女性Pと関裕美ちゃんがオーディションで負けて立ち直るお話 作:白黒熊
今回のあらすじ
プロデューサーが立ち直ります
オーディションの結果に打ちひしがれ、項垂れている私のもとに裕美が帰ってきた。
相変わらず顔を見ることもできないまま、何を言えば――或いは、私なんかがこの子に対して何を言っても――いいのだろうか、と考えていると、裕美の方から声がかけられた。
「ありがとうね、プロデューサー。このオーディションに連れてきてくれて」
一瞬何を言われたのか分からなかった私が言葉に詰まっている間に、裕美はさらに言葉を続ける。
「オーディションには受からなかったけど、おかげで今の私にはいろんなものが足りてないってことがわかったの」
「今日は、私にそれを教えるために連れてきてくれたんだよね?」
私のことを信頼してくれている目の前の少女の眩しさに、思わず顔を上げてしまう。
やっとこっちを見てくれた、と言って嬉しそうに微笑む彼女に、遂に私は我慢できなくなってすべてを打ち明けた。
最近の勢いに慢心していたことや、初めから今の裕美には厳しいオーディションだとわかっていたこと。それなのに自分を信じて必死に演技を行ってくれた裕美に対して、とても申し訳なく思っていること。
担当アイドルのことを考えることもできない私は、プロデューサー失格である、という悩み。
私の告白を無言で聞いていた裕美は、私が全てを吐き出し終わっても暫く黙ったままであった。
――ああ、この子を悲しませてしまった。
そう思った私が、許してもらえるまで何度でも謝り続けよう、と決心をしたその時。
「……ふふ、そんなことで悩んでたの?」
裕美は可笑しくてたまらない、というように笑い出した。
「あのね、プロデューサー。そもそも私が今アイドルをやってるのは、あの日ポスターを見ていただけのあたしをプロデューサーがこの世界に引き入れてくれたからなんだよ?」
「それに、今のランクまで来られたのも、あの日くじけそうだった私にプロデューサーが気づいて、また始めようって言ってくれたから」
「普通にしてても怖いって言われる私が、アイドルなんて……。表現するお仕事なんて、できるわけがないと思ってた」
「でも、プロデューサーのおかげで、私の笑顔が誰かを幸せにできるってわかったから。だから、私は今もアイドルを続けてるの」
「たった一回の失敗で失格なら、私なんてもう何回もアイドルを引退しちゃってるよ」
そういって私を見つめてくる裕美。
裕美の言葉に、私は頭を強く殴られたかのような衝撃を受けた。
本当に目の前にいるこの子は、あの自分に自信を持てていなかった少女と同一人物なのだろうか。
気が付かないうちに成長していた彼女に感動し、私が謝罪と感謝の意を伝えていると記者の善永氏と出会った。
「ああ、774プロの。今日はお疲れさまでした」
そんな挨拶から始まった善永氏との雑談で、私たちは思いがけないことを聞いた。
曰く、挨拶から演技まで、正直言ってレベルは足りてなかったけど心意気は良かった。
ランクがあがりたてにしては頑張っていたから、力をつけて是非また挑戦してほしい、と審査員が評していたというのだ。
「私も同じ思いですよ」
そういうと、近いうちにまた取材させてください、という言葉を残して善永氏は去っていった。
善永氏が歩いていくまで頭を下げ続けていた私たちは、ほとんど同じタイミングで頭を上げた。
そして、見つめあうと――嬉しさから、どちらからともなく笑い出した。
その後、すっかり普段通りの空気になった私たちがいつものように雑談に興じていると、裕美がどうしても言いたいことがある、と切り出してきた。
「あのね、悩んでたんだから仕方ないのかもしれないけど、私が頑張っているところを見てくれてなかったのは、少しいや。私も信じるから、プロデューサーも私を信じてほしいの」
至極もっともな意見であり、落ち度は完全にこちらにある。
一体どうすれ許してくれるだろうか、と私は質問した。
「……じゃあ」
しばらく考えて、裕美はこちらに向けて花の咲いたような笑顔でこう言った。
「ねえ、プロデューサーさんのこと、○○さんって呼んでもいい?」
――多くのことを学ぶこととなった今回のオーディション、慢心していたのは決していいことではなく、これからも気を引き締めていかなければならない。
しかし、お陰でこの子がこんなにも頼もしくなっていることに気付けた。
これからも、この子の笑顔をもっと多くの人に見てもらえるように、二人で一緒に成長していきたいと思う。
立ち直りました。
これにて完結。
この世界が箱世界線なのかSP世界線なのかデレステ世界線なのかは作者にもわからない永遠の謎……
修正してたら5000字から50文字くらいはみ出ちゃったのは内緒だぞ!