幻想郷は夢を見る。   作:咏夢

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ちょっと遅くなりました


人里、寺子屋、上白沢さん

……失敗した。

そう思った。寺子屋の時間だというのは知っていたはずなのに、どうしてこんな昼間に来たんだ私は。

 

私が地底から出発して、最初に会いに行こうと思ったのは、あの女性だった。人里で特徴を伝えると、名前を上白沢さんといい、寺子屋の教師だと教えてくれた。

そうして寺子屋に来たのだ。が、先生が居るということは、当然生徒がおり授業を受けているということだ。全くの盲点だったがために、こういった状況なのだが。

 

「どうするかなぁ……」

 

出直すのにも時間がかかるし、一旦神社にでも寄るかと思った。その時だった。

 

「あの?」

「?!……は、はい?……あ。」

「……やっぱり。こんなところで何してるんだ?」

 

そこには竹林で以前出会った妹紅がいた。違う点といえば、少し身だしなみが整っているくらいだろうか。

私が答えに迷っていると、何となく察してくれたようで寺子屋を覗きこみ妹紅は言った。

 

「私、コミュニケーションって言うのか?人と話すのとか、そんなに得意じゃなくてさ。あーっと……。」

 

コミュ障を自白した直後に黙り込んだ妹紅は、ガラッと人柄を変えた。というか、此方の妹紅が本当の彼女なのだろう。妹紅は竹林の件とは違う、少し引け目な態度で話し始めた。

 

「それで、慧音の所ってさ、いっぱい人が、ていうか子供がいるでしょ?だから、その……たまに遊びに来てるんだ。うん。」

「へぇ……」

 

会話がそんなに成り立っていないようにも見えるが、私達の間ではそれだけで充分だった。

要するに此処で待っていれば、子供たちが遊び始める時間があるということだ。そのタイミングで会いに行けばいい。

 

 

 

それから十数分、寺子屋をバレないように覗いたり人里の様子を眺めたりと、随分不審だったであろう行動を二人して繰り返していると、子供たちの声が外に溢れ出てきた。

 

「せんせー遊ぼーよーっ!」

「ドッジしよーぜ!」

「早く早くーっ!」

「あ、危ないってばぁ……!」

「慌てるなよ~。それと、先生は少し用事があるから、今日は……」

『えーっ!?』

 

三人ほど見知った顔がいるが、そこら辺は無視する。先生――"上白沢さん"は迫ってくる子供たちを慣れた手つきで宥めながら、此方を向いた。それと合わせるように、子供たちの殆どが不思議そうな顔を向けてくる。

その中のまた殆どは、あのお姉さんと知らない人、という認識らしく、すぐさま隣にいる妹紅に飛び付いてきた。

 

「わあぁっ!もこさん!もこさんだぁっ!」

「もこさんっ!もこさんっ!」

「違ぇよ~もこたんだよ~、なっ!もこたん!」

「えっ、えっと……あはは……」

「もこたーん!サッカーしよーぜーっ!」

「え、あ、うん!」

 

ガヤガヤした子供たちに囲まれてあっという間に連れ去られていく、妹紅が一瞬此方を向いて苦笑を浮かべた。

何というか、さっきまで一緒にいた身としては複雑なのだが、(子供たちが)楽しそうで何よりだ。

 

「あぁやって、少しずつ慣れてもらえると良いんだがな。最近は保護者とも話せているようだし……うむ!」

 

いや、何がうむ!なのか分からないが、いつの間にか先生が私の隣に立っていた。ニコニコしているので、本当に子供たちが大好きなのだろうなぁ、と思った矢先、いきなり私の手を掴んで先生がこう言った。

 

「で?君は入学希望者か?!さぁ、中に入ってくれ。保護者の方は居るか?何処に住んでる?!」

「えぇ……」

 

このテンションで何人の希望者を逃してきたのだろうと考えてしまうが、この熱血な感じが人気なのかもしれない。とにかく、本当に入学届を出さなくてはいけなくなりそうなので、先生に負けないように大声で私も言った。

 

「私、別に入りに来たんじゃ……っ」

「良いんだ、良いんだぞ!今からでも遅くない。何なら授業を見学していってくれ?!」

「だからっ!私は、此所に入りに……っ」

「ん?もしかして教師希望か!?いや、すまない。私としたことが、見た目で判断してしまって……」

「こいつっ……人の話を聞けえええええ!!!」

「……あ。」

 

いつの間にか子供たちの好奇心の的になっていた私達はどちらからともなく、寺子屋の中に逃げ込んだ。

 

―――――――

 

「いや……本当にすまなかった。」

「えっ……こ、こちらこそ名乗らずに突っ立っててすみません……」

 

気まずい沈黙。その数秒間で次に話す事を思い出した。

私は慌てて先生、と声をかけると、顔を上げた上白沢さんに此所に来た目的と私の正体を明かした。やはり、その件については関わっていたようで、あの子が……、としきりに呟いている。

 

「……そうか、それで私の所に。」

「はい。……あの、」

「いや、お前のせいじゃないはずだ。気にするな」

「えっ。で、でも……」

「それ以上言うとあぁなるぞ?」

 

彼女が指差した窓の外には、額を大きく腫れ上がらせたチルノがいた。粗方、授業中に何かやらかしたのだろう。私が素直に頷くと、上白沢さんは満足そうに人里の説明を始めた。それから子供たちと少し触れあって、私は寺子屋を後にした。

 

――――――

 

予想以上に話し込んでいたようだ。並んだ瓦屋根の上から射し込む西陽に目を細める。ふと後ろから肩を叩かれて振り向くと、妹紅が優しそうな笑みを浮かべていた。

 

「……よっ?」

「う、うん。よっ。……あのさ、」

「おう。」

「紹介したい、というか、お前を連れてこいって言ってきた奴らが居るんだ。今から……良いかな?」

「まぁ、行く宛も無いしな。別にいいけど」

 

私が正直に快諾すると、妹紅は安堵を浮かべてこっち、と何故か私の手を引いて歩き出した。

自分でもよく分からないほどに、次第に顔が熱くなってきて私は逆に妹紅の手を引いて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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