今回ははっきり言って、あんまり進みません(--;)
「準備出来たか~?」
「こっちはOKよ」
「あぁ、こっちも問題ないぞ」
「それじゃあ行きましょう。そろそろ時間よ」
皆でリュックに荷物を詰める。まるで遠足に行くかのようだが、向かう場所は地底、それも獄炎の舞う、封印されていたはずの旧霊殿だ。
長くなりそうなので、地霊殿に泊めてもらう事になったのだが、明らかに人数が増えている。もう突っ込まない事にするが。
私は魔理沙から借りたポーチ(実は無限小物入れだった)を肩にかけると、魔理沙達の後を追って夏の夕暮れに飛び出した。
――――――
どういうことだ。
それが皆の第一声だった。どういう訳か、霊殿への入り口に結界が、それも強力でとても破れそうにないクラスのものが張られていたのだ。
「うーん、ちょっと下がってろよ。行くぜ!"ブレイジングスター"!」
魔理沙はスペルを片手に箒に跨がり結界に突っ込んだ。そして、霊夢の制止の声も聞かずに、暫く八卦炉から火花を散らして結界と格闘していたが、遂に弾き飛ばされて結界から三メートルほどの家屋に突っ込んでしまった。
「魔理沙!」
「だ、大丈夫か!?」
「いつつ……おう、私はいつだって丈夫だぜ」
人の心配を他所に、魔理沙はちょっとスカートを払うと結界に目を向けた。今度は霊夢が、陰陽師の力を駆使して結界と格闘していた。
が、結界は一瞬の淀みも見せない。
一体どれだけの術者が施したのだろう?
それに何のために?
「うーん……無理そうね」
「諦めるな!まだやれる!と、言いたいとこだが、残念ながら私にも策が無いぜ」
「そんな……」
霊夢も肩で息をしている所を見ると、かなりの体力を使っている。だが、仕方ない、帰ろうとポンポン言えるほど事態は軽くない。
思わず結界を睨み付けるが、当然結界は緩まない。
肩を軽く握られて振り返ると、妹紅が戸惑うように話しかけてきた。
「あの、とりあえず地霊殿に向かおう、って、みんな先に行っちゃったんだけ、ど……」
「えっ」
素早く周りを見渡すと、妹紅以外には誰も居なかった。おのれ妖怪ども、裏切ったな。ん、殆ど人間しか出てないじゃん?……気のせい気のせい。
私が礼を言うと、妹紅は頬を真っ赤にしていた。最初から思っていたのだが、すごく可愛いと思う。
話は多少逸れたが、結局その夜は地霊殿で越した。
――――――――
黒いローブ、異常な程に広がった口。それ以外に何も分からない男は、殺意を狂った笑みに込めている。それは私に向けられた物なのか、はたまたその向こうにいる、倒れた仲間たちへなのか。
分からない。
分からないけれど、私はそれ以上に憤怒を抑えきれなかった。
飛びかかる。
飛びかかってどうにかなる問題ではない、決してそうではないのだけれど。
とにかく許せなかった。
私の大切な人を傷つけて、尚笑っているこの男が。
私の大切な気持ちを踏みにじり、尚否定し続けるこの男が。
私の、私の……
許せない。
大切な世界を、簡単に壊そうとするこの男が。
――――――――
目が覚めた時、私は汗に額を濡らして、ただ恐怖を抱いていた。
あの質の悪い男がではなく、何故か仲間が倒れていたことでもなく、ただ、誰かも分からない男をただひたすらに憎んでいた自分が、怖かった。
「……おはよう」
一人でポツリと呟く。まるで今見た事を無かったかのようにする、そんな響きで。
旧都の向こうが明るくなる。地上に朝日が昇った印だ。それに合わせたように、霊夢の寝惚けた声が背後に聞こえる。
「おはよ~……」
「んー……あともう少しだけ寝かしてくれぇ……」
「ダーメーよ……あと10分」
霊夢は布団に倒れこむ。二度寝は別にいいのだが、言動が物の見事に矛盾している。魔理沙の布団を勝手に剥いでおいてそれは無いだろう、うん。
まぁしかし、他の誰も起きそうにない。静かに寝室を見渡すと、皆思い思いの場所で寝ていた。
霊夢、魔理沙は布団に潜って早くも寝直している。壁に寄りかかって、相変わらず寝ているのか分からないのは妹紅。紅魔館組は全体的にベッドが多い。……と、そこまで見て気づく。レミリアが居ない。
「どこいったんだろ……」
「ここだ」
「!!?」
即聞こえた返答に声をあげそうになるが、レミリアの制止で我に返る。レミリアはテラスから顔を出し、手招きをしていた。
寝間着のままテラスに出ると、夏の朝はまだ少し肌寒かった。同じく寝間着のレミリアは、遠い目で旧都を、もしくはこれから始まる激闘を眺めていた。私もそれに倣っていると、レミリアがふと口を開く。
「ねぇ、貴女はどうしたい?」
「えっ?」
「……お前はどうしたいんだ、と問っている」
そこにいるのは、いつも咲夜に引っ付いて散歩している幼い吸血鬼でも、フランを愛でる普通の姉でも無かった。
運命を視る大人びた視線が私を射る。
「……私は、助けたいです。あの子を、あの子の心とか、この世界とか、全部。……初めて、そう思えたんです……あの子は、えっと……だから、その……」
私は紡いだ見せかけの言葉を呑み込んで、真っ直ぐ、早すぎる一番星の瞳で、しっかり目を合わせた。
「助けたいです、あの子を」
そうか、と王者のように呟くレミリアを見て、私は恥ずかしくなった。もしかしたら、この闘いの結末も見えているのだろうか。
「見えてはいる、でもそれは……一種の可能性に過ぎないのだ。」
「可能性……」
「運命は変えられる、覚えておくといい。」
―運命は変えられる
それは、私には重すぎる言葉だった。でも、この闘いが終わったら、皆と解っていくつもりなのだ。
レミリアが出ていく寸前に振り返って、彼女の名前を教えてくれた。
ありがとうございました!
感想等お願いいたします!