「……」
焔の霊殿に座り込み、沸き出る火を弄ぶ。もちろんさとりさんに許可は取っているし、ウサギには此所にいる事も伝えている。此所にいる時は記憶が鮮明なので、さとりさんに頼まれた焔の対処も兼ねて入り浸っているのだ。そう、此所にいる時は、なのだ。
実質、地底から遠ざかり……具体的に言えば、紅魔館の前辺りまで行った時には、もうほとんど何が何だか分からない状態に陥っていた。多少気落ちはしたが、少しでも分かることを増やすためにも、まずは記憶を整理した方が良いだろう。そう思い、ここ二日ほど地霊殿と霊殿を行ったり来たりしている。
「ふわぁ……眠い。体内時計は正確かなぁ。」
「今は九時過ぎくらいだよー?」
「わぁっ!?って、こいしか。ビビった……」
「えへへ~っ♪あ、そうそう。これを届けに来たんだー」
「ん?」
こいしはそう言うと、何処からともなく赤いビニールの寝袋を取り出した。思うに、さとりの気遣いなのだろう。こいしに礼を言うと、満面の笑みで姉の名を叫んで出ていき、外から慌てたような声が聞こえた。微笑ましい限りだ。
私はそのままモゾモゾと寝袋に潜り込むと、暖かな霊殿で眠りに落ちた。
―――――
煙が立ち込める商店街兼住宅街。
多くの人が咳き込み、倒れ込む路上で、一人の女だけが懸命に救助を続ける。周りの住民に声をかけ、噎せ返りつつも笑顔を見せる。
その遥か上空、女の姿に苛立ちを覚える事を不思議に思わない自分がいる。
苛立ち――ある種の嫉妬と共に、炎は勢いを増して家屋を飲み込んでいった。一通りの人里を焼き尽くしたその炎を引き連れて、妖怪の山へと続く人気の無い道を歩いていく。
罪悪感なんて微塵も無く、まだ足りないという感情だけが燻る道中。夏の星が瞬く夜空を静かに火の粉が舞っている。
……意識が途切れた。
―――――――
目が覚めた時には、私は汗だくだった。真冬の夜とは思えない異常な暑さが襲ったわけでは無い。冷や汗が頬を伝う。
怖かった。
記憶を取り戻した結果がこうだ。それでも向き合わなくてはならないけれど。
未だ恐怖の滲む掌を握りしめ、ただ一人夜を明かす。
今までと然程変わりない筈なのに、この数日で人肌への恋しさを知ったのだろうか。その事実に自嘲ぎみに笑うと、薄明かるい霊殿に響き、また虚しくなる。
「会いたい……か」
そう、会いたいのだ。
彼女に会って、そして……
そして……
何がしたいのだろう?
普通で当たり前の日々を過ごすのか?
謝罪?いや、違う。
―――――――
時間も忘れ考え続けて、決める。
名前を聞こう。
某映画では無くとも、私にはその権利がある。あるはずだ。
ふと横穴から光が射して、古明地姉妹の声が聞こえた。
もう此所に居る必要は無い。私は勢いをつけて立ち上がると、朝へと駆け出した。
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