【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~ 作:奥の手
「神の名は伊達ではないということを君たちに教えてあげよう」
イヌガミギョウブはそう言い放つと、赤く光る葉っぱを三枚空中に放り出しました。
放り出された葉っぱは一瞬イヌガミギョウブの前で止まり、次の瞬間には一枚ずつビースト、レミア、ヘリのセルリアンへと向かっていきます。
赤い葉っぱが、動きを止めている三者に吸い込まれました。音もなく吸い込まれた先で、ビースト、レミアは、
「ガ…………」
「…………」
お互いを睨み合います。ヘリのセルリアンはバルカン砲を上へ向けたまま止まりました。
『なにを…………したの?』
セッキーの口から漏れ出た言葉に、イヌガミギョウブはにこりと微笑みながら、
「要するに、この三体をどうにかすればいいんでしょ? 例えば数を減らすとか」
『それは、そうだけど』
「まぁ見ててよ。わたしの見立てではうまく行くからさ」
イヌガミギョウブはふふっと小さく微笑むと、緩慢な動作で右手を上げて、振り下ろしました。
その動きに呼応するかのように、レミアとビーストが弾かれたようにお互いの距離を詰めます。
まるで、敵同士が錯乱し潰し合うかのように。
あるいはレミアが正気に戻り、ビーストを敵として認知し、倒すために。
ビーストが左爪をふるいます。レミアはそれを黒い右手で止めました。次の瞬間。
ぶわっ――――と、レミアの右手が黒い霧のように広がり、ビーストの体を飲み込みました。
「ガッ! グルルルル――――」
ビーストがもがき、うめき声をあげますが、瞬く間に黒い霧はビーストの全身を覆い、ビーストの声はくぐもって、いつしか聞こえなくなりました。
レミアの口元が、わずかに、微笑むように歪みました。
まるで宿敵を飲めたことを喜んでいるかのように。久しぶりの食事に舌なめずりをするかのように。
ビーストの姿が闇に呑まれます。
その様子を見ていたカバンさんが、細い声で漏らしました。
「もしかして、レミアさんの右腕って…………」
それに答えたのはイヌガミギョウブです。くすくすと笑うと、
「そうだよん。あの子は今、セルリアンとしてビーストを飲み込んだ。じきにビーストのサンドスターもサンドスター・ローも全部吸収して、ビーストは無事野生に帰るよ」
「そんな………………」
「言っとくけど、他に方法は皆無だったからね。ビーストを止めるためには、ビーストでは敵わないような強力なセルリアンで捕食して、サンドスターを奪うしか方法がなかった」
静かな声でイヌガミギョウブは淡々とそう告げます。
目の前ではレミアが、ビーストを右腕に取り込み、そして今、右腕はゆっくりと元の形になりつつありました。
レミアの足元に虹色に輝く球が転がります。
レミアはそれを、さして興味もないような目で一瞥した後、今度はヘリのセルリアンを見上げます。
ヘリのセルリアンはレミアの様子を注意深く見ていました。ぎょろりと動くコックピットの一つ目は、レミアから離れません。
釘付けになったかのようにレミアを見て、レミアもまた、恐ろしく冷たい、凍てつく目でヘリのセルリアンを睨みます。
すると突然、セッキーの後ろに隠れるようにしていたアライさんが走り出しました。
『アライグマ!』
「あらいさーん!」
セッキーとフェネックが名前を呼んで静止しますが、アライさんは止まりません。レミアの元に駆けていったかと思うと、
「これを! 今! 使う時なのだ!!」
手に持っていたサンドスターの粒子の入った瓶を、レミアの足元に転がる虹玉に半分振りかけました。
そしてもう半分を、
「レミアさん! これが必要なのだ! セルリアンなんかに負けちゃダメなのだ!!」
レミアの右肩に振りかけました。
レミアは無表情で、何も言わず、右肩にサンドスターをかけられています。
しかし、
「無理だと思うよ」
イヌガミギョウブの冷めた声と共に、レミアは、アライさんから瓶をそっと奪い取ると、その場に落としました。
そして踏みつけ、ガラスの小瓶を粉々に砕きます。
「あ…………れ、レミアさん……?」
アライさんが、声を震わせながら後退りします。
「お、怒ってるのだ……?」
レミアは何も言いません。笑いもせず、怒りもせず、ただ無言でアライさんを見ています。右手は、何も変化がありませんでした。サンドスターは反応せず、レミアにも、何の変化もありません。
「れ、レミアさんしっかりするのだ! セルリアンなんかに負けちゃダメなのだ! 優しくて強いレミアさんに戻――――ぬおあッ!」
アライさんの言葉が最後まで続くよりも前に、アライさんは、強い力で誰かに抱き抱えられました。
周囲の全員が息を飲みます。アライさんを抱き抱えたのは、
「お前、死ぬぞ。離れろ」
そういいながらセッキーたちの元へと連れて下ろしたのは、ビースト――――ではなく、その元となっていた動物、すなわちアムールトラでした。
アムールトラからはもう、黒い瘴気が立ち上っていません。両手も、普通のフレンズのように人間の手になっています。はまっていた手枷はするりと抜け落ちていました。
それはすなわち、
「ほら、こうなると思ったんだよん。おかえりアムールトラ」
「…………だれだ?」
「イヌガミギョウブ。神様さ」
「そうか。お前が…………私を、解放するよう仕向けてくれたんだな」
「まぁそんなところ」
「感謝する」
短くそう言い、アムールトラは頭を下げました。
『再フレンズ化……だね。ビーストの時の記憶も、残ってるってこと……?』
「苦しかったことと、思うように体が動かせなかったこと、たくさんのフレンズを傷つけたことを覚えている。もう――――そんなことにはならないよう、これから罪滅ぼしをしていきたい」
アムールトラはセッキーたちに背を向け、レミアを睨みます。
「差し当たって、私からサンドスター・ローを奪い取ったこいつは危険だ」
「そうだろうねん。わたしも、とりあえず数を減らすために潰し合うように仕向けたけど、どうやら器用に全部吸収しちゃったみたいだね。しかも…………サンドスター・ローの味を覚えちゃったかな。ヘリも狙ってる」
レミアはもう、一行には目もくれずヘリのセルリアンを睨み潰しています。狙っている、というイヌガミギョウブの言葉通り、その目は猛禽類が獲物を見る目でした。
次の瞬間。
レミアが駆け出したのと、ヘリのセルリアンがバルカン砲をレミアに向け、放ったのは同時でした。
◯
流れ弾が当たらないようセルリアンを招集して周囲を固めたセッキーは、セルリアンの間から見えてくる光景に息を呑むしかありませんでした。
レミアは、ヘリのセルリアンの銃弾を
時折右手を盾のように変形させて、球を弾いては前進し続けています。
『レミア……』
レミアはもう、引き返せない、どうしようもないことになっているのではないかと、セッキーは胸を痛めました。しかしどうすることもできません。
イヌガミギョウブがいなければ、ビーストとレミアとヘリのセルリアンになすすべなくやられていました。
レミアがビーストを倒し、アライさんが元のアムールトラに再フレンズ化させた。
それだけでも、奇跡のようにありがたい話です。危機は現在進行形で続いていますが、それでも、活路が見出せたのです。
レミアはヘリのセルリアンの真下にきました。
真下にはどうやらバルカン砲の弾は届かないようです。ヘリのセルリアンもそれがわかっているのか、撃つのをやめ、移動しようと機体を反転させます。
その瞬間を、レミアは逃しませんでした。
右手を大きく空へ振ります。まるでムチがしなるように、初めからそうなることが当たり前だったかのように、レミアの右手は無数の黒い線となって、ヘリのセルリアンに襲い掛かりました。
ヒュルルルルルルルルオオオオオオオオオオオオオ――――。
セルリアンが悲鳴を上げます。絡みついたレミアの右手だったものは、一本一本分裂しては数を増やしていき、ヘリのセルリアンを縛り上げます。
コックピットに、メインローターに、テールローターに、黒く、闇をも思わせるしなやかな線が、絡みついて動きを阻害していきます。
ほんの十数秒でした。
無数に増え続けるレミアの右手は、いつしか黒い塊となってヘリのセルリアンを飲み込みました。空中に闇の塊ができたかと思うと、次第にその形が小さくなっていきます。
やがて、跡形もなく形がなくなり、一本の線になったレミアの右手は、そのまま長さを短くしていき、レミアの元へと戻っていきました。
レミアは、
「…………」
無言で、口元を綻ばせていました。口角を不敵にニンマリと上げ、嗤っていました。
まるでこの世にはこうもあっさりと片付く敵がいるものだと。
馬鹿にするように。
滑稽なものを蔑むように。
禍々しく、レミアは笑っていました。
レミアを知る者が全員、その笑顔を見て背中に寒いものを覚えます。
もとのレミアからは考えられないような笑みに、レミアが、もう手の届かない遠い場所に行ってしまったかのように感じます。
「レミアさん! レミアさん!! しっかりするのだ!!」
セッキーの後ろから、アライさんが叫びます。しかし声は届いていないのか、それとも聴こえているけど無視しているのか、レミアは無言で笑みを湛えたまま、一行を舐めるように見つめてきました。
『ッ!』
セッキーが身震いします。
サーバルが、毛を逆立てるかのように肩をすくめます。
カバンさんが、震えながら自らの体を抱きしめるように両手を回します。
アライさんが、先ほどまで開いていた口をまるで後悔するかのように閉じます。
フェネックが、泣きそうな目で口をつぐみます。
レミアの目は。
その目は、まるで獲物を前にして牙を剥き、獰猛に笑いかけるかのように細められていました。
これから捕食する獲物に笑いかけるように。
まるで感情などないかのように、冷め切った目の色で、しかし口元には笑みを貼り付けて。
全身の毛が総毛立つような思いでレミアの目を見たセッキーは、喉から絞り出すように呟きました。
『…………させないよ、レミア。君に、フレンズを食べさせるなんてことはさせない』
セッキーの声が聞こえていたのか、果たしてたまたまなのか。
レミアは、予備動作などないかのような動きで、一気にセッキーたちへと肉薄してきました。
◯
『させないッ!!!!』
セッキーも踏み込みます。サンドスターの粒子が尾を引きました。
レミアの真正面から向かうように、その体を止めるように、セッキーは体ごとレミアの前に投げ出します。
腹部に力を入れます。全身の筋肉を絞るように、一点に、右足に、力を溜め込んでぶつけるかのように、セッキーは右足からハイキックを繰り出しました。
全身の膂力と踏み込みの勢いの乗った渾身の蹴りは、レミアの側頭部にあたる寸前で、
『くッ!』
「…………」
なんの澱みもなく止められてしまいました。
セッキーの感触では、その時レミアの左手の骨にヒビを入れたように感じました。
確実にダメージになっている。大きくはないけど四肢の一つを痛みで使えなくさせるほどには損傷させた、その感覚がありました。
しかしレミアは止まりません。あろうことか受けとめた、ヒビが入っているであろう左手を貫手にして、セッキーの喉元へと繰り出してきました。
セッキーはそれを上体を逸らして躱します。そのまま、重心を後ろにして二、三歩、引き下がりました。
そのセッキーの動きとスイッチするかのように、ヒクイドリとアムールトラが同時に躍り出ます。
レミアの左半身をヒクイドリの蹴りが、右半身をアムールトラの爪が、レミアを止めんとばかりに迫ります。
レミアはその場に立ち止まり、まずヒクイドリの蹴りを半身になって、一切の無駄なくその場で躱します。その躱した動きのままアムールトラの爪を右手の裏拳で受け流し、体制の崩れたアムールトラに膝蹴りを叩き込みます。
「ぐっ――――」
アムールトラの短いうめき声が響いたかと思うと、アムールトラの体はふわりと浮き、そのまま五メートルほど吹き飛ばされました。地面を二転三転と転がってようやく止まります。大量の唾液と共に、赤い血が、アムールトラの口から吐き出されました。
一部始終が目に飛び込んできたヒクイドリが、信じられないとばかりに目を見開くのと同時に、レミアの左手が腹部にめり込みます。
「かはっ」
息が強制的に全て押し出され、呼吸困難になると同時に、ヒクイドリは五メートル以上吹き飛ばされ、木の幹に激突して止まりました。
レミアとセッキーの間に一瞬の間が生まれます。
硬直時間でもなんでもなく、それは、明らかにレミアがここにいるどのフレンズよりも格闘戦において格上であることを物語る時間でした。
アムールトラもヒクイドリも、一瞬にして立てなくなってしまいました。
レミアの目が、こんなものかとでも言うようにセッキーに向けられます。一言も発さないレミアの不気味な佇まいに、セッキーは言葉も出ませんでした。
レミアがじっとセッキーを見ます。目を離さず、しかし決して隙があるわけではなく、じっと、セッキーを見つめています。
ふと。
「………………」
レミアの目の色が一瞬、変わったように思えました。
これまでの獰猛な、猛禽類の冷たい目の色から、一瞬だけ、元のレミアが微笑みかけていた時のような、優しいとも言えるような目になったように、セッキーは感じました。
次の瞬間には、レミアは踵を返して走り出しました。
道沿いではなく森の中へ、茂みの中へ、まるで姿を隠すように、脱兎の如く恐ろしいスピードで走っていきます。
「逃さないよん」
イヌガミギョウブが短くそう言うと、一枚の葉っぱがレミアの背中に張り付きました。レミアは気づいていないようです。
あっという間にレミアは夕刻の、もうあと十分もすれば辺りは真っ暗になるであろう暗闇の中に、姿を消してしまいました。
張り詰めていた空気が全員の口から吐き出されます。
安堵の、とはいえ不安と恐怖のないまぜになったため息が、一行の誰からともなく漏れ出ていきました。
◯
『作戦を立てよう。じゃなきゃ勝てない』
電気系統だけは生きていたバスの後部に全員が乗り込んで、蛍光灯の灯りにほおを照らされながら、一行は膝を突き合わせていました。
半身がセルリアン化したレミアは、正気を失ってもなお戦闘能力は衰えておらず、それどころか上がっているのではとすら思えるものでした。
行き当たりばったりにレミアを止めようとしても返り討ちにされる。ちゃんと作戦を立てないと止められない。
それは、その場にいる全員が身をもって感じた結果でした。
『まず、戦えるフレンズとそうでないフレンズに分かれよう。レミアを止めるために追いかけるのは、戦えるフレンズだけにしないと』
セッキーの言葉に、ダンザブロウダヌキが頷きます。
「その通りです。私は離脱しますね」
『万が一があるから、ヒクイドリにはダンザブロウダヌキの護衛について欲しいんだ。ヘリのセルリアンもビーストも今はもういないけど、もしかしたらはぐれたセルリアンが敵対化しているかもしれないし』
「わかった。受けよう」
ヒクイドリも深く頷きました。
セッキーは今度はカバンさんの方へ向いて、
『できれば、カバンさんも離脱して欲しいんだ。レミアの前にいると危険だから』
「そう……ですね。そうした方がいいかなと思うんですけど、ただ……」
『うん?』
「もしかすると、レミアさんの攻撃を誘導できるんじゃないかなって思ったんです」
『レミアの攻撃を誘導? どういうこと?』
怪訝そうに首を傾げるセッキーに、カバンさんはカバンの中からマッチと紙の巻物を取り出します。
「使える手かどうかはわかりませんけど、夜になると明かりがないですよね? 黒いセルリアンは火の灯りを目指していたので、もしかしたらレミアさんも火で釣られるんじゃないかと思ったんです」
『なるほど…………イヌガミギョウブ、どう思う?』
「いい考えだと思うよん。あの子、レミアの半身は今や黒セルリアン。本能レベルで光を追いかけているとも言えるね。あ、ちなみに今いる場所は山の頂上だよん。サンドスターの明かりに引き寄せられてるんじゃないかな?」
イヌガミギョウブは遠くを見るような目で中空を眺めた後そう言いました。
レミアの居場所はイヌガミギョウブがマークしています。どうやら光を追いかけて、山の山頂にいるようです。
「攻撃、あるいは意識を火で誘導して、こちらから手を打てればいいんですが」
『カバンさんの言う通りだね。そうしよう』
「火はボクしか持てないので、誘導はボクがやりますね」
『頼んだ。それで、肝心の手の打ち方なんだけど…………』
言い淀んだセッキーに、手を上げたのはアムールトラでした。
「レミアが私にしたように、セルリアンでレミアを食わないとダメだと思うぞ」
『そう、なるよね』
「サンドスター・ローを吸収して無力化するより他はない」
『サンドスター・ローさえレミアから分離できれば、レミアは元に戻れると思う』
「あぁ、だが問題は、ただのセルリアンがレミアを食えるとは思えないということだ」
『たぶん、辿り着く前にやられると思う。どうにかしてレミアの動きを止められればいけるんだけど』
「じゃあ、わたしにまかせてよん」
イヌガミギョウブが胸を張りました。
「まだ見せてないけど、わたしには本気の妖術が残ってるからねん。それを発動して動きを止めるから、セッキーがセルリアンを向かわせて食べちゃうってのでどうかな」
『うん…………それがいいかな。イヌガミギョウブ、君の力を信じるよ』
「任せて」
イヌガミギョウブはしっかりと頷きました。
セッキーはアライさんとフェネックの方を見て、
『二人にはカバンのサポートをしてもらいたいんだけど』
「任せるのだ!」
「まかせてー。あぁでも、レミアさんの攻撃って、どんなのが来るかわかんないよねー。囮として動くのもいいけど、攻撃を喰らっちゃうとまずいよねー?」
「それならわたしに任せて」
イヌガミギョウブが葉っぱを一枚取り出して、目の前にかざしました。
次の瞬間、葉っぱは僅かに煙を上げたかと思うと、大きな盾になりました。金属製の頑丈そうな盾です。丸い形をしています。
「これを持って攻撃を防げばいいんじゃないかな? 格闘戦ならまず防げるし、右手が伸びてきても、これで遮っちゃえばいいと思うよ。銃弾も通さない」
「ぬおあ! これはいいものなのだ! イヌガミギョウブ、ありがとうなのだ!」
「どういたしまして。二つ用意しとくから、二人で使えばいいと思うよ」
「ありがとねー。わ、軽いねこれー。使いやすそう」
盾をもう一つ出してアライさんとフェネックはそれぞれ掲げます。軽さも大きさも優秀で、十分に扱えそうです。
『アムールトラはどうしようか』
「私はカバンに付こうか。守りもそうだが、万が一攻撃が必要になったら私の出番だろう。囮だからと言って攻撃できないのはきついしな」
『そうだね。アムールトラにはそれじゃあ、カバンについてもらうよ』
「私も! カバンちゃんについてしっかりサポートするよ! 自慢の爪で弾いちゃうんだから!」
『サーバルもよろしくね』
「まかせて!」
セッキーとアムールトラ、サーバルがお互い頷きます。
これで配置は決まりました。カバンさんが囮役に火を持って、アムールトラとサーバルが攻撃を弾く、あるいはレミアが肉薄してきた時の露払いです。
アライさんとフェネックは、レミアの攻撃を盾で防ぎます。
イヌガミギョウブとセッキーは遊撃に回ります。積極的にレミアに攻撃を仕掛け、そしてセルリアンでの無力化を図ります。
セッキーがイヌガミギョウブの方へ向き直って呟きました。
『これでいけると思う。いや…………うまく行かせよう」
「そうだね。ただ、もしダメだった時のことも考えよう。万が一があるからね」
『ダメだった時…………どうしよう』
「そりゃあもう、取れる手は一つしかないよ」
イヌガミギョウブはこともなげに、目を細めて言い放ちました。
「石を破壊して消滅させるしかない」
空気が、静かに、重く漂いました。
全員が黙ります。誰も何も言えませんでした。
石を破壊する。消滅させる。それは、つまり、
「それ…………そんなことをしたら、レミアさんが死んじゃうのだ……それは嫌なのだ……」
アライさんの悲痛なつぶやきが車内に響きます。
イヌガミギョウブもそれはわかっています。分かった上で言っていました。
「万が一にだよ。セルリアンでレミアを止められないってなったら、そうするしかない。レミアはきっと、これからたくさんのフレンズを襲って食べてしまうよ。サンドスターを摂取するために。自分の形を維持するために」
『そんなことは…………させたくない』
「そうだろうね。かつての仲間がフレンズを無差別に食い散らかすなんてなったら、それを止められるのは君たちしかいないし、止める義務があるのも君たちだよ」
『分かってる。…………もし、セルリアンで止められなければ、ボクがやる。レミアに、他のフレンズを襲わせるようなことはしたくない』
セッキーの声は震えていましたが、それに何かを言う人はいません。
友達を、仲間を、その手が黒く染まる前に止める。それができるのは、互角以上に戦えていたセッキーの役目です。セッキーにしかできません。
セッキーは泣きそうになる目をぐしりと無理やり拭って、顔を上げます。
『大丈夫。セルリアンでレミアを止めるよ。なんとしてでも元に戻すんだ。ボクたちの手で――――止めよう』
全員が頷きました。
夜の空に、星が輝いています。月の明かりが、蛍光灯のついたジャパリバスを静かに、寂しく、照らし出していました。
次回「vs.レミア」