カカシ、おそらくお前の想像のとおりだろう」
カカシは息を飲む。
「俺は別に同期の卒業生を全員殺したいと思って殺したわけじゃない。俺もガキだった。当時はな。最下層民の虐げられてきた生活をどうにか変えたいと願っていた。だから突拍子もないことを考えついてしまった」
再不斬は一息ついて再び口を開く。
「卒業生を皆殺しにしてしまえば、上層部の奴らが困り、この悪習を止めざるを得ないだろうと、な」
行き過ぎた正義とでも称されるそれに、誰もが言葉を失った。それを考えてしまった再不斬は、それを実行したことを全員が知っている。他里である木の葉にすら周知された事件だ。
「同期を殺すことに抵抗はもちろんあった。だが、それで俺は確信した。革命を起こせば霧隠れの里の悪しき身分制度を廃止にできるとな」
「そうか…」
「当時はガキだったから余計に衝撃だった。味をしめた俺はそれが間違った道だと気づくことはできなかった」
「間違った道?」
純粋に疑問になってしまったサクラは、恐怖していたことすら忘れ、再不斬に興味で聞いてしまう。
「間違っていたと気づいたのは最近になってからだ。忍に正式に登録され、上忍まで上り詰めた俺は、予てからの計画である里を変えるためのクーデターを起こす準備に取り掛かった」
「うん?待て、それならお前がクーデターを起こし、お前が血霧の里に終止符を打ったんじゃ?」
話の内容を予測すると、現状の霧隠れの里は血霧の里と蔑称されていない。再不斬がクーデターを起こし、里を変えたと聞いた方が辻褄があう。
「違う」
再不斬は自分は何もしていないと否定した。
「クーデターを起こし、身分制を廃止させることを考えていた矢先だった。クーデターを起こす前に、血霧の里という蔑称が付けられる原因となった四代目水影の恐怖政治が終わり、身分制度がなくなった」
「どういうことだ?」
「理由は知らん。だが、いきなり身分制がなくなり、恐怖政治も終了し、俺たちが目標としていた里に変わっていった」
心境を察したハザマが再不斬の八つ当たりという言葉を思い返し、再不斬に問う。
「それは受け入れられなかった、ということですね?」
「そうだ。俺たちの手で掴みとるはずの未来を、憎き上位層がその未来を横取りした。霧隠れから身分制がなくなるのは賛成だが、だからと言って今まで散々虐げられ、その張本人どもがこれからは手を取って仲良くやりましょうと言ってきたんだ。ふざけんな!!!」
いきなり大声で怒鳴った再不斬に何人か驚く。激昂した再不斬は一息深呼吸を入れ、冷静さを取り戻す。
「身分制で愛する者を失った者達、粛清され、全滅した一族すらいる」
サスケの体がわずかに跳ねる。
「到底許せることじゃない。そして俺たち最下層民のやり場のない怒りが爆発するのに時間はかからなかった。爆発のきっかけは問い合わせた水影から里が変わることになった理由を、その明確な解答を得られないということだった。暴走した俺たちはクーデターを起こそうとしたが、事前に察知され、襲撃されてあえなく敗走となった。俺自身アカデミー時代に殺した同期の両親や一族に恨まれているからな。最下層の者達が全員クーデターに賛成したわけじゃねえ。だからクーデターの協力を断られ、里側に着いた最下層民に計画が筒抜けになるのは仕方なかった」
木の葉の忍達は何も言えなくなった。再不斬の立場を考えるとやりきれない。
「クーデターに失敗し、逃げる時、何故同じ最下層の者達が霧隠れ側に着いたのか疑問だった。それを理解したのは里を抜けた後だ。抜け忍となった直後は抜け忍として生きる過酷さを知り、あいつらは賢い生き方を取ったんだと勘違いした。それは違った。抜け忍として生きる俺は激情に甘えた。耐え忍ぶことができなかった。耐えて耐えて、憎しみの連鎖を継なげないように怒りを飲み込んだんだよ。里に残った奴らはな。俺は元上層部の奴らを恨み、復讐することで憎しみを継なぐことしかできない。里に残った奴らは立派だ。奴らを目の前に俺は仲良くするなんて到底できそうにない。里に残った元最下層の身分の奴らが一番に正しかった」
「…なんでだよ」
納得がいかない。聞いているだけで復讐する理由はある。手を取り合って生きる。憎しみの連鎖を継なげない。それらすべてがサスケには理解できなかった。
「なんでだよ!?虐げられ、殺され、殺させられ、なんでそんなことをしてきた奴を憎まずに生きて行けるんだよ!?復讐すべきだろうが!!」
復讐に囚われているサスケが再不斬に反論した。その怒りの形相に同じ班員のナルトやサクラも驚いてしまう。ハザマとツカイもサスケの復讐心に触れるのは初めてなので驚いていた。
「何も憎んでいないわけじゃない。里に残った連中は上層部を必ず憎んでいる」
「じゃあ、何で…?」
「上層部にいた奴らが、身分制度のない世界で悠然に過ごせると思うか?」
「え…?」
「暴力、武力に頼るだけが復讐じゃない。自分たちの価値観が通じない世界に放り出され、それを求めていた者達と求めていない者達。勝つのは求めていた価値を知っている連中だ。身分差別のない里で成功するのは虐げられてきた連中だ。逆に上層部の連中は過去の栄華に囚われ、里では生きるのも息苦しいだろうよ。四代目水影も含めてな」
サスケには何も言えなかった。
「別に本当の意味で仲良しこよししようってわけじゃねえからな。裏では恨みつらみもあるだろうが、正面から正々堂々武力にすら頼らずに自分の成功を収めていく。それだけである意味復讐になるのさ。自分たちの方が幸せに生きてると見せつけてな」
「それでも…」
「ああ、言いたいことはわかっている。報われることのない悲しみを背負う者。そいつらが復讐をしない選択をしたことは薄情に思えるか?俺も最初はそう思った。だが、悲しみを背負ってでも奴らは前を見たんだよ。未来を見たんだ」
「未来を?」
「ああ、いつまでも過去に囚われ復讐をすれば、また復讐される。それじゃ結局全滅してしまう。何が自分の中で今、未来、何を守りたいか考える。何もないって奴だけが復讐の魔の手から逃れられない。俺には何もなかったからな」
サスケは過去にカカシに復讐は何も得ない、という言葉だけで復讐をやめるように諭されていた。だが、再不斬の話を聞いて復讐を別の角度から捉えられるようになっていた。
「俺にはなにもなかった。だが、今はできた」
再不斬は隣に座る白の頭に手を乗せる。白は再不斬がどんな苦悩を持っているのか知りもしなかったが、白には再不斬が自分の知っている再不斬ではないように感じていた。そして、再不斬の行動は白を一層驚かせた。目を見開いて再不斬を見つめる。
「どうやらお前も復讐に囚われているみたいだな。やめろとは言わない。だが、大切な者を作ることを恐れるな。俺からお前に言える忠告はこれくらいだろう」
サスケは黙り込んだ。白は予想外の再不斬の言葉に頬を染める。
「話を戻して悪いが、それならガトーに付く必要はなかったんじゃないか?」
「言っただろう。俺はやはり割り切れない。復讐というよりは八つ当たりだけどな」
「ああ、クーデターじゃないってことか」
「霧の市民や憎き上層部の関係者とかは別に巻き込もうとは思ってない。上層部の一族を滅ぼそうという考えも捨てた。だが、それでも当時から生きている上層部の連中を許せないのさ。もちろん水影も含めたな」
「なるほどクーデターではなく私情の復讐。暗殺か」
「そうだ」
「結局、復讐は止められなかったのか?」
「そうでもねえ。惰性で金を集めていただけだ。どこか暗殺を計画してはいたが、まるで実行する気にはならなかった」
「そうか」
「金は必要だったからな。ガトーの依頼といえど熟す予定ではあった」
白の頭をガシガシと撫でながら、再不斬は吹っ切れたような表情で笑みを浮かべる。
「お前の聞きたいことはこういうことでいいのか?」
「ああ、どうやら一つ引っ掛かりが出てきたからな」
「お前が霧隠れに対し、なんらかの事情を抱えているみたいだが、どうやら俺と同じ疑問を持ったようだな」
「水影の改心の理由」
「そうだ。それだけが俺の復讐計画が頭から離れない最大の理由だ。だが、それは一体なにが起きたのかはわかっていない。だが、ぶっ飛んだ事情があったってのは確かだろうな」
「ああ」
再不斬のクーデターの話はひと段落がついた。元々はカカシが血霧の里についての情報収集が目的であるこの会合だ。カカシと再不斬以外はおまけにすぎないのだが、ここからが本題になる再不斬の木の葉への依頼だ。
「白を木の葉に入れたいってことだな?」
「ああ、これだけ事情を説明すれば、白には問題がないことくらいわかるだろう?白は木の葉に恨みはもたねえよ」
「だがな…」
白は再不斬を中心に動いている。再不斬が快楽殺人鬼だったということもなく、白は抜け忍であること以外特に問題がないが、白自身が再不斬と離れて木の葉でやっていけるビジョンがカカシには見えなかった。
「いいじゃん、いいじゃん。それにカカシ先生も約束したってば。俺、白が木の葉に来るのに賛成!」
「修行の相手になる。俺は構わない」
話半分に聞いていたナルトと復讐のことを考えていたサスケが、白の木の葉入りに素早く賛同した。
「僕も構いません。というよりあまり白さんを知りませんが」
「俺もいいぜ。結構強そうだし、仲間になるなら心強い」
ハザマとツカイも再不斬の事情を聞いて賛成してもいいと判断した。
「私も再不斬さんが本当に悪人とは思えないし、反対する理由はないわ、ソラは?」
「私も賛成です」
気遁の使えるソラが賛成すると、さすがに説得力が違う、ただ賛成と言っただけだが、上忍2人を頷かせるだけの能力があったからだ。
「どうやら合格らしいが、後は白くん次第だ」
白は思い悩む。今までの価値観を崩され、再不斬は道具としてではなく一人の忍、人間として自身を見るようになった。
「別にべったりと再不斬さんに甘えたければ、来なくてもいいのですよ?」
ソラの一言が決定打だった。
「どうやら僕は君を木の葉で懲らしめなければならないようですね。再不斬さん、僕は大丈夫です」
即決だった。橋上でのソラの挑発がここで生きる。白は15歳であり、ソラは12歳。年下にしかも蒼井の特性で長年連れ添ってきた再不斬の本心を知らなかった白に対し、それを垣間見て再不斬の理解者を気取るソラ。白はソラが嫌いだった。そして3歳年下の女の子に年下扱いのようなことを言われれば、さすがに白も再不斬にわがままが言えない。白の本心は再不斬に付いていたいが、再不斬は白のためを思い、抜け忍暮らしではなく、木の葉の里の忍として幸せを願った。それを無下にはできない。背中を押したのがソラだっただけだ。ソラを理由に白は再不斬と離れる道を選ぶ。
「再不斬、お前はどうするんだ?」
「俺はこれまで通り抜け忍として暮らす。それは変わらねえだろう」
「俺が言ってるのはお前が木の葉に来るかどうかだ」
「は?」
シカクからのキラーパスに再不斬は呆然とする。
「いや、馬鹿か?俺の悪事はだいたいの里にしれ回っている」
「一般人はお前の顔なんて知らないし、暗部としてなら顔を見せなくてもやっていけるだろう?」
「頭いかれてんじゃねえのか?」
「聞いてみるか?木の葉の里の忍びである。この9人に?」
9人とは再不斬以外の人間の数である。もちろん白も含んでいた。
再不斬のクーデター事情は捏造。具体的なこと書かれていないから捏造しました。大変だった。
オリジナル忍術
転移・口寄せの術
逆口寄せができない口寄せ動物のための逆口寄せの術。術者が口寄せ動物の元へ飛ぶ。
火遁・炎刀百尺
火の性質変化とチャクラの形態変化を必要とする、炎でできた刀を百尺ほどの長さまで伸ばしたもの。