第一段、博麗霊夢編!どうぞ!
あの子が幻想郷に来たのは、真夏の事だった。
特に暑くも無かったが、私はぐだくだと過ぎる毎日を過ごしていた。のだが……。
その日は、とある妖怪が来た。魔理沙とお茶を飲んでいる所だったので話を聞くと、何やら人間が迷い込んでいるとの事だった。
正直、物凄く面倒だったけれど、行かない訳にもいかない。どうせ魔理沙がいるのだから、こき扱ってやろう。そう思って、神社を飛び出した。
その人間は、山の中腹にいた。魔理沙の弾幕に似た星が、日光に反射してキラキラしていた。その近く、木の上によじ登っていたのを覚えている。
何だか眩しくて、私は魔理沙に後を託した。一足先に神社に戻って、数分はそわそわしていた。
暫くして、境内に誰かが降り立った。まぁ、魔理沙なのに間違いは無いが、少し重々しい感じだ。
魔理沙が私を呼ぶので、残りの煎餅をくわえたままで外を覗いた。
やっぱりあの人間がいた。
今度は不思議と面倒では無くて、能力査定までした。紫を呼んでくる、と言い残して、アイツを探し回った。
幸いすぐに見つかって、神社まで連れていった。
――この時から、私は少し変わっていたらしい。
彼女は魅空羽といった。何だか珍しげな名前だったので、すぐに覚えられた。
いきなりの弾幕ごっこ。
才能を見せつけられて、つい本気で撃ってしまった事。
彼女が普通では無いのを知って、少し驚いた事。
でも……少し、ほんの少しだけ気になっていた事。
全て、鮮明に覚えている。
異変が起きたのは、魅空羽が泊まっていた日の朝だった。心配になって、彼女が寝泊まりしている紅魔館まで送ると言ったのだ。
魔理沙と一緒に飛行していたのだが、どうにも嫌な予感がして人里へ向かったのだ。
不審火だった。
一見すればただの火事、だがしかし犯行は夜中だ。普通に火を付けたのであれば、おそらくだが妹紅にバレそうな気がした。そんなのは置いておいて、ただの直感でもあったのだが。
慧音と議論を交わした夜、やはり浅い眠りだけが私を不快にさせた。少し外にでも、と思って体の向きを変えると……魔理沙がいなかった。
廊下から物音はしない、ということは外か?
そんなこんなでチラリと玄関から外を覗いた。
向こうに勢いを増す火が見えた。あそこに魔理沙、妹紅、そしてあの子がいる。
本来なら直ぐに行くべきだ。走っていって、助けになるべきなのだ。
まぁでも、そこは気持ちの問題と彼女らへの信頼だ。手早く服を着替えて、慧音――覚醒していた――を叩き起こした。
駆けつけた時には、魅空羽が意識も朦朧とした様子で、少し後悔した。消火活動を行っているのは二人だけ、魔理沙は何処かへ行っているようだった。
とりあえず慧音の貸した着物の襟を引っ張り、現場から遠ざける。
ほぼ同時に増援――アリス、チルノ、大妖精も駆けつけて、それ以上の被害は出なかった。後で妹紅から聞いたが、この時魅空羽は火種になりそうな物資を運び出していたんだそうだ。つくづくバカみたいだと思った反面、必死になれる彼女が羨ましくもあった。
後日の議論で、直感的に地底に行くことを決めると、咲夜と魅空羽がいた。炎を追ってきた、と半ば意味不明な説明に戸惑いつつ、縦穴へ。
勇義との無駄な戦闘の後、先に行った集団を追いかけた。
『霊夢ぅ!やけに早いな!?何かアテがあるのかーっ!?』
『無いわよ!んな物っ!』
何かと私の変化に敏感な魔理沙を、速度で引き離すのはほぼ不可能。とりあえず最大限無視を極め込んだ。
心配だったのだ。
何にせよ人間の彼女が、この旧地獄で死んでしまわないか。同行しているメンバーの内二人は、かなりの実力者。一人に至っては不死だというのに、胸騒ぎが止まらなかった。
けろっとしてアジトを突き止めていたときは、流石に恥ずかしくなった。特にウザかったのはやはり魔理沙だ。ニヤニヤしていたので、道中三回ほど蹴飛ばしてやった。
一回目の戦闘は、正体不明の爆発で妨害。
私たちは点でバラバラに地上へ逆戻り、だ。いくらなんでも、たかが爆発ごときであんな地底の奥地から地上戻るはずが無い。この時点で少し感付いてはいたが、色々あって忘れていた。
そして二回目の戦闘前。
紫から事情を聞いた。次代の夢の迷い人を育てる為に必要な事なのだ、と。
勿論、反対したかった。彼女が危険に晒される、そう思うだけでイヤになった。
他人の事なんて、どうでもいい筈なのに。
たかが一人の人間、たかが外来人なのに。
少し冷酷で、面倒を避けていた私が、何処かに行ってしまったようで……私は条件を呑んだ。
それからは、極力顔に出ないように振る舞った。藍が開けた大穴の上空に、藍が変装した偽黒幕――黒幕としては本物なのかもしれないが――が登場。
紫のシナリオ通りに進む出来事……そう、あくまでシナリオ。
なのに、私ときたら。
いつの間にか、全力で相手を潰す……そう考えていた。
――――――
「思い出すと……何も私らしく無かった、かな。」
「ん~?どうしたんだよ、いきなり。」
「へっ。あ、いや……別に。」
思わず顔を反らす。ふぅんと特に気にした様子も無く、また黙る魔理沙を横目に見る。
何だか微妙な気分だ。
こんなときに彼女がいたら……やっぱり思考が変だ。
一眠りしてみようか、そう思ったけれどその前に声が響いた。
「こんにちはーっ!」
「ちょ、ま、待って!転ぶっ転ぶからっ!」
「ははっ!魅空羽に燐乃亜じゃねえか!」
時刻、午前十一時。
今日も、彼女のせいで騒がしくなりそうだ。
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