幻想郷は夢を見る。   作:咏夢

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紅霧異変の夢を見る。――東方紅魔郷

第一夜

 

目を開けると、何だか不思議な所だった。

声を出そうとしてみても、喉からは掠れた息。コミュニケーションは諦めて、前に視線を戻す。

 

「おーい!●●~!よっ……と。」

「あぁ、●●●。どうしたのよ?」

「それは私がご説明しますよ、●●さん。」

「あー、あんたも居たのね。●。」

 

巫女服の女の子の前に、白黒の女の子が空中から降ってきた。

もうその時点で本来なら訳が分からないのだが、これは夢だ。楽しむことにしよう。

もう一人、カメラを持った個性的な格好の女の子がニコッと笑う。

 

「霧の湖はお分かりですね?」

「えぇ。あのバカみたいな妖精が棲んでる所よね。」

「あれはバカみたい、じゃなくてバカだろ。」

「はいはい。それでですね……」

「ん?何だ、写真?」

 

女の子は写真を取り出した。私もそっと近づく。

今更だが、私は実体化さえしていないようだ。これ幸いと、写真を覗き込む二人の間に滑り込む。

そこには、物凄く目に悪い紅い館があった。

 

「ありゃ?何だこれ……」

「妖精がまーた何かしら造ったとか?」

「いやぁ、それが違うみたいで……」

 

もう二枚写真を取り出した女の子は、説明を始めた。

 

この館――妖精によると、紅魔館というらしい――は、昨日の夜中にいきなり現れたらしい。

一枚目の写真に写っているのは、佇んで眠る赤髪の女性だった。どうやら門番のようだが、無防備なのに近づけないらしい。何かヤバい雰囲気(カメラ少女談)だそうだ。

二枚目の写真は、ズームインしたらしく少しボヤけている。白髪にメイド服を着た女性で、此方に目線が向いている……のは気のせいだと思いたい。なんと、写真を撮った直後にその女性が消え、悲鳴が聞こえたので全速力で逃げてきたという。

 

「何かもう色々ヤバいじゃないの……。」

「そうなんですよ●●さ~ん!」

「ほへぇ~。何だ、めっちゃ面白そうじゃねえか!」

「はい?●●●さん今何て!?」

「面白そうじゃねえか、その館!」

 

白黒少女は、そのままカメラ少女を引っ張って空へと飛び上がった。

 

―――――

 

第二夜

 

「さーてと……何か珍しい物があると良いんだがなぁ。こんな変な感じの夜に行くんだし、見返りは期待したいぜ……。」

 

白黒少女はお宝探し気分のようだ。

話は変わるが、さっきから白黒少女って何なんだろうか。呼びにくいので名前を考える事にした。

 

(魔理沙……かな。うん、そうしよ)

 

私はそう決めて、魔理沙の後を勝手に追う自分に任せて楽にした。暫く進むと、魔理沙の目の前に誰かが飛び出した。

 

「うがーっ!お前は食べていい人間?」

「違うね。それで?何でそんな手広げてるんだよ?」

「そーなのかー!」

「答えになってねぇぞ……っ!」

 

突如何かが飛び交う。よく見てみると、光る球のような物や光線などを、相手に向けて互いに飛ばし合っているようだ。

 

「"ムーンライトレイ"!」

「しゃーない。本気で行くぞ!」

 

魔理沙が一層加速する。さっきからスピードがあるなとは思っていたが、もう目で追うのがやっとだ。

 

「あわわ……"ディマーケイション"!!!」

「よし、行くぜッ!」

 

闇と光がぶつかり合って、紅くなった空が一瞬白んで見えた。

 

――――――

 

第三夜

 

「たまには夜も良いわねぇ~気持ちがいいわ。」

(あ、霊夢。……ん?)

 

名前が湧いて出てきた感じがした。もしかしたらこの子の本名なのかもしれないが。

 

霊夢は、霧の濃い湖へと飛んでいた。道中、ぶつぶつと呟いている。

 

「本当に……この霧、結界内で収まっていると良いんだけど……。うん、急がなきゃ。」

 

霊夢は茶色い髪を靡かせて、更に前へと進んだ。

 

「この湖、こんなに広かったかしら?もしかして私って、方向音痴?」

「みちにまようのがよーせいのしょい?なのよ。」

「あら、じゃあ案内してちょうだい?」

「むーっ。きょーてきのあたいをまえにしてずいぶんよゆーね!」

「標的の間違いじゃあないかしら?」

「こおりづけにしてやるっ!」

 

水色の女の子が叫ぶと、目の前が吹雪のようになった。それでも霊夢は怯まず、目の前に札を掲げて一直線に飛ばす。その華麗な姿に見惚れていると、水色の女の子が昨日の二人と同じように言った。

 

「くらえっ!"パーフェクトフリーズ"!」

「これで終わりよ。スペカを使うまでも無いわね。」

 

圧倒的な鮮光が、氷の礫を呑み込んだ。

 

――――――

 

第四夜

 

「くそっ、とりあえず逃げるぞ!」

「逃がすぜ。」

 

奇想天外に見えた魔理沙の発言から数分。あの女性にまた会った。

 

「あ、さっきはどうも」

「お久しぶりなのぜ」

「って、いつから私達知り合いになったんです?!」

「さっきだろ?」

「はあぁ~……何か変な人と会っちゃったなぁ。」

「とりあえず、そこは退いてもらうぜっ!」

 

鮮やかな光と蛍光色の星が、戦場を照らし出す。遇に女性が吼える。それに応えるように勢いの増す弾を魔理沙はひょいひょい避けていく。

 

「決めさせて頂きます!"彩光乱舞"ッ!」

「よっしゃ行くぞ!"マスター……スパーク"!!!」

 

光と光、また意識が引き戻される寸前。見えたのは、燃えるように赤い髪の陰で揺れる、見開かれた瞳だった。

 

――――――

 

第五夜

 

霊夢は館の中へと足を進めていた。律儀に玄関から入ったのか、目の前には人影が一つ。

 

「全く……掃除が進まないでしょう?邪魔しないでよ。」

「貴女はここの主人……では無さそうね。」

「こんな時にお客様?通さないわよ。お嬢様に客なんて滅多に来ないもの。」

「貴女でもいいわ。この霧、迷惑だから止めてくれないかしら?」

「私に言われましても。」

「ならお嬢様を呼んできなさいよ。」

「会わせないわ。時を止めてでも時間を稼ぐ。」

 

銀色の刃がが紅い月光に煌めく。女の右手が閃くと同時に、霊夢が真横に飛び退く。カーペットが瞬く間に、ナイフだらけになった。

時を止めてでも、というのは冗談では無いらしく、時々ナイフが唐突に宙へ現れる。それでも霊夢は、一本も喰らう事無く、あるナイフを弾き、あるナイフを砕いた。

 

勝負は長引いたが、ある札が女の左手を捕らえた。ピシリと音を発てるように、女の動きが殆ど止まる。

 

「くっ……"殺人ドール"!」

「無駄よ。"夢想封印"!」

 

苦し紛れのナイフ達を、一筋の光となった霊夢が一閃した。

 

――――――

 

第六夜

 

「さぁて、窓から入ったは良いんだがなぁ……何処なんだ此処は?」

 

どうやら魔理沙は、どさくさ紛れに窓から入り込んだようだ。暗い廊下をそろそろと歩いている。

大きなドアを通ると、最早恐ろしい規模の図書館だった。

 

「おぉ……本がいっぱいだな。後で貰っていこう。」

「持っていかないで。」

「持ってくぜ。」

「人間の消去法は……」

「おっ。勝負といくか!」

 

ここまでの戦闘で、少し自信が付いたのか、魔理沙は口元を緩めた。

が、それも束の間。囁くような詠唱と共に、目の前が光で埋め尽くされる。今までの相手など、足下にも及ばない。

 

「――ッ!?」

「そうね。貴女を採れば、少しは健康になれるかしら。」

 

女の子の持つ本が、紫の髪の女の子が、薄く赤く光る。

炎の球が物凄い勢いで飛びかかってくる。思わず悲鳴を上げるが、相変わらず掠れた息だけが私にだけ聞こえる。ふと光の線が、それこそ光の速度で描かれた。

 

一方的な攻撃の連続を、高速、光速で避けていく魔理沙。少し顔を歪めながら、女の子が書物を変えた。

その隙を彼女は見逃さなかった。

 

「"スターダストレヴァリエ"ッ!!!」

「"エメラルド……」

 

魔理沙の方が一瞬早く、星の輪を展開した。女の子は一瞬にして見えなくなり、魔理沙が近づいた時には床に倒れ伏せていた。

 

「……魔法が得意みたいだな?まだ何か隠し持ってねぇか?」

「病弱、なのよ。」

 

魔理沙は攻撃手段を無くした女の子に肩を貸して、近くの椅子へと座らせた。すぐに立ち去った先には、階段が在った。

 

――――――

 

第七夜

 

ボロボロになったメイドが、部屋の隅に叩きつけられている。霊夢は、それを安堵の表情で一瞬見つめた。

 

「そろそろ姿現しても良いんじゃない?」

「……やっぱり人間は戦力にならないわね。」

「あ、人間だったのね。あのメイド」

 

それには私も同感だ。時を止められる人間メイドが何処にいるものか。……それ以前に空を飛んでいる人間は、目の前にいるかもしれないが。

 

「ふふっ。こんなに月も紅いから、本気で殺すわよ。」

「……こんなに月も紅いのに」

「「楽しい(永い)夜になりそうね」」

 

もうそこからは本当に人間の域では無かった。言い表せない程の、えげつない量の弾。それを霊夢が次々と避けていく。目まぐるしくパターンの変わるそれに、霊夢は順応していった。

 

「これで最後よ!"紅色の幻想郷"ッ!!!」

「させないわ!"封魔陣"ッ!!!」

 

これまでの光など比べ物にならない。

もっと大きく、果てない光。

私の耳に焼き付いたのは、"幻想郷"という響きだった。

 

―――――――

 

第八夜

 

「わっ。揺れたなぁ……もしかして霊夢が?まぁいいか」

 

先の見えない階段を降りていく。時系列としては、霊夢がお嬢様を倒し終わったくらいなのだろう。何にせよ、あれで終わらなかったこの夢に、私は少し驚いている。

 

「待ちなさい!その先は今危険よ!」

「うおっ!……お前か。てか、さっきは止めなかっただろ?」

「今さっき危険になったの!」

「意味が分からん。病み上がりに攻撃する趣味は無いんだ。大人しくしててくれよ~」

「……。この人間なら、あるいは……」

 

紫の女の子は、そのまま階段を上がって行った。不思議そうな顔をしている魔理沙は、そのまま階段を降りていく。

 

暫くして、階段に終わり……正確には部屋の扉が見えた。まぁ、真ん中が大破しているので、扉とは言い難い見た目なのだが、きっと扉だったのだ。

 

「……あら、いつもお姉様と話してる人間じゃない。」

「お姉様?妹か?」

「私、495年此所で休んでいたの。」

 

金髪の女の子は、虚ろな瞳で微笑んで言った。

 

「一緒に遊んでくれるの?」

「いくら出す?」

「コインいっこ。」

「一個じゃ、人命も買えないぜ。」

「あなたがコンティニュー出来ないのさ!」

 

大きく見開かれた瞳は、さっきまでの月のように、紅く、そして哀しかった。

 

―――――――

 

「う、ん……。あー、良いとこだったのに。」

 

目が覚めてしまった。もう一度寝直す訳にもいかないので、私――如月魅空羽は登校準備を始めた。

 

 




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