NARUTO-空-   作:Teru-Teru boy

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修行と蒼井

 波の国に繋がる橋が完成する前で2日ほど掛かるらしく、第7班とは違う任務を請け負っていた第11班は一足早く帰還することになった。別れの挨拶を一晩泊めてもらったタズナたちに伝えるため、完成間近の橋に一同が集っていた。

 

「それでは先に失礼します」

「おう、超助かったわい」

 

 第11班を代表してシカクがタズナに別れを告げる。

 

「迷惑かけたなジジイ」

「ふん」

「長生きしろよ」

「どの口が言いやがる」

 

 シカクの挨拶に続くように再不斬が別れを済ませる。仲悪そうなやり取りを見せる再不斬とタズナだが、これはこれで仲がいいなとソラは苦笑いして、その光景を眺めていた。ふと、ソラが視線をそらす。ソラの視線の先には第7班と白がいた。

 

「白、帰ったら俺と修行だってば」

「白、俺と戦え」

 

 白はナルトとサスケの自分の取り合いに苦笑いし、サスケが白に取られるという薔薇の世界を想像し、やきもきしているくノ一が1人。ソラにはいらない妄想の気を感じ取り、おそらくサスケと白で妄想しているサクラが頭に浮かんだ。

 

 別れを各自済ませ、第11班と再不斬たちは木の葉を目指す。

 

「白、嬉しそうだな」

「はい」

 

 白を知らない人が見れば再不斬という悪人面に惚れている少女にしか見えない。だが、それにちゃちゃを入れるような不粋なマネはさすがにソラもしない。白が喜ぶ理由はもう抜け忍として再不斬に危害が加わることが大きく減るという理由だ。ソラとシカクは帰還する途中で木の葉の里にたくさんの通信をし、根回しを済ませる。あくまで再不斬は抜け忍、しかし、敵の多い里の事情を考える限り、霧と同盟を結ぶ手段になる再不斬を、仲間に引き入れておきたいソラとシカクは2人で使える人材に根回しをしていた。

 

 二日後。

 

 彼らは木の葉の里に着いた。

 

 帰郷早々に家に帰れるというわけもなく、第11班は火影邸にて事の顛末と、再不斬と白という戦力を組み入れてギブアンドテイクをなそうとしていることを話した。

 

「なるほどのう…。お主ら素性の知れぬ者、そしていくら上忍といえど、それだけではワシは再不斬と白をこの里に招き入れることはできんかった。じゃが、蒼井ソラが認めたとならば話は別。蒼井の力はワシもよく知っている。再不斬、白、お主ら両名はワシの専属暗部としてしばらく活動してもらう」

「了解」「了解しました」

 

 再不斬と白が同時に返事をする。事がすんなりと進んで行く様に再不斬はソラとシカクを見る。さすがだな、と口を動かしかけていた。

 

「蒼井の発言力ってこんなにあるのか」

「僕には発言力というよりは信頼性って感じたけどな」

 

 ツカイとハザマがもっぱらオマケの立ち位置、話し合いの横で感想を言っているだけだった。

 

 

 

 再不斬と白が正式に木の葉の忍として活動を開始するまで、少し時間があり、2人は第11班の面々の修行を見ていた。

 

「酷いですね」

「ああ、これは酷い」

 

 再不斬と白が同じ見解をしたのはツカイである。ツカイはチャクラを練るのもチャクラをコントロールするのも下手。下忍といえどチャクラを練るのが下手な忍はまずいない。だからこそ酷いと称される。

 

「だが、なるほど、この酷さでこれか」

 

 再不斬は背後の演習場についた傷跡を見る。常人には術が発動しないであろうチャクラの練度で、演習場の一角を弾きとばす上忍レベルの忍術を高速で繰り出した。そのあべこべ具合は褒められたことではないが、術の習熟度に再不斬は感嘆する。

 

「彼がチャクラを扱いに慣れればその強さは倍増どころではないみたいですね」

「お前がすぐ抜かれてもおかしくはない」

「ええ、ですが僕も彼らには負けません」

 

 白のいう彼らはツカイたちだけではなく、ナルトとサスケも想い起こされていた。ツカイはひとまずチャクラを練り上げる訓練とコントロールの訓練にあたる。ゆっくりとチャクラを作り出す訓練と木登りの業だ。ツカイの術の荒さは使い慣れている術ならば大してブレたりすることもないが、使うのを制限されている血継限界ではまるでコントロールができていない。そのせいで攻撃範囲外まで力が暴走させてしまった。それを矯正するのに耀遁を使い続けて慣れる方法を取れば、木の葉の里の地形が変わってしまう。ツカイがやってきた修行とは異なる、今までとはまったく違うアプローチで、術の制御を学ばなければならない。

 

「ナルトでも木登りは高さ30メートルの木に登ってたらしいぞ」

 

 木登りの業どころか水面にも難なく立てるシカクがツカイを煽る。ツカイはムキになって木登りを開始し、すぐに落ちる。それを何度でも繰り返す。

 

「馬鹿の一つ覚えみたいだな…」

「あれがあいつの長所だ」

 

 その光景にさすがに呆れる再不斬にシカクが長所だと断定する。

 

「長所、か?」

 

 目に見えて成長していないツカイに再不斬はシカクの言葉を疑う。本当にしばらくしても成長の兆しが見えず、他の班員を見て回る。

 

「時空間忍術か」

「理論構成がメインの忍術ですから読書ですね」

「ああ、なんで読書しながら腕立てしているかは謎だがな」

 

 ハザマは時空間理論の勉強と同時に体を鍛える。体は鍛えているというよりも体を動かしながら勉強をすることになれているため、ただのハザマの勉強のスタイルである。現在時空間忍術の基礎を習熟し終えた程度だが、時空間忍術の基礎でも中忍レベルから禁術まで、つまり基礎の段階でレベルが高い。今は上忍レベルの時空間忍術を習得していた。

 

「ふむふむ、こうか___」

 

 理論を理解し、その術を行使した瞬間。ハザマが消えた。

 

「は?」

「あれ?」

 

 再不斬と白は目が点になる。それなりに目のいい2人にもハザマが消えたように感じた。

 

「またか」

 

 シカクは呆れる。

 

「どこいったんだ?」

「さあ?」

「さあって…」

「あいつがどこかに飛んでいっちまうのはいつものことだ」

 

 すると突然、ハザマは戻ってきた。

 

「おお、なるほどな。こいつは便利だ」

 

 完全に1人の世界に入って時空間忍術を勉強していた。

 

「あれをどう指導しろと?」

「じゃあ、ソラの方に行くか」

 

 シカクがソラの名を出すと白の表情が曇る。白にとってソラは天敵である。

 

「僕はツカイを見ています」

「ダメだ」

 

 ソラのところに足を運ぶのを拒んだが、それを再不斬が拒む。苦手意識をいつまでも持っていては木の葉の里の新参ではやっていけない。それにソラは再不斬や白にとっては味方である。

 

「ソラ」

「あ、シカク先生」

「今、何やってたんだ?」

「新しい術の習得です」

「まあ、お前はハザマと同様基礎が完成しているからな。技のレパートリーを増やしたほうがいいだろう。また結界術や封印術をか?」

「いえ、性質変化___」

 

 性質変化です。と言おうとしたソラの前に1つの影が現れる。

 

「これはチャクラ紙という」

「どっから現れた…」

 

 先ほどまで演習場の少し離れた場所にいたツカイがソラの前に現れていた。ソラは性質変化の忍術の専門家と化しているツカイに、若干拒絶するかのような表情を作ってしまう。

 

「私は火と水の性質変化です。チャクラ紙で調べる必要もありません」

「火の性質変化なら火遁の___」

 

 珍しく熱く語るツカイの後頭部にシカクがチョップを食らわせる。ツカイはシカクの言わんとすることを理解し、自分の修行に戻る。火と水の性質変化に再不斬が反応した。

 

「照美一族の沸遁の性質変化が火と水だったな。気遁は風の性質変化が入ってると思ったが、違うのか?」

「いえ、気遁は遁術ですが、性質変化の組み合わせはわかっていません。木遁と泥遁のように沸遁と同じ組み合わせかもしれませんが、祖父は水と風で白と同じ性質変化ですし、詳しいことは叔父がずっと調べていますが、わかっていませんから」

「そうか」

「それでですね。水遁を教えてくれませんか?」

 

 再不斬に水遁を教授できないかと聞く。ソラには火遁もあるが、それを教えられる存在はツカイのみ。逆に水遁は再不斬と白がいる。再不斬は教えることは構わない、という態度だったが、待ったがかかる。

 

「僕が教えましょう」

 

 ソラを嫌っている白がソラに水遁を教えるという。どういう風の吹き回しか、と問いたくなる白の積極性だが、その真意をソラに読み取られてしまう。

 

「じゃあ、お願いできますか?」

「ええ」

 

 ソラの水遁は白が教えることに決まり、再不斬とシカクは他の2人を見て回る。白と2人きりになるとソラが口を出す。

 

「結構、独占欲、嫉妬心、強いんですね」

「なっ!?………やはり、僕はあなたが嫌いです」

 

 しばらくの間修行に専念すると性質変化の素養があったためか、水の性質変化をある程度巧みに使う。ソラの修行が一段落すると、白は修行中にソラのことを考えていた。ソラは相手を言葉巧みに誘導して利になることをする。今回、再不斬に師事を仰いで白を修行相手に引き出したが、うまくやれば白より水遁に長けている再不斬に指導をしてもらえるはずだ。

 

「…ソラは、なぜ、僕に師事させたのですか」

「それはシカク先生が言っていたことが理由だよ」

「…まさかっ!?」

「そのまさかです。私は風の性質変化を持つ口寄せ動物と契約して、白と同じ氷遁を習得するのが目的です」

 

 それは波の国で戦い、白もソラも直接見たわけではないが、火影邸でのシカクの報告を横で聞いていたことだった。灰牙金雷が習得した血継淘汰の技術を用い、血継限界を使う方法。それを聞いたソラは解明されていない血継限界の写輪眼より、白の性質変化の組み合わせである氷遁なら、真似ができる可能性があると踏んでいた。ゆえに自分で水遁、口寄せ動物で風遁を合わせれば氷遁が扱えることになる。もっともその技術の詳細は、忍術開発部という寂れた機関で開発が始まったらしいが、実績を上げるようには思えない。

 

「シカク先生曰く、口寄せ動物でもチャクラの扱いに長けていれば短期間に習得ができる見込みらしい。特にチャクラをエネルギーの配分を変化させるまで得意な種族じゃないといけないけどね」

「僕の氷遁を…」

「私が氷遁を真似るのは嫌?」

「う…、別に構いませんけど…」

 

 白はソラを嫌っているが、それは苦手意識にすぎず、好意的な視線を向けられると白は弱かった。

 

「それにあの話では血継限界をわざわざ習得する時間と労力を考えれば、そこまで有用じゃないって話ではありませんでしたか?本物の血継限界には及ばないみたいですし」

「それはそうだけど、使える手札が増えるし、それに血継淘汰への足がかりにもなるかもしれないよ?」

「血継淘汰、3つの性質変化を持つ忍術ですか…」

「そう、もしも白の氷遁に火、土、雷のどれかが加われば」

「とても現実的な話ではなさそうですが、そこまでの力って必要でしょうか?」

「たぶんね。今は木の葉が一番安全な忍び里って言われているけど、逆に言えば木の葉の安全を脅かしてしまえば、戦乱に巻き込めます。それに不穏な空気には私は敏感ですよ」

「そうでしたね」

 

 白とソラは再び修行に戻っていった。今度は白が氷遁を見せていた。

 

 

 

 第11班の修行が3日経ち、木の葉に第7班の面々が帰ってきた。

 

「それじゃあ、俺は報告があるから。お前らは帰っていいよ」

「白はどこにいる?」

「いや、俺も帰ってきたばかりだから流石にわからないよ」

「ちっ、何か聞いてるはずだろうが」

「うーん、11班の人間は知ってるんじゃないかな」

 

 それを聞くとサスケはその場を後にする。

 

「ああ、サスケくん!デート…」

 

 恋愛に興味深々のサクラの言葉など、サスケに届くはずもなく、サクラは肩を落とす。サスケに無視されたサクラを見て、ナルトは好機とばかりにサクラに声をかける。

 

「サクラちゃん、サスケなんかほっといて俺とデートしようってば!」

「死ね!」

「ガーン」

 

 あまりにも直球な拒絶に、口から感情が漏れるほどナルトはショックを受ける。そんなナルトを放置してサクラもその場を去る。カカシも火影に報告しにその場を去る。

 

「サクラちゃんとデートができないし、…そうだ。俺も白と修行の約束してたってばよ!サスケ!っていねえよなあ…、ソラちゃん家どこだっけ?ハザマん家もわかんねえし。あ、そうだ!ツカイん家ならわかるってば」

 

 ナルトは元悪戯仲間であるツカイの家の場所を知っていた。木の葉の里の中心街に近い自分の住んで居るアパートとは打って変わり、天野一族の住んでいる地区は外れも外れ、周囲の住宅が閑散とし、大きな畑が見えて来る。

 

「ここか」

 

 玄関のチャイムを鳴らすと中から厳格ないかつい顔をした大男が現れる。

 

「…九尾の小僧か。どうした?」

 

 九尾の小僧と呼ばれ、むかっと来たナルトだが、ふと冷静になって箝口令の事を思い出す。

 

「上がりなさい」

「は、はい…?」

 

 箝口令のことを思い出していると、中にすんなり通される。動揺しているナルトは、居間に案内され、和室に座る。お茶が出てきて、いよいよ頭の中がこんがらがる。ナルトにとってこのような対応をしてくる大人は初めて見る。しかも普通に接するような態度でありながら九尾の小僧と呼ばれる。ナルトはツカイの親族と思われる男との距離を測りかねていた。

 

「ツカイは数分で帰ってくる。それまで待っていなさい」

 

 ナルトは事情を伝えるまでもなく、ナルトの事情を読み取った大男は和室の隣にある作業台で苦無のようなものを研ぎ始める。

 

「おっちゃん、ツカイのお父さんか?」

「そうだ」

「それ、何作ってるってば?」

「これか?これはチャクラ苦無だ」

「チャクラ苦無?」

「ああ、チャクラを通常の苦無以上に通しやすい苦無だ。下手をすれば爆発してこの家くらいなら簡単に吹き飛ぶ」

「あぶねえってばよ!?」

 

 抑揚のない言葉から想像を絶する危険性のある苦無、それを作っていることを漏らす大男にナルトはビビる。

 

「ああ、危険だ。だが、それはお前とて同じだ」

「え?」

「どうやら九尾が封印されていることを知ったようだな」

「う、うん」

「九尾は危険だ。だが、お前は危険か?」

「そ、それは別に、俺、何もしねえってばよ?」

「そういうことだ。それも正しく使えば問題はない」

「そ、そうなのか?」

「まあ、ツカイのようなチャクラの扱いが下手くそな忍が使えば吹っ飛ぶがな」

「いぃ!?」

 

 耀遁を使えば、というセリフをツカイの父親は飲み込む。するとそこに噂をすれば影が差した。天野ツカイが帰ってきた。

 

「あれ?ナルトじゃねーか、どうした?」

「そうだ。俺、白と修行の約束してたんだってば。白の居場所は第11班が詳しいっていうから家知ってんのツカイしかいなくてさ」

「おいおい、ナルト。白との修行もいいけど、俺も結構強くなったぜ。白とやる前に俺と戦え」

「えぇ…、嫌だ。ツカイってば木登りの業どころかチャクラの練り上げもできねえんだろ?忍術以外じゃ相手にならないってばよ」

「それなら昨日終わったぜ。それにこのチャクラ苦無も親父から借りれば、お前なんて一網打尽さ」

 

 苦無を回し、それを構えるツカイに、先ほどまでツカイと会話していたナルトから冷や汗が流れ始める。この家くらいなら簡単に吹き飛ぶ。頭の中でリピートされた文句がナルトの顔面を蒼白させていく。

 

「おおおおお落ち着け!ツカイ!それを置けってば、それお前が使うと危ないってば!?」

 

 急に態度のおかしくなったナルトにツカイは眉根を曲げて訝しむ。

 

「どうした?いきなりビビってるじゃねえか?」

「お前にビビってるんじゃねえってば!?」

「じゃあ、何にビビってるんだよ」

「そそそ、それだってばよ?!」

「どれ?」

 

 ナルトの指差した方向を延長し、自分の背後を振り返り、何もおかしいものがないのを確認したツカイはナルトの指差しているものに気づかない。

 

「ナルト、幽霊でも見れるようになったのか?ついに頭イカれたか…」

「イカれてるのはお前だってば!!!」

 

 ナルトの動揺が落ち着かず、それに笑いを堪えていたツカイの父親がついに堪えられなくなって笑う。

 

「くくく」

「親父?」

「はーっはっはっは、…いや、面白くてな」

「何があったんだ?」

「チャクラ苦無が爆発することを小僧に教えただけだ」

「…ああ、そういうことか」

 

 ツカイは納得して苦無を回したり、ジャグリングのようにしたりして弄る。ナルトの慌てる様を楽しんでいる。それにチャクラの練り方もうまくなり、チャクラコントロールもそこそこ使えるようになったツカイは暴走させる心配はなくなっている。暴走させる心配がなくなったからこそ、ツカイの父親はチャクラ苦無をツカイに渡した。

 

「これはチャクラ苦無。制御できない莫大なチャクラを込めれば暴発して爆発するが、まあ、確かに俺の血継限界流し込んだら爆発するだろうな」

「血継限界?ツカイも血継限界持ってるってば?」

「ああ、あまりに危なすぎるから普段は使わねえし、模擬戦じゃ使ったことないぜ。…まあ、元特別上忍相手に使って相打ちには持ち込めたがな」

 

 実際は寸前のところで負けてしまったが、ツカイはナルトを挑発するため少しだけ誇張表現でいう。

 

「特別上忍?」

「ああ、中忍よりも強く、上忍には一歩及ばないくらいには強い忍者だ」

「ツカイってばその特別上忍に引き分けたのか!?」

「元だよ元。だが、まあ俺は下忍でありながら特別上忍レベルの強さってわけだ」

「お、俺だってば、中忍は倒したってばよ!」

「なんだ。中忍は倒せたのか?だが、俺の方が上だな?」

「ちきしょう…!!負けねえってば!!」

「じゃあ、勝負しようぜ」

 

 白熱するバカ2人を尻目にツカイの父親は外でやれと文句を言う。ツカイの父親に追い出される形で家を後にした2人は体術組手をするために演習場の貸し出し要請をしに、火影邸にある受付に来ていたが、もうすでにすべての演習場の貸し出してしまっていた。

 

「空いてるところねえってよ」

「じゃあさ、じゃあさ、林の中でやろうぜ」

「体術だけなら問題ねえか」

「俺の朝練場所なら誰もいないってばよ」

 

 2人の間で話が決まった直後に背後から声がかかる。

 

「ナルトくん、演習場使いたいの?」

「お?ソラちゃん!」

 

 演習場を使用したいかどうか尋ねたソラにツカイが反応する。

 

「もしかしてソラは演習場使うのか?」

「うん。サスケと白が戦うんだって」

「ほお、邪魔してもいいか?」

「いいけど、使用者の名前、書き直さないといけないから。ちょっと待ってて、ナルトくんも来る?」

 

 行くってば、羨ましさと悔しさを兼ね備えた顔ではあるがナルトは元気良くソラに返事をする。ソラは演習場の使用者リストにナルトとツカイの名前を付け足す。ソラが戻る前、待てと言われたのに、気になるからという理由でナルトは演習場に走り始めてしまう。

 

「おいおい、俺との体術組手はどうしたんだよ…」

「お待たせ、ナルトくんは?」

「あいつならもう演習場に向かったよ」

「はあ…、追いかけますか」

「ああ」

 

 2人はナルトの影を追う。

 

 

 

 火影邸。任務の報告を終えたカカシはヒルゼンに呼び止められ、シカクが来るのを待っていた。火影邸の一室に暗部もなしに、3人だけで話したい事柄とはかなりの事情と見受けられる。カカシはシカクの名を聞いて例の件だと当たりをつけていた。

 

「遅れました」

「おお、待っておったぞ。なに、遅くはない」

「この会合は例の件でよろしいのでしょうか?」

「うむ、灰牙3兄弟の長男、金雷についてじゃな」

 

 金雷は岩隠れの里の先代土影が開発した血継淘汰の理論を用いた血継限界を使用していた。それはつまり、血継淘汰には至らないまでも見過ごすことのできない案件で、これを公表するかどうか、木の葉にも取り入れるべきか否か。数々の問題を抱えていた。

 

「本来血継淘汰なんぞ、普通の忍では習得もできん。じゃが、その理論から1つランクを下げれば、およそ特別上忍レベルで血系限界が使用可能ということじゃな」

「しかし、理論だけ見れば中忍レベルなら誰でも習得はできるかと…、ただ、実践的ではありません」

「ふむ、口寄せ動物の協力あっての血継限界だったということじゃな」

 

 ヒルゼンは緑茶を口に運び、一息つく。そして昔を思い出すかのように目を細め、天井を見る。もう何年も前の話じゃな、と呟いてから2人に顔を向ける。

 

「じゃが、奴は、両天秤の土影は、口寄せ動物の協力を介してはおらん。しかも血継限界を超えた血継淘汰でじゃ」

「…そうですね。それだけ鑑みれば、口寄せと合わせて、本来の血継限界には及ばないレベルの血継限界しか使えない。あまり脅威には見えませんね」

 

 ヒルゼンの指摘に賛同し、カカシも独自の解釈を話すが、その真意は真逆である。

 

「だが、同時に口寄せ動物を介した血継限界を習得した者が、口寄せ動物を介することなく血系限界の術を使えるようになったり、万が一にも血継淘汰にまで至る可能性も出てくるということだな」

「ええ、やはり公表は控えたほうがいいでしょう」

 

 シカクとカカシの2人の意見にヒルゼンも納得する。危険な術が広まるのは防がなければならない。

 

「しかし、木の葉だけがその技術を取り入れていない状態だと、後々厄介になるやもしれん。木の葉には敵が多い…」

「そうですね…」

「敵とは言わんが、岩隠れとは同盟関係もなく、彼奴等とワシらは敵対しておる。木の葉の血継は他里とは格が違う。ゆえに考案した対策手段の1つを奪われたと知れば、岩と木の葉はより和解が遠のくであろうな」

 

 ヒルゼンはため息をつく。

 

「そういえば、お主らの班員はどこまで知っておるのじゃ?」

 

 ヒルゼンは思い出したように2人に問う。

 

「私の班員は全員知っています」

「そうじゃったな、報告の時にも居たしのう」

 

 ソラたち11班と再不斬と白は、この件を知っている。そしてシカクは、ソラが血継限界の習得に意欲的であることを看破していた。

 

「あの子らには事情を説明し、血継限界の習得をさせぬようにしてくれんか?」

「それは少々、いえ、かなり無理そうですね。蒼井ソラがかなり意欲的にこの技術に取り組んでいます。他2名もそこまでではありませんが、時任ハザマもまたこの血継限界には興味を示しています」

「ふむ、天野ツカイはそこまでではないのだな」

「ええ」

「まあ、2人のなるようにしておけ、いつかその力が必要となるやもしれん。それに蒼井の者ならば、この血継限界の危険性はよく把握しているじゃろう」

「おそらく、我々よりも」

「ふむ、蒼井ゆえ致し方ない」

 

 緑茶の水面を眺めていたヒルゼンは茶を啜る。

 

「私の方は私以外はまだ知らないことですね。何せ知らせるにはまずい2名がいますから」

「ふむ、ナルトとサスケか…」

「ええ、ナルトはまだしも、サスケは何を仕出かすかわかりませんので」

「ならば、第7班には伝えるのは控えてくれ」

「はい」

 

 カカシは3名の下忍の中でサクラを気がかりにしていた。やはり世代が悪い。名家の跡取りの多い中で一般人出身の今期の忍は、サクラとハザマのみ、そしてハザマはサクラの2歩も3歩も前を進んでいる。この技術をサクラにだけ伝えるのは現時点では難しいと考える。だが、サクラの成長に1つのアクセントを加えておかないと、他2人にどんどんと実力を離されてしまう。カカシは気がかりなサクラのことを考えているのをヒルゼンに見抜かれる。

 

「春野サクラじゃったか?」

「え?」

 

 突然声がかかったカカシは驚いてヒルゼンを見る。

 

「サスケはいざ知らず、悪戯小僧もなかなかに成長しているみたいだしのう」

「ええ、とてつもない速度で」

「ナルトに九尾が封印されていなければ、才能だけならサスケにも引けを取らん。もしナルトが九尾のチャクラさえもコントロールできるようになれば、サスケ以上の忍になる」

「はい」

「その傾向は見て取れるんじゃろ?」

「ええ、さすが先生の子どもといった具合です」

「ミナト…、…ならば2人に遅れを取る春野サクラが気がかりじゃと?」

「…ええ、あの2人と同期ですが、それにサクラは自分を足手まといだと、近々どこかで思い始めてしまうでしょう」

「ふむ、ではそのくノ一にのみ、この技術を伝えてはどうか?」

「その申し出はありがたいのですが、習得できるかどうかよりも、1つ問題がありまして」

「問題?」

「ええ、おそらくその技術を伝えればサスケの耳に入ってしまうかと」

「なるほど…、さすがにそれは看過できん」

 

 キセルに火を付け、一服する。ヒルゼンは1つだけ思い至る要素があった。

 

「蒼井ソラならば、うまく取り成せるやもしれんがのう…」

 

 ソラの気遁でサクラの心情を誘導し、サスケに知られることなくサクラを成長させることは容易だろう。

 

「性質変化と口寄せだけならばサスケに勘ぐられることもないでしょうが、その先となれば白かツカイの協力は必要ですね。そのための仲介役ですか?」

「そういえば、1つだけ疑問だったのですが、ナルトとサスケの2人に合わせるならば、サクラではなくソラではダメだったのですか?」

 

 シカクはソラの利点を瞬時に判断し、それにカカシが反応する。ナルトの境遇とサスケの抱える闇を鑑みれば、サクラには悪いが、ソラの方が明らかにナルトとサスケには適している。

 

「あのお二方から言われたのじゃ、ナルトとサスケにソラを関わらせるな、と」

「そうですか…」

「元ご意見番で今尚、発言力のあるあのお二方にはこちらも頭があがらん」

「海様と小鳥様ですか…」

 

 ソラの祖父母の海と小鳥。元ご意見番であり、蒼井の没落以後木の葉に関わることは少なくなっていたが、可愛い孫娘のためなら里への口出しは控えない。

 

「ああ、かの一件から木の葉に対して彼らの信用はなくなった。それでも尚、木の葉を守ってくださる御仁じゃ、無下にはできん」

「ですが、ソラとナルトはもう互いに大きく関わっています」

「あの方々も本人同士で関わるのは気にはしとらんよ」

「なるほど、里が彼女を利用するのを防ぐ意味合いがあるのですね」

「ふむ、蒼井の力はワシとて欲しいぐらいじゃからな。しかし、まあ、1人の人間として、里の指導者としてそれはあってはならんことじゃ。しかし、ナルトとサスケに直接は関わっておらん。それならば、彼らの意向を無下にしたわけでもないじゃろう」

「さすがに揚げ足取りのような気もしますが…」

「問題ないじゃろう。それにもし彼らが気に食わなければ何かしら忠告は飛んできてるころじゃろうて」

「え?」

「蒼井の力を甘くみるでないぞ、カカシ。この会合もかの御仁らには筒抜けじゃ」

 

 蒼井の気遁の本当の力を知らないカカシには理解ができなかった。だが、ヒルゼンの言葉が正しければ、木の葉において秘め事は意味をなさない。

 

「気遁は年齢とともにどんどんと成長していく。衰え知らずでじゃ、だからこそ、あやつは蒼井を警戒していた」

「なるほど…」

 

 聞いていた以上の能力だ、とカカシは心の中で呟き、冷や汗を流した。




さすがに毎日更新は無理

オリジナル要素が増えていく

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