どうぞ!
「違、違う……違う違う違うっ!」
少女――燐乃亜は、自分の名を忌み嫌うように拳を震わせた。感情に任せるように、燐乃亜はどんどん口を動かす。
「私は、此処での私は"燐乃亜"なんかじゃない!あんな……あんな、最低な性格の、臆病で馬鹿みたいなっ……あんな、あんなぁ……っ」
燐乃亜にはいつの間に肉体が形成され、荒い息づかいが弾幕を飛ばせば届く距離、すぐそこで聞こえている。それなのに、私達は指一本動かさずに聞き入っていた。
「あんなのっ……私じゃ、無いんだよっ!!!」
「うるさぁぁぁぁぁいい!!!」
被害妄想に埋もれた空気をぶち破ったのは、明らかに怒りの隠る叫びだった。
「いっつまでもぐちぐちぐちぐち、聞いてる此方の身にもなれっ!私はね、あんたがどんな性格だろうと、どんな名前だろうと、心底どうでも良いのよ!ただ、ただね!」
巫女服を夜風に靡かせて、夢から覚めてしまいそうな程の光を手に宿して。
博麗霊夢は怒っていた。生死の境を幾度も見てきた一人の人間として。
「気にくわないのよ!自分を簡単に否定するような、あんたみたいな奴が!」
「……っ!知らないよ、あんたが私をどう思おうと変わらないんだ!私は私が大っ嫌いなんだよ……!」
「……何ですって?」
怖い、本能的にそう思った。私は不安になってつい魔理沙と顔を見合わせようとする。が、口を結んで唯一無二の親友を見つめる横顔に、私は自分がとても小さい事を知る。
強いのだ。やはり、この人たちは。
私よりも確実に、色々な物をこの世界で見てきているのだ。
負けたくない、純粋な対抗心で私は目線を戻す。が、私の恐怖は杞憂に終わる。
「言えるんじゃないの、なかなか」
「えっ?」
燐乃亜だけでなく、皆が唖然としてしまう中で霊夢は咳払い一つで続ける。
「自分で自分が嫌い、それは誰の意見か?」
「わ、私の……ぁ」
「そうよ、貴女の意見。貴女は今、それを叫んだのよ。他人の私に対して、ね」
『……霊夢らしい、実に阿呆な考え方ねぇ』
「は、はぁ?!阿呆って何よ!えぇ?!」
『単純で直接的、でも良いけれど?』
「阿呆て言われた後じゃ説得力無いわよ!」
さっきの空気を返せ、と魔理沙を先頭にため息をつく一同。それを他所に陰陽玉を揺さぶる霊夢。
一人ずつ置いてけぼりになった私と燐乃亜は、互いに顔を見合わせる。
変わりそうにない雰囲気の中、先に口を開いたのは……
どちらでもなかった。
出来事は一瞬。気づけば足下は無数の瞳が爛々と輝くスキマ。私達は、敵意も忘れて手を取り合って落ちていった。
「イヤああぁぁぁあああ!!!」
「うわぁぁぁあああ!!?」
―――――――
「うぅ……大丈夫?り、燐乃亜」
「あぁ……」
もうただの友達らしき雰囲気になってしまった私達は、見覚えのない景色を見渡す。空が星々で明るく照らされるところを見ると、世界線は変わっていないのか。
「危ない!」
「ひゃあっ!?」
いきなり燐乃亜が飛びついてくる、後に突き倒したのだと気づくが。
目の前にある燐乃亜の頭上を、いかにもノーマルな弾幕が駆け抜けていく。
「何でこんな所に!?」
「燐乃亜……この世界、何でもアリなんだ」
「うん、知ってた」
弾幕の来た方を改めて見つめるが、迫り来る光の矢しか見えない。美鈴に前に聞いた、"耐久スペル"というものなのだろうか。
「そうすると、本人は居ないってことか……」
「考察中悪いんだけど追い詰められてるよ?」
「はい!?」
光の矢との距離は確実に近づいていて、地上にいる私達に降り注いだ。
慌てて羽を広げて、燐乃亜を抱き抱え飛ぶ。かといって、ずっと女の子一人抱え続ける自信も無いので、紫の受け売りを燐乃亜に叫ぶ。
「想像の許す限り、貴女は飛べるっ!」
「はぁ?!いや意味分かんないから」
「いいからっ!ほら、飛んだ飛んだ!」
「えぇ……」
数秒の間の後、燐乃亜は宙に浮いた。小さなコウモリのような羽が、忙しなく羽ばたいている。
燐乃亜は挑戦的な笑みで私を見る。
「ほんっと、何でもアリだな!」
「うん!それじゃあ行くよ~!」
正体不明の弾幕に当たったら即終了のサバイバル。
これが終わったら、二人で考える。許可なんて取らずに、一方的でもいいから燐乃亜と話す。
そう心に決めた。夢から覚めてしまわぬように。
ありがとうございました!
感想等お願いいたします!
修正も加えていくので、少し次話は遅れるかもしれません