幻想郷は夢を見る。   作:咏夢

57 / 76
プリパラの精神年齢下がったなぁ……


眠り、煙、権利

「……」

 

焔の霊殿に座り込み、沸き出る火を弄ぶ。もちろんさとりさんに許可は取っているし、ウサギには此所にいる事も伝えている。此所にいる時は記憶が鮮明なので、さとりさんに頼まれた焔の対処も兼ねて入り浸っているのだ。そう、此所にいる時は、なのだ。

実質、地底から遠ざかり……具体的に言えば、紅魔館の前辺りまで行った時には、もうほとんど何が何だか分からない状態に陥っていた。多少気落ちはしたが、少しでも分かることを増やすためにも、まずは記憶を整理した方が良いだろう。そう思い、ここ二日ほど地霊殿と霊殿を行ったり来たりしている。

 

「ふわぁ……眠い。体内時計は正確かなぁ。」

「今は九時過ぎくらいだよー?」

「わぁっ!?って、こいしか。ビビった……」

「えへへ~っ♪あ、そうそう。これを届けに来たんだー」

「ん?」

 

こいしはそう言うと、何処からともなく赤いビニールの寝袋を取り出した。思うに、さとりの気遣いなのだろう。こいしに礼を言うと、満面の笑みで姉の名を叫んで出ていき、外から慌てたような声が聞こえた。微笑ましい限りだ。

 

私はそのままモゾモゾと寝袋に潜り込むと、暖かな霊殿で眠りに落ちた。

 

―――――

 

煙が立ち込める商店街兼住宅街。

多くの人が咳き込み、倒れ込む路上で、一人の女だけが懸命に救助を続ける。周りの住民に声をかけ、噎せ返りつつも笑顔を見せる。

 

その遥か上空、女の姿に苛立ちを覚える事を不思議に思わない自分がいる。

苛立ち――ある種の嫉妬と共に、炎は勢いを増して家屋を飲み込んでいった。一通りの人里を焼き尽くしたその炎を引き連れて、妖怪の山へと続く人気の無い道を歩いていく。

罪悪感なんて微塵も無く、まだ足りないという感情だけが燻る道中。夏の星が瞬く夜空を静かに火の粉が舞っている。

 

……意識が途切れた。

 

―――――――

 

目が覚めた時には、私は汗だくだった。真冬の夜とは思えない異常な暑さが襲ったわけでは無い。冷や汗が頬を伝う。

怖かった。

記憶を取り戻した結果がこうだ。それでも向き合わなくてはならないけれど。

未だ恐怖の滲む掌を握りしめ、ただ一人夜を明かす。

今までと然程変わりない筈なのに、この数日で人肌への恋しさを知ったのだろうか。その事実に自嘲ぎみに笑うと、薄明かるい霊殿に響き、また虚しくなる。

 

「会いたい……か」

 

そう、会いたいのだ。

彼女に会って、そして……

 

そして……

 

何がしたいのだろう?

普通で当たり前の日々を過ごすのか?

謝罪?いや、違う。

 

―――――――

 

時間も忘れ考え続けて、決める。

 

名前を聞こう。

某映画では無くとも、私にはその権利がある。あるはずだ。

 

ふと横穴から光が射して、古明地姉妹の声が聞こえた。

もう此所に居る必要は無い。私は勢いをつけて立ち上がると、朝へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

感想等お願いいたします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。