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少女と夢現
とある中学校。図書室。夏休みなので、開放されているとはいえ静かだ。
その窓辺で、一人の少女が頬杖を付き外を眺めていた。
その名は如月魅空羽(きさらぎみくは)。
(あー、ホント退屈……。)
窓際から離れて、机に突っ伏した少女は、うわ言のように、
「行ってみたいなぁ、異世界とか……」
と呟いた。
この少女は、至って普通の空想好きなメガネ女子なのだが、まぁその度合いはダメな方だ。
昼下がりの陽射しと空き教室の静けさに負けて、少女はいつの間にか眠りに落ちた。
――――――
(ここは……?)
目を開けると、そこはとんでもない高さだった。
「…………!!?」
少女は声を上げようとしたが、あまりにパニックで喉には冷気しか入ってこない。
『手ぇ離すなよ!!』
頭上から声がした。潤む目で見上げると、そこには…
(魔女……?)
――――――
「んん……魔女……?」
「なぁに寝ぼけてんのよ?起きなさい!」
ビシッとした女性の声に顔を起こすと、担任の教師が仁王立ちしていた。壁にかけられた時計を見ると、時刻はとうに開館時間を過ぎている。
(えっ……あっそうか……私……)
「………すみません。」
「はい。早く帰んなさい。」
すっきりとした表情で去っていく担任を横目で見送ると、少女は席を立った。
――――――
時刻は夕暮れ。親はというと、一人娘の悩みも知らずに旅行中である、何てこった。
(んー……気になるなぁ……)
結局あの夢は何だったのだろう。夢にしてはしっかりしすぎたあの情景を、少女は忘れられずにいた。
広げた手のひらを自部屋の照明に翳すと、あの魔女の姿が目に浮かんだ。その途端に、何とも言いがたい既視感が襲った。
「魔理沙……!」
その名を口にした瞬間、少女は自分の中の違和感の正体を見つけた。
霧雨魔理沙。少女の大好きな魔法使いだ。夢の中での、だが。
私はたまに異世界の夢を見た。私の存在は無かったが、とても楽しくて、よく出てくる魔女に名前も付けた。
「いつにも増してリアルだったな……」
結局そのまま、少女は眠りに着いた。
その夜は夢を見なかった。
――――――
「ふわぁ……」
よく寝た、と呟きながらも欠伸を噛み殺す少女。
起き上がろうと瞼をそっと開くと、視界に入ったのは教室の机でも、部屋の質素な天井でも無かった。
「……え?」
まだ夢の中に居るのかと、手のひらを打ち合わせてみるが、朝の冷気でヒリヒリと痛む。
「誘拐って訳じゃない……よね?」
とりあえずここが何処なのか知りたかった。そして瞬きをひとつすると、衝撃的な事実にまた気付く。
「何この格好……」
黄色いジュエルの付いた青いリボンで、髪は二つ結びにされ、五線譜と夜空があしらわれたワンピースは丈の短いものだった。中のドロワーズと同じくらいだろうか。
髪の色は、黒ではなく水色。そして、何より少女の目を惹いたのは……
「何だろう……これ」
太ももに付いたサーベルには、一本の杖のようなものが刺さっていた。
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