波の国。ガトーのアジト付近。木の葉の里の第11下忍班の面々は灰牙3兄弟と戦っていた。分断された戦力が衝突する。
「終わりだ小僧!!」
銀火の口寄せ動物の虎、岩技の鋭爪が迫っていた。
「避けきれねえ!?」
岩技がツカイを切り裂く。
「ちっ、てめえの拙い変わり身なんて意味がねえんだよ!」
ギリギリのところで変わり身の術が間に合い、ツカイは距離をおく。ツカイは覚悟を決めた。
「…みんな、巻き込むかもしれねえ」
ツカイの様子が違った。それを見た銀火はツカイを睨む。何か奥の手でもあるのではないかと疑うがそれを否定する。奥の手があるならばもうすでに使っているはずである。そう考えた銀火は様子が変わったツカイを気にせずに攻撃態勢をとる。
「崩れるなよ」
トントンと、シカクの作り出した土の壁を叩いてから、ツカイは背後の土の壁に当てていた手を胸の前に置く。その間に銀火と岩技はツカイとの距離を詰めていた。
「もう、この間合いなら変わり身の術は間に合わねえ!!」
ツカイが印を結ぶ。
「獲った!!!」
銀火が勝ちを確信する。
「耀遁・闢轟(びゃくごう)!!!」
光が弾けた。
「何っ!?」
「まずいっ!?」
辺り一面に光が溢れる。
網膜を焼き尽くすような強烈な光の本流が駆け巡る。
一面白に染める光。
荒れ狂う力の波が轟き、次第に音が消えていく。
光も徐々に収まり、目に穏やかな色彩が戻ってくる。
そこには惨状があった。
「ぅ…」
崩れた岩でできた塊が動く。
「うぅ…」
その塊から人間が少しずつ這い出てきた。
「ぐ、…くっ…、はあ…、はあ…」
少しずつ息を整えて、震える足で立ち上がる。
「………嘘、だろ…?」
全身から血を流すほど傷ついた体をゆっくりと叩き起こしたのは銀火だった。
灰牙銀火の前には草木一本生えず、えぐられた大地の中にいることがわかった。
「…ば、…莫迦な!?」
前方にあった雑木林、後ろを振り返っても雑木林、そして後方の奥の方には小高い丘があったはずだ。しかし、後方にはあったはずの雑木林や丘を越えて向こう側にある海が見えていた。
頭から血を流し、全身から流血し、身体中の骨はヒビが入っている。とてつもない速度で岩盤に叩きつけられた体は、思うように動かない。そして、銀火は現状を理解できない。
「が、岩、技…?岩技…」
探している口寄せ動物の虎は銀火の視界にはいなかった。辺り一面見通せるほど何もかもが吹き飛んでいるのに。
「はあ、はあ、…やるじゃねえか。あの虎」
「なに?」
何もわからず呆然としていた銀火の前に、血色が悪く、足が震え、今にも倒れそうな少年が土砂の中から姿を露わにする。銀火は思い出す。目の前の下忍が何かの印を結んだ瞬間を、血色の悪い状態の木の葉の少年が何かをした。それだけは理解できた。
「はあ、はあ、一撃で、屠る気で、いたんだが、な。まさか、耐える、とはな」
完全にチャクラ枯渇をしている状態だった。心身ともに大きく疲労している。ツカイには、耀遁・闢轟という日に一度しか使えないような莫大なチャクラを要求する術を使った反動が大きすぎた。そしてチャクラを十全に持っている状態で使うのが好ましい闢轟を、それまでにチャクラを使っている状態で発動したツカイのチャクラが枯れているのは当然。体に怪我はなくとも、心身共に限界である。そしてそれを防がれてしまった。
「岩技…」
口寄せした虎は主人を守って死亡した。土遁の術で耀遁の威力を抑え込もうとしたが、耀遁は血継限界の中で最高峰の破壊力を持つ。一瞬で破られると判断した岩技は銀火をかばう体制をとり、背中から耀遁が直撃。
岩技は死亡した。
その遺体は口寄せの虎の一族のところに帰り、二人の視界にはもう遺体はなかった。
「おのれぇ!」
岩技が死んだことを感じ取った銀火が怒りを露わにする。
「くっ、はあ、はあ、チャクラはまだ残って、いるのか!?」
「…もう、終わり、だ!殺してやる!」
銀火は火遁の印を結び、チャクラの残っていないツカイはもう忍術が使えない。
「火遁・火龍弾の術!」
ツカイに火龍が迫る。
ソラとハザマと灰牙銅水の戦っている地点。
「避けてぇ!!」
「遅い」
ハザマが噛みちぎられる。
ハザマは煙とともに消えた。
「影分身だと!?」
「下忍でこの術を使うか…」
「下忍?下忍相手に俺を口寄せしたのか?」
銅水が口寄せした岩体(がんてい)が銅水に怒りを示す。
「ただの下忍じゃねえみたいだぜ」
銅水の言葉は岩体にも伝わる。下忍しかも、子どもとわかる年齢で影分身の術など使えばすぐに動けなくなってもおかしくない。それほどにチャクラを消費する忍術を扱える時点で下忍の括りに外れる存在だ。
「まあ、確かに2対1の上、幻術までもこうも簡単に口寄せされた俺にもすぐに掛けられるほどか」
「岩体?」
「なに、もう幻術は解けている。影分身を使ったやつじゃない方も中々強いな」
「油断するなよ」
「中忍二人と思えば納得出来る範疇だ。だから俺を呼んだんだろ?」
「金雷兄貴がこいつらの担当上忍と交戦中でな。助太刀いかねえとやばいから急いでいるんだ」
「そういうことは早く言え、すぐ終わらせよう」
その様子を水面に立ち、水没したが地面から生えている木の影に隠れる2人。
「どうする?あいつ…、僕たちじゃ相手にならないくらい強いぞ」
「…大丈夫、勝機はあるわ」
「っ!?本当か?」
「確率は著しく低いけどね。でも…!?あいつも感知タイプ!?」
気遁で相手の心情を感じ取ったソラは、銅水が隠れているソラ達の方へ的確に狙いを定めたことで感知タイプであることを暴く。
「もしかしてこの水か!?」
水遁で生み出された莫大な水を通して感知しているとハザマが判断する。
「違う、あいつってのは虎の方よ!」
「何!?」
「避けるよ!」
隠れていた木の影から抜け出す。すると、そこへ虎が木を爪で引き裂きながら突撃してきていた。その背には銅水もいる。
「隠れん坊はこいつの得意分野になっちまうが?まだやるか?」
「いたぶる癖を直せ、さっさと終わらせるぞ」
「わかってるよ。水遁・水牙弾!」
「風遁・鎌鼬!」
水の塊が螺旋回転してくる方向が先ほどとは違う。ソラとハザマの背後からの攻撃だ。そして前方からは銅水が口寄せした岩体が生み出した鎌鼬。
「結界術・八方水精(はっぽうすいしょう)!」
水でできた立方体の封印術。その中にソラとハザマがいるものの、水牙弾はその中を通過し、鎌鼬もまた八方水精を難なく貫く。
「脆い結界だな」
銅水は勝ちを確信する。
「銅水!あいつらは偽物だ!」
岩体は不意に近づく2つの影に気づく。
右後方と左後方から手裏剣や苦無を投擲し、印を結ぶ影を発見する。
「何!?影分身か!?」
「ちっ!」
岩体が新たに現れたソラとハザマから距離を取ると同時にその背後で八方水精が四散する。そして中からソラとハザマが出てきた。
「何!?」
ギリギリで反応できたのは岩体だけだった。
ソラが水面に4点投げつけた苦無。それを軸に薄い光の幕に囲まれた銅水と岩体。
「なんだこれは!?」
「まさか!?」
ソラの投げつけた苦無に書かれた文字を見た岩体は嫌な予感がしていた。
「封印術・破口祓い!!」
岩体の体が光り、その場から消える。
「なっ?!」
突然乗っていた動物が消え、空中で銅水が体勢を崩す。
「ハザマっ!」
「任せておけ!」
ハザマとその影分身、さらにソラの影分身が銅水との距離を詰めた。下忍といえど3対1の体術ならそこまで劣勢に立つことはない。さらにいえばソラもハザマも下忍の中では体術に優れている。
「甘いわ!水遁・大瀑布!」
空中で8つの目から死角になる場所で印を銅水は結んでいた。
「何!?ぐあぁ………」
ハザマは鉄砲水に飲み込まれた。2つの影分身体も煙になって消える。
「ハザマっ!?くっ!?」
「逃がすかよ」
ハザマが流されるところから離れ、気遁で空気に紛れ、隠れようとしたソラだったが、銅水はもうすでにソラを射程に捉えていた。
「あの規模の術を発動してたのに、一瞬で!?」
「舐めんなよ。それくらいはできる。そして、てめえが一番厄介だった。ゆえに死ね」
苦無で斬り合いになる。最近、ソラは体術を重点的に鍛えているとはいえ、それでも元特別上忍との力量差はまるで違う。なんとか致命傷を避け、距離を取ろうとするものの、一切距離が取れない。
「岩体をどこへやった!?」
「封印した、のよ!しばらくは、口寄せ、できない、でしょうね!」
「ちっ、聞いたことねえ封印術かよ!」
銅水の苦無がソラを切り裂く。手足からたくさんの血を流し、目が霞みながらもソラは戦う。岩体を封じ込めたおかげで格差は狭まったが、それでも自分たちの土俵では戦えないと相手にならない。
「なんだ?守り一辺倒か!」
苦無を使った体術の合間、わざと作った隙につけ込ませ、一網打尽にしようと試みた銅水だが、その誘いにソラはそれに乗らなかった。
「何か待ってやがるな?」
ソラの狙いを銅水は看破する。
「てめえの相方はもう木に打ち付けられて気絶した。まだ上忍は来ねえ。銀火の兄貴と殺り合ってるもう一人は死んでいるかもしれねえ!」
何と言われようともソラは待つ。
「無駄だというのがわからねえのか!」
ソラは銅水との戦闘で、現状を打破する要素がない。ならば、待たなければならない。少しでも延命しなければならない。勝てる可能性は0ではないなら諦める必要がまるでない。
「てめえの助けは来ねえ」
銅水の猛攻から防いでいた苦無が弾かれる。
「っ!」
ソラは息を飲んだ。
「終わりだ!!」
銅水は絶望したソラの表情を無意識に連想した。
それが命の尽きる時に見せる人間の表情だからだ。
銅水がソラの表情を見る。
だが、ソラの目は死んでいなかった。
銅水は訝しむ。
振り下ろされる苦無を前に、ソラが嗤う。
「来た」
掠れるような小さな声で一言呟いた。
刹那。
ソラと銅水は光の奔流に巻き込まれた。
血継限界。旋遁。記憶の中からシカクはそのワードを取り出そうとするが、遠い記憶の中に埋もれている。
「思い出すのにも時間がかかるか」
灰牙金雷と口寄せ動物の岩心がシカクに絶え間無く攻撃を繰り出していく。
「しかし、考える時間もあまりないな」
旋遁・螺旋武装という技を使ってから金雷と岩心の攻撃速度は飛躍的に上昇している。避けた先でまた回避行動、その繰り返しでなんとか直撃を避けている。
「分身の術!」
「ぬるい!変わり身も意味を成さんな!」
「なら、影分身だ!」
変わり身や分身、影分身で逃げ切ろうとしたが、それでも相手の攻撃速度にすぐに本体が捕捉される。影分身だけはなんとか1、2秒の間は時間を稼げる。
「影分身の術!」
「バカの一つ覚えか?チャクラの無駄遣いして俺に勝てると思うな!」
影分身はすぐに解除されていってしまう。それでなんとか思考を進めていた。シカクにソラのようなマルチタスクの技能はない。着実に分析を進め、考察を深める時間を稼ぐしかない。
「影分身の術!」
「あんたが時間稼ぎしてどうするんだ!!」
ジリ貧になって戦う。そしてその様子を金雷に指摘される。
「時間を掛ければ掛けるほど俺が優位になる。あんたはもう詰んでいるんだよ!」
5体の影分身体が2秒以内に全滅。稚児の手を捻るが如く、金雷と岩心はシカクの戦闘レベルを大きく突き放していた。
「もう、終わりだ!」
再度シカクの影を捉えた。今度は逃さない。苦無を構え、そう決心した金雷。
「そうだな」
シカクの顔には勝利を確信した笑みが張り付いていた。
「抜かせ!!」
岩心の爪でシカクを切り裂く。
「分身だろうと俺の感知、で!?」
切り裂かれたシカクは本体だった。
「莫迦な!?」
「遅いんだよ。お前の思考速度がな」
罠。
シカクに出遅れて岩心はその場を退避しようとするが、シカクの攻撃はもう始まっていた。
「土遁・土流槍!」
地面から土の槍が出て、金雷と岩心を貫こうとする。
「この程度か!」
それを難なく避けるも空中へと誘い込まれる。無防備になる。
「お前らの敗因は攻撃速度と自分たちの思考速度の差だ」
シカクの影分身体がすでに空中へ回避した金雷と岩心を囲んでいた。シカクが印を結び、奈良一族の秘伝術、影を操る。
「影縫いの術」
空中まで影の槍が迫る。地上からの高さは相当なものであるが、金雷たちと同じく空中にいる影分身の背に、自身の影を投影し、空中に伸ばすのにはそう遠くない距離だ。
「ぐぅ!?」
「くっ!」
回避行動をとった直後、防御態勢の整っていないその瞬間を狙った攻撃を防ぐことはできない。
「高速で動き回る際に咄嗟の判断力に頼らざるを得ない。つまり、お前たちは今、判断力が低下していたんだよ」
「なんだと!?」
「付け焼き刃な血継限界もどき、実戦じゃ使えねえぞ」
「っ!?」
見抜かれていた。もう20年以上前に滅んだ一族の血継限界を使っている金雷には衝撃なことだった。金雷の使っている旋遁は本来であれば血継限界を持つ一族だけが使える技。だが、それを技術を以って再現していただけで、灰牙金雷自身は血継限界を持っていない。
「思い出すのに苦労した。確か湯の国辺りにいた一族のものだ。族名は思い出せなかったが、その特徴は思い出せる。そして、その弱点もな」
高速で攻撃を繰り出す反面、罠に弱い。かの旋遁を使っていた一族は金雷のように真正面から攻撃を仕掛けたりはしない。カウンターを避ける目と思考速度が足りないからだ。だが、一族ではない金雷にそれはわからない。そしてそれまで使ってきた旋遁の成果は、真正面からでも余裕で敵をなぎ倒してしまうほどの弱者との経験。それは逆に自分の忍術に対する危険性の認知が薄れていた。
「お前の使うそれは血継限界とは似て非なるもの」
影で縫われ、自由を失った1人と1匹は地面に受身も取れずに落ちる。
「ぐっ!」
「うぐっ!」
その光景を冷静にじっと見つめるシカク。
「お前らは俺が攻撃を食らう瞬間。影分身体、もしくは分身体だと決め込んだ。上忍レベルがこれまで同様、素直にやられるはずがないという経験からな」
倒れ伏す金雷が自由のきかない体をどうにかしようともがき、顔だけはシカクを睨む。
「だから俺が本体であることを認識するのがが遅れた。それはもう致命的にな」
シカクは1本の指を立て、金雷に見せる。
「お前の認識が逸れる0.1秒。それがお前らの弱点だ」
「くそっ」
金雷は倒れ伏しながら悪態を吐く。
「俺の土流槍も空中への回避が最善と咄嗟に判断したのも悪手だ。思考の時間を取れないお前らを空中へ誘導するのは問題ない。その0.1秒を稼ぐのに払った代償は小さくないが、結果的に見れば安いものだな」
旋遁を直接受け止めるのにチャクラと忍具を使い、ダメージを軽減してなおシカクは両腕から少なくない血を流している。軽症とはとても言い難いが、それでも着実な隙を生むためには肉を切らせるのが手っ取り早かった。
「だが、俺はまだ死んでねえぞ」
シカクは目を細める。岩心は地面に縫い付けられながらも眼光鋭くシカクを睨む。
「風遁・風切りの術」
全く動けない状態から忍術を発動し、拘束していたシカクの影分身を倒し、金雷の拘束も解く。
「金雷!雷遁だ!俺たちの旋遁なら殺れる!」
「雷遁・雷龍弾の術!」
「風遁・風龍弾の術!」
金雷の雷遁と岩心の風遁が空中で重なる。
「「旋遁・旋龍弾の術!」」
ただの風とは違い、雷を纏った旋風の龍がシカクに向けて放たれた。
木々を破壊し、削岩機のように地面をえぐり、塵を撒き散らす龍がシカクに迫る。
「なるほどな、そうやって血継限界を再現してたのか…」
シカクはわざと拘束から抜け出すのを見逃していた。血継限界を作り出す技法を完全に見切るために。圧倒的な力が目の前で暴れていようとも、シカクは冷静だった。
やがて、龍が森の一角を破壊し尽くした。
塵が舞い、それが次第に晴れていく。
「さっさと援護に行かねえとな」
金雷と岩心は影に縫われ、絶命していた。
「塵が影を作りすぎた。敵を知っていてもそれを考慮しなきゃ意味ねえよ」
シカクから最後の手向けの言葉が響いた。
11班に命を狙われるガトーは自分の想定とはうまくいかない現状に苛立っていた。地面に転がる三獣の置いていた荷物を蹴飛ばす。
「くそっ!三獣の奴らは俺の指示なしに何で暴れていやがる!?」
「おそらく、木の葉の忍の増援と、ではないでしょうか?」
ガトーの側近が答える。
「木の葉の忍はタズナを護衛しているんだろうが!?なんでアジトに現れる!!」
「そう、おっしゃられましても…、私には…」
「くそっ、誰だか知らんが、この俺の邪魔をしやがって、…第2プランだ!ギャングどもを集めろ!!」
「は、はい!」
ガトーの癇癪に怯えながら、ガトーの部下は指示通りに動く。
「忍がどうした。多勢に無勢、全員まとめて皆殺しにしてやる!まずは近くで戦っている奴らを仕留める!三獣諸共だ!」
その時轟音が鳴り響き、ガトーのアジトも揺れる。
「な、なんだ、何があった!?」
ガトーに冷や汗が流れる。
光の奔流が渦巻く中、ソラは目を閉じ、気遁を全開で展開した。どこにどの形をした物質があるかが手に取るようにわかる。ツカイの耀遁の余波が少ないため、凄まじい光量だけがソラ達の方に届いていた。
「目がっ!?」
振り下ろされる苦無を避け、追尾ができない銅水に手と足の付け根へ苦無を投げ込む。
「っ!?」
目を開けられない銅水に普通の人間にはない感知を持つソラは圧倒的に優位に立っていた。この光が尽きるまでなら苦無を投げてからでも長い印を使える。銅水に刺さった4つの苦無に巻かれていた札が青色に光り、札の周りに青い球状の薄いチャクラ膜ができる。
「封印術・血晶針点」
その青いチャクラ膜内部にある銅水の体に異変が起きる。
「ぐあああぁぁぁ!?!?」
苦無が刺さる痛みを遥かに超えた痛みが続く。痛みに耐えられなくなったように銅水は倒れる。倒れ伏すと同時に周囲の光量は収まり始めた。
「く、何が起きた!?」
苦無からの痛みも、網膜を焼くような光量からの痛みも、特に銅水を止めるまでのものではない。多少動けなくなるだけだ。しかし、今の銅水は完全に行動ができていない。
「何故だ!?何故チャクラが練れない!?」
「点穴ですよ」
「な、に…?」
普段、戦闘をしていて点穴など意識することはない。銅水も戦闘中に点穴を気にして戦うのは木の葉の日向一族の名前以外聞いたことがなかった。
「日向の、人間だったか…、だが、日向ならあの光量で目を開いていられないはず…、どうしてだ!?」
「…そういえば、名乗ってなかったね。私の名は蒼井ソラ」
「日向じゃ、…ない?」
「私の封印術であなたの行動を封印したのよ。点穴を突く封印術でね」
銅水は何も言えなくなった。そんな封印術を聞いたことがなかったからだ。
「聞いたことないのは無理ないよ。私たちの一族が封印術や結界術に長けていることを知っているのは木の葉の忍くらいだから。他里の忍にとっては感知タイプで策略家のイメージだし」
「蒼井、一族…」
「だから秘伝の封印術を知らなくてもおかしくはない」
「岩体をどこかへやったのも…」
「そう、口寄せできるなら反対のこともできる忍術があってもおかしくはないでしょう?」
銅水は口を閉ざした。下忍詐欺もいいところだな。そう心の中で呟く。
「…ははっ、まさか、こんなところで、こんな護衛任務でくたばるとは、な」
「っ!?」
死期を悟り、今までのことを思い出す銅水の心が晴れていく。銅水の心に触れたソラは驚愕した。前に殺した下忍は死ぬのを拒み、恐怖と絶望が占めていた。だが、目の前の銅水は恐怖や絶望とは違う、多少の愚痴あれど、自分の人生に感謝をしていた。また新たな死にゆく者の心に触れる。
「死ぬのが怖くないの?」
ソラは思考を放棄して銅水に問う。
「怖いさ。だが、恐怖を打ち消すほどに大事なものも見えてくる。完全に生き残る可能性がない俺は、その時が来るまで人生振り返って暇つぶしてるんだよ」
ソラにはわからない。
故郷を恨み、人を恨み、世界を恨んだ抜け忍が何故感謝をするのか。ソラには銅水が思い浮かべる具体的な情景を知る手立てはない。
「…俺の態度が変わったからって生かそうとするのか?」
思い悩むソラに銅水が話しかける。
「それはやめておけ、それはお前のためにも、俺のためにもならない」
ソラは銅水の意図を理解しようと考える。
「俺は抜け忍だ」
ソラはその言葉で理解した。抜け忍を同情で逃す。さらに言えば完全に危険思考で、岩隠れだけでなく世界の人間に害を齎そうと考える人間をだ。生かしてしまえばその代償を自分で払わなくてはならない。そして、自分を止めて欲しいと銅水の心の奥底で願っていることまでソラは理解した。
銅水は世界に感謝しているが、同時に恨んでいる。その恨みはもう晴れることはない。
殺らなければならない。
そして、死を覚悟し、銅水は死を受け入れている。
「蒼井ソラ、強かったぜ」
苦無を振り下ろした。
火龍が迫り、もう体をどうにか動かして逃げる他に生き残る術がない。しかしチャクラの枯れた状態で逃げ切れる忍術でもない。
「ここ、までか…?」
力なく迫る炎を呆然と眺める。走馬灯なんて嘘じゃねえか。何もスローモーションに見えず、何も記憶をフラッシュバックすることなく、眺めていた。
「土遁・土流壁」
背後からシカクの声が上がる。
火の龍は土の壁に阻まれる。
「へへっ、遅いぜ、先生」
「悪いな、確認したいことがあって手間取った」
「あと一歩、遅かったら、死んでたぞ」
「悪かったな、お前なら生きていると思ったんだ」
「生きて、たぜ」
口は緩み、笑みを浮かべるが、息は整わず、目もうつろになっていた。ここは戦場である。たとえ助けが来たとして体の力を抜いてはいけない。そう考えるシカクはツカイに指導の意味を込めて、強く当たる。
「まだ終わってないぞ、ツカイ。気を引き締め………」
言葉を発している途中で異変に気づいたシカクは一旦口を閉ざす。
「チャクラ全部使ったのか、それなら無理もないか」
完全に眠っていた。シカクたちの登場で安堵し、気張っていた気持ちも緩んだのだろう。ツカイを叩き起こしてまで、戦場における忍者の心得など、言い聞かせる価値はない。シカクはそういえば下忍だったなとツカイをもう一度見直す。まだ焦る必要はない。今は元特別上忍相手に生き残れただけでも十二分に褒められることだ。それどころか致命傷まで与えている。
シカクはツカイを土流壁に背中を預けさせる形で寝かせ直す。
「さて、どうするか。あっちは心配いらなかったが、ガトーも動く可能性があるからさっさと終わらせるか。」
シカクは眠るツカイから目を離し、ツカイの相手をしていた銀火をみる。兄弟の敗北を知り、なんとか逃げようと足を引きずりながら動いていた。だが、ツカイとは異なり、チャクラは残っていても体の傷は酷い。全身打撲に全身の骨にヒビが入っているような状態ではほとんど動けない。
「兄貴…、ちくしょう!何でだ!?血継限界まで手に入れたんだぞ!?」
「やはりそうか」
「っ!?」
銀火は殺されてしまった金雷に愚痴を言っていると、逃げる先にシカクが回り込む。たとえ上忍相手にでも負けない力を手に入れておきながら、金雷は敗北した。援護にいかなくても勝てておかしくはない。銀火はそう考えていた。だが、それは覆された。
「お前らは岩隠れの重鎮の殺害容疑で指名手配されていたが、どうやら理由は違うみたいだな」
「…」
「吐きはしないか」
「岩を恨んでいるからといって、貴様らにそのことを話し、岩への復讐を成す。そんなこと期待しているわけなじゃねえだろうな」
「少しは期待していたがな」
「兄貴の仇だ。てめえは岩隠れよりも気にくわねえ」
死を覚悟し、どんな拷問になろうとその秘密は吐かない。その決意をシカクは銀火の態度から汲み取った。
「血継淘汰の研究資料の窃盗」
シカクの呟きに表情こそ表れないが銀火は動揺する。
「それだけの資料がなければ、血継限界を作り出す方法は生まれないはずだ。逆にそれさえあれば血継限界を作り出すこともできなくはない。…資料はどこかに隠しているのか?」
銀火は沈黙を貫く。
「どうやら、そのまま死を選ぶみたいだが、死体はよく語るよ、忍に」
金雷が解剖され、秘密を奪われる。猪鹿蝶トリオの猪は人の心に踏み込み、記憶を探る力を持っている。それを思い出した。金雷の死体を始末した上で、自分の脳梁を弾き飛ばすほどのことをしなければならない。
銀火も忍、それはよく知っていた。
自分の脳を破壊することはできるが、金雷はもう不可能である。銀火にそれができるほどの余力はない。銀火は力なく呟いた。
「負けたか」
完全に敗北した。それを理解した銀火は違うことを考え始めた。血継淘汰の資料や目の前の仇の木の葉の忍、岩隠れの里のこと、すべてがどうでもよくなっていた。
「弟は、銅水もやられたんだろ?」
「俺の部下が倒していた」
「けっ、下忍二人にやられるなんてな。あの世で説教だな」
銀火の態度が変わってもシカクは冷静に銀火を観察する。一呼吸おいてから銀火は語り始めた。
「資料はもう燃やした」
意味のない抵抗をするより、銀火はシカクに頼むことができてしまった。それゆえに時間をかけずに情報を与えることでシカクに義を無理にでも通させようと考えた。
「血継淘汰は血継なんて言っているが、あれがもし血継で使えるものがいるのなら、そいつの塵遁は土影とはレベルが違うだろうよ」
シカクは急に全てを語る銀火を黙って見守る。
「あれは結局技量で作り出した3つの性質変化の融合技。正確には血継ではない」
「つまり、血継淘汰は誰もが修行をすれば体得できると?」
「そうだ。理論上はな。だからその前段階の2つの性質変化の融合技、血継限界を血を使わずに作り出すことは可能であることを証明していた。それを習得するのに一番センスがあった兄貴ですら他力を借りた上に3年かかったがな。俺はからっきしだ」
「なるほどな、血継限界に及ばずとも、それに近しい力が手に入ると」
「ああ、性質変化の組み合わせの血継限界ならば、誰もが使える可能性がある。まあ、本家には勝てないが」
「一々聞く手間が省けた。…わざわざ説明した理由を問おうか」
「あんたは察しが良すぎるぜ」
俺たちを埋葬してくれ。
銀火は自分の願いをシカクが無下にはしないだろうとシカクの反応を見て確信する。
最後の言葉を告げた銀火は自分の首に苦無をあて、自害した。
ツカイ「崩れるなよ」
土流壁「無理ッス」
オリジナル忍術
耀遁・闢轟
はかいこうせん。天野一族の血継限界の唯一の術。
結界術・八方水精
8つの水の珠を頂点に水で立方体の幕を作り出す。そこそこ硬い。水の性質変化が少しだけ必要。
封印術・破口祓い
対口寄せの術、口寄せ動物を送り返し、しばらくの間封印する。口寄せ動物の力量しだいで封印の解除される時間が変わる。蒼井一族秘伝。
風遁・風龍弾の術
火、水、土に龍弾があるなら、風と雷にあってもいいだろうという謎理論より。風で作られた龍で攻撃する。龍の内部は竜巻のような風が渦巻いているので、巻き込まれると風に切り刻まれる。
旋遁・旋龍弾の術
5つに龍弾があるなら、合わせたら名前も統一してみた。鑿岩機のような龍。当たればえぐれる。
封印術・血晶針点
特殊な札を巻きつけた苦無に作用し、その周囲にある点穴をその点穴付近を流れる血液を使って刺し、点穴を突いてチャクラを封じる。点穴を自分で見切る必要はない。強力な反面、印が長く、実戦では使いづらい。蒼井一族秘伝。