以上です炬燵欲しい。
ここに来て何日経ったかなぁとか、そんな誰でも思うような事を長々と考える。
炬燵に突っ伏す三人の少女。その内一人は寝ていて、一人はミカンを摘まんでいる。そしてもう一人が私だ。
目の前に広がるさらさらした金髪をそっと触ってみる。ここら辺は女の子らしいなぁ、なんて失礼な事を呟いていると、霊夢が何回目になるか分からない質問を飛ばしてくる。
「ねぇ……結局どっちが勝ったの?ホントに気になるんだけど」
「教えないって。何回目だよ……」
「26回目ね~」
「はは、数えてたんだ……え?」
「いや私別に数えてな……は?」
「さっきで26回目よ。もう、飽きちゃったわ……」
「「ぎゃあっ!?」」
「?何だよ騒がしいな……へぁっ!?」
挙げ句の果てに、寝起きの魔理沙までも変な声を上げる。それもそのはず、今までミカンが積み上がっていたところに人の首から上が生えているのだから。
いや、人では無いが。正確に言えば、かの有名な大妖怪基妖怪の賢者さんの首、だ。
私達があまりに驚いたからなのか、紫はいそいそと胴体も出すと軽やかに炬燵から飛び降りた。やっと霊夢が我を取り戻す。
「な、何で人ん家の炬燵から出てくるのよ!?普通に玄関から入ってこい玄関からっ!」
「良いじゃないの~。それに、此所の玄関なんて有って無いような物じゃない?」
「うっ……に、にしてもよ!せめて縁側から……」
「こんな極寒の中で障子開けたら、それはそれで怒るじゃないの」
「~……」
完全に論破された。小さく笑って、また顎を炬燵に乗せる。暖かい。こうしていると成る程、霊夢達が無気力になるのも納得できる。
何せ外は凩なんてものじゃ無い程の風だ。とてもじゃないが外には出られない。紫はその低堕落さにため息をつくと、霊夢の隣にするりと滑り込んだ。そしてすぐに頬を緩める。やはり妖怪の賢者でもこの誘惑には勝てまい。結局、昼過ぎまでこの至福は続いた。
――――――
そう、昼過ぎまでだった。この至福は。
そろそろお暇するわ、と言って紫が出ていって数分。障子ががたりと音を発てて、そのまま横にスライドされた。それもかなりの勢いで。
「お邪魔しますっ、魔理沙っ!やっぱり此処に居たのねぇ……」
「げっ」
「ん~……何よ、寒いんだから茶番なら外でやってよね……」
「はあぁ……全く、これだからこの子達は……ん?」
「そ、そうだぜ!こいつの紹介も兼ねて入れよ!な?!」
「まーた都合良いように……ま、今回はいっか。お邪魔するわよ」
「んー……」
どうやら、霊夢は会話に参加する気は無いようだ。その様子を見た少女は、呆れた目をしつつ鞄を漁った。そして何かを取り出すと、指を一本くいっと動かした。
「シャンハーイ!」
「シャンハーイ……」
「さ、行きましょ」
「シャンハーイ?」
「お茶を淹れるの」
「シャンハーイ!」
一瞬、私が頭がおかしくなったのかと思ったが違う。
少女は二体の人形を引き連れて、慣れたように冷たい廊下を歩いていった。
少女が見えなくなると、魔理沙が大きく息をついた。知り合いであろう魔理沙に名前を聞くと、当人に聞けと投げやりに返された。ものの数分で魔理沙がこうだ、どんな人格なのかは見てとれる。
「はい、お茶。溢さないでよ?」
「んー。アリスありがとー……」
「えぇ。ほら、魔理沙も」
「おう、さんきゅ」
「はい、貴女もどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
とりあえず出されたお茶を飲む。美味しい。少女はさらに鞄をもう一度漁ると、小さな箱に入ったそこそこの量のクッキーを取り出した。早速魔理沙が伸ばした手を、容赦なく叩く。
「イテッ」
「説明が終わってから、でしょ。ちゃっかりしてるんだから……」
「わーったよ。こいつは燐乃亜。ほら、アイツと同じような奴だ」
「あぁ、成程ね。新しい子が来たとは聞いていたけど……アリス・マーガトロイドよ。よろしく」
「あぁ、よろしく」
「よーしっ、んじゃ早速」
「「いただきますっ」」
魔理沙とほぼ同時に霊夢が跳ね起きて掴む。そういえばぐうたらしていて、昼はまだだった気がする。私も一枚クッキーを手に取ると、アリスに思いきって聞く。
「あの人形って?」
「あぁ、上海と蓬莱の事ね?」
「名前付いてたのか……」
「えぇ。私の能力はね、"人形を操る程度"なの」
「へぇ……」
「面白いのよ、ほら。」
アリスはそう言うと、指を器用にくるくると動かす。意識的にはもっと複雑な動きをしているようで、人形――上海と蓬莱は手を取り合って踊り始める。一通りくるくる回ったりすると、二体は炬燵に降りてペコリとお辞儀をする。そして鞄の中に吸い込まれるように戻っていった。
「スゴいな……」
「あら、貴女の弾幕も随分綺麗だったじゃない?」
「?!……あっ」
「えぇ、昨日ぶりね。」
あの時、霊夢の隣に居たのはアリスだったらしい。霊夢が眠そうにしているのを見て代わりに審判を引き受けたが、あまりに長引いたので帰ったのだという。
とりあえず仲良くはできそうなので、他愛ない会話をしているとウサギが廊下の奥からてけてけと歩いてきた。
「お前……こんな寒い中外に居たのか?」
「んー、まぁね。それより!」
「「「?」」」
「明日こそは出かけるからね!しっかりしてよ?」
「あーうん。分かった、分かったから」
「!……ふふっ、この子がいれば大丈夫そうね」
「あっ、アリスさん!お久し振りです♪」
「えぇ。……気を付けてね。」
「はいっ。燐乃亜、明日行くところは……」
――地霊殿。
やけにその響きが懐かしくて恐ろしくて、私は布団の中で蟠りを抱えながら睡魔を待った。
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