幻想郷は夢を見る。   作:咏夢

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絶賛迷走中。

……年越ししましょうか。


永遠、罪悪感、非日常

魔方陣を急いで蹴り壊してそのまま呆然と見つめていると、鈴仙とどこぞの……あ、此所のか。姫が立ち上がりざまに私を怒鳴り付けた。

 

「あのね!人が迎えに来たのに何よその応酬は!?」

「……えぇ」

 

いや、私が怒られる所じゃないと思う。だっていきなり攻撃してくる奴が悪いし、そいつにぶちギレただけだし。

 

「……私悪く無くない?」

「……ぷっ。あはははは!」

「え……?」

 

反論すると何か笑われてしまったので、首を傾げているとまた見たこと無いのが出てきた。

 

「姫、そのくらいにしてください。妹紅もすぐに戻ってきてしまいますし……」

「あ、そういや妹紅は?」

「死んだわ、てか殺してきたわ。さっきのお返しだもんねーだ!」

「「……」」

 

何とも子供らしく、微笑ましいとも思えてしまうのは何故だろうか。そんなアホらしい考えが伝わったのか、姫は私の方を向いて満足そうに言った。

 

「私は蓬莱山輝夜。そう!かの有名な『かぐや姫』とは私の事っ!」

「あ、うん。宜しくな、輝夜」

「反応薄っ!?え、外界の人って普通驚くのに!?」

「……八意永琳よ。此所で医者をやっているの、宜しくね」

「ちょっとえーりん!?」

 

出会ったばかりで申し訳ないが、すごく不甲斐ない気がする。そりゃあ見たところ不老不死だし本当は強く美しくなんだろうが、ただの狼狽えている姫だ。

 

「おらぁっ!」

「はぁっ!」

「ぴゃあっ!?」

 

声のした方を見ると、妹紅の拳を輝夜が受け止めており、その二人に板挟みにされたウサミミ――鈴仙が悲鳴をあげていた。

 

不意打ち咬ました妹紅はとりあえず手を下げると、私に近づいてきた。一瞬何かと思ったが、次の瞬間には普通の廊下に立っていた。何が起こったのかには触れない事にしよう、意味が分からない。

 

「まぁとりあえずごめんなさいね?鈴仙が」

「えぇっ!?わ、私は……」

「ね、鈴仙?」

「ひゃっ、はいぃ……」

 

不憫だ鈴仙。私は姫の横暴さにため息つきつつ、客間へと通された。

 

―――――

 

「あー、やっと来た。待ちくたびれちゃったよ、あとこれお茶ね」

「ありがと、てゐ。……はい、鈴仙お茶」

「あ、ありがとうございます。……~!」

 

「あ。」

「毒味オッケーね」

「く、くく……あ、他のは大丈夫だよ」

「そ、じゃあ良いわ」

 

思いっきり倒れた鈴仙を隅に寄せて、机を囲む。てゐと呼ばれていたのもウサミミだが、こっちは垂れ耳だった。悪戯好きな顔をして、抜け目無い感じだ。多分だが、落とし穴や竹槍はこいつの仕業だろう。

 

「さて、此所に貴女を呼んだのはね」

「あぁ。」

「特に意味無いわ。」

「へぇ……は?」

「だって、てゐがまた面白いのが来たらしいって言うから……見てみたくって、ね?さっきの様子だとかなり強そうだし、うん。気に入ったわ」

「はぁ……?」

 

おかしい奴しか居ないんじゃないか、此所は。何にせよ、用がないなら帰ろうかと思った私は、席を立とうとして呼び止められた。

 

「ねぇ、一つ話したいことがあるのよ。」

「?」

「……罪悪感について、よ。」

「罪悪感……?」

「えぇ。」

 

輝夜はそう言うと、永琳とてゐ、鈴仙を部屋から追い出した。もっとも、部屋の外から聞いていることほぼ間違いないのだが、気持ちの問題だろう。

 

「……私達は、永遠に等しい時の中でそれを忘れてしまった。だから……貴女には忘れないでほしいの」

「え……っと……?」

「老いることも死ぬことも許されない、それが私達への罰。」

「ま、罰だと思ってるのはあんただけでしょうけどね、妹紅」

「……知るかよ、んなこと」

「不老不死、か?」

「そうよ。私達は……いいえ、幻想郷の全ては、傷つける事を日常化してしまったわ。非日常に罪悪感を持たず、闘いを遊びにして。それが……」

「弾幕、ごっこ……」

 

私も早々傷つける事に慣れてしまっていたのかもしれない。そう思うと、自分が異世界人にでもなったように思えた。こんな私を、彼女は受け入れてくれるだろうか。

 

「……強くなりなさい、燐乃亜。相手に無駄な傷をつけるのでは無くて、すぐに圧倒できるように。いつか、無駄な闘いを無くせるように。」

「……」

 

今の私には重すぎる宿題だった。ふと思う、彼女は此を出来たのだろうか?無駄な闘いを避け、私を圧倒してくれたのだろうか?

 

答えは否だ。

あの時私達は、お互い傷つけ合い罵り合い、最終的に和解さえしたものの、敵意が滲み出る者もいる。

だが、現に私は彼女に会いたいと思っている。全力でぶつかり合い、感情を露にする。それは一つの、闘いを避ける方法だったのかもしれない。

 

「……まだ、分からないでしょう?」

「……あぁ、分からないよ」

「……それで良いのよ。ただ……」

 

 

 

 

最善の選択が出来るようにしなさい。

 

輝夜はそう言った。まだ分からない優しく恐ろしい理論を、私は胸に留めておく事にした。

もうすぐ、年越しの準備だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 




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